第400話(一応)真面目にテストです!
「・・・これは、元素鉱物系・・・こっちはケイ酸塩鉱物系・・・・これ何だっけ。えーと、えーと、確か真ん中の方に書いて有った筈。有った、水酸化鉱物だ」
アロネスさんに貰った冊子や、自分がメモをしたノートをめくりながら、目の前の鉱物を振り分けていく。
ノートには、冊子に書いてある分類を、日本語に変換し直した物が書いてある。
実はこれ、旅の途中にイナイに少し手伝って貰っていた。
冊子に書かれている内容が、いくつかあまりに専門的過ぎるので、無知識で覚えるのは余りにもきつかった。
なので一旦日本語変換させる為に、翻訳の魔術を使ってイナイに片っ端から喋ってもらった経緯が有る。
文字を読み取る竜の魔術をもっと早く覚えていれば、そんな手間をかけさせずに済んだんだけどね。
ともあれ、そのおかげで鉱物の種類分けは、何とか理解している。
つーか、この人ナチュラルに毒鉱物もポンと置いてやがった。
分厚い特殊な手袋とマスク渡されたから、有るとは思ったけどさ!
「こっちは炭酸塩鉱物・・・・あ、いや、違う、えっとえっと」
せめてぱっと見で解り易い物だけ用意してほしい。ほんと只の石ころにしか見えない物用意すんのやめて・・・。
「・・・終わりました」
用意された鉱物を全て大きな種類別に分け終わった。さらに小分けにしろって言ったらもう俺は逃げる。
アロネスさんは、ふんふんと横からさらっと見ていき、うんと一回頷く。
「合格ー」
笑顔でそう言った。いつもなら何ともないんだけど、その笑顔が今はムカつく。
つーかこの人、人が必至で振り分けたの、さらっと見ただけで判断したよ。脳内どうなってんのこの人。
「じゃあ次、今度こっちな」
そう言って、アロネスさんが指をさすテーブルを見つめる。
うん、知ってた。終わらないの知ってた。俺が振り分けてる間、何か用意してたもん。
見ると、薬草やら、毒草やら、いろんな植物が置いてあった。
だからこの人さぁ!触るだけでヤバイ毒物なんでぽんと置くかなぁ!
「今度は、単体で薬草に使える物と、毒草に成る物に分けてくれるか。それが終わったら、薬草の中でも毒に近い物。毒草の中でも薬に使いやすい物に分けてくれ」
「・・・分かりました」
やばい、寝不足で判断力鈍ってるのに毒草も触るのか。一寸気合い入れろ。これぼーっとやってたら不味いぞ。
流石に空気中に霧散するような物は持って来てないから良いけど、気を付けないと。
「うっわ、腹立つ。似たような植物並べてくれてる・・・!」
アロネスさんは鉱物の類を片づけている。でも一部残してる辺り、まだ何かさせる気だ、あれ。
いや、良い、それよりも今はこっちだ。
数自体は三十も無いけど、全部似たものが必ず置いてある。すげー嫌らしい。
「・・・えっと、これは裏側の筋の流れが違うんだっけか・・・こっち確か葉に切れ目を入れると解った筈・・・これ、どっちがどっちだ。えーと、えーと、どこかに書いてあった筈。あった、根が細い方が毒草のほうか」
マジでパッと見ただけじゃ解らない。本気でテストじゃねえかこれ。
ノートと冊子をバラバラめくり、目を往復させながら調べていく。
樹海に居た頃は、既に用意されたものを調合してってパターンが多かったから、このテストは予想してなかった。
「えっと、えっと、・・・・ヤバイ、この三つだけ、マジで解んねぇ」
確か分かり難いやつは、間違えそうと思ってちゃんとメモしてた筈なのに、見つからない。
冊子の方も、さっきから捲っているのだけど、見つからない。
やばい、眠くて集中力が切れて来てるのか?
でもこの三つ、見覚えは有るんだよ。どっかで見てるんだよ。
「・・・あ」
そこで気が付いた。これ、めっちゃ見覚え有る理由が。
これ、違う。薬草じゃない。つーか、毒草でもない。
「これ、毒草でも薬草でもないじゃん!ただの野菜じゃんか!!」
くっそ騙された!これ只の野菜だ!どれだけノート捲っても解んねえよ!
寝不足のせいで余計に気が付くの遅れた!
「いやー、一応薬として使えるぞ、どっちも」
「そうですけど、これ同じ系統の野菜の選別じゃないですか!」
俺の訴えにニヤニヤ応えるアロネスさん。うわー、腹立つー。恩人だけど一回殴って良いかな。
絶対届かないと思うけど、殴りたい。物凄く殴りたい。
とりあえず、野菜は薬の方に分類して、摂取が多いと毒になる薬草、少量なら薬に使える毒草に分ける。
強い毒草も、薬に使えるけど、ああいうのは完全に大病の人用の薬だ。
「終わりましたよ!」
「そう怒るなよー。ちょっとした冗談じゃんかー」
「俺眠いって言いましたよね」
「あはは、悪い悪い。次で最後だからさ」
そう言われて、アロネスさんは俺にとある鉱物を二つ渡してきた。二つとも拳程度の大きさだ。けど、その重量はかなり物だ。
分類としては、鉄鉱石に成る物。でも、実際は鉄鉱石じゃない。
鉄とは違う物だけど、この世界では鉄と同じ扱いになっている物。
リンさんの剣に使われてる素材。
元の世界には、完全に存在しない鉱物の一つ。
「これって、リンさんの剣の元ですよね」
「おう、そうだ。そして人の意志に反応する、面倒くせー石だ」
人の意志に反応する石。何の事かと言うと、強い意志をこの鉱石に向けると、この石は何故か強度を増す。
その意志の強さが強ければ強いほど、それこそ、リンさんの攻撃に耐えられるほどの強度になる。
ただ堅いだけじゃ無く、折れない、割れない、欠けない、という全てに対しての頑丈さを持つそうだ。
その上熱にも強くなるから、普通に加工することも出来ない。
「これを、加工出来る様にしろ。それが最後のテストだ」
「え、いや、しろって言われても、やり方とか知らないんですけど」
これの存在は聞いていたし知っている。けど、加工方法は知らない。
いきなりそんな事言われても困る。
「一つヒントだ。この石は、鍛冶師には扱えない。そのままではな。何で使える様に出来ると思う?」
鍛冶師には使えない。あれ、でもそういえば、これ使って剣を作ったのはアルネさんだよな。
あの人が強い意思無く剣を打つなんて思えない。そうなると、何で剣に加工できるんだ。
熱にも強いから普通は炉でも無理。でも普通の炉でやったらしいし。
強度を持たせなければ良い?
「・・・石が人の意志を感じられないようにする?」
「正解だ。そして錬金術師はその術を持っている」
要は、こういう事か。石に対して何かしらのスイッチを持たせた魔術を組み込めと。
加工前は問題無く加工できるが、加工後はその性質を発揮できるように作れと。
「媒体にして、発動させるわけでもない。常時発動し続ける物を作るわけでもない。只一時、この石を騙す術を組み込む」
「そうだ。そしてそんなややこしい事は、只人に放つ魔術や、場に仕込む魔術のような操作じゃ不可能。どうだタロウ、出来るか?精霊石の様に力を引き出すんじゃない。その特性を元通りに使えるように封じ込めろ」
最後の最後に、この世界の錬金術らしいものが来たなぁ。
てっきり俺は、さっきの材料を使って、薬か混合鉄の類でも作れと言われると思ってたよ。
いや、実際はこの石と鉄混ぜるから、最終的には混合鉄にするんだけどさ。
「これ終わったら、俺寝ますからね」
「お、自信満々だな」
そりゃ魔術関連に関しては、多少自信有りますよ。少なくともさっきの鉱物の振り分けよりよっぽど。
さて、とりあえず、石に魔力を流していく。石自体持魔力を持っているので、其処に俺の魔力を混ぜていく。
そして、石自体が自分で周囲から自分を切り離したかのように、魔術を構築していく。
俺が石に魔術をかけたのではなく、石自体が魔術をかけたように誤認させる。こうすれば、今後も石が持つ魔力で、魔術をしばらく維持できる。なにせ、対象は自分自身だ。
只このままだと、自分以外が加工した時、元の性質に戻らない。
そのためにスイッチを作る。魔術が壊れるスイッチを。
魔力が切れれば魔術は切れるが、その結果はその物体の劣化も引き起こす。
それじゃ加工した結果、結局何の強度も無い鉄屑が出来るだけだ。
基本加工は熱を使う。ならば熱を持ち、完全に冷え切った時、その性質が戻るように仕込んでく。
「・・・しっ、出来ましたよ」
出来上がった石を、アロネスさんに渡す。アロネスさんの目は、さっきまでのにやついた目は一切ない。
至極真剣だ。
「一発でやっちまうかー。たくっ合格だよ」
「なんか悔しそうですね」
「そりゃそうだろ。こんな簡単に出来ると思うかよ」
「え、でもセルエスさんの魔術抑えるのに比べれば簡単でしたよ」
「・・・あー、そっか、そう言えばそうだったなお前」
俺の答えに、頭を抱えるアロネスさん。頭を抱えたいのは俺です。
そろそろ頭痛がしてきてます。寝かせて。
「・・・まあ、いいか。お前はその方が良いのかもな」
「どういう事ですか?」
「気にすんな。手間かけさせたな。ゆっくり寝な」
「はあ、じゃあおやすみなさい」
色々と疑問が残る反応されたけど、今はそれどころじゃない。ぶっちゃけそこの床でもいいから寝たい。
ああ、はやく、はやくベッドに行かなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます