第403話新しい案です!

「ぶっ・・ま・・ちょ・・・ちょっとま・・へぶっ」


ただいま押し倒され、情熱的に顔中を嘗め回されています。

鼻の穴も舐めようとして来るし、口を開くと口の中にも舌を入れようとして来る。

助けて。


「こーら、ダメだよ」


シガルにポンポンと叩かれながら咎められ、耳をたらしながら俺から離れるグレット。

最近あんまり構って無かったせいか、テンションが高いように感じる。

攻撃してきたわけじゃ無いから、無理矢理押しのけるのも気が引けたので助かった。


『タロウは、変なところで弱いな』

「俺の素の状態で、アイツのタックル支えられるわけ無いだろ」


自分の数倍あるんだぞ、あいつ。俺が耐えられるわけが無い。

そして何故かイナイとシガルにはああいう事をしません。ていうか、シガルはともかく、イナイに対してもあいつ利口なんだよな。

絶対今みたいなことはしない。イナイが前に立つとびしっとお座りをする。


「あっはっは、ベッタベタだな」


イナイが笑いながらタオルを渡してくれたので、よだれを拭く。

匂いがとれない。後で風呂はいろ・・・。


「じゃあちょっとグレットと走って来るね」

「あーい、行ってらっしゃい」


シガルは少し強化して、ハクとグレットと共に遠くまで走って行った。

だだっ広い演習場の方なので、かなり彼方まで走れる。グレットも満足だろう。

そしてクロトは、いつの間にグレットの上に乗っていたのだろう。


・・・あれ、ちょいまち、今シガル、無詠唱で強化しなかった?

あれ、ちょ、いつの間に無詠唱出来る様になってるのあの子。

きょ、強化だけだよね、そうだよね。


「驚いたな。もうあそこまでか。あの子はやっぱ天才の部類だな」


シガルの無詠唱強化を見て、イナイも驚いていた。

あの子は真面目に鍛錬を積んで、自力で無詠唱の域まで来てる。

セルエスさんの様な、無茶苦茶な人に鍛えられたわけじゃ無い。

完全な自己鍛錬だけでその域に行ってしまっている。本物の天才だ。


「やばい、これ魔術戦そのうち勝てなくなるんじゃ・・・」

「あっはっは、有りえるな」


笑い事じゃないです。あの子が最初に目指したのは魔術師としての俺なのに、抜かれたら笑えねぇ。

俺も攻撃魔術無詠唱がんばろ。攻撃魔術は苦手とか言ってる場合じゃねぇぞこれ。


「何考えてるか大体分かるが、シガルがお前の域に来るにはまだかかるよ。そんな情けねえ面してんじゃねえよ」


抜かれないように頑張ろうと思ってたんですが、そうですか、情けない顔でしたか。

つーか抜かれない様にもそうだけど、いい加減何か新しい事出来ないとなぁ。


道具でも良いし、何でも良い。何か、もっとこう、今の俺の底上げを出来る物が作れないかな。

強化魔術の方は頑張ってるけど芳しくない。

一応数秒間限定ならやれるようになったけど、その後動けないんじゃ話にならない。

体そのものの貧弱さのカバーと、力の低さのカバーが出来る何かがやっぱりほしい。



・・・あ、良い事思いついた。



「イナイ」

「ん、どうした?」

「リンさんに使われてる剣の素材の鉱石有るじゃない。あれって買おうと思ったら高いの?」

「あー、数が少ないから少し高いな。つってもそこまで高級品って程でもねえが、欲しいのか?」


あー、高いのか。でもちょっと高い位なら、今の俺なら買える筈。

なんだかんだ結構な仕事してるから、お金は有る。

道中そこまで贅沢もしてないからね。


「うん、少し思いついた事が有ってさ」

「ふーん。じゃあ後で街に行って注文しに行くか」

「ん、ありがとう」


そうか、あの石普通に王都で買えるのか。

いや、欲しいって注文して取り寄せ的な感じなのかな?

まあとりあえず手に入りそうで良かった。


アロネスさんにあの石の加工の仕方を教えて貰ったのと、あれをあのリンさんですらまともに破壊するのは骨が折れるという事実。

本気で殴っても一撃では壊せなかったという話は、さすがに驚いた。

ならあれで防具を作れば、自分の体の弱さを少しはカバーできるのでは。


ただ、問題は、普通の防具じゃだめだ。普通の盾や鎧じゃ俺の動きを阻害する。

一応盾も使い方を知らないわけじゃ無い。ちゃんと教えられている。

けど、それじゃ間に合わない。そもそも俺の本気動きの場合、盾は邪魔だ。


普段に使う用途じゃ無く、なりふり構わない本気用に作るつもりだ。

普段から頼ったら、多分俺が駄目になる。勝てないと判断した相手にだけ、使う道具にしておこう。

上手く作れれば、攻防両方に使える。だから普段は攻撃用かな。

上手く作れれば、だけど。


「お前は行かないのか?」


今から造る物のアイデアをぽやっと考えていると、イナイに声を掛けられた。

いつもなら俺も確かに混ざってるからな。


「んー、今日はいいや、のんびりしとくよ」

「そっか」


イナイが俺の返事をきくと、隣に座って来た。

なので、イナイの頭を抱える様に、傍に寄せる。


「くさい」

「ごめん」


グレットさんのよだれの匂いが染みているようです。すみません。

でも、それでもイナイは離れる様子はなく、俺に体を預けている。


鍛錬もしないといけないんだけど、とりあえずイナイとまったりできる時間優先したい。

シガルが戻ってきたら、一緒に鍛錬しよう。それまで少し、二人っきりの時間を楽しんでも良いだろう。

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