第416話トレドナのお願いです!

「兄貴ー、居ますかー?」


ノックの音と共に、物凄く聞き覚えのある声が聞こえる。

どうあがいても聞き間違いようがない。

声だけではなく、俺を兄貴と呼ぶのはアイツしかいない。


「あー、開いてるから、入って良いぞー」


今動きたくないので、とりあえず声をかけて、中に入らせようとする。

他の人なら対応するけど、トレドナだし良いかなって。


「失礼しま――」


トレドナは部屋に入り、入り口でびたっと立ち止まる。

今日はフェビエマさん一緒か。

なんか、フェビエマさんも気まずそうな顔してるな。


「あ、あの、兄貴、もしかしてお邪魔しました?」

「?」


何言ってんだ? 邪魔なら入れとか言わないだろ。

邪魔じゃないから普通に招き入れたんだし。


「いや、別に何も邪魔じゃないけど、なんで?」

「あ、いや、そうなんすか。それなら、ええと、いいんすけど」


何でこいつ、こんなにしどろもどろなんだろ。

若干冷や汗をかいてるような気配もある。


「どうした、なんでそんなに挙動不審なんだお前」

「いやぁ、普通の反応だと思うなぁ」


俺の疑問に答えたのは、くすくす笑っているシガルだった。

そしてシガルの言葉に、何とも言えない顔で頷くトレドナ。ふむ?

現状何かおかしい事有るかな。


「二人の時間を邪魔したかと、冷や汗をかきました」

「・・・ああ、そういう事か」


言われてから現状を見返して理解した。

確かにこの状況、そう思ってもおかしくは無いか。

俺ベッドに座って、シガルを抱きかかえてる状態だもんな。

だから動きたくなくて、勝手に入って貰ったんだけど。


そういえば以前は、流石に人前では恥ずかしかった筈。

シガルの積極性に、俺ちょっとマヒして来てるかもしれない。

だってこの子、外でも普通に抱き付いて来るし。

部屋の中だと、常くっついてるのもざらだしなぁ。


「でも、もしそうだったら中には入れないぞ、俺は」

「そ、そうっすよねぇ。流石にそうっすよね。あはははは。あーびっくりした」

「ただ、だとしても、なんでそんなに焦ってんだ?」

「そりゃそうっすよ。兄貴と姐さんの機嫌損ねる事じゃないっすか」


あー、まあ、うん。確かにそうか。

でも最近、時間が有る時はこの状況、通常営業だからなぁ。

外で皆で歩いてるとき位だ。あまりくっついてないのは。


「あれ、そういえばお子さんとハクは」


傍にクロトとハクが居ない事に気が付いたトレドナは、周囲を見回す。

二人は隣の部屋に居るから、こっからじゃ見えない。


「隣でボードゲームで勝負してる」

「へえ、あいつ頭を使う遊びもやるんですね」

「そうだよな、そう思うよな、普段のアイツ見てると」


今日はあの二人、何故か頭を使う勝負をしている。

普段のハクを知ってるだけに、俺もこいつと同じ感想を持った。

だが結果は、今の所ハクの全戦全勝。

しかもボードゲームの種類変えても、クロトは一回も勝てていない。


完全に優位に立てる物を見つけたハクは嬉々としてゲームを続け、クロトは半ば意地になって勝とうとしている。

俺もルール覚えて何度か勝負してみたんだが、一回も勝てやしねえ。

シガルも勝てなかった。イナイはどうなのかなー。ちょっとやってみてほしい。


あ、因みに私はクロトにもシガルにも負けました。はい。


「あいつ、クッソ強い。俺だけじゃなく、シガルも負けたし」

「うーん、気がついたら負けてるんだよね。どう戦略を変えても、気が付いたら包囲されてる感じ」

「・・・意外っすね」


だよな。俺もそう思う。

普段完全に忘れてるけど、あいつの100年生きてる経験は流石なんだなって、ちょっと思った。

あいつ頭は良いんだよな。普段の行動が戦う事に楽しみを見出してるせいなだけで。


「まあ、それはいいとして、どうした?訓練の誘いか?」

「いえ、今日は少しお願いがあってきたんです」


トレドナは佇まいを直し、真面目な顔で言う。

ふむ、こいつがお願いか。まあ世話になったし、たいていの事は聞いてやろうという気はある。


「どしたの」

「俺、妹がいるんですけど、兄貴に一度会いたいと言ってまして。もし兄貴がご迷惑でなければ、会っていただけないかと」

「へー、妹いたんだ」

「ええまあ、俺にも父にも似ず、可愛い妹です」


自分を貶めながら、妹を持ち上げる。

こいつ、もしかしてシスコンだったりするのかな。


「特に予定は無いし、時間は有るから構わないよ」

「ありがとうございます。妹も喜びます」


俺の言葉に嬉しそうに頭を下げるトレドナ。

けど、なんだろう、俺にはとてもフェビエマさんの表情が気になる。

何であの人、凄い困った顔してるんだろう。


「今から行けばいいのか?」

「兄貴の都合の良い日で良いっすよ」

「ん、いや、今言った通り、時間あるんだ。訓練以外、特にこれと言ってやる事・・いや、やる事はあるけど、やらなきゃいけない事は無いから」


まだ道具の案しか考えてない状況だからな。

作れるかどうかも試してない。やる事はまだまだある。

ローブの修理もしなきゃだし。


「じゃあ、明日の昼、妹も一緒にでどうでしょう。迎えに来ますんで」

「ん、それでいいよ」


なら訓練は早めに切り上げとくか。

相手が女の子なのに、汗も流さずに会いに行くのは良くないだろう。

こいつの妹って事は、王族なんだし。


「お前の妹って、どんな子なの?」

「そうっすね。俺と違って、頭のできのいい淑女っすね。弟二人が王になるぐらいなら妹が女王になったほうが良いと思う位、出来が違いますね」

「まじかよ。ちょっと会うの気が引けて来た」

「いやいや、兄貴はもっと凄いじゃないっすか!」


うん、俺お前の凄いの基準が良く解らない。

どう考えても国背負える王女様の方が凄いと思います。

それと新事実。こいつ弟も居るのか。それも二人。

今の言い方から、あんまり仲良くは無いのかね。聞かない方が良いのかも。


「あ、そうだ、お前もハクと勝負してみる?」

「面白いっすね。勝っても嫉妬しないでくださいよ?」

「はいはい」


俺の提案に、楽し気に隣の部屋に行くトレドナ。

悪いけど、あいつが勝てるとは、それこそ思えない。


「トレドナの妹ねぇ・・・」


俺は歩いて行くトレドナを見届け、シガルを抱きしめながら呟く。


「どんな人なんだろうねー」


シガルはそれに応え、前に回してる俺の腕を抱きしめる。


「トレドナが言っていたのが事実なら、普通にしっかりした子なんだろうけど」


しかしそんな子が、俺に会いたい、か。

目的は何なんだろう・・・。

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