第405話とりあえず実験です!
「出来ましたー」
色々な試行錯誤の元、出来上がった道具をイナイに見せる。
周囲の技工士さんも見てるけど、別に良いかな。
ただ、誰よりもフェンさんが凄い興味深そうに見てる。
「製作過程を全部見ていたわけでは無いので、何とも言えませんが」
イナイは俺の作った道具を手に取り、広げる。
そして確かめる様に、ぐにぐにと曲げたり、伸ばしたり、捻ったりしている。
「・・・魔力水晶が付いている事以外、ただの布にしか見えませんね。本気で捻ったら切れそうな。一体あの石をどこに使っているのでしょうか」
ですよねー。その言葉で自信が持てた。
そう見えるなら完全に思ってた通りの物が出来たことになる。
「なら完璧。一応ちゃんと使えるのも確認したから、通常の状態はそれが普通なんだ」
「そうですか」
イナイは広げたそれを俺に返す。今からやるのはこの道具の試験だ。
手元で色々実験したので、ちゃんと使えるのは解ってる。
けど、全体を上手く使えるかと言われれば少し自信は無いので、ドキドキしてる。
「それじゃ、今からやるね」
そう言って俺は受け取った物を、『ローブ』を羽織る。
すっぽりと体を覆うようなローブだ。色が濁るといやだなーと思って、真っ黒なローブである。
「イナイ、思いっきり殴ってみて」
「は?」
「俺強化しないから、そのまま思い切り殴って。あ、ただ手には保護かけといてね」
「・・・良く解りませんが、言う通りに致しましょう」
イナイは俺に応え、構える。ミルカさんとは違った威圧感が俺の前に現れる。
それを見て、周囲の人たちが少し離れ、空気がしんと静まった。
「―――っ」
イナイは俺の言った通り拳に保護をかけ、その場でボディーブローを放つ。
いや、これリバーブローだわ。まともに食らったら吐くな、これ。
俺はその攻撃を防御せずに受け、その威力に後ずさる。大分飛ばされた。
そしてその光景を、打ったイナイこそが驚いた表情を見せた。
何故なら、本来はそんな事有りえないから。イナイの武術の腕は確かだ。動かない相手の芯を捉えられない打撃なんて、打つ筈がない。
でも捉えられなかった。イナイの予想していた打点と、今イナイの拳を止めた場所が大きく違っていたからだ。
俺がずらしたわけでも、逃げたわけでもない。だからこそ、イナイは拳を放った体勢のまま、不可解な顔をしている。
「・・・タロウ、説明をお願いします」
「はいはーい」
佇まいを直したイナイの言葉に、周囲はきょとんとしている。
それはしょうがない。ここの人達は技術屋だ。イナイの今の言葉の意味も、今の攻防の内容も解らないのだろう。
だた数人、眉間にしわを寄せて不思議そうな顔をしていたので、あの人達は解ってそうだ。
フェンさんもその一人。
「要はこれ、あの鉱石を砕いて潰して、布地に纏わせてるだけなんだ」
「あの鉱石を?」
「うん、性質自体は厄介だけど、これ自体はそんなに頑丈じゃないし、粉状にして熱を加えると簡単に何かにくっつくんだ」
「ですが、それならば普段からその強度を持って無ければおかしいでしょう」
イナイの言う事は最も。さっきイナイに渡したときは、このローブは一切の強度を持っていなかった。
普通の布。布自体はその辺に有る布で作ってるから、余計にそうなってる。
「魔力の波長に反応してるんだ。決まった波長に反応するように。だから俺が魔力を通さないと普通の布地なんだ。んで、魔力を通す位置を調整すると、こういう事も出来る」
俺は近くに有った鉄屑を投げ、ローブの端を握ってその鉄屑を切るように動かす。
鉄屑は何の抵抗も無く切れ、そのまま真っ二つになった。
周囲の技工士さん達の歓声を聞きつつ、切れた鉄屑をキャッチして、イナイに渡す。
「こんな感じ」
正直、ここまで上手く行くとは思わなかった。
最初は細い合成金属でも作って、服の中に何本も縫い込もうと思った。
けど、いろいろ手を加えているうちに、面白い事に気が付けた。
さっきの通り、この石自体は割と熱に弱い。簡単にくっつく。
そしてもう一つ、この石が粉になってもその性質を発揮すると、塊になった事だ。
勿論他の影響を受けないがために丸くなったんだろうけど、それならと布に付けてみたら布のまま堅くなった。
正直最初に考えてたものとはちょっと違うけど、結果オーライ。
ていうか、最初より謎道具が出来たから良いや。
「・・・これは、タロウの魔力だけに反応するのですか?」
「あー、一応やろうと思えば他人の魔力にも反応するように出来ると思う。これはとりあえず作ったから、俺の魔力にしか反応しないけど」
「そう、ですか」
イナイは考え込むそぶりを見せるが、直ぐに普段通りの表情になる。
「強度の限界の実験も後日やりましょう。リンも呼んで」
「・・・耐えられるかな」
「さあ、どうでしょう」
目的としては一応それが目的だったけど、いきなりそこになるとは思わなかった。
ていうか、それだと俺、リンさんに殴られることになるんだよね。
怖い。めっちゃ怖い。
「ただこれ欠点があるんだよね」
「欠点ですか?」
「うん、通常が石の性質を抑えてる状態だから、魔力水晶の魔力切れると只の堅い物になっちゃうのと、扱うのに多少の魔力が居るんだ」
水晶から供給される魔力でかけた術を維持している。だから完全に魔力が切れると、もう一度術をかけ直さなきゃいけなくなる。
そして魔力を意図的に術を切りたい所に通すから、思った場所に魔力を通せないと使えない。
要は、魔力操作が使えない人には何の役にも立たない。
「・・・あともう一つありますね」
「ん、もう一つ?」
どうやらイナイは、俺には気が付かなかった欠点に気が付いたらしい。流石。
一体何だろう。
「あなたの説明から察するに、その石には何度も術がかけ直されているようです。ならばそれによる劣化。何度までその効果が続くのかの実験が要るでしょうね」
「劣化?」
「ええ、何度も術による加工をしていれば、その素材はいつか劣化する。ならその使用回数も実験したほうが良いでしょう」
「あー、そうなんだ」
そっか、劣化か。いつもそう何回も何回もする事無かったから、その部分は気にしてなかった。
ならそっちも実験したほうがいな。
「何にせよ、魔力を操作出来なければいけないとはいえ、かなりの物ですね」
やったぜ、イナイを唸らせる物作ったぜ。
銃はあんまり褒められたものじゃないけど、こっちは自力で頑張ったし。
「ただ、これは技工士には作るのが難しい代物ですね。そこそこ腕のいい錬金術師と二人でなければ作れないでしょう。タロウだからこそ、作れた物でしょうね」
成程、俺の場合どっちも多少できるから作れたと。
でも二人で協力して作れるなら、今までにも出来そうなものだけど。
「・・・タロウ、私は少しフェンと話したい事が有るので、少し外します。先に部屋に帰っておいて構いません」
「あ、はい」
返事をすると、二人は奥の部屋に入って行った。
ん、もしかして仕事の話してたとこに声かけちゃったのかな。
フェンさんに悪い事したな。
でもフェンさんもなんか楽しそうだったし、いっか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます