第412話シガルの様子見ですか?

「なんで、あの人とタロウさんが仲良く話してるの」

『聞きに行けばいいんじゃないか?』

「出来ないよ、そんな事。少なくとも今は」


物陰からハクと二人で、タロウさんと帝国の皇子が話しているのを様子見ている。

あの人に見つからないために、タロウさんに迷惑をかけないために、いったん離れたのに。

今出てったら隠れた意味が無くなっちゃう。


お手洗いと言って離れたのは、彼らが通過するのを隠れて待つためだった。

やり過ごした後、彼らが向かった方向とは逆方向に行けば、その後は会わないと思った。

この人ごみの中、早めに気が付けて良かったと思ったのに、なんでタロウさんと楽しげに話しているの。


『あいつら、知り合いっぽいな』

「聞こえる?」

『周りがうるさくて聞き取りにくいが、タロウが何か世話になったと言ってるな』

「ってことは、タロウさん、あの人が誰なのか知らないで話してるのかぁ」


多分、お互い誰なのか知らずに出会って、誰なのか知らないまま再会したんじゃないかな。タロウさん、皇子に会ったって言って無かったし。

それなら、まだ大丈夫かな?


・・・いや、何か様子がおかしい。何であの人、あんなに大笑いしてるんだろう。

もしかして、タロウさんの事に気が付いた?

でもタロウさんはキョトンとしてる。

ああもう、あの二人本当にどういう関係なの。


うう、話が長い。もう少し近場に隠れておくべきだったかな。でもそれだと、タロウさんの普段の探知の範囲に引っかかっちゃうからなぁ。

どうしてもその範囲外には出ておかないと、タロウさんがきっと不審に思う。

もしくは、探知内だとしても、違和感がない位離れないと。


「え、あれ、あれって精霊石だよね」

『あー、タロウが投げる石か。そうだな』


あたしよりはっきり見えてると思うハクに、自分の見間違いじゃないかどうかの確かめも含めて、口にする。

どうやらやっぱり精霊石らしい。

あの石の威力は何度か見た。一個ですごい威力だった筈だ。

それを彼に複数渡している。タロウさんにとってはあの道具を渡してもいい相手なの?


解らない、二人の関係性が全然見えてこない。これならいっそ一緒に居た方がよかったかもしれない。

でも、二人の関係が解らない以上、今更出て行く方が悪手か。


あー、どうしたら良かったのかなぁ。

あたしが離れてれば何の問題も無いと思ったのになぁ。

あ、会話が終わったみたいだ。こっちに来る


「ハク、隠れて」

『ん』


彼らはこちらに歩いて来たので、見つからないように身を隠す。

通過して、しっかり離れたのを確認してから、タロウさんに合流する。


「タロウさん、お待たせ」

「お帰り、シガル」


さて、合流したのは良いんだけど、タロウさんに聞いた方が良いものか。

それとも先にイナイお姉ちゃんに相談したほうが良いかな・・・。

んー、いいや、聞いておこう。とりあえず現状の把握だけはしておこう。


「タロウさん、さっき誰かと話してなかった?」

「ああ、うん。ちょっと前にお世話になった人なんだ」

「へえ、何かあったの?」

「あー、その、悩んでた時に、助けてくれた人なんだ。だからさっきそのお礼をしてたんだ」


んー、シッカリと内容は解らないけど、どうやらタロうさんは、あの人が誰なのか解って無いのかな。

後は向こうがタロウさんを解ってるのかどうかだけど。


「それで不思議な約束をしたから・・・ちょっとイナイに謝らないといけない」

「・・・なにをしたの?」


・・・これはまずいかもしれない。その約束の内容によっては、イナイお姉ちゃんの危惧していた通りになる。


「自分が困ったとき、手を貸して欲しいって言ってた。軍人さんだから、一応どこかの国に攻めたりは手を貸せないって伝えたけどね」

「軍人、さん」


タロウさんは彼らを軍人とだけ認識してる。

やっぱり、タロウさん自身は、彼が皇子だとは気が付いて無い。


「その、帝国の、軍人さんらしいんだ、あの人達」


帝国の軍人、という所でタロウさんは言いにくそうにした。

きっと、イナイお姉ちゃんの事を考えてだろう。

けど、イナイお姉ちゃんの事が有っても、それでも帝国と関わろうと思う程の何かが、彼との間に有ったのか。


それにしても、困ったときにか。

かなり抽象的だ。それに他国に攻め入るのには手を貸さないという項目には抵触しないだろう。

彼の目的を考えるなら、タロウさんの手を借りるには文句なしの約束だ。

その上タロウさんは彼を好ましいと思ってる様子が有る。


でもなぜ彼は素性を明かさなかったんだろう。

ここまで来たら、むしろ素性を明かした方がやり易い筈。


「お姉ちゃんとの事を考えても、それでも関わろうと思う程の事だったの?」


卑怯だとは思うけど、お姉ちゃんの事を引き合いに出す。

あの国に関わるのは、タロウさんの為にも、お姉ちゃんの為にもならないと思う。

だから、汚いとは思うけど、ごめんなさい。


「うん、その、さ。前にシガルと、ちょっと変な空気になった時が有っただろ?」


変な空気の時と言われ、一瞬頭を悩ませる。

そして直ぐに、第二皇子の話をした時の事だと、思い至る。


「あの時、あの人のおかげで、色々ふっきれたんだ。シガルの事が好きだから、シガルの事が大事だから。くだらない事でシガルを傷つけていた自分に気が付かせてくれたあの人に、感謝してるんだ」

「―――――――っ」


自分が、原因か。そうか、そうなんだ。しまったなぁ。

ああもう、タロウさんの言葉に喜んでる自分と、悔しくてたまらない自分が居る。

自分が原因で関わらせてしまった事が堪らなく悔しい。

けどそれとは裏腹に、イナイお姉ちゃんとの事も置いて、私を想ってくれるその言葉が、たまらなく嬉しい。


「そっか、ありがとう、タロウさん」

「えっと、うん。シガルにも、イナイにも謝らないといけないとは思ってるんだ。あれだけ言われてて、シガルも気を遣ってくれたのに、俺からかかわる事をして」


違う。一番の起点はあたしだ。あたしが彼に出会わなければ、こうはならなかった。

原因は、あたしだ。


「気にしないで、大丈夫。お姉ちゃんだって、許してくれるよ」

「だといいなぁ」


大丈夫、ちゃんとあたしが話しておくから。

タロウさんに落ち度はないよ。あたしが、彼に関わって無ければそもそもが無かった事だから。

だから、黙っているのを、許して。ごめんなさい、タロウさん。


お姉ちゃんには、ちゃんと、怒られておくから。

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