第415話第二皇子とウムル王の会談ですか?
「・・・本気、か?」
「ええ、勿論」
不味いな、予想以上だ。
化け物だとは思っていたが、目の前に、すぐ前に立つと尚の事肌に感じる。
この男、人の好さげな笑みをしておきながら、中身は別物過ぎる。
後ろにいるあの聖騎士よりも、やはりこの男こそが怖い。
ウムルは、この国は、こいつが居るからこその脅威だと、嫌でも解る。
「もしそれが叶えば、君は、君の居場所すら失う事になる。それでも君は成し遂げるというのか」
「既に覚悟は決めております。そのために、牙を磨いてきた。愚人と、無能と、変人と言われながら、自分の地盤を作り続けて来ました」
目の前の化け物への問いに、率直に応える。
この男に嘘は通用しない。否、立場上、俺は駆け引きをする相手にすらならない。
ここで誤魔化しをすれば、間違いなくこの男は俺を切り捨てる。
「君の父は、その目的を知っているのか?」
「気が付いてはいないでしょう。あの男は、あの国の在り方の象徴のような男。あの男が、私の目的を知って、私を目にかける筈が無い」
父は、帝国皇帝陛下殿は、まるで帝国がそのまま形になったような思考の持ち主だ。
有能故、それでもあの国を帝国のまま拡大して行った。
それを成し得るだけの力が有った。
だからこそあの父は、兄と弟を無能と断じ、俺を選んでいる。
だが、それが解っているのは俺と、父の側近のみ。
他の人間は、正室の息子であるあの兄弟こそが後を継ぐと考えている。
そのせいで俺には、国内に解り易い戦力は殆どない。
「・・・本当に、全てを失う事になるぞ。君は、それで良いのか」
「二度は言いません」
確固たる意志を持って、断言する。
自身の想いに、信念に、迷いは無いと。
そのために生きて来た。そのために今まで戦って来た。
そのために、あんなくそ忌々しい国で生きてきたんだ。
「・・・君の覚悟と信念は理解した。もし君がその信念を押し通そうとするならば、私が手を貸すのも悪い話ではない」
化け物は、そこで目を瞑り、何かを考えるようなそぶりを見せる。
それがまた、俺を試している様に見えた。
「君は何故、それを私の元に持ってきた。君の目的が叶うならば、相手は私でなくても構わなかったはずだ」
「貴方だからこそですよ、ウムル王。貴方でなければいけない。貴方しか、この国しか、どの国よりも早くなせる国は無い。何よりもあなたほど信用できる王は居ない」
この国より強大な国など、もはや存在しない。
様々な記録を漁り、様々な情報を掴み、その結果、どうあがいてもこの国より上の国など存在しない事は確信している。
そしてこの国に来て、彼らを、八英雄を、この国の兵を、技術を、そして何よりもこの王を見て確信できる。
この王しかいないと。自分の目的に、この王を超える者など居ないと。
「私は何を失っても構わない。私はこの命を失っても構わない。だが、私を信じてくれた者達の命は、出来る限り救いたい。
我儘に付き合ってくれる彼らを、無駄に死なせたくはない。その為には貴方しかいない」
彼の助力が有れば、俺の成しえたい事は容易く成しえられる。
だが今はまだその時では無い。今やれば火種を燻ぶらせたままになってしまうし、無駄に戦火が広がる。
そんな中途半端では俺自身が納得いかない。そんな中途半端では成す意味が無い。
その時の為に、いつか起きるその時の為に、この王の力がいる。
この王ならば、あっさりとやってのける。
「・・・今すぐ返事をとはいかない。少し時間を頂こう」
「考えて頂けるだけで、十分です」
現状では満足と言える返事をもらい、頭を下げる。
十分だ。そんな必要など無いと切り捨てられなかっただけ、それで十分だ。
まだ時間は十分にある。否、有りすぎるのが不愉快なほどに有る。
俺が行動を起こすには、あまりに時期が早い。
「このような話にお時間を作って頂き、心からの感謝を致します」
「構わない。私にとっては、君の真意は気にしている事でもあった。君の行動はただあの国で地位を得るには、不可解な行動が有ったからな」
流石、やはり俺の動向も完全に把握していたか。
やはりこの男、恐ろしい。
「では、失礼いたします」
頭を下げ、部屋の扉を聖騎士の男が開けようとしたところで、言わなければいけない事が有ったのを思い出す。
彼の事を、タナカ・タロウと言う少年の事を。
「陛下、失礼を承知でもう一つ、お願いをしてもよろしいでしょうか」
「言ってみると良い」
「少年には、タナカ・タロウには・・・結果としてですが、私の素性は明かしていません。出来れば、そのままにして頂けるとありがたく思います」
「目的は?」
「その方が、都合がいい。ただそれだけです」
「・・・そちらも解った、とは言えないが、今しばらくはその願いを聞き入れよう」
「陛下のお心の広さに感謝を。では失礼いたします」
頭を下げ、今度こそ部屋を出て、部下たちが待たされている部屋に行く。
扉を開けようとしたところで、自分が震えているのを自覚する。
はは、怖すぎて自分が正常では無い事すら気が付けなかったか。
このざまで、少年の事まで良く気が回った物だ。
いや、違うな。この様だからこそ、少年の事を思い出したのかもしれない。
少年には、俺と言う存在を身分の関係なく、付き合うに値する存在と思って貰っておいた方が良い。
あの少年は、そういう人間だ。理屈よりも、自分の感情に素直に生きる人間だ。
だが同時に、あの少年は何かが恐ろしい。
もう一度会って、最低限の目的は果たすために約束は取り付けた。
だが、それ以上をする気には、なれなかった。
あの少年からは、やはり何も感じない。全く何もだ。
彼の力を目の当たりにしてすら、彼を怖いと思わなかった。
それが、たまらなく、怖い。
扱い切れる気がしない。あの少年を、自分の物に出来る気がしない。
俺にとって少年は、ウムル王ですら霞むほど、恐怖を感じる存在だ。
「・・・あの少年と友人となれる事こそが、全てを成しえる鍵だったか」
今回のウムル王との謁見も、それが有ったからこそ成しえた。
ウムル王も、どうやら少年を気にしている。あれだけの存在だ。当然だろう。
だが、それだけでは無い何かを持っている。
ウムル王にとって、あの少年は、ただ能力の高いだけの存在ではないのが解る。
頭にちらつくのは、少年の人の良さそうな笑み。
俺を信用している、優し気な笑みと声音。精霊石を渡してきた時の、本当に俺を気にしている表情。
俺は、あの優しい少年を巻き込もうとしている。少年に、全てを伝えずに。
「迷うな、決めた事だろう」
心が揺らぎそうになる自分に活を入れる様に呟く。
そうだ、迷うな。俺は俺すらも殺して目的を成すんだろう。
ならば、あの少年との出会いと約束は、必然だと思え。
後悔するな。立ち止まるな。
「よう、戻ったぞー」
扉を開け、いつも通りに相棒と部下に声をかける。
そうだ。こいつらの為にも、俺は止まれない。止まってたまるものか。
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