第388話蘇ったクロトの記憶ですか?
いつもなら、何も解らない。
僕の記憶は、出て来ては消え、出て来ては消え、残らないから何も意味がない。
そう思ってた。
けど、この記憶は消えなかった。しっかりと、頭の中に残っている。
詳細は解らない。前後の状況も良く解らない。けど確かに、その瞬間の記憶が、感情が残っている。
あの時、あの二人が手を取り合ったのを見た時、蘇ってきた記憶と感情。
視界に広がる死体。何人もの、何体もの死体。
時代も、理由も解らない。けど、知ってる。覚えてる。
この死体は僕が作った物だと。僕の手で積み上げた死体だと。
目に移る全てが敵だった。全てが殺す対象だった。全てが破壊の対象だった。ただ、破壊するだけが自分の在り方だった。
大人も子供も人間も動物も魔物も関係ない。全ての命を悉く刈り取っていた。
壊したくて、壊したくて仕方なかった。自分という存在を生み出した物が許せなかった。
そしてそれが、当たり前に行使できると、そう思っていた。
あいつらさえ、居なければ。
『・・・貴方には同情するわ。私と貴方は逆だったかもしれないのだから』
「俺はしねえぞ。こいつがどこまで好き勝手やってくれたと思ってんだ。今度は・・・逃がさねぇ」
恐怖。明確な恐怖。目の前の存在が自分を殺しうるという確信と恐怖が体を駆け巡った。
自分と相反する存在として居る女と、人を救う英雄として戦うあの男。
あの二人は、あの二人が揃えば、俺を殺しうると
その予感は間違っていなかった。あいつは、あの女は打倒しえた。だがその隙を狙う様に、あの男に殺された。
あの女は最初から、相打ちのつもりであの場にやってきたんだ。今度は逃がさないようにと。
自らの死と引き換えに、俺に死を持ってきた。
『ふざ・・けるな・・!お前たちが!奴らが願ったのだろう!俺の存在を!この虐殺を!
殺す!壊す!貴様らなど、全て壊してくれる!!絶対に!絶対にだ!!』
段々と、その存在が霞んでいく感覚を覚えながら、奴らに呪いを叫ぶ。
動かぬ体を無理矢理起こして、奴らを睨み、呪詛を吐く。
戦う力などもう無い。あの男の力で致命傷を受けた体は、もはや再生しない。ただ、叫ぶしか出来ない。
「知らねえな。俺はてめえに何も望んでねえよ。
こっちだって大事なもん、いくつも失ってんだ。てめえだけが恨んでると思うな。こいつだって、失っちまったんだ」
男は女を、死んだ竜を抱えて俺に言い放った。俺の存在を恨んでいると。
そんな物知った事か。俺は、俺は最初から、これしか出来ないんだ。これしか出来ないように生まれたんだ。
恨みを込めた目で男を睨むが、男はもはやこちらに目を向けることなく去って行く。
だが途中で歩みを止め、こちらに声をかけて来た。
「お前のお仲間・・・まあ、仲間なんて思っちゃいねーだろうが、連中の全滅も時間の問題だろうぜ」
「知らん。俺の力の欠片が混ざった出来損ない共の事などどうでも良い」
「あっそ。じゃあお前はそこで一人寂しく消えて行け」
男は今度こそ、こちらを振り返らずに去って行く。その姿を、自身の存在が感じられなくなるまで睨み続けた。
「フドゥナドル様!居たぞ!ここに居られた!」
「おお、残っておられたか!」
「だが、どうする。我らも数が少ない。何より我らではあの男には勝てん」
「フドゥナドル様もこのままでは消えてしまう。このような欠片しか残っていないのでは、自力での再生はもはや不可能だろう」
「奴の力を持ってすれば、この方ですらこうなるのか」
「ならばしばし眠ろう。我らは眠り、力をこの方に返そうぞ」
「ああ、連中に気がつかれぬよう、地下に、地下深くに作るぞ。この方の力を取り戻すための場を」
もはや意識など無い。ただそこに有った事による記録の蓄積が、そんな会話の記憶を残している。
欠片の記憶。俺の、僕の記憶が。
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