第396話クロトの吐露です!

「あー、眠い」


お昼ご飯を食べながら呟く。寝起きになんでがっつり肉なんだ。

めっちゃ分厚いステーキ寝起きに出されても辛い。こう、スープとかで良いんだけどな。

ハクはめっちゃ美味そうに食ってるな。

・・・クロトが珍しくがっつり食ってる。昨日動いたからお腹すいてんのかな。


「お前が寝かせないからだろうが・・・」

「あ、狡い!それは狡い!」


イナイが目を抑えながら寝不足を俺のせいにしてきたので反論する。

前半は俺の方がリードしてたけど、後半はイナイの方が求めて来てたもん。

俺のせいにされても困る。いや喜んで応えたけどさ。嫌な気持ちなんか一切無かったけどさ。つーか、イナイは時間たつほど甘え出すから可愛いんだよ。


「はいはい、どっちもどっち。お姉ちゃん後半になるとすっごい甘え出すんだから人のせいにしない」

「シ、シガル~」


シガルさんがバッサリ切った。強い。こっち方面の話ではシガルさん最強だわ。

そもそも俺とイナイ二人がかりでもシガルには勝てる気がしない。ていうかシガル、イナイとするのも楽しそうなんだよな・・・。


うん、昼からそういうのはちょっと考えないようにしよう。

とりあえず目の前の肉食べよ。

・・・見てるだけで腹膨れてきそうだ。








「あー、寝起きからステーキは重いー」

『昼まで寝てるのが悪い』

「お前寝起きとか関係ないじゃん・・・」


ハクは寝起きでも普通に油たっぷり食うだろ。

胃腸の油を流す様な気持ちでお茶を飲む。うーん、重い。

でも珍しい。昼にあんな分厚いステーキって、あんまりやらないのに。


「・・・ごめんなさい」

「ん、何でクロトが謝るの?」

「今日のお昼はクロト君の希望なの。なんだか無性にお肉が食べたかったんだって」


あー、そうなのか。だから珍しくクロトがっつり食べてたのか。

しかし珍しい。出されたものは素直に食べるけど、何かが食べたいっていう事は今までなかった。

しかしそっか、悪い事言っちゃったな。


「別に謝んなくて良いよ。こっちこそ責めるみたいでごめん」

「・・・うん」


クロトは俺の言葉にほっとした顔でお茶を飲む。何だろう、エネルギーが足りないんだろうか。

ハクと大暴れしたみたいだし、そういうのも有るのかもしれない。

そう思ってクロトを見てると、クロトは何か手を見つめながら確認するように手を握ったり開いたりしている。

なんか、普段見ない事やってるな。


「・・・お父さん」

「ん、どうしたクロト」

「・・・えっと・・・」

「?」


クロトが何か、言いたいけど言えないような、なんか言うのを悩んでるような感じだ。

こういう時は本人が言おうと思うまで待ってあげる方が良いよな。

お茶を飲みながらクロトが言えるまでのんびり待つ。時々クロトの頭を撫でながら。


そんな俺とクロトを、イナイが微笑ましそうに見てた。ハクはなんか今日、シガルにべったりくっついてるな。

シガルが重そう。あいつ自分の体重考えないからな。


「・・・ん!」


クロトがシガルと同じようなポーズを取って、気合を入れている。

その後にクロトの口から発された言葉は、驚く言葉だった。


「・・・お父さん、僕、昔の事思い出したんだ」

「え、昔って」

「・・・僕が、眠る前の事」


その言葉に、イナイの目が鋭くなった。理由は解ってる。

クロトはあの遺跡から出て来た。今まで遺跡から出てきたのは人間と敵対行動を取る奴らばかりだった。

である以上、記憶の戻ったクロトが、どうするのか、どうしても警戒せざるを得ないんだと思う。


「全部思い出したの?」

「・・・ううん、一部だけ」


どうやら完全に戻ったんじゃなくて、断片的に思い出したらしい。

なんか、自分がそうなったら混乱しそうだな。


「・・・赤い人と、鱗の尻尾の人が怖かった理由も、解ったんだ」

「リンさんと、ギーナさんが怖い理由?」

「・・・うん、あの人達は、僕みたいな存在を消滅させられる人。普通なら抹消不可能な存在でも、消し去る事が出来る人。だから、怖かった」


・・・あの二人が規格外に強かったから怖かったって事かな?

んー、でもなんか、ニュアンス的に違う感じがするな。


「クロト、そこのところ分かるなら詳しく教えてくれ」


イナイが真剣な顔でクロトに尋ねる。それを受けて、クロトは俺からイナイに視線を移す。

その目は、いつになく真剣に見える。多分。きっと真剣だと思う。


「・・・僕は、竜と、英雄に殺されたの。僕と違って人に望まれて生まれた竜と、竜の力を埋め込んだ英雄の二人。僕の力を相殺できる竜が命と引き換えに僕を抑えて、英雄の男が僕を、僕と言う現象を叩き切った」

「現象?」

「・・・僕は、生き物じゃない。現象が、力が、ただ形を取っただけ。存在意義は、ただ壊す事。それしか出来ない存在。それが、僕。だから、僕は殺された。僕を願った連中に、僕は要らないと言われて殺された」

「クロトが生き物じゃないって、そんな事無いだろ。それに壊す事が存在意義って。クロトはそんな事しないじゃないか」


クロトは確かに初めて会った時は魔物を消し飛ばしたし、ハクには喧嘩腰だった。

けど、普段は静かないい子だし、その土地の子供達と普通に遊んでたりした。そんな破壊衝動の権化みたいなところは見てない。


「・・・でも事実。僕は、そういう存在。だから怖かった。あの英雄と同じ力を持ってる二人が。竜になりかけてるハクが」

「・・・ん、待てクロト、竜になりかけてるってどういう事だ。ハクは竜だろ?」


クロトの言葉を静かに聞いていたイナイが、クロトに問いかける。

そこは俺も突っかかった。竜になりかけてるって、ハクは真竜だろ?


「・・・あれは、違う。ただの残滓。あいつは本来の、大本の存在に近づこうとしてる。元々の形に。本当の竜に」

「本当の竜?昔の竜は違う物だったって事か?」

「・・・違う。ハクは、まだ枷を外しただけ。竜じゃない。あれじゃまだ、ベドルゥクには遠く及ばない。ただの力の欠片」

「は、ちょっとまて、なんでそこでベドルゥクが出るんだ」


クロトの記憶の吐露に、イナイさんが若干混乱しています。

つーかベドルゥクって、慈愛の神かなんかだったよね、確か。

剣の説明の時聞いた気がする。


「・・・あいつが、原初。一番最初の竜。人に望まれて生まれた存在。人を救う、竜」

「もしかして、神話に出てた連中は、みんな実在するのか?」

「・・・それは、解らない。僕が思い出したのは、僕を殺した奴と、僕の存在理由。後、僕が復活できた理由だけ。僕、フドゥナドルが、生き返った事だけ」


イナイとシガルが驚いた顔でクロトを見る。魔王の名を名乗ったクロトを。

けど、俺はだから何だろうという感じである。

だって、クロトはクロトだし。今のクロトと何か関係があるのかね。


「ねえ、クロト」

「・・・なあに、お父さん」


俺の声に、クロトが若干びくっとした。でも俺はそのまま続ける。


「クロトが魔王なのは解ったんだけどさ。それで何か問題あるの?」

「・・・え?」

「いや、それ思い出して逃げたって事は、そこに不都合があったのかなって」

「・・・だ、だって、僕、人間じゃ無いし、お母さん達が消さなきゃいけない物だし」

「クロトはクロトでしょ。別に出て来てからこっち、暴れて人に迷惑かけて回ったわけじゃないし。別に良いんじゃない?」


そんな誰も覚えてない大昔の事なんて、気にしてどうするのよ。そのころから生きてる奴なんていないでしょ。老竜だって知らないっぽいのに。

クロトはクロトなんだから、別に何も悪くないでしょ。

そう思って言ったのだが、クロトは珍しくポカーンとしている。あれー?


「・・・くっくっく。確かにそーだ。クロトはクロトだな」

「あははっ、そうだねー」


何故か心底楽しそうに笑い出すイナイとシガル。何がそんなにツボにはまったのだ。


「・・・でも僕が原因なんだ」

「原因?」


何の話だろう。それも昔の話かな?


「・・・魔人が出来た原因は、僕。僕が居るから、魔人は生まれた」

「なに!?」


クロトの言葉に笑いが止まるイナイ。流石にこれは俺も驚かざるを得ない。

魔人を作ったのがクロト?


「クロト、魔人はどうやって出来るんだ」


イナイは真剣な声でクロトに問う。

イナイ達にとっては一番肝心な所だろう。


「・・・ごめんなさい、それは、解らない。けど、僕が居るから、魔人が出来た。それは本当。だから怖かった。魔人を消してるお母さん達にとって、一番、真っ先に消さなきゃいけないのは僕だから」


ふむ、つまり大昔のクロトは魔人を作り出してて、その魔人が現代に出てきた連中だと。

でも今のクロトには作り方が解らないと。

んー、条件が解らないのは不安だけど、作らなきゃ良いだけだし、良いんじゃね?


「・・・ねえ、イナイ」

「なんだ?」

「現状、特に問題ないよね?」

「・・・そうだな、問題は、まあ、ないな」


俺の言葉に、『有るけど無い』と答えてくれたイナイ。解ってるさ。流石にそこまで能天気じゃない。

クロトの力は、そういう人外を作る事が出来るという事だ。それ自体は大問題だ。

けど、クロトなら大丈夫だろう。クロトがそんな事するとは思えない。


「クロトが覚えてることは、それで全部?」

「・・・うん、後は、僕を復活させるために、遺跡を作ったって事ぐらい」

「あー、あの遺跡クロトの復活の為に作ったのか」

「クロト、遺跡の数とかは解るか?」

「・・・ごめんなさい。僕完全に消える寸前だったから、解らない」

「そっか。気にすんな。謝るこたねえよ」


イナイは背もたれに体を預け、はあとため息を吐く。

そしてクロトの頭を撫でた。


「事情は解ったよ。けどあんま心配させんな。今度はちゃんと言えよ」

「・・・うん、ありがとう、お母さん」


イナイの優しい声に、満面の笑みを見せるクロト。

とりあえず、一件落着かな。まあ、完全に落着とはいって無いんだと思うけど。

結局魔人の総数とか、遺跡の場所とか、そんなのは解ってないもんね。


しかしそうか、ハクと仲が悪かった理由が何となく分かったわ。

クロトは自分を殺した奴と重ねてて、ハクは本能的な物で敵対してた相手と感じてたんじゃないかな。


魔人を作り出した魔王か。まさしく魔王だなぁ。

クロトがそうなるとは思えない。穏やかないい子だし。

でもまあ、もしそうなったら。保護者として覚悟はしておかないとな。

やりたくは、ないけど、な。

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