第393話騎士さんにご迷惑をかけました!

「すみません、ご迷惑をおかけしました」


クロトを抱えながら、騎士さんに頭を下げる。

俺がクロトを探すために街を飛び回っている間、イナイが騎士さん達にクロトの捜索を頼んでいたらしい。

ただ、大っぴらに捜索は出来なかったため、現状動かして不自然のない人数だけとの事だった。それでも、人手が増えるのは助かった。そのおかげで俺は此処にいる。


「いえいえ、連絡では逆方向に行かれていたと思うのですが」


あ、イナイに現在位置伝えたのも伝わってるのか。

俺は騎士さんの言う通り、完全逆方向を走っていた。見つけるって息巻いて走り回ってたのに、恥ずかしいわ。

俺自身は騎士さんがクロトを発見したっていう報告をイナイから聞いて、傍にハクが居るってのも教えられたから、急いで此処に転移してきた。

ハクが居なかったら探すの面倒だったな。かなり良い目印だった。


「イナイから連絡を受けて、ハクが一緒だと聞いたので。すぐ見つけられました」

「・・・流石ですね」


騎士さんは俺の発言に何とも言えない表情をする。何でですか。


「とりあえず、今は時期も時期です。通報があった以上その場で解放は出来ませんので、皆さんにはご同行お願いします」


通報?

ああ、イナイの話は通報扱いなのか。そりゃそうか。捜索願の類だよな。

しかし凄いよなー。この国はこういう所きっちりしてる。

あと基本的に騎士さんとか兵士さんが優しい。


「えっと、俺もついて行っていいんですか?」

「むしろついて来て頂ける方がありがたいですね」


ほむ、ついてった方が良いのか。じゃあこのままクロトおいてく訳にもいかないし、ついて行こうかな。

ハクも多分いかないと駄目なんだろう。

そこで俺は初めて、ハクの状態を確認した。


「・・・ハク、なんでそんなにボロボロなんだ?」


ハクの服がもはやぼろきれ状態だ。なんだその状態。尻尾に引っ掛けるところがあるから良いけど、股がギリギリしか隠れてねーじゃねーか。

上も胸部分しか残ってないからよく解らんタンクトップみたいになってるし。

よく見たらクロトもボロボロだ。え、何してんのこの子ら。もしかしてここまで来て喧嘩してたの?


『また負けたからだ』


ハクは頬を膨らませながら言うが、そういう話じゃなくてね?

ハクさん、クロトを探しに行ったんじゃないの?何してんの?

なんか、嫌な予感がしてきた。もしかして通報ってイナイじゃなくて、この二人が暴れた事による一般人の通報では。


「あー、あのー、すいません、ちょっといいですか?」

「あ、はい、どうされました?」


何やらお仲間と連絡を取っている騎士さんにおずおずと尋ねようとする。スマイルが眩しい。

聞くのやだなー。


「あのー、もしかして通報って、イナイからの捜索願いとかじゃなくて、一般の方の通報だったりします?」

「ええ。お聞きになられていないのですか?」


大当たり―!当たりたくなかったー!マジかよ、何やったんだよ!


「あ、あの、怪我人とか、器物破損とか、そういうのは」


予想が当たって、慌てて騎士さんに問う。

クロト達が暴れたってなると、被害は半端な物じゃない筈だ。

何したんだ二人とも。頼むから怪我人は出してないでくれよ。


「あー、器物に関してはお気になさらず。怪我人も出ておりません。

王都内部でかなり力を持った人間が子供を襲っていたと、偶々彼を見つけたらしい方からの通報がありまして。それもあって彼らを見つける事が出来ました」


ああ、なるほど。二人が暴れているのを見て、ハクが襲ってると思ったと。

クロトは見た目は子供だもんな。襲われてると思っても仕方ないか。

あー、良かった。怪我人とか、何か壊したとかなくて。


「お二方が本格的に暴れたのが町の外に出てからで良かった。もしこれが街中なら大惨事です」

「あー・・・」


騎士さんに倣って同じ方向を向き、周囲を観察する。

さっきまでクロトが心配だったし、焦ってたから全然見てなかったけど、怪獣大戦争状態である。

なんか地面にデカいクレーターがいくつも有る。前に二人が戦った時を思い出す光景だ。

あとこの細かい穴が大量に空いてるのなんだ。何やったんだこれ。


「その、えっと、すみません」

「いえいえ、先程も言いましたが実際怪我人も何もありませんから、お二人が合意の上でなら問題ありませんよ。

王都内や、畑をこの状態にされていたら流石にそんな事は言えませんでしたが」


とりあえず日本人的思考。頭を下げる。

だが騎士さんは笑って済ませてくれた。本当にここが街中じゃなくてよかった。街中だったら騎士さん達の対応も怖かったんだろうなぁ。

しかしこの国には、決闘罪的な物は無いんだな。同意の上なら良いのか。勿論周りに迷惑かけない前提だろうけど。

そういえば道場でも当たり前にやってみますかって聞かれたもんな。


「では皆さん、馬に乗ってください。二人乗りになるので少々乗りにくいとは思いますが」


一緒に帰るために馬に乗るように行って来る騎士さん。

でも、それには一つ問題が有るのです。ハクさんが乗れないのです。


「お、おおお!?」


ハクが近づいた馬に乗っていた騎士さんが、怯えて暴れる馬に振り落とされそうになる。

だが流石騎士という所だろうか、上手くバランスを取って、どうにか大人しくさせていた。おー、すげー。


『うーん』


ハクがぐるっと周囲を見渡すと、全ての馬が一瞬びくっとした。うん、これはダメだわ。

ハクが乗れるあの馬って、やっぱり珍しいんだなー。


「ハクは、馬が怖がって乗れないんですよ」

「なるほど、それは困りましたね・・・」


俺の言葉に、困った顔をする騎士さん。ここで歩いて下さいと言わない所に優しさを感じる。

クロトが一緒だから転移で帰るわけにもいかないし、どうしたもんかな。

・・・まあ、歩くしかないか。


「俺達は歩きますよ」

「ですがそれでは、王都に戻るまでかなりの距離を歩くことになりますよ」


うんまあ、それは解ってるけど。お馬さんでかっ飛ばして帰ろうってわざわざ言う距離だし。

でもクロトがまだ離れる様子が無いし、ハクを乗せれない。なら歩くしかない。


「ちょっとだけ用意するので待ってください」

「は、はあ」


騎士さんに告げてから身体強化をかける。クロトを抱きしめてる時は魔術がうまく使えないのが解ってるから、失敗しないように集中して使う。

馬についてくためだから、一瞬の速さより長時間動ける位強化しないとな。

前に抱えてた時気が付かなかったのは、クロトがそこまで必死に抱き付いてなかったせいなのかねー。長時間抱えてることも無かったし。


「よし、こんなもんかな」


強化魔術をかけ終わり、クロトを抱きしめても何も問題ない事を確かめる。

ハクさんは飽き始めたのか欠伸をしてらっしゃる。あなたが暴れたからこんな事になってるの解っておられます?


ん、なんか若い騎士さんが、ハクをちらちら見ては視線をそらして赤くなっておられる。今のハクの格好かなり煽情的だからなー。

止めた方が良いですよ。そいつ扱い大変な竜ですよ。


「準備できました、行きましょうか。ハクも良いよな?」

『んー、ついてけば良いのー?』

「話聞いてなかったのか・・・」

『うん!』


元気よく返事されても困る。こいつ聞いてるときは聞いてるのに、聞いてない時とことん聞いて無いな。

まあいいや、今更だし。ただ後で、何で暴れたのかは問い詰めよ。


「本当によろしいのですか?」

「ええ、普通に歩くと日が昇っちゃいますし。それだと皆さんにご迷惑が掛かってしまいますから」

「私どもは仕事ですので構わないのですが・・・」

『んー、いかないのかー?』


ハクがいつの間にか低空を飛びながらこちらに尋ねて来た。飛んだ方が楽なのかな。

そういえば以前にも無音の低空飛行とかしてたっけ。


「そ、そういえばハク様は飛べるのでしたね」

「あれ、ハクの事も知ってるんですか?」


この騎士さんも飛行船にいた人なんだろうか。流石に全員は覚えてないから解んない。

少なくとも初めて会う人だと思う。向こうは完全に俺知ってる対応だけど。


「ええ、存じています。とはいえ実際にその力を見たのは初めてです。私は人づてに聞いただけですので」

「なるほど」


てことは飛行船には居なかった人なんだな。

ハクはあの竜の羽が有るから特徴分かりやすいし、判断簡単なんだろう。イナイの知識の限りでは、ハクと似たような人間は居ないらしいし。


「じゃあ、行きましょうか」

「本当によろしいんですね?」

『大丈夫大丈夫。タロウなら平気』


俺が行こうというと、最終確認をしてくる騎士さん。

何でハクさんが答えてるんですかね。別に良いけど。俺もそれに頷くと、騎士さんは少し心配そうな顔をしながら馬を走らせる。

良い人だなー、この人。

俺はその馬に並走するように走る。うん、これぐらいなら楽勝楽勝。


「大丈夫ですか?その速度で王都まで行けますか?」

「これぐらいなら平気ですよ。もっと早くても問題ないです」


心配そうに聞いてくる騎士さんに、あえて明るく応える。実際問題ない。

強化してる状態ならこの程度の速度、1日でも走れる。やりたくはないけど。


「本当に、聞いた通りですね・・・」


騎士さんはそう呟いて以降、俺に尋ねることなく王都まで馬を走らせた。誰に何聞いたんだろ。

ハクは後ろから飛んでついて来ている。こっちも余裕の表情だ。

クロトはまだ若干泣いてる。まあ暫くはこのままでいいよな。クロトの頭を撫でながら、なるべく揺らさないように走るの大変だけど。


「帰ったら、イナイに一緒に謝ってあげるからね」

「・・・うん」


頭を撫でながら言うと、コクコクト頷くクロト。泣き止んではいないけど、少しは落ち着いたみたいだ。

王都に着くころには、落ち着くかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る