第404話俺の技工は不安ですか?
「ステル様、彼はいったい何をされているのでしょうか」
「何なのでしょうね。私にも解らないのですよ」
工場の端で、石を細かく砕いているタロウの様子をフェンが聞いて来るが、あたしだって解らん。
と言うか、あの石をあんなに簡単に砕いてるのが訳が解らん。
何かに集中している素振りは一切ない。只々のんびりと砕いている。
あれはリンの剣の元になる鉱石。その性能を発揮すれば世界で一番堅い金属になる石。
錬金術による加工をしなければ、加工はほぼ不可能な、扱いにくい素材。
なにせ、もしあれを技工士が加工しようと思うなら、隣に常に錬金術師に居て貰わないと不可能だ。
一度の加工なら良い。だが技工士がもしあの金属を使うという話なら、何度も何度も加工する。
術が解ければ加工が出来なくなるし、加工が終わるまで術をかけ続けるとしても、その術を解く際に絶対ロスが発生する。
術加工だって、万能じゃない。かけた本人の手から離れた期間が長ければ長いほど、かけた回数が多ければ多いほど、素材の質は落ちる。
その期間を延ばす術は有るが、そんな手間をかけるぐらいなら、近い素材で別の物作ったほうが早い。
だから技工士は、あれがどれだけ頑丈な素材で有ろうと、あまり使う気は起きない。
リンの我儘を聞いた結果できた槌は、そのせいで少し脆い。一発の加工ではできなかったらしいからな。
「あの石、カラハルタですよね。何故あんなに簡単に砕けるのでしょうか」
「彼は錬金術も収めていますからね。出来ても不思議ではないでしょう」
セルエスごしだが、アロネスがタロウにあの石の加工をやらせたと聞いた。
帰ってきた時、完全に焦点の合って無い目で、ふらふらとベッドに倒れ込むような状態でだ。
面倒なので黙っているが、実はあたしもあの石の加工は出来る。
一度やった事が有り、その際に自分で最後まで加工しきった。
ただ、石の状態を維持しながら加工をするのに、凄まじく神経を使う。
ほんの少しでも術がぶれれば駄目になるのを、何とかやり切った形だ。
だから正直、二度とやりたくない。翌日何も出来なくなる位疲れた。
「彼、鼻歌歌ってませんか?」
「ええ、楽しそうにやってますね」
何をしているのか、何がしたいのかさっぱり解らないが、解る事は一つだけある。
あいつ、錬金術の加工を、普通の魔術と同じようにやってやがる。
それこそフェンが言う様に、鼻歌交じりに出来る程、簡単な作業として。
「何を作るつもりなのでしょうか。何だか怖くなってきました」
「同感です。彼は偶にやらかしてくれますから」
あれで何をする気なのかは聞いていない。出来上がったらちゃんと見せるよとしか。
アイツの作った『ジュウ』をシガルに見せて貰った事が有るだけに、今度は何をやらかすのかと、少し怖いと同時に楽しみだ。
あの武器は、今までの常識を覆す武器だ。魔術師でなければ魔術師に遠距離で対抗できないという常識を完全に無視する武器だ。
勿論作るのにそれなりに材料か、制作の技量が要るが、其処をクリアできれば何の問題も無い。
もしあれを大量に生産すれば、それだけで戦場は大きく変わる事になるだろう。
だからこそ、ブルベは制作に乗り気じゃない。
一応サンプルを見せたが、あいつも驚いていた。
あれは、世界の脅威になると。
持ち運びが楽で、大した調練も無く使え、その威力は容易く命を刈り取る。
そんな物が溢れればどうなるかなんて、目に見えている。
アイツが今回作ろうとしている物は、その類な予感がして堪らない。
ああ、くそ、楽しみに思うあたしも大概だな、ほんと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます