タロウの価値、本人の意思。
第398話アルネさんの試験です
「タロウ、今日は暇か?」
黒の実験終了後に、アルネさんが俺に尋ねて来た。
別段やる事無いし暇は暇だけど、どうしたんだろう。
「ええ、特に予定は無いですけど」
「そうか、ならちょっと付いて来い。イナイ、タロウを借りるぞー!」
「あいよー」
俺の返事を聞くと、イナイに俺を連れて行くというアルネさん。イナイはこちらを見ずに、クロトの世話をしながら返事をする。ちょっとだけ寂しい。
そんな風に思っていると、アルネさんは俺を置いて歩き出したので、慌ててついて行く。
アルネさん一歩の幅がデカいんだよな。早歩きで歩く人じゃないから良いけどさ。
普通に歩いてると置いて行かれる。
「タロウ、お前最近剣は打ったか?」
「え、いや、最近はそういう機会は無かったですね」
「だろうな。仕事で出向いたのでなければ、出先で打つ機会はそうそうある物じゃないからな」
実際、樹海を出てから一度も剣を打ってない。
一応出る前までにはそれなりの物を作れるようにはなったけど、本当にそれなりの物だ。
只実用品として使える程度。アルネさんに貰ったこの剣に比べたら、ただの鉄の棒だ。
「お前の事だ。関係者以外立ち入りが禁止されている所には入ってないだろう?」
「そりゃまあ、入るわけにはいかないですから」
「まあ、そうだろうな。お前はそういう奴だ」
どういう奴ですか。だって俺部外者じゃないですか。
流石にイナイの婚約者だから関係者ですとか、そんな図々しい事言えない。
それに立ち入り禁止の所には騎士さん達が詰めてあるし、普通に止められてる。そこを押し入るような理由は無い。
「はっはっは、変な顔をするな。悪い意味じゃない」
「はぁ」
煙に巻かれた気分でアルネさんについて行き、転移装置を使い、城の奥に向かう。
このあたりも以前散策で歩いたが、騎士さんに止められてこれ以上奥に行った事は無い。
「通るぞ」
「はっ!」
アルネさんが騎士さんに声をかけて、ずんずんと進んでいく。
騎士さんは軽く頭を下げ、ちらっと俺を見るが、特に何も言わずにそのまま入れてくれた。
アルネさんについて来てるから、良いのかな。
「俺、入っちゃっていいんですか?」
「別に構わんさ。こっちは機密の類が置いてあるわけじゃ無い。武器庫と鍛冶場だ。危ないから関係者以外は入れないようにしてるだけだ」
ああ、なるほど、そういう事か。前に来た時はクロトやシガル連れてたし、子供連れは危ないと思われたのも有ったのかも。
そしてナチュラルに城に鍛冶場が有るんだな、やっぱり。工場も有ったし有ると思った。
この城絶対おかしいと思う。
アルネさんはそのまま一番奥まで歩いて行き、行き止まりの扉を開く。
途中から暑いと思ったけど、開けると更なる熱気が外に出て来た。
うわー、すげえー。くっそ広い。炉が何個も有る。
皆ここの鍛冶師さん達なのかな。額に汗をたらしながら剣を作ったり加工したりしてる。
休憩中らしき人はアルネさんがいる事に気が付くと頭を下げるが、仕事中の人は一切こちらを見ない。完全に目の前の物だけに集中してる。
休憩中の人に、なんかちょっと注目されてる気がする。アルネさんに連れて来られたからかな。
「凄いですね・・・」
「あっはっは。馬鹿みたいだろう。城の中にこんな物作るか普通」
城の中に馬鹿でかい鍛冶場と言う光景に、工場の時よりも呆けて見ていると、アルネさんが笑いながら言った。
ていうか、アルネさんが言って良いのそれ。
「さて、タロウ、おそらく勘が鈍ってるだろう。とりあえず好きに使っていいぞ。ちゃんと出来たと思ったら持ってこい」
「あー、もしかしてテストですか」
「折角教えたしな。ほかの連中もテストをしているようだし、やってみようと思ってな。抜き打ちだ」
そういえば、鍛冶に関しては特に合格も不合格も貰って無かったっけ。
出来たものを見せたら、それ外で振ってこいって言われただけだったからな。
でも何となく、使うと解るんだよなぁ。あ、これだめだって。
まあそれでも使い手が優秀だと問題無いんだけどね。リンさんに俺の駄剣渡したら、普通に魔物切り裂いたし。
「奥の炉が空いてるから、あれを使うと良い。俺は弟子連中のをちょっと見て来る」
「あ、はい」
知ってたけど、相変わらず放置だなこの人。いやそれが気楽だから良いんだけど。
鍛冶の行程も結局、こうやるんだ後は頑張れだったからな。
うーん、どうしようかな。普通に打つか、切り出しでもするか。
と言うか、これどの材料使って良いんだろ。既に加工してあるの使って良いのかな。
でも誰かが使う物かもしれないし、あっちの塊使った方が良いのかしら。
そうなると熱してから割らないとな。
何作ろうかねー。只の西洋剣なら加工はぶっちゃけ簡単なんだよな。
適当にそれなりの形に添えてしまえばいいし。つーか、型に流し込むだけか、クッソデカい形の物作ってから適当に叩くだけでいいからな。
日本刀みたいに高温過ぎない炉で熱して、何度も叩く作業は要らない。手間が段違いだ。
まああれも、日本では良い金属が無かったからだけどね。
此処に在る金属は質の良いものも有るから、精錬する必要はあまりなさそうだけど、どうすっかな。
でも日本刀作ろうにも、あんな綺麗な物作る自信無いんだよなー。
いっそ叩いて不純物除いた西洋剣にするか。
儀礼用とかなら型に流した物でいいんだがねー。実用しようとすると、それじゃ
くっそ脆い物しか出来んのよねー。
いや、材料が良くて、冷やす行程なんかを適当にやらなきゃ実用できるけどね。
悩んでても仕方ないし、とりあえず作るか。加工済みの使わせてもらお。怒られたら加工作業後で手伝お。
丁度いい大きさの物を抱え、炉に持っていく。重いので勿論強化してある。
素のままでもハンマーやら何やら持てなくはないが、少しでも綺麗にするために片手で持てる程度には強化してる。
ちょっとなら良いんだけど、一人でやると段々二の腕が震えて来るんだよ・・・。
あ、そうだ良い事考えた。昔見た動画で鍛冶用の打ち機みたいなの有ったし、あれ作ってみるのどうだろう。
手作業の出来とは違う物になるけど、大量生産の加工品を作るにはだいぶ楽な筈だ。
ともあれ今はそんなものは無いから一人で頑張らねばいかんのですが。
「あっち・・・」
久々にやると、物凄く熱く感じる。久々だな、この感じ。
熱した地金を取り出し、ハンマーで叩く。熱した際に出来た皮膜を取り、次に水濡らしたハンマーで叩く
その後梃子台に乗せられる大きさに適当にぶった切る。面倒だったので道具を強化して無理矢理切った。
またそれを炉に入れて赤熱させる。熱い。
熱した物を取り出し、沸かし付けをする。こういう時は仙術と魔術の両方の強化が出来るとだいぶ楽だ。素の力じゃ圧力が足りないんだよなー。
少し叩いた後接合剤を付けて、また熱して、今度はがっつり火を入れる。
この加減が正直難しい。アルネさんに聞いても、何となくこれぐらいが良いと思った所であげろとか言い出す始末だ。
あの人、行程とかは丁寧に教えてくれるし、何度も見せてくれるけど、タイミングが必要な所は自分で覚えろって言うんだよなー。
適当なところで一度取り出して、また叩き、灰を付けてまた火にかける。
完全にくっついたのを確認してから鍛錬開始ーっと。
この作業根気要ると思うの。大体一人でやるような物じゃないよなこんなん。
いや、一人でやってる人も居るんだろうけどさ。
折り返しの切れ目を入れ、水を軽くかける。
念入りに叩いた後、また接合材を付けて炉に入れる。
うん、意外とちゃんと覚えてるもんだな。
「あー、疲れて来た」
今何回目だっけ。確か15回ぐらいだった筈だと思うんだが。
大体半分ぐらいになってるし、多分もういいと思う。
芯鉄終了ー。疲れたー。
何度も打ち直しすることで中の不純物を出来るだけ取り除き、質の良いものを作り出す作業なわけだけど・・・打ってて気が付いたけど、そこまで頑張る必要がない質だったなーこれ。
でもまあ、ここまでやっちゃったし、最後までやるか。
「あー、次はもっかい同じ作業だー」
皮鉄を作んなきゃいけないからな。もう一回おんなじ作業だ・・・。
「あー、やっとできた」
出来た皮鉄をまげて、膨れが無いかを確認する。見終わったら芯鉄の方をもう一度叩いて調節。
今度は芯を皮で包み、造り込みを開始する。要は熱して包むだけだ。ただし今回は、全体を包ませる。
これもきっちりくっつくように、何度も火に入れて叩いて伸ばす。接合材の付け忘れに注意、っと。
うーん、しかしこれ、完全に日本刀の製作工程だよなぁ。まあ、最初に使った地金のサイズがデカいから、どう見ても日本刀じゃ無いけど。
ただ普通の型取りした西洋剣と違って、芯が衝撃を吸収してくれるので大分違うはずだ。
刃鉄は要らないや。多少刃こぼれしても問題ない物作ってるわけだし。
日本刀じゃないから棟鉄も要らないだろ。
ていうか、そこまでやってたら二、三日かかってしまう。
接合が完全に出来上がったのを確認して。伸ばしていく。
打ち水をしつつ、棒状にしていく。棒と言うにはちょっとデカいかな。完全に日本刀じゃなくて、西洋の大剣だ。
とりあえず良いサイズになったら梃子から切り離して、中子を作る。柄に入れる部分だ。
ここまで来たら力をうまく加減して、ムラを取っていく。綺麗な日本刀作る気が無くても、歪み過ぎはカッコ悪いからね。
熱して、水につけたハンマーで叩いて調整。これを何度も繰り返す。
形が整ったら切っ先を切って水につけ、焼き入れをする。うん、悪くない感じだ。
逆向きにも切り口を入れ、西洋刀のような切っ先にして、やすりで削る。
その後また熱して、水の付けたハンマーで叩いて形を整えていく。
本来は片方の刃を、両側に作っていく。うん、完全に趣味武器だわー。
切っ先は整えるだけで良いので楽だな。
とりあえず曲がりやら、捻じれやらが無いようにしないとねー。日本刀じゃないので反り付けしなくて良いのは楽だね。
とりあえず調整が終わったら、焼き入れ前に表面の酸化してる部分を削っていく。
この作業地味に大変なんだよ。
削り終わったら最後の仕上げ前に、土取りという、刃の上に土を付けてく作業に入る。
粘土と木炭と砥石の入った土を付けていく作業だ。焼き刃土つったっけ?
そしてそれが終われば、やっと焼き入れだ。
さて、ここでこの炉であることが助かるんだよな。炉の温度を自由に変えられるから。
焼き入れに最適な温度まで上げて、刃を熱する。
これが一番失敗する可能性が高いと思う。綺麗に熱さないと駄目だし。
ここまでの作業の手間かかる割に、これ失敗すると台無しだからなー。
「よっ」
このあたりと思った所で水につけ、急速に冷やす。しっかりと冷えたのを確認して引き上げ、失敗が無いか注視する。
うん、現状は問題なさそうだ。
「・・・流石に鍛冶押しまでやれとは言わんよな」
もし研ぎの作業までやれって言われたら、今日一日じゃ流石に終わらない。
いや、綺麗な日本刀のつもりで作ってはいないから、頑張ればあと一日あればやる自信あるけど。
「まあいいや、とりあえずアルネさん・・・うおっ!?」
アルネさんに渡しに行こうとして周囲を見回し、びっくりした。
全然気が付かなかったけど滅茶苦茶みられてた。
ついでにアルネさんも居た。
「ふむ」
アルネさんは俺の作った良く解らない剣のような物をひょいと手に取ると、まじまじと眺める。
あ、この時点で判断する気なんだ。良かった、研ぎもやって帰れって言われたらどうしようかと思ったよ。
「叩いて伸ばして焼き入れを、では物足りなかったか?」
「あー、いえ、どうせテストならちゃんと作ろうかなって」
「なるほど」
あー、やっぱ簡単なのでも良かったのか。
でもどうせだし、がっつりやっときたかった。久々だからこそ、忘れてないかも気になったし。
「合格だ。これなら十分使い物になるだろう」
「ありがとうございます」
やったぜ。大変な作業やり切った甲斐が有る。
「だが、どうせなら研ぎもやっていけ」
「・・・い、今からですか?」
「ん、何か不都合が有るのか?」
いや、あの、もうこの時点で一日仕事なんですけど。多分お外真っ暗だと思うんですけど。
・・・しょうがない、やってくか。
これなら普通に叩いて伸ばせば良かったなぁ。
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