第418話妹さんの意思ですか?
愛しいお兄様。
小さい頃から私を可愛がってくださったお兄様。
お父様よりも、お母様よりも、誰よりも私を構って下さり、可愛がってくださったお兄様。
他の兄二人は勉学勉学で、私の事など一切構って下さらなかった。
でも、お兄様は違った。私が寂しい時、辛い時、すぐに傍に来て下さった。
私には、お兄様こそが全てだった。
そもそも他の兄二人は、私の事など興味が無い。
あの二人は私の事などよりも、兄に対抗する事の方が大事らしい。
だけどそんな事、私が許さない。
あんな愚兄二人がお兄様に、素敵なお兄様に、愛しいお兄様に対抗するなど、許して良い事じゃ無い。
だから、お兄様が足りない所は、私が埋める。
お兄様が必要とする物を私が持っていれば、武を持つお兄様の力になれる。
そう思い、私は勉学に励んだ。それこそ、兄二人を蹴落とすつもりで。
そして努力し、結果を残し、報告に行くたびにお兄様は私を褒めて下さった。
それがとても嬉しくて、さらなる努力を惜しまなくなった。
お兄様の力に、お兄様の傍に生きるために。
いえ、場合によっては、私が国を持って、お兄様の為に生きる様にと。
けどある日、お兄様はとある女に興味を持った。
お兄様の護衛であり、従者であり、師であるあの女。フェビエマに。
お兄様に近づいた害虫。年増のくせにお兄様に色目を使った害虫。
あの女にお兄様が惹かれていると知った時、臓腑が煮えたぎるようだった。
即刻あの女を処刑したいと思う程、一瞬で私の心はドス黒く染め上がった。
お兄様は騙されているのだと、お兄様に直接言っても受け入れては貰えない。
フェビエマは俺の想いに応えようとはしない。そんな女がどうやって俺を騙すというのかと。
それこそがあの女の策略かもしれないのに。お兄様があの女に固執するようにと。
狡い女だ。もう後が無いほど年を取っているくせに、王子を狙おうなどと。
お父様に訴えて、師であることはともかく、侍女兼護衛の立場は外す様にお願いしても聞き入れては貰えなかった。
それどころか、私の見合い話を持ってこられる始末。
お父様は、私とお兄様を引き離す気だ。
私がお兄様を愛している事を知って、私をお兄様から遠ざけるつもりだ。
そんな事はさせない。絶対にさせない。
なら、せめてあの女が傍にいる事は、心底気に食わないが許容しよう。
どうせあの女は、私がお兄様に体を捧げるに良い頃合いには、もう御婆さんだ。
例えお兄様がそれでも好きだと言おうとも、子は出来ない。
ならば私が王に成ればいい。
私が王に成れば、私は私の相手を自身で決められる。
そうなれば、私はお兄様の子を成そう。
その頃には、お兄様を誘惑するに何の問題も無い体躯を手に入れているはず。
そう思い、あの女の事は、口惜しいけど我慢することにした。
無理に行動すれば、愛しいお兄様に嫌われてしまう可能性も有る。
もしそんな事になったら、私は生きていられない。
だがら、我慢した。我慢できた。なのに。
ある日を境に、兄は変わった。
まるで今までの兄を否定するように。
相変わらず私には優しい、愛しいお兄様なのは変わらない。
けど、違う。今までのお兄様とはまるで違う。
武にかけるその想いも、勉学に励むその姿も、人の思考を読もうとするその眼光も、今までのお兄様に有った物では無い。
ああでも、今までよりもなお一層努力し、高みに上るお兄様は、それはそれで見惚れてしまうし、とても愛しい。
思わず濡れてしまい、また未熟なこの体で思わず迫りたくなるほどに凛々しい。
お兄様が変わったこと自体は、私が力を振るえるところが減ってしまう事は残念でも、愛しいお兄様がもっと素晴らしい方になるのは良い事だ。
それ自体は良い事だ。
――だが、違う。
兄が変わった事には理由が有る。
ウムルで、とある男に影響を影響を受けたんだ。
男の名はタナカ・タロウ。
お兄様は、事有る毎にあの男の名を口にするようになった。
あの男の事を語る時にお兄様の目は、もはや尊敬の域では無かった。
あれは、惚れている目だ。人が人に惚れている目だ。
フェビエマの時の比では無い。心底人に惚れこんでいる目だ。
あんな物、許せない。
絶対に、許せない。
フェビエマの事なんて完全にどうでも良くなる位、はらわたが煮えくり返る。
絶対に渡さない。お兄様は私のお兄様だ。
あんな冴えない男の何が凄い物か。お兄様は騙されているんだ。
絶対に、絶対にあの男の化けの皮を剥いでやる。
愛しいお兄様の一番傍にいるのは私だ。
愛するお兄様を、私から奪うあの男から、絶対に奪い返す。
何年かかっても良い。いつになろうと、私はお兄様を振り向かせて見せる。
タナカ・タロウ。貴方には絶対負けない!
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