第387話クロトが暗いです!

あの後、イナイが少し事情話に行って、途中で抜ける形で船から降りて、自室に戻った。

クロトも震えが止まり、安心した・・・んだけど。


「クロトはなんて?」

「いや、それがさっきから何聞いても何でもないって言うんだ」

「何でもないって表情じゃないと思うよ、あれ」


イナイの問いに、声を潜めて答える。台所に3人はちょっと狭いな。

クロトは部屋の方で、物凄い暗い表情でテーブルを見つめている。

今まで、あそこまで暗い表情をしているクロトを見た事が無い。というか、クロトは基本表情変化が少ないから、暗い顔をずっとしているのが珍しい。


「やっぱりそうだよね、あれ」

「船での事なのかな。それ以外でクロト君があんな顔する事ないと思うし」

「たぶんそうだろうな」


それまでは、クロトはリンさんを怖がる程度で、特におかしな様子はなかった。

明らかに、ギーナさんの事が有ってからだ。

リンさんの時と同じで、怖がったのを落ち込んでるのかなと思ったんだけど、クロトは何も答えてくれない。


「そういえば、クロトはなんか変な事言ってたな」

「あー、なんか、二人もとか、あの時は一人とか言ってたっけか?」

「どういう意味なんだろうか、あれ」


二人ともあの時のクロトの言葉は聞いていたみたいだ。でも、聞いてもクロトは解らないんじゃないかなぁ。今までだってそうだったし。

いつも悉く、本人も分かっていない。


「とりあえず、理由は言いたくないみたいだな」

「そだね。でも、暫く傍に居てあげようと思う」

「それが良いと思う。お姉ちゃんやあたしの傍より、タロウさんの傍が一番安心するみたいだし」


とりあえず解決策は見えないが、クロトの理由は無理に聞かずに傍にいてあげる事で決定。

本人もいろいろ思う所だってあるだろう。言いたくなった時に言い出すさという感じで。


「という訳で、ほい」


イナイさんが出したるは、多種多様の甘味類。


「あいつ、意外と甘い物好きだぞ。出すと黙々食ってる」

「それは俺も最近気が付いてた。食事はそうでもないけど、菓子類は中々手が止まらない」

「あ、やっぱりあれ、好きで食べてたんだよね。表情変わらないからなぁ、クロト君」


保護者三人で子供のご機嫌を取る為、相談を重ねた結果がこれってのもなんか安直だ。まあ、分かりやすくて良いか。

イナイはクロトの面倒を見てる機会が多かったから、この辺確信が有ったんだろうな。


「安直な気もするけど、良いかも」

「理由がわからねーんだから仕方ねーだろ。外で暴れるタイプでもねーし」

「普段から静かだもんね、クロト君」


という訳で、俺はとりあえず甘味類をもってテーブルに戻る。

二人はお茶の用意だ。


「クロト、お菓子食べよっか」

「・・・うん、ありがとう、お父さん」


声をかけると、こちらに目を向けて礼を言うクロト。だがその表情は晴れない。

でも、手を伸ばしたし。もちゃもちゃ食べてる。食欲が有るなら、まだマシかな?


「もうちょっとしたら、イナイ達がお茶も入れてくれるから」

「・・・うん」


黙々と、でもゆっくりと食べるクロト。視線は段々と、テーブルに戻っていく。

この子はいつも前を向いているし、俺達を見ている。その視線が、今は一切上がらない。

いや、声をかければ上がるが、一時的だ。


「疲れたねー、クロト」

「・・・うん」

「やりなれない事すると大変だ。明日はのんびりしようね」

「・・・うん」


俺の言葉にはちゃんと返事をするクロト。うーん、あんまり話しかけない方が良いのかなぁ。

それともとりあえず声かけた方がいいかなぁ。うーん、解らぬ。

ん、お茶が出来たみたいだ。イナイ達もこっちに来た。


「ほい、クロト。お茶だ」


イナイが入れて来たお茶をクロトの前に置く。その顔はとても優し気だ。


「・・・ありがとう、お母さん」

「あいよ」


イナイは軽く返事をしてクロトの横に座って、クロトの頭を撫でる。

そこでクロトは、らしくない反応をした。一瞬、怯えるように震えた。イナイの手にだ。

イナイもすぐに気が付いた様子だったが、あえてそのまま撫で続けた。

一瞬だったけど、イナイの手を怖がったってのは異常だ。本当にどうしたんだクロト。


でも、理由はさっき何度も聞いた。それでも答えてくれなかった。ただ、それだけだと気が付けなかった。

イナイのおかげで本当に様子が、本格的におかしい事に気が付けた。



クロト、心配だよ。本当に何が有ったんだ。

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