第380話とりあえず休憩です!
「うへぇ、大変そう」
俺達のいるホールに一番最初に入って来て、奥の席に座ったブルベさん達4人。後ろにミルカさんとアロネスさん。後、騎士が数人立っている。
王の護衛としては少ないかもしれないが、ぶっちゃけあの二人突破できるわけもない。
そして休む暇なく、お客さん達から祝いの言葉なのか、ごますりなのか解らない感じの挨拶が続いている。
セルエスさんはいつも通りだけど、リンさんの口元ひきつって見えるのは気のせいかね。
アロネスさんはいつもの雰囲気が完全になりを潜めてる。いつもああなら、ただのイケメンなのにあの人。
「大国の王族です。致し方ないでしょう。自身の力を見せる意味でも」
トレドナもその光景を見ながら静かに言う。
ただ、若干同情の気配が有る。こいつもああいうの面倒そうなタイプだもんな。
「そんなもん?」
「そんな物です。よく考えて下さい。これだけの人数を容易く招き入れる事が出来るんですよ。彼らは只の一般人ではない。王侯貴族です。
国外はともかく、国内の交通の安全確保、貴族達に出せる食材、寝泊まりの場。そしてそれを可能とする人材と資源。どれもが並では有りません。
そして、それをまざまざと見せつけられた国にすれば、たまった物では無いでしょうね」
ニヤッと笑いながら言うトレドナ。その視線はブルベさん達よりも、周囲の貴族連中に向いてる気がする。
トレドナはそういうの無いのかね。
あー、そういえばトレドナの国は、ウムルにとっては大恩のある国だっけ。
ブルベさん達はそういうの忘れる口じゃないだろうし、他とは接し方も違うんだろうな。
「正しくその通りですね。この国に来て、痛感致しました。この国は全てが規格外です」
クエル王女も静かにお茶を飲みながら言う。
なるほど、やっぱりこの国ってどの国から見ても凄いのか。
「根本的にこの国は、一般人の生活水準が高い」
「ええ、街の市民の生活が、下手な国の貴族と同じような物。そしてそれが当たり前な国。それだけでも媚びを売るには十分な理由になるでしょう」
王族二人が意気投合して会話しておられる。何となく疎外感。でもまあ、確かにそうなのかもしれない。
資源、人材、資金、土地、技術、この国には全てが揃ってる。
そして、だからこそ、あの樹海での生活にもかかわらず、俺は日本での生活とほぼ違和感なく生活出来たんだし。
「大体内陸に新鮮な魚介類を当たり前に運べる環境っていうのがおかしい」
「転移魔術の使い手を多く保有しているからではなく、魔術師ではない人間でも出来ますからねこの国」
「ここから海まで、どれだけ有ると思っているのか」
「私の国では、川魚以外の鮮魚が出回っているのを見た事が有りませんよ」
なんだろう、若干愚痴くさいのは気のせいでしょうか。お二人さん、なんか段々話がずれてない?
しかし、何か知らんが意気投合してるなこの二人。
「ウムルはお姉ちゃんの作った転移装置の存在が大きいですからね」
シガルがその会話に参加し始めた!
やばい、本格的に置いてかれるぞこれ!
「ステル様の偉業は、本当に称えられるべきですよね。あの方が居なければ、生活水準はこの国のみならず、他国もまだかなり低いままでしょう」
「我が国はその恩恵を大きく受けているからな、有りがたく思うよ」
「お姉ちゃんはあんまりそういうの考えてないみたいですけどね」
あ、だめだ、完全に会話に置いてかれるパターンっすわ。
良いもん、俺はクロトでも構っておくもん。
ハクさんは一通り食べたら満足したのが、座ったままおねむモードです。
寝るなよ、頼むから。
「さて、そろそろ頃合いですね。私もご挨拶に行ってきます。殿下はよろしいので?」
クエル王女が様子を見つつ立ち上がり、トレドナに問う。
「私は式の前に挨拶をする機会があってな。父上は立場上行かざるを得ないが、私は陛下の負担を増やすだけになるので遠慮しておく」
「そうですか、では行ってまいります」
そう言って、クエル王女は護衛を連れてブルベさん達の所へ歩いて行った。
俺は手を振って見送りながら、その光景を眺めていた。
「なんつーか、貴族ってやっぱり大変だなぁ」
「慣れですよ、結局は。その世界に生きていれば、必然と身につくものです。貴族に限らずどの世界でも同じ事ですよ」
「でも背負ってる物の大きさが違うだろ。ここに居る人間は、下手を打てない人間しか居ない。そうだろ?」
「確かに、それはそうですね」
ここに居るのは王侯貴族。それを考えれば、彼らが背負ってるのは国だ。そして国民だ。
大国を敵に回さないよう、媚びを売ってでも上手く立ちまわるしかない。失敗は身の破滅どころの話じゃないんだから。
そんな重荷を背負っているのが、あそこにいる人達だ。
それを考えれば、ブルベさん達も大変だが、あそこにいるほとんどの人間が大変だろう。
内心冷や汗かきながら接してる人間だって居るかもしれない。
そういう重荷を、俺は背負える覚悟は無い。だからこそ、皆大変だなと思う。
俺は、あんな物、背負えない。
「タロウさん」
シガルの声で、呆けていた自分に気が付く。
ポヘタでの出来事を、あの時の想いと地獄を思い出していた事で、自分の中に入り込み過ぎてた。
「大丈夫?」
柔らかく笑いながら、シガルが問いかけて来る。クロトも心なし心配気だ。
トレドナは少し不思議そうにこちらを見ていた。
「あー、うん。ごめん、大丈夫」
シガルとクロトの頭を撫でて、大丈夫だと答える。
流石にいつまでも引きずりっぱなしじゃ、話にならないからね。
「聞かない方がよろしいですか?」
少し悩みつつも、トレドナは疑問を口にする。
「あー、うん。あんまり楽しくない事思い出してたんだ」
「なるほど、ではお聞きしません」
「ありがと」
トレドナはそれ以上突っ込んでこなかった。
その心遣いが、有りがたい。
暫くしてクエル王女が戻って来て、全員の挨拶が済んだのかブルベさん達も移動を始める。
すると騎士や従者の人達の案内で、夜会まで出入りの自由を伝えられる。
なるほど、ブルベさん達が去ったら出てっても良いのか。
「結局イナイは戻ってこなかったね」
「うーん、飛行技工船への移動が有るし、お姉ちゃんはそっちに行ってるのかもしれないね」
「かもしれない。少なくともホール近くには居ないんだよなぁ」
てっきりブルベさん達が戻って来るまでには戻ると思ってたんだけどな。仕事が長引いてるのかね。
よく考えたらイナイさん技工士の頭だもんな。今までの長期休暇が本当はおかしいのか?
聞いても気にすんなって絶対言うよな、イナイは。
「とりあえず、俺はここ離れようと思ってるけど、みんなはどうする?」
「あたしはタロウさんについてくよ」
「・・・ぼくも」
『私、寝たい』
どうやらハクさんが完全におねむの様です。お前食ったら寝るって、本能に従い過ぎじゃないですかね。
まあ、ハクだししょうがないか。
「じゃあ、とりあえず俺達は自室に戻ろうか。トレドナとクエル殿下はど―――」
「クエルで、お願い致します」
物凄い食い気味に訂正された。
場が場だからちゃんとしたほうが良いかなって思ったんだけどな。
「ええと、うん。クエルは、どうするの?」
「そうですね、では、私も自室に戻ろうかと」
クエル王女、じゃなくてクエルも自室に戻る、と。
「トレドナは?」
「私は途中までついて行きましょう」
チラリと、目だけで周囲を見ながら言うトレドナ。
なるほど、虫よけしてくれるって訳か。
助かるっちゃ助かるんだけど、こいつも大変じゃないのかね。
「助かるけど、あんまり気にしすぎなくていいんだぞ?」
「いえ、その言葉が聞ければ十分です」
「そーかい」
本当に、何処までこいつは俺に心酔してんだか。
俺について来たって、何も出ないよ?
ふとシガルを見ると、ガラバウとお話しておられませう。邪魔して良いかな。
ガラバウの顔が物凄いムカつくから、邪魔して良いかな。
いやいや、いかんいかん。流石にそれは格好悪いだろう。でもやっぱなんかムカつく。
「じゃあ、気を付けてね」
「おう、そっちこそな。無茶すんなよ」
「あなたに言われたくないですー」
「はっ」
お話は終わったようです。でもなんか物凄いもやっとします。
やっぱあいつ絶対シガルの事好きだろ!。
でも認めねえ!他の誰を認めてもあいつだけは認めねえ!
「タロウさん・・・」
あ、シガルさんに思考読まれたっぽい。若干呆れられてる。
でも無理なんです。なんかあいつだけはこうなるんです。許して。
「じゃあな、ガラバウ」
「はっ、くたばれ」
シガルを抱き寄せて言うと、明らかに不愉快そうな面で返しやがった。つーか挨拶ですらねえ。
「二人とも、仲が良いんだから」
シガルさんが珍しく見当違いな事を言って、ため息を吐いています。
これと仲がいいとか、絶対ヤダわ。
「じゃあ、また後で」
「はい。皆様、また後で」
クエルに手を振って、ホールを出る。クエルはそんな俺達を動かずに見送った。
ホールを出る寸前、クエルが囲まれ始めた気がしたんだが。大丈夫かな。
「大丈夫ですよ。彼女は解っていてあの場に留まったのです。私があなたについて行き、彼女があの場に留まる。
そうすればあなたに纏わりつく人間は、ほぼゼロになる」
何そのチームワーク。お前ら最近会ったばかりよね。
「・・・打合せしてたの?」
「いえ。ですが私が彼女なら、そうすると思ったまでです」
なんだろう、この人達。怖い。俺に対して献身的過ぎて怖い。
もうちょっと雑でも良いのよ?
・・・まあいいや、とりあえずハクが今にも寝そうだし、とっとと部屋に戻ろ。
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