第429話強すぎる相手です!
「くっ、当たらないどころかかすりもしねぇ!」
魔導技工剣を完全開放した事により、魔力そのものの刃を生成。
その刃を遠距離から何発も飛ばして、距離を保ちつつ魔術を放つ。
一点狙いじゃ絶対に当たらないと思い、広範囲系を半ば目くらまし代わりに放ち、合間に仙術をぶち込む。
けど、当たらない。放つ魔力の刃はすべて綺麗に見切られ、躱した先に放った魔術は全て断ち切られ、目くらまし後の仙術の一撃も悉く躱される。
何発かは放ったか放って無いかも解らないように打ったのに、それも躱された。
本当に仙術見えてねーのかよ、あれ。実は見えてんじゃねえの?
「はっ、はっ、はっ」
やばい、息が上がって来てる。彼の速度について行こうと常全力で動き回っているせいか、スタミナの消費が激しい。
訓練以外でこんなに呼吸が苦しくなるのは久々だ。
リンさん達とやってるとき位しか、強化状態での息切れとかした覚えがない。
この人、本当に冗談じゃ無く強い。
「くぅ!」
攻撃のわずかな切れ目を狙う様に、バルフさんは一瞬で懐まで踏み込んで剣を振るってくる。
それを潰すために技工剣で受けようとするが、彼は直前で剣を引いて別角度から剣が降って来た。
ミルカさんの様な綺麗な見切りと体捌きだ。俺だって相手を見て、動きを予測してやってるつもりなのに全然追いつけねぇ!
「くのっ!」
胴に迫る剣の側面を仙術で強化した拳で殴りつける。それと同時に剣を横なぎに払って、そのまま魔力の刃も飛ばす。
だが彼は剣を弾かれた時点で大きくバックステップ。完全に直撃コースの筈の魔力の刃も正面から叩き切られる。
完全魔力開放攻撃じゃないとはいえ、技工剣の機能自体は完全開放してる魔力の刃をあんな簡単に防がれている。
ステル・ベドルゥク状態の技工剣は、その一撃一撃が逆螺旋剣の魔力の完全開放と同レベルかそれ以上だっていうのに。
本気で、強すぎる。
だからって流石に全力全開の魔力の花をまっすぐに打つことは出来ない。
そんな事したら町が壊滅する。もしあてるならあの人の懐に踏み込んで超近距離で打つか、あの人を空にはね上げて狙うしかない。
前者はあの人の速度に付いて行けてない時点で無理だし、後者はあの人の足元の地面を隆起させてふっ飛ばそうとしたけど、すーぐばれた。
穿つ一点攻撃は、そもそも当たる気がしない。
魔術の隠匿を使って放った筈の攻撃も、もはや面白い位躱されるし、潰される。
風の針も数度、隠しながら打ったのに潰された。
魔術で目くらましを放ちつつ自身の存在を隠しながらの接近は、技工剣を開放してるから意味が無い。だからって技工剣無しの接近戦は無理だ。
この有利が有るから、彼は接近して離れてをくり返している。
本来ならもっと攻撃が苛烈な筈だ。
精霊石での指向性を持たせた超近距離魔術も悉く躱されるか潰されてる。
詠唱無しで放ってるとはいえ動きの速度が負けているせいか、持って発動させてっていう流れの間に躱される。
本当にたったわずかな間の判断が早すぎる。
握り込んでの仕込みも、精霊石の魔術発動は隠匿できないせいか発動の瞬間に逃げられた。
障壁を張りながらの攻撃もしてみたが、彼は障壁を壊しつつの二段攻撃を当然のようにやって来るから、うかつな攻撃はできなくなった。
防御のみに集中すれば防げない事は無いが、そうするとただじり貧になるだけだし、彼の攻撃は止まらない。
多分俺が障壁を張り続けるよりも、彼が障壁を壊して俺を攻撃する速度の方が早い。
ならばと転移を多用しての接近攻撃もやってみたが、それも転移先を最初から理解しているかのように、素早くその場から退避する。
攻撃しながらの転移も試してみたけど、同じだった。
多分、何かの癖を見抜かれてる気がする。最初から攻撃しつつ転移なら、一発ぐらいは掠ったかもしれない。
せめて反射的に受けるなんて行動をやってくれればいいんだが、それすら彼にはない。
「ふう・・・やはり厳しいですね。その技工剣とまともに打ち合う訳にはいかない上に、数ある魔術を抜けて接近しなければいけない。接近しても君は体術の技術も高い。死角から打ち込んだはずの攻撃にも対応されては、中々に厳しい」
「こっちはやってる事全部叩き潰された上に接近されて、何度も食らいかけてるので冷や汗ものなんですけどね。それに死角からの攻撃に対処してるのはお互い様でしょう」
確かに彼の攻撃は接近攻撃のみだ。それに特化してるせいなのか、接近時の攻撃も防御もその制度はかなり高い。
なにせ、技工剣の攻撃が近距離でも当たらないんだ。この剣、掠っただけでも普通に危ない剣なのに、一発も掠ってもいない。
彼はこちらに何度も接近しているのに、一撃も掠らない。読みも速度も完全に負けてる証拠だ。
因みに俺は何発も掠ってる。この時点で接近戦だけならもう負けてるのが目に見えている。
「ですがそろそろ決着がつきそうですね。・・・残念ですが」
「あはは、やっぱばれてますか」
彼の言う通り、多分このままだと決着が近い。俺の負けという決着が。
このままの戦闘を続行できるなら、多分俺もまだまだやれると思う。けど、無理な理由が有る。
単純明快に魔力が持たないからだ。
彼は俺の速度が上がったり落ちたりしている事に気が付いている。気が付かないわけが無い。
疑似魔法の魔力消費は、その性質上冗談じゃ無いくらい多い。普通の魔術なら特に苦でもない魔術でも、こっちだとかなりの魔力を使う。
そんな物をずっと使い続けていたら、すぐに戦えなくなる。
それに仙術の強化も同じだ。ずっと全力強化なんてやってたら、あっという間に体が悲鳴を上げてお陀仏だ。
途中でいきなり体が動かなくなってぶった切られるなんて、笑えもしない。
常時使い続けられるのは通常の魔術と竜の魔術の二つだけ。
あとの二つは使ったり使わなかったり、上手く節約しないと戦えなくなる。
でも、接近されたときの対処は4重強化じゃないと対応できない。そしてそのまま4重強化で突っ込んでも逃げられるし、いなされる。
完全にじり貧状態だ。向こうの魔力量は全然余裕が有るし、安定しているのが良く解る。
なにせ今の俺はゼノセスさんとやった時の感覚を、常時発動してるような状態だから解らないわけが無い。
そのおかげで魔術もタイムロスなく使えてる。使えてるのにこの様だ。
おそらく目の前の化け物に対する恐怖に反応して使えてる気がする。
だからといって、見えてる物が違う程度ではこの人には敵わない。
ただこれのおかげで彼がどこから接近して来ようと解るので、対処出来てる所も有るのだが。
解ったところで攻撃を防御できるだけじゃ意味が無いんだけどね・・・。
魔術で少しでも拘束して、一瞬の全力強化での攻撃も試そうそ思ったけど、少しの違和感を感じただけで逃げてるのかって思う位魔術での拘束も出来ない。
仕込みで誘導してみても、その場に踏み入る瞬間にぶっ壊される。
こうやって考えると、本当に何も通用してないな。何なんだあの化け物。
「でもまだ、一応隠し玉は有るんですよね、これが」
「ふふ、そうでしょうね。君の顔はまだあきらめていない」
素の身体能力は格段に低く、4重強化状態でも負けている。放つ魔術はすべて通用しない上に仙術も悉く躱される。
精霊石も実はもう、手持ちがゼロ。魔術を放つなら自力で放つしかない上に、技工剣の維持もしてないと話にならない。
並べれば並べる程、勝てる気がしない。全然勝てる気がしない。
けど、まだ出来る事が有る。まだ一度も実戦では使ってない技が、ある。
「まあ、貴方の思う通りこのままだと魔力が付きて終わりなんで、残りの力振り絞って行かせて貰いますよ」
「なるほど、ならば全力でお受けしましょう。次の一合に全身全霊をかけて」
全力じゃなきゃまだ粘れるけど、それじゃ結局粘って消費して負けるだけだ。
そんな負け方、納得できない。
どうせ負けるなら、最後の最後ぐらい思いっ切り使い切って負けてやる。
いや違う、やれるすべてをやり切って、勝つ!
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