第422話ブルベさんのお願いです!

「やあ、よく来てくれたね。どうぞ座って」

「あ、はい、失礼します」


笑顔で出迎えてくれたブルベさんに頭を下げ、指示通りブルベさんの正面に座る。

出迎えてくれたというか、騎士さんに呼ばれてここに通されたのだがね。

先日と違い、部屋で皆でのんびりしていたら、騎士さんが部屋に尋ねて来たのだ。


「陛下が皆さんに会いたいと仰られておられます。どうかご同行をお願い致します」


などと言われ、そのまま言われるがままに案内をされた結果だ。

どうやら俺だけではなく、全員に話が有るらしい。クロトも一緒って何だろう。

わざわざ全員呼び出すって事は全員に用が有るんだと思うけど、イナイには既に話が通ってる感じかな?


「いきなり呼び出してすまないね」

「いえ、気にしないでください。時間は有りますんで」

「そうか、そう言ってくれると助かるよ」


今日のブルベさんは王様モードでは無いらしい。穏やかで優しい笑顔だ。

あれ、そういえば今日はウッブルネさんも居ないんだ。

外に兵士さんが居て、相手が俺達とはいえ、個室で護衛なしで良いのだろうか。

いや、聞いた限り、ブルベさんも相当強いらしいけど。


「アルネから聞いたんだけど、君は今後もウムルを離れるそうだね」

「ええ、まあ、そのつもりですけど」


ひと所にどっしりと腰を落ち付ける、という気には、未だになれていない。

若干、引っ越しを何度もしていた子供時代の感覚のせいも有るのかなとは思ったり。

いやまあ、何というか、こっちの世界本当に見る物新鮮で楽しいし、まだ回ってみたいって欲望が大きいだけかな。多分そっちだな。俺の我儘だ。


「そうか、なら、もしよければ一つ、君達に仕事を頼みたいと思っているんだ」

「仕事、ですか?」


王様直々に俺達に仕事?

なんか、字面だけだとちょっと怖いんですが。


「イナイ姉さんが帰って来てからで構わないんだが、君達には、未開地の探索をお願いしてみようかと思ってね」


未開地の探索とな。

んー、開墾とかそうい話なのかな。

それならハクとやった経験があるから、割と問題なく出来ると思う。


「未開地って、この国のですか?」

「いや、この国では無く、他国と協力して、まだ開発されていない土地の探索を行っているんだ。同時に、他の文化圏の国の有無調査もね。私達が知らないだけで、まだ交流のない国が有る可能性が有るのさ」

『お前にも知らない物が有るのか?』

「知らないことだらけだよ。君の所の老竜だって、知らない地の事は解らないだろう?」

『確かに、それもそうか』


未開地の探索かー。

あれかな、マルコ・ポーロ的な事をしろって事かな。

いや、東に行くって決まったわけじゃ無いけど。


「君も知っての通り、ウムルは広大な国だ。だが広大で有りながらも、ある程度の土地の調査は済んでいる。

これは単純に、ウムルが治めている土地が、元々別の国だったからだ

結構な量の人材と記録が失われてるとはいえ、完全に無いわけじゃ無い。探せばある程度の記録は見つかるものだ。

だから国内でやる事は余った土地の開発だけであって、改めて調査するほどの土地はそんなに大量には無いんだよ。有りがたい事にね」


なるほどそうか、元々他国が治めてて、そこそこ開発はしてたところを、ウムルが統治した形だもんね。

とはいえ、戦争が有ったわけだし、いろんなところが荒廃している状態ではあったろうけど。


「見知らぬ土地を見に行きたいという意味でなら、この仕事を受けるなら他国との交流も有るし、完全に誰も見知らぬ地に探検という事も有る。

記録を取って、きちんと報告をしてくれれば、それなりの報酬も出せる。君達ならそうそう危険な目に合う事も無いだろうから、いい仕事だと思うんだが」


あー、なるほど。この仕事をするなら、基本他国を飛び回るのは前提条件なのか。

んで、出先で完全に何の安全保証もない土地の探検をする事も有ると。

まあそれは正直、前から似たような物だが。


「俺が行くのは、陸路だけですか?」


俺のその質問を聞いて、ニヤッとするブルベさん。

ちょっと楽しそう。

こういう話好きなのかな。


「勿論場合によっては海路、そして空路にも付き合ってもらう事も有るだろう」


空路って、あの飛行船だろうか。

あれ、飛行船でも行くなら、俺とか必要無いんじゃ。


「飛行船使うなら、俺必要ありますかね?」

「当然さ。すぐに何かを発見して、すぐに動ける事ばかりじゃない。こういう物は基本的に人海戦術だよ。どれだけ人手があっても、余る事なんて無いさ。

行った先に必ず何かが有る、なんて事は無いんだから」


あーそっか、そりゃそうか。

たどり着いた先が、見渡す限りの砂漠なんてことも有りえるわけだし。


「それに、空から見た景色が全てじゃない。陸路を行くからこそ見つかる物だってある。

この国にも数は少ないが、地下に家を作る種族も居るんだ。彼らの住処や生活は、空から見ただけでは判らないだろうね」


へえ、地下に作る種族か。

人族以外の人なのか、単純にそういう生活でやって来た部族なのか。

単純に穴を掘るだけなのかな。少し興味がある。


「勿論空路の方が、他の探索よりも見つけられる範囲も大きいだろうし、何よりあの飛行船であれば、探索の面子も移動に大変な思いをする事は無いだろう。

とはいえ空路はまだ先の話なんだ。まずは陸路と海路しか、余り自由には動かせない」

「え、何でですか?」

「ウムルが基本的には内陸の国だからさ」

「・・・内陸だと問題あるんですか?」

「他国の武力の乗った空飛ぶ物が、自国の城の上空を自由気ままに飛ぶのを快諾してくれる国ばかりだと思うかい?」


あ、そっか、空とはいえ、その下は自分たちの治める国。好き勝手されたら気分は良くないわな。

無許可で移動したら、それこそ問題だろう。

一般人が旅行で移動するんじゃなくて、国勤めの人間が移動するんだから。


「その辺りもいずれ何とかするつもりだけど、とりあえずは陸路だね」

「何とかなりそうなんですか?」

「なんとかするのさ」


出来るのかなという質問に、やるんだよと笑顔で返された。

凄い有能な香りのする返答だ。


「その仕事中も、余裕が有るなら組合の仕事も受けて貰って構わない。勿論、組合が無いような土地にも行って貰うけどね。

返事はすぐでなくて構わない。もし受けてくれるなら、その返事はイナイ姉さんに伝えて欲しい。

それに未開の地の探索そのものは、君たちのペースでやってくれて構わない。無理して酷い事になる方が問題だ」


ふむ、俺のいろんな場所に行きたいという思いを叶えつつ、ウムルとは連絡が取れる状態にしておいて、かつウムルからは仕事扱いだから生活費も有る。

特に細かい指示が無ければ、そこそこ自由なやり方でやっても構わない。

勿論、他国と協力って言ってるから、現地のスタッフと一緒って事も有るだろうって感じか。


「さっき、君達って言ってましたけど、全員って事ですか?」

「うん、君たち全員。クロト君も、シガルちゃんも、ハクも、皆だね」


さり気に、ハクが呼び捨てだった辺り、何となくハクとブルベさんの距離感が見える。

ぐいぐい行くせいなのか、ハクは人との距離をあっという間に詰めてる事が多いな。

しかしそうか、クロトもなのか。

俺一人で決定するわけにはいかないけど、クロトの場所を作る意味では、受けた方が良いのかもしれないな。


「さっきも言った通り、特に返事は急いでいない。ゆっくりでいいよ」

「そうですね・・・、とりあえず一度皆で相談してみます。イナイも一緒に」

「そうだね。その方が良い」


探検かぁ・・・楽しそうでは有るけど、どうしよっかね。

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