第378話第二皇子の事情です!

「タロウ様。帝国の皇子があなたの事を探っていましたが、お会いになりましたか?」


唐突にトレドナが皇子の話を振ってきた。探ってたって、第二皇子のほうだよな。

一応あれからは城内出歩いてたんだけど、結局会わなかったんだよな。

式の際中もそれらしき人見かけてないし。例の厳つい皇帝も見てない。そこは何となくイナイの意思を感じるけど。


「あー、いや、俺は結局会って無いな」

「そうですか・・・」


俺の答えに何かを悩むそぶりを見せるトレドナ。

どしたのかね?


「あの男と貴方は相性が良いような気がしました。だからこそ、顔を合わせない方が良いとも」

「あー、なんかイナイも似たような事言ってたな」


気が合いそうだから、会わない方が良いとか。

でもなぁ、実際の所多少気が合ったって、そこまで考える程かなと思う。

例えその人物と気が合ったとしても、帝国軍に入る気は無い。

困ったときに手を貸すことは有っても、進軍に手を貸す気は一切ない。

まあ、そんな簡単じゃないと言われそうだけど、それでも俺はそれ位の感覚だ。


「でも、ちょっと気になってんだよな、どんな人間か」

「そうなんですか?」

「うん」


シガルの気を引くことのできる人間で、俺と気が合う可能性のある人物。

今は嫉妬とか、そういうのは抜きに興味がある。

自分自身、癖のある人間だという事は多少自覚している。出会いはタイミングとはいえ、こっちに来てからも、まともな男友達いないからな!


「・・・あの男はなんというか、本当に帝国で、皇族なのかと、悩む男でした」

「どういう事?」

「あの国は、貴族と平民の扱いの差が激しく、同じ貴族であっても上下関係は覆しようのない物です。

その中で皇の次と言っても良い皇子であるにも関わらず、あの男はその気配が薄い。

本来なら平民や、他国の者に気を遣うなど、考えにも至らないのが普通でしょうから」


ふむ、要は普通に良い人って事かね。

なんか、そんな国で生きていくには、生きにくそうな人だな。


「話を聞く限り、人の良さそうな感じがするけど」

「ええ、そう思いました。そしてそこに嘘が無いようにも。ただ引っかかるんです。まるで自分の在り方を見せつけているようで」

「見せつけるねぇ。そんな事して、なんか意味有るのかね」

「・・・有るには有るかと」


トレドナはそこでフェビエマさんに目を向ける。俺も同じように向けると、彼女は静かに頷いた。

なんだろ、言っちゃまずい事なのかね。

不思議に思っていると、トレドナは声のトーンを落として話し出した。


「おそらく第二皇子は、皇位争いに他国を巻き込む気です」

「は、なにそれ」

「今の皇帝はウムルを警戒して動きません。とはいえそれは、あくまでウムルに対してです。ウムルに属していない国、ウムルと友好を結んでいない国には未だ容赦なくその剣が振り下ろされている。あの国はそういう国です」


聞けば聞くほど、本当にやばい国だな。戦国時代の武将かよ。

完全に国盗り合戦状態じゃねーか。


「そしてあの国は自国で様々な事が解決できるだけの資源がある。だからこそ、そんな無茶をやってこれたわけですが。

そんな国が傍にある国にとって、第二皇子のような人間が皇位に就くことは、自国の安全を保障する事にもなる。何よりも、そんな強大な国に貸しを作れる。

先の通り資源は豊富ですからね。その辺りにも目をつけるでしょう」


なるほど、自国の安全と、利益のために手を貸すか。

まあ、なくはないと思うけど、そう簡単に行くかね。


「何よりも、扱いやすい。そう、思われるでしょうね」

「扱いやすい?」

「ええ、礼を忘れず、義理を通し、かつ平民への優しさも持つ。だがその優しさは、警戒心の無さでもある。何より、あの皇子は皇帝としてやっていけるだけの教養がない。そう思う人間も少なくないでしょう」

「教養が無い?またなんで。そんなに馬鹿そうな人間なのか?」


え、もしかして俺と気が合うってそういう事なの?泣くよ?

いや、大概間が抜けた事やってるけどさ。


「第二皇子は妾の子です。上と下は本妻ですが。そういった事から侮られる事も無くはないでしょう。特に、実際あの皇子の立ち振る舞いを見た人間はそう思ってもおかしくない。

ですが私は、どうにもそうは見えなかった。あれは、そんな生易しい物じゃない」


トレドナは一度口をつぐむと、笑顔が消え、眉間に皺を寄せながら口を開く。


「この式に来ている友好国でも、ただウムルが強大だから友好に接している国も多い。ウムルは敵対しなければ問題無い国と思われていますからね。

もし、帝国を上手く使える日が来ると見たならば、それこそ連中が手を貸し、ウムルにも要請を、などとたわけた事をする輩も出るでしょう」

「なるほどね。確かにイナイの言ってた通り面倒くさいわ」


この式すらも、皇子にとっては利用する場って事か。

むしろ王族貴族が多い分、自分を見せる格好の場か?


「しかし、なんでそこまで他国の力を必要としてんのかね」

「・・・たぶん、妾の子だからじゃないかな」


俺の疑問にシガルが答える。それにトレドナが頷き、続きを話し始める。


「シガル様の言う通り、自国に戦力が無い。いや、持ってはいるでしょうが、圧倒的に足りない。

金も、資源も、兵も、何もかもが足りない。なにせ周囲は彼が皇帝になるとは一切思っていない。むしろその存在を邪魔とすら思っている。

何かの手違いで、あの皇子が王位につくことが有っては、今まで従って来た相手への行為が無駄になる。

兄にとっても弟にとっても、その後ろを支える連中にとっても、ただの邪魔者です」

「なんだよそれ・・・」


ふざけんなよ。兄弟どころか、周囲全部かよ。

そんなのってないだろ。ただ母親が違うだけじゃねえか。

なんだよ、家族だろうが。なんで父親も何もしねえんだよ。


「胸糞わりぃ・・・!」

「ですが、王位争いでは、よくある事です」

「よくあるって、お前―――」


そこまで言って気が付いた。こいつだって王族だ。同じような目にあってるのかもしれない。

何よりもこの怒りをこいつにぶつけるのは間違ってる。これは、俺の個人的な怒りだ。こいつが悪い訳じゃない。

そう思っていると、トレドナがふっと笑う。


「気を遣って下さるのは有りがたく思いますが、私にはそのような事は有りませんよ。あくまで、よくある話、というだけです」

「あ、そうなのか。まあ、それならよかった」

「ええ。ですが、帝国となると話が違う。規模が大きすぎる。だからこそ手を貸す存在が出てくるでしょう。

とはいえまだまだ先の話です。皇帝がまだ若く、健在ですしね。皇帝自身が次の皇帝を指命することだって大いにあり得ますから。

まあ、どちらにせよ、はた迷惑な兄弟喧嘩は発生するでしょうけど」


最後は笑顔でしめるトレドナ。でもそれは、あくまでその親父さんが健在ならって事じゃないんだろうか。

もしその皇帝に何かが有れば、その時は、すぐにでもその戦いが始まるという事じゃないのか。

それにどちらにせよ喧嘩発生するって、皇帝指名する意味ないじゃねーか。

何なんだほんと、その国。


「あの人、優しそうな人だったけどな」


シガルが何かボソッと呟いたのが聞こえた。


「ん?」

「あ、ううん、なんでもない」

「良いよ、気にしなくて」

「・・・うん」


笑顔でシガルの言いたい事を言わせてあげる。今回は本当に笑顔の筈だ。

前回と違って、特に気にしてはいない。本当に吹っ切れてる。

気にしたって仕方ない。


「あの人、確かにちょっと違う雰囲気持ってたけど、優しい人だと思ったよ。あたしは」

「あの人って、シガル様は会った事が有るんですか?」

「うん、偶然。あたしには、悪い人には見えなかった」

「・・・そう、ですか」


トレドナは思案顔を見せるが、直ぐに笑顔に戻る。


「まあ、ここであれこれ考えていても仕方ない事です。あまり気にしない方が一番良いのかもしれません」

「なんだそりゃ」


さっきまで真剣に話してたのは何の為なんだよ。

・・・俺への説明の為か。すみません。

でも実際、考えたところでどうなる事でもないよな、こんな事。

そんな面倒くさい事に巻き添えになってまたるかっての。


「殿下、陛下が此方に」


フェビエマさんが他方を見ながらトレドナに声をかけ、トレドナは同じ方向に顔を向ける。

俺達も同じ方を向くと、髭を生やした優しげな雰囲気のおじさんが此方に歩いて来る。護衛らしき人達も多いから、あの人が親父さんかな。

けど、なかなか来ない。なんか途中で色んな人間が挨拶しとる。


「あの人が親父さん?」

「ええ、ここにたどり着くにはもう少しかかりそうですね」


俺の問いに、苦笑しながらトレドナが応える。

その言葉通り、辿り着くまでにご飯が普通に食べられた。

王様も大変だなぁ。移動も碌にできないとは。









「君がタロウ君か。よろしく」

「はい、よろしくお願いします」


今までの教訓から跪いた方が良いのかなと思い、椅子から立ち上がって跪こうとした。

けど途中で本人からやらなくていいといわれ、手をさし伸ばされた。

その手を取り、流石に頭だけは下げておく。


「愚息が世話になっていると聞く。迷惑はかけていないか?」

「いえ、何度か助けられたぐらいですよ」


実際ここでは世話になったからなぁ。あの時は助かった。

兄貴兄貴面倒くさいなぁとか思っちゃうことは少なくないけど。

あ、なんかトレドナが凄い嬉しそう。


「それならば良かった。君には感謝している。良ければこれからも愚息に良くしてやってくれ。もし使える事が有るなら使ってくれて構わんよ」

「えーと、まあ、はい」


なんて答えればいいんですかそれ。前半ともかく後半は解かりましたっていうのも、なんか言いにくいよ。

王子好きに使いまわすって、なんか字面も酷いよ。

おそらく俺は困った顔をしてたんだろう。王様はくっくっくと笑いだした。


「くくっ、すまんすまん。聞いていた通りの子だな。君の事情は知っている。つい最近だが、ウムル王から大体は聞いた」

「え、そうなんですか?」

「ああ、期待している子がいるとな。うちの馬鹿息子も中々見る目が有ったらしい」

「ち、父上ぇ」

「ええい、情けない声を出すな、気持ち悪い」


縋るトレドナを、虫を払うように扱うグブドゥロ王。なんかちょっと面白い。

でも周囲がめっちゃ注目してる中、それで良いのか二人とも。


「まあ、親が子の友人関係に出しゃばるとつまらん事は良く知っている。直ぐに去るとしよう。迷惑をかけるなよ、トレドナ」

「解っております、父上」


グブドゥロ王はその言葉通り、颯爽と去って・・・行けなかった。また捕まっとる。

気の良い感じの人だったな。


「あ、あんまり気にしないで下さいね。私は好きでやってるだけですから」

「あー、まあ、うん」


親子して答えにくい事言うの止めてくれません?

まあいいや。気にすんなって言ってるし気にしないでおこう。


しかしシガルはわざと話してないのは解るんだけど、クロトほんと静かだな。

ハクさんは特に興味なく、ずっと食っております。君の胃袋、マジどうなってんの?

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