第437話もう一個実験したいです!
ただ今イナイさんのご機嫌を直して頂くために、ベンチに座って彼女を抱きかかえています。
あ、対面じゃないですよ。二人とも同じ方向いて俺が膝の上で抱えている感じですよ。
因みにイナイさんはいまだに少し不機嫌そうな顔で、俺の両腕を抱えております。
「あのー、イナイさん」
「あんだよ」
うん、機嫌直ってねぇ。発音にドスが効いとる。
人の少ない所選んだとはいえ、ここも多少は人の出入りするところなんだけどなぁ。
普段なら抱き付いたりしてるのを人に見られるのは嫌がるのに、今日は離れない。
何度か兵士さんが入って来て、あって顔して出て行ってるのを俺は見ている。
イナイも気が付いて無い筈は無いと思うんだけどな。
こうやってのんびりしている時間は好きだから良いんだけど、そろそろ機嫌直してほしいなぁ。
あと、さっきの魔力補充が上手く行ったなら、もう一個やりたい事有ったんだよな・・・。
怒られて言い出せなかったんだけど、どうすっかね。とりあえず言ってみるか。
「そのー、実はですね、もう一個試したい事が有るんですよ」
「・・・なんだよ、言ってみろ」
お、良かった、眉間の皴が消えてくれた。多少は機嫌直ってたのかな?
まあ、次やるのはさっきのより危ない事じゃ無いし、流石に怒られないと思うんだけど。
「強化魔術の訓練したいんですよ」
「どんな」
「えっと、同じ魔術での二乗強化な感じです」
説明をすると、イナイさんはまた眉間にしわを寄せた顔になって、不機嫌そうな顔に戻った。
あれー、さっきの魔力補充と違って、自力でやる事だから問題無いと思うんだけどなぁ?
「お前、それ一回でも試した事有んのか?」
「少しだけ」
「じゃあ無理だって解ってんだろうが。体ぶっ壊れんぞ」
ん、てことはイナイも試した事有るのか。
イナイが試して無理だったって事は、単純に魔術だけじゃやっぱり成功しないんだろうな。
「普通にやったんならむりだと思う。けど、少し試してみたい事が有るんだ。勿論失敗したら倒れるだろうから、傍にいてほしいんだけど」
前に山奥で実験した時、ひっそりとやったのを後悔した。
色々積み上げてきた物の詰め作業ならともかく、初めてやる事をあんまり人気の無さ過ぎるところでやるのはやめておいた方が良い。
出来れば信頼できる人の傍が事良い。イナイならパーフェクトだ。
「何するつもりだ。次はちゃんとやる事言わねえと、本気で殴るぞ」
ぞくっとする気配と共に、ギリギリと握られる拳。
いかん、本気だこれ。目が怖い。
説明、説明ねぇ。
「やってみたい事は至極単純なんだけどね。強化魔術の2乗強化って、結局のところ魔術自体は一応出来るけど、制御しきれていない反動で体がもたない。だから使えないわけでしょ」
「そうだな。自分の制御以上の魔術を使ってる事になるからな」
「けどさ、それって要は体が耐えられれば、何とか使えるってわけじゃない?」
「・・・お前が何言ってんのか、ぜんっぜん解らねぇ。耐えられねえから制御手放す羽目になって、結局使えねえんだろうが」
いやまあ、そりゃそうなんだけどね。俺もそう思ったからすぐに制御手放して、魔術を解いたわけだし。
そのまま続行してたらすぐ倒れた気がする。
けど、その負荷を誤魔化す事が出来れば、仕えるんじゃないかと思い立った。
「仙術は使い方次第で、体の状態を無理矢理正常に保つ事が出来る。勿論後で消費した分の反動は来るけど、使ってる最中はどんな不調も無視できる」
「・・・仙術を全て生命維持に回して、魔術で二乗強化するとか、そういう話か」
「そうそう。これなら4重強化より強化の倍率は上がる。勿論反動が酷いだろうから、そうポンポン使えないだろうけど」
「お前、寝込んでたのにまた寝込む気か」
「あはは、少なくとも今日はもう動けなくなる可能性はあるね。だからイナイに居てほしかったんだけどね」
駄目かな。正直あんまり、イナイやシガル以外には見せたくないんだよなこれ。
俺は元々の能力が低い以上、手の内がばれているという事はナチュラルに弱点になる。
もしイナイに断られた場合は、シガルにお願いすることになるとは思うけど、それはそれでなぁ。
なんかこう、無理な事やってるのはシガルにはあんまり見せたくなかったり。出来上がったのは見せるけどね。
「いいぞ、やってみろ」
お、やった。OKが出た。
・・・出たけどイナイさんが動きません。変わらず俺の腕を抱きかかえています。
「あ、あのー、イナイさん?」
「なんだ?」
「えっと、力込めたりして、危ない可能性あると思うなー、なんて」
ちゃんと成功すれば良いけど、失敗したらイナイに怪我をさせるかもしれない。
いや、そうそう怪我なんてしないと思うけど、それでも抱きかかえたままはちょっと不安。
一瞬とはいえ、異常な強化で力を増すわけだから。
「お前はあたしを怪我させるのか?」
・・・ああ、はい、了解。つまりそういう事ね。
失敗は認めないって事ですね。解りました。
イナイ先生もきついなぁ。
「了解、頑張る」
「おう」
本当に危なかったら殴り飛ばしてでも離れてほしいけど、しないだろうなぁ、この感じだと。
さて、じゃあとりあえずまずは通常強化をかけて、制御限界まで強化を上げる。
自分が制御できる限界までくると、やっぱりそれ以上強化は出来ない。ここまでは良い。
次は仙術を使う心構えだけして、もう一度強化魔術に強化魔術をかける。
するといきなり体が割れるかと思うような痛みが走る。すぐに仙術で身体異常を確かめると、気功の流れが乱れているのを確認。
流れを無理矢理正常にして、普段通りの流れに戻す。
「ぐっ・・・くっ・・・」
維持は出来る。どうやらこれなら2乗強化自体は何とかできるみたいだ。
ただ、やっぱり負荷が半端ない。仙術で無理矢理体を動かせるようにしているけど、気を抜けば一気に制御が効かなくなる。
いや、制御出来ていないのを無理矢理制御出来ている様に見せかけているだけか。
それに魔力の消費量が半端ない。制御以上の事をやってるせいなのか凄い消費して行く。
イナイが抱えている手を、ゆっくりと動かす。
うん、加減は聞く。ちゃんと動かせる。
ただ現状細心の注意を払って動かさないといけないような状態だから、強化の意味があまりないな。
制御に意識が行き過ぎて、満足に戦闘行動はとれない気がする。この強化になれる為に、何度も練習しないと駄目そう。
「ふうっ」
魔術を解き、気功仙術の制御も手放して、力を抜く。
上手くはいったけど、そうそう全部上手くはいかないな。戦闘を無意思に任せるか、この制御を意識せずにできるレベルにならないと、実戦使用はまだ難しそうだ。
それにこの上他の強化も使う気だとすれば、尚の事今は無理だ。
まあ、使える事は判明したし、今後の努力しだいかな。
「どうやら行けたみたいだな」
「うん、なんとか。制御に手いっぱいで実用レベルじゃないけどねー」
「なるほど、使えるだけ、か」
「だね」
まあ、腕動かして、ちゃんと問題なく使えたし、イナイに怪我もさせなかったし、とりあえずは合格点でいいよね?
・・・あれ、何かおかしいぞ?
「・・・あ、腕動かねえ」
「は?」
「くぬっ!ふっ!ほっ!」
「・・・おい、まさか」
「・・・あ、あはは、腕が上がりません。ていうか体動かないです」
「おま、なんか寄りかかって来るなと思ったら、力入ってねえのかよ!」
これはマジで実用レベルじゃないわ。使うたびこんな事になってたら何も出来ないぞ。
くそう、上手くやれば使えると思ったのになぁ。
いやまて、この反動の具合しだいで何とかなるんじゃねえかな。体動かないけど痛みが有る感じじゃ無いし。
結局何度か使って慣れれば、少しはどうにかなるかもしれない。筋トレだってそうなんだし、うん。
とりあえず暫くは回復の加減を見て、寝る前にこの訓練をやる方向で行こう。
「ったく、とりあえず横にさせるぞ。その体勢辛いだろ」
「いやー、俺としてはイナイとくっついてるような物だから、イナイが重くないなら平気なんだけどね」
若干首が痛いけど。首に力が入らないって結構辛いんだこれが。
「ばーか、首壊すぞ。ほれ、転がすぞ」
流石イナイさん、良く解ってらっしゃる。
そしてナチュラルに膝枕するイナイさん、素敵です。
イナイの太ももはかなり締まってるけど、俺は好きです。
「動かないみてえだけど、本当に大丈夫なのか、それ。セルかミルカでも呼んでくるか?」
「あー、多分大丈夫。えっと、ちょっと待ってね」
仙術で身体強化をして、手を軽く動かしてみる。
うん、気功を流せば動くし、単純に色んな無茶をした反動で体の感覚がマヒしてるようなもんかな。
「仙術使えば動くし、多分しばらく休めば動くと思う。ただその暫くがどれぐらいかは解んないけど。前回と違って限界まで使ったわけじゃ無いから、寝込むような事は無いと思うよ」
「そうか、それなら良い」
俺の言葉に安堵するイナイ。
しかしやっぱりイナイに居て貰って良かった。誰も居なかったら多分その辺で倒れてたな。
訓練所だからいつか誰か見つけてくれるとは思うけど、あんまり使われてない所のだから、タイミング悪いと発見が夜とかになりそう。
そしてイナイの膝枕と、頭をずっと撫でられているのが心地よくていつの間にか寝てしまった。
意識がぼんやり戻った時、胸板や鎖骨を撫でているイナイさんが居たのだけど、そこはちょっと気が付かなかったふりをしておいた。
起きた時慌てて手を引いてたし、つっこんだら照れ隠しのボディーが飛んできそう。
起きた時にはもう体が動くようになっていたので、やっぱりそんなに長時間の反動は無い様だ。
イナイからもらった腕時計有るし、今度はそれでちゃんと時間はかっておこう。
とりあえずやりたい実験は終了っと。
あとはイナイさんとべたべたする時間です。最近の俺は結構バカップル方面に開き直ってる気がする。シガルの影響だな、うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます