第406話俺が思ってたより凄い事ですか?

フェンと共に事務所に入り、フェンが扉を閉めたのを確認してソファに座る。


「あなたも座りなさい」

「はっ」


フェンは言わないといつまでも座らないので言うしかない。

まあ、一応この身は上位貴族なので、フェンの態度が正しい。普段が普段なので、その辺りを時々忘れそうになる。


元々ウムル自体が小さな国だったし、貴族もよく聞くような横暴な貴族も居なかった。

まあ、ガキの頃はグルドみたいなのも居たは居たけど。


そもそも貴族の坊ちゃんが街に出て来て、平民の子供達と遊ぶような国だ。

その辺りの思考が緩い所がある。

とはいえ、王族ボコるようなリンみたいなのは話にならんが。


ただ、フェンも一応身分としては貴族の部類だ。あたしがこの国での地位が高すぎるだけで、彼も本来なら頭を下げられる側だ。

まあ、フェンはそういうのに興味がないから、聞かれない限り言わない口だが。

そもそも外での仕事の時も一般の従業員に交じって、普通に下処理とかしてるからな、こいつ。

時々羨ましいと思う時がある。あたしもあそこ混ざりてぇ。ああ、貴族の相手めんどくせぇってなる。

・・・言ってもしょうがないけどな。


「フェン、貴方はあの加工を聞いて、どう思いましたか?」


タロウの作ったあのローブ。それに対する素直な意見を、フェンに尋ねる。


「・・・素直に言わせて頂きますと、あの加工を容易く出来るなら、何処にも負けない軍隊が作れる可能性があるでしょうね」

「やはり、そう思いますか」


アロネスはあの石を加工できるように、という事にしか思考を裂かなかった。

もしくは、あれと他の金属を混ぜて、比較的使い安いようにするか。

あれ単体を布に纏わせるなんて話は聞いて無い。


「あの加工を施し、軽装の鎧に張り、中に緩衝材を入れる。只それだけで他に類を見ない防具が作れるでしょう」


自分の考えをフェンに伝える。

タロウの作ったあの布は、確かに驚くべきものだ。

戦う相手は、ただのローブにしか見えないだろう。あれを着て戦った場合、相手は面食らう事間違いない。


だが、あれの驚く場所はそこじゃない。その加工のしやすさだ。

金属を加工するんじゃない。鉱石そのものをただ布に纏わせるだけ。


「ええ、常時布に見せる必要など無い、世界で最高クラスの防具が簡単に作れるでしょうね」


フェンも同意見だった様だ。

あの鉱石は、性質を発揮しきればリンの攻撃すら受け止める素材。

それを簡単に、そして素材の量は少量で鎧に出来る。


「ジュウといい、あのローブといい、まったく・・・」


全くやってくれる。くそ、本当にやってくれる。

面白いなぁ、くそう。アイツは何でも出来るせいで本当に訳の分からねぇもん作りやがる。

ああくそ、楽しいなぁ!


「ただ、やはり」

「ええ、解っています」


フェンの言葉を遮るように返事をする。言いたい事は解っている。

確かに加工そのものは簡単だ。ただあの鉱石を布に熱で張り付けるだけだからな。

ただ、その加工自体の難易度が高い。

あれはタロウ並みの魔力操作が有って、初めて成せる物だという前提が有る。


先ずあの鉱石を簡単に砕けるだけの術加工が要る。

そして、砕いても術が解けないだけの細かい魔力の浸透が為されていないと、途中で加工が出来なくなる。

次にすべての作業が終わるまで術を維持し続けなければいけない。


馬鹿げてる。全く馬鹿げてる。

あんな事が出来るのは、アロネスとアロネスが認めてる一部の錬金術師だけだ。

少なくともあたしには絶対出来ねぇ。

だが―――。


「あの質を作る事が出来る人間は限られます。ですが、質の低下を考えなければ、似たものを作る事も可能でしょうね」


あの質で作るのは、確かに難易度が高すぎる。出来る人間はかなり限られてくる。

だが、素材の質の低下を省みなければ、錬金術師が居れば作れるという事だ。

リンの攻撃を受け止められる程では無いとしても、そこそこの攻撃なら受け止められてしまう防具が作れるという事だ。


「皆に、あれの事は口外しないように指示しておいてください。私は陛下にこの事を伝えます」

「はっ」


フェンはあたしの指示を聞くと、直ぐに事務所から出て行く。

それを見届けて、ソファの背もたれに深く体を預け、天井を仰ぐ。


「くっくっく。本当、お前は良いなぁ。楽しいよ。くっそ、ああもう、ほんと楽しいなぁ!」


惚れた男の、元々惚れていた部分以外にも惚れてしまう。

長く居れば居る程、あいつって存在の面白さに、どんどん惹かれている。

ああくそ、お前は本当にやらかしてくれる。次は何をするのか楽しみになっちまうだろうが。


「ああ、楽しい。ああくそ、ほんとお前に惚れて良かったよ。ああ、悔しいなぁ畜生」


口角を吊り上げながら、誰に言うでもなく口にする。

口に出すのを我慢できない。

お前のおかげで、もう一段階上の物が作れちまうじゃねえか。

ああ、もう、大好きだ。

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