第397話黒で実験です!

「おらぁ!」


アロネスさんが何やら、金剛杵みたいな物をクロトが作り出した黒にぶつける。

その瞬間、一点に魔力が収束し、黒を包むように空間がねじ曲がった。

だが暫くすると空間は暴風と共に元に戻り、黒は何事もなかったかのようにそこに有る。


「うん、無理」


黒にぶつけた道具をぽいっと捨てて、すたすたと戻って来るアロネスさん。

捨てちゃうんですか。それかなり危ないものでは。使いきりなのかな。

ていうか、だとしてもその辺に捨てるのは良くないのでは。


「アロネス様、その辺に投げ捨てないで下さい」

「だーってさー、こんだけ通用しないと不貞腐れたくもなるってー」

「だからって捨てるんじゃねえよ」

「ふーむ、今のでも無理か」


アロネスさんが捨てた物を拾って咎めるお城の従者さんとイナイ。この人も昔からのお知り合いの人らしい。

リンさんがねーさんと呼んでいた。見た目的にはリンさんより若く見えるんだけど、年上なんだな。イナイといい、皆年齢不詳すぎるだろ。

ウッブルネさんは先ほどの黒の頑丈さを見て唸っている。


「・・・次、誰がやるの?」

「私が、やる」


クロトが次の挑戦者を聞くと、ミルカさんが前に出る。

雰囲気がマジだ。以前ポヘタの連中しごいてた時の雰囲気だ。


何でこんな事になってるか。

それはクロトの黒を破壊できるのが、ハクとリンさんとギーナさんと言う話を聞いて、他の人間では出来ないのかという実験になったからだ。

なんかリンさんがやってみたかったらしい。そんなわけで今日は八英雄と王様勢ぞろいに加え、ギーナさんとさっきのおねーさんが居る。

一番手のアロネスさんが色々やったのだけど、さっきの空間を歪めた道具で諦めた様だ。


「くっそ、あれ普通ならバラバラになるんだぞ」

「あ、やっぱあれかなり危ないんですね」

「空間だけがねじ曲がって、そこに居る物体はそれに付いて行けないからな。そのまひねり潰されるだけだよ」

「何でそんな怖いもの作ってるんですか?」

「趣味」


趣味ですか、そうですか。この人の作った道具集めたら世界征服できんじゃね?

魔剣もこの人量産できるからな。使い捨ての魔剣とか、普通に怖いだろう。


「精霊連中呼び出せば行けそうな気はするんだが、めんどくせえしなぁ」

「あの水の人以外にも居るんですか?」

「そっか、そういえばアイツしか見せた事なかったな。他にも何体か居るんだよ。どいつもこいつも癖が強いがな」

「へぇ」


あの水の精霊も大分癖が強かった。と言う事は他の精霊も大概だという事かな。

でもそんな癖の強いのが集まるのは、アロネスさんの癖が強いからではと思ったり。

口には出さないけど。


「・・・どうぞ」


クロトが黒に手を当てた後、少し離れる。

クロトから聞いた限りでは、黒の強度を任意で変えられるという事だ。今のあの黒は、普通なら破壊できない強度にまでしているらしい。

まあ強度弱くても普通の人には壊せないんだけど。

因みに俺皆が集まる前に挑戦したよ!無理だったよ!

何あれ堅すぎる。逆螺旋剣で全力で穿ってもびくともしねえ。


「――――ふっ」


黒の前に立ったミルカさんが、地がえぐれる様な踏み込みと共に拳を突き出す。

ミルカさんの拳が黒に触れた瞬間、音もなく黒が一瞬歪んだ。おお、すげえ、アロネスさんにも無理だったのに。

でもやっぱ壊すのは無理なのか。


「・・・えっ?」


疑問の声がクロトから上がった。見ると不思議そうに首を傾げている。

どうかしたのかね。


「どしたの、クロト」

「・・・あの人、変」

「変て」


いや、ミルカさんちょっと変な人だけどさ。

まあ、多分だけど、黒に影響与えられると思ってなかったって所かな?


「なるほど、なるほど。大体、解った」


ミルカさんはそう呟くと、珍しく構えた。ていうか構えるの初めて見た気がする。

俺に似た半身の構えだけど、違うのは右手を腰元に引いてることだ。ボディーブローを打つ前みたいな体制で黒の前で構えてる。


「――――ふっ!」


掛け声とともに黒をその体勢のまま拳をまっすぐ打ち込み、黒に打撃を突き入れる。速度が半端ない。拳が空間飛んだのかと思う速度だった。

そしてその拳が黒に触れた次の瞬間、黒が盛大にはじけ飛んだ。

マジすか。アロネスさんがあんだけ頑張って壊せなかった物二撃ですか。


「・・・うそ」


クロトはその光景を、目を見開いて、呆然と見ていた。有りえない物を見た。そんな顔で。

当の本人のミルカさんは、いつもの半眼で、すたすたと戻って来た。


「あれはアロにいには壊せない。無理」

「どういう事だ、ミルカよ」


ミルカさんの発言に、ウッブルネさんが疑問の声を上げる。俺も気になる。

ていうか、ミルカさんはどうやって壊したの。


「アロにいの錬金術や魔術は、あれに干渉出来ない。だから無理。精霊達なら別だけど」

「あん?要領を得ねえな」

「理屈なんて私も解ってない。でも魔術は通らない。アロにいのはね」


そう言った後、ちらっとセルエスさんとグルドさんを見る。

その視線を受けて、ニヤッと笑う二人。


「つまりー、私達はいけるってことー?」

「うん、セルねえとグルドなら、行ける」

「成程。じゃあ問題ねーな」

「マジかよー。俺だけ大ピンチじゃねえか」


セルエスさんとグルドさんの言葉に、アロネスさんが頭を抱える。

つまり、あの二人程の魔術に特化してないと通用しないって事かな。


「ロウとアルネも無理。相対したら逃げた方が良い。ブルベにいも」

「・・・そんな気はしていたが、やはりそうか」

「まあ、俺達は戦闘では肉弾戦しか能がないからな。当然だろう」

「あはは、私は尚の事だね。全てが中途半端だから」


ん、てことはつまり、さっきのミルカさんの一撃って、只の打撃じゃないって事?

俺さっきのミルカさん、何したのかさっぱり解らないんだけど。

仙術使ったのかな。力が見えなかったんだが。


「・・・やっぱりあの人、変」


クロト君は何か納得がいかない顔で、首を傾げながらミルカさんを見ています。

絶対壊せない自信が有ったんだろうな。

でも、ミルカさんの言葉から察するに、ウッブルネさんとアルネさん以外は破壊可能って聞こえる。アロネスさんも、精霊呼び出せばいい訳だし。


「んじゃあ、あたしの番かな?」


そう言って、リンさんが剣を抜く。ドレス姿で。今日は髪が短くなってる。やっぱり鬘だったんだな。

呆けていたクロトはリンさんが剣を抜いた事で正気に戻り、リンさんが動いた歩数と同じだけ下がる。


「・・・ん」


そして少し離れたところに再度黒を作ると、そそくさと逃げて俺の後ろに隠れた。

記憶が戻ったおかげか前ほど震える事は無いけど、やっぱ怖いらしい。


「つらい」

「あはは」


クロトに逃げられて項垂れるリンさん。ブルベさんは苦笑いだ。

下手な慰めしてもなぁ。

それにクロトに関しては、リンさんも悪いとこあるし。


「じゃあ、いっちょやってみますかー」


気を取り直してリンさんは黒の前に立つ。そして特に何の気配も感じさせず、自然体に剣を振りぬく。当たり前のように。それが当然のような動作で。

あまりに綺麗な動作で、切られるのが当然と感じてしまうような振りだった。

そしてその斬撃で、リンさんの目の前に有った黒も当たり前のように吹き飛んだ。


「ありゃ、意外に簡単に切れた」


切った本人が驚いてる。今のそこまで力込めたように見えなかったもんな。

でもクロトはさっきのミルカさんの時と違って、当然の様な態度だ。

まあクロと自身が言ってたんだし、当然か。


「つまり、私もリンと同じ事が出来るって事よね?」


ギーナさんがリンさんに気さくに話しかけに行く。


「そうなるんじゃないー?」

「ふーん・・・なんなのかしらね、私達のその力。竜の力だっけ?」

「あの子はそう言ってたらしいねー。そんな事言われてもただ剣振ってるだけなんだけど」

「私のこの尻尾、竜の血を引いてるからなのかしら」

「じゃああたしはどうなるのさ」


二人はなんだか、昔ながらの友人の様だ。つい最近まで交流が無かった関係には見えない。

まあリンさんはリンさんだし、ギーナさんも気さくな人だしな。


「・・・お母さんは、しないの?」

「んー、外装でぶん殴ってもただの打撃だからなぁ。壊せる気がしねぇ。技工剣も結局は魔力と自然現象だし、あの黒には通用しねーだろ」

「・・・わかんない、なんか、自信無くなった」

「ああ、さっきのミルカのか。あたしはあんな事出来ねえよ」


あの外装で殴ってもダメなのかな。なんか通用してしまう予感がする。

まあ、イナイはやる気ないみたいだし良いか。

それにしても、やっぱりさっきのミルカさんの攻撃は何か特殊なんだな。

教えられてないって事は、教える気は無い物なのか、俺には覚えられない物なのか。

気になるけど、聞いて教えてくれるのかな・・・。

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