第410話お祭りを回ります

あの後、イナイから連絡が有って、数日戻らないと言われた。

ちょと寂しいが、何か緊急の内容なんだろう。

とりあえずイナイの用事が終わるまでは、ここに留まる事になった。


「イナイとのんびり出来るかなーと思ったんだけどな」


ベッドに転がりながらぼそっと呟くと、シガルがギュッと抱き付いてきた。

抱き付いてきたっていうか、かぶさって来たっていうか。

上に完全に乗られてる感じだけど、軽いなー。


「お姉ちゃんの分、あたしがいっぱい甘えてあげるから」


そう言って、優しい笑みを浮かべながらキスをしてくるシガル。

この子は本当に、なんていうか狡いな。いや、悪い意味じゃなくて。

こう、思わず抱きしめたくなるような事を言ってくる。


「・・・甘える」


そして俺の腕にクロトも乗って来た。


『乗るのかー?』


反対側に何故か脳天気竜も乗って来た。重い、痛い。

いや、お前はマジ重いって。血が止まるって。


とりあえずハクをどかして、起き上がりながらクロトとシガルを抱きしめる。

二人共、楽しそうに抱きしめ返してきた。

ハクさんは特にどうでも良いらしく欠伸をしている。何で乗ってきたお前。


「あ、そうだ。どうせ留まってるんだし、街に行こうか」

「・・・街に出るの?」


クロトが首を傾げながら聞いてくる。

一時街に出るの止めてたからな。そのことを覚えているんだろう。


「そうそう、まだお祭り騒ぎみたいだし、行ってみない?」

「んー、タロウさんはそれでいいの?」


シガルが何か気にしてるみたいだ。それで良いって、なんでだろ。

別に悪い事は無いと思うんだけど。


「ん、何が?」

「あの布以外にも、何か作りたい物とか無いのかなって」


ああ、そういう事か。

うーん、一応案は無くは無いんだけど、そこまで急いでるわけじゃ無いしなぁ。

それに作ったところで成功するか怪しい案だから、急いでも仕方ないっていうのも有る。

成功すれば、またほんの少しだけやれる事の幅が増えるから、いつか試すつもりだけど。


「大丈夫。急いだって仕方無いさ」

「ん、タロウさんが良いなら良いんだ」


そう言ってくれるシガルの額にキスをして、ベッドから降りる。


「それじゃ、いこっか」

「うん!」

「・・・うん」

『いくぞー』


俺の言葉に賛同してついて来る二人と一匹。

グレットはちょっと連れてけないのが可哀そうだな。

お土産に美味しいお肉を探しておこう。






「お姉ちゃん、美人だからおまけしてあげよう」

『お、良いのか?ありがとう!』

「おお、そんなに喜んでくれると嬉しいねぇ」


おまけをしてくれると言った屋台の親父の言葉に、喜んで手を握るハク。

ぱっと見は割と美人系な顔立ちのハクに手を握られ、目じりの下がる親父。

親父、騙されるな。そいつ竜だぞ。


「もう式から数日経つっていうのに、まだまだ片づける気配がないね」

「そりゃだって、王様の結婚式だもん。大騒ぎだよ」


そんな物なのか。でも王様が結婚したって、何が変わるわけでも無いと思うのだけどなぁ。

これは俺がそういう事を気にしない人間だからだろうか。

テレビとかでも芸能人の結婚、離婚したとか、凄くどうでも良かった口だし。


「しっかし凄い人の量だね」

「色んな国から人が来てるのも有るし、国中から、王様と王妃様を見に来たのも有ると思う。ついでに王都観光も兼ねてると思うから、そのお客も狙って、まだまだお祭り騒ぎをやってるんだと思うよ」

「あー、なるほどねー。ってなると他国の商人とかも多そう」


人が集まる所は稼ぎ場所だろうし。

ただそうなると、お金の問題が起こりそうだけど、この国では問題ないだろうな。

銅貨はもしかしたら問題が起こる可能性はあるけど、この国には紙幣が有る。

大きい取引はこの国では紙幣を使うしかないから、お金の価値がぶれる事は無いだろうな。


「お、射的かな、これは」


銃が無い世界だからだと思うけど、弓矢の射的が有った。

点数で景品が決まる感じみたいだな。

そういえば俺、弓矢はあんまりうまく無いんだよなー。

出来ない事は無いけど、そこまで狙った通りに上手く飛ばない。

ボウガンなら、まだちゃんと当てれるんだけどね。


『私これやるー』


ハクが何故か興味を示したので、皆でやってみる事にした。

なんかハク、さっきのおまけのせいかご機嫌だな。


「はい、お嬢ちゃん達。兄さんは、少し大きめのにするかい?」


皆可愛らしい大きさの弓を渡され、俺は少し大きいのにするかどうかを聞かれる。

でもどっちみちそこまで変わらない可愛いサイズのだったので、そのまま受け取った。

縁日用なのかもしれないな、これ。矢もきちっと作られたような物じゃなく、作りは結構雑だ。


『むー、まっすぐ飛ばないぞ、これ』

「あはは、だから成立するんだけどね」

「・・・難しい」


三人とも矢が上手く飛ばず、的に当たら無い様だ。

俺も同じく上手く当てられず、偶々綺麗に一発当たったので、景品に麩菓子のような物を貰った。

のどが渇く景品だな。横に飲み物の屋台が有るから狙っているのかもしれない。


そんな感じで色んな屋台を覗き、普段通りの営業ではなく、外にも商品を出してる飲食店等も色々見て回った。






「あ、えっと、タロウさん、あたしちょっとお手洗い、行ってくるね」

「ん、解った、何処かお店にでも入ろうか」

「いや、えっと、うん、すぐ戻るから待ってて」


シガルはそう言って、手を振って人垣の中に消えて行った。

近くのお店に入って借りてはいけなかったのだろうか。

いや、女性は色々あるし、何か理由が有るのかも。

そして何故かハクはついて行った。シガルも別に咎めてなかったし良いのかな?


「・・・お父さん、お母さん大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。だってハクがついて行ったし」


俺は傍に有ったベンチに腰を下ろし、クロトも隣に座る。

クロトの手には木で作った知恵の輪のような物が有る。

これも適当に遊んで貰った景品だ。

クロトはカチャカチャと、外したりつけたりして遊んでいる。


「クロト、楽しい?」

「・・・うん」


そうか、凄い簡単に解いたのを、直ぐ戻しての繰り返しなんだけど、楽しいのか。

まあ、楽しいなら良いや。


「おや、少年じゃないか!」


ぽやっとクロトを見ていると、聞き覚えのある声がしたので、そちらに顔を向ける。

あの時の軍人さん達だ。今日は他にも沢山人を連れてる。

なんか、みんな個性の強そうな人達だなぁ。一人は大量に食い物抱えてるし。


「こんにちは。帰る前に観光ですか?」

「ああ、少し時間が取れてな。このまま街に出ずに帰るのはもったいないのでな」

「本当は帰らないと駄目なんですけどねー」


美人さんの言葉に、うっと言葉に詰まるような態度を見せる男性。

無理矢理休みにしたのかな?

結構なお偉いさんっぽいけど、大丈夫なんだろうか。


「す、少しぐらいいいだろう」

「ええ、まあ、悪いとは言いませんよ?」

「ふ、含みの有る言い方をするやつだな」

「まあ、俺達は大将のいう事に従うだけですよ」

「そうそうー。偶にはこういうのも良いよねー」

「こんなにほのぼのしたところに居られる機会、そうそうないものね」

「もぐもぐ」


あー、皆この人の部下な感じっぽいな。

見るからに戦士って感じの男性と、女戦士って感じの女性。

多分魔術師らしき女性と、やたらめったら食ってる男性。

じゃなくて、男性も魔術師っぽい。痩せてるのにどこに入るんだって位食うな。大丈夫なのかそれ。

他の5人が騒いでいても、われ関せずで食い続けてる。


「少年は、兄弟で屋台回りか?」

「あ、いえ、この子は兄弟じゃなくて、まあ、俺の子供、みたいな子です」


俺の言葉に、彼らは目を見開いて驚く。

あ、やっぱ驚くよね。だって俺、この世界では確実に童顔だもんね。


「しょ、少年、子供がいるような年だったのか?」

「ああー、えっと、今年で・・・」


えっと、今俺幾つだ。こっちに飛んだ時はもうすぐ17の16歳で。

そこから2年ぐらい樹海に居て、その後もしばらくたってるから、20近い19ぐらいか?

いや、正確にはわかんねーし、20で良いかな、もう。


「20ぐらい、ですね」

「はぁ!?12,3ぐらいだと思ってたぞ!」


むっちゃ驚かれてる。幼く見られてると思ったけど、そこまでとは思わなかった。

てことは、シガルはあと一年もすれば俺の身長ぬかす可能性が有るという事だね。

既にイナイは抜かれてるし、あっという間に抜かれそう。


「あ、あはは、やっぱ幼く見えるんですよねー・・・」


俺は彼らの心底驚いている態度に、苦笑するしか無かった。

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