第373話道場見学です!
二人の要望で道場の見学をお願いしたら、あっさりと許可を貰えた。
道場主曰く、国内に多く広まってはいるが、国外にはそうでもないので、興味を持ってもらえるなら歓迎しますとの事だった。
まあ、別に国内の人だから断るわけでは無いだろうが、もっと広まってほしいと思っての言動だと思う。
俺達は道場の端で、椅子に座って門下生の鍛錬を見学している。
男性の方は何かを考えるそぶりをしつつ、美人さんは至極真剣な顔で門下生を見ていた。
今いる門下生は、割とガチでやってる人達みたいで、動きは良い。
それに、基本が無手の武術だからと、無手だけの訓練をしているわけでは無い。
棒術や剣術等も、この武術では使用されていた。
それらの技術を知らず、ただ無手で挑むのは愚策、と。
あくまで無手で、それらに勝つための業として学んでいるようではある。
あれ、これってつまり、ミルカさんも剣術出来るって事だよな。一回も見た事ないけど。
時間帯が違うと、子供達が多かったり、軽いスポーツ感覚でやってる人が多い時も有るらしい。
その辺は、元いた世界と変わらないな。
まあ、憧れで入って来る子供達とかも居るだろうしなぁ。
暫く見学していると、道場主が指導を師範代に任せてこちらにやってきた。
「他国の方から見て、我らの武術は如何ですか?」
「ふむ、無手の道場と聞いていたから、無手相手を想定の武術と思っていたが、そうではないのだな」
道場主の言葉に、男性が応える。その言葉には、感心が見て取れる。
彼の言うとおり、予想外だったんだろう。
俺も実は予想外だった。だって、まともに見学するの初めてだもん。
「ええ。子供達や、少々嗜む程度の方々にはそうしていますが、彼らは本気で学んでいる者達なので。あくまで本来は、実戦武術ですから」
「そうですね。参考になります」
道場主は男性の言葉に笑顔で応え、美人さんは真剣に見つめながら応える。
軍人さんって言ってたし、やっぱりこういうの興味あるんだろうな。
「見たところ、御三方も何かやられておりますね?」
「ふむ、やはりわか・・・お三方?」
道場主の言葉に男性が答えようとして、何を言ってるんだという顔になる。
「ええ、御三方とも、足運びと言い、体軸の良さと言い、何かやられているとお見受けしましたが」
「・・・そうなのか、少年?」
「あー、ええ、まあ、多少」
特に隠す必要もない気はするけど、何となく曖昧に答えてしまう。
男性は何か不思議そうな顔だ。
「気が付いて無かったんですか?」
「お前、気が付いていたのか?」
「ええ。珍しいですね、貴方がそういう事に気が付かないのは」
「いや、そう、なのか。んー?」
美人さんの言葉に、男性は驚いている。
男性は俺を見つめて、物凄い不思議そうな顔をし始めた。何でだろう。
「もしよければ、お手合わせしていかれますか?」
「良いのか?」
「ええ、体験していただくのが一番かと思いますので。もちろん貴方方は得意の物で構いません」
「門下生に恥をかかせるかもしれんぞ」
「それも鍛錬です」
「はっ、なるほど、気に入った」
道場主の言葉に、歯を見せて獰猛そうな顔で笑う男性。
あれー、なんかさっきまでの良い笑顔と大分違う顔するなぁ。邪悪な顔だ。
隣の美人さんが、何やらため息を付いている。
「また、なってますよ」
「おっと。すまん」
声をかけられると、すっと、元の表情に戻る男性。
もしかして、あの顔しないように気を付けてるのかな?
「俺は剣を使うし、こいつは・・・」
「剣でいいですよ」
二人とも剣でやるみたいだ。でも、美人さんの今の発言からすると、剣以外が得意なのかな?
二人ともやる気の様だけど、なんか俺もカウントされてる気がするのは気のせいでしょうか。
「少年は何が得意なんだ?」
「あ、やっぱり俺もやるんですね」
「まあ、三人誘われたからな。嫌か?」
「別に嫌ってわけでは無いですけど」
「なら決まりだ」
わーい、決まっちゃったー。
俺こういうぐいぐい来る人相手の場合、めっちゃ流されるな。
まあ、別に嫌じゃないから良いんだけど。
「では、どなたからやられますか?」
「では少年、行って来るが良い」
「え、俺最初ですか」
「こういうのは後の人間の方が 敷居が高くなるぞ」
あー、うん、そういうのは確かに有るかも。
一応気を遣ってくれたって事なのかな。んじゃまあ、甘えますかね。
「では、お願いします」
「はい、解りました」
道場主は俺の言葉を聞くと、師範代に声をかける。師範代からの指示で道場の中央が開き、一人、若い男性が立っていた。
割とそこそこできるかなと思えた人だな、あの人。
ここで一番強そうだなーと思った大柄な男の人は、端っこで立ってる。
俺は相手の前まで歩いて行き、一礼をする。彼も笑顔で応えてくれた。
そしてお互いに構え、師範代が始めの合図をする。
俺はいつも通りの、半身の構えだ。対して相手は、割とオーソドックスな構えである。
まあ、基本の構えと言えば基本の構え。でも、綺麗な構えだ。ちゃんと鍛錬しているのが見て取れる。
「来ないんですか?」
「あー、じゃあ、行かせていただきます」
「はい、どうぞ」
じっと構え合っていると、来ないのかと言われてしまった。
返事をしたら、くすっと笑われ、他の門下生もクスクスと笑っている。ちょい恥ずかしい。
まあ、迎撃する気満々なのが見えてたから踏み込まなかったんだけど、しょうがないか。
とりあえず、身体強化は無しだ。自身が出来る最高率で直突きを撃つ。
すると、相手の表情が変わる。焦ったように俺の直突きを払い、それとほぼ同時に裏拳を放ってくる。
眼前に迫る拳を上体移動だけで躱し、そのまま懐に入る。思い切り踏み込みに力を籠め、両手の掌撃を胸にぶち込む。
綺麗に決まったので、衝撃はほぼ逃げていない。完全に入った。
「かっ・・・はっ・・・」
呼吸が出来なくなり、動きの止まった彼の顎を狙って掌を打ち上げ、彼の顎の手前で止める。
体が動かない彼は、信じられない物を見るような目でこちらを見ていた。
「そこまで!」
師範代の止めがそこで入ったので、構えを解いて礼をする。
彼も応えてはくれたが、表情は狐につままれたような表情だ。
「凄いな少年」
「ええ、驚きました」
二人の元に戻ると、二人とも驚いた顔でこちらを見ていた。
まあ、こういう事出来るようには見えないよねー。
「こいつが言う以上、そこそこできるとは思ったが、まさかあそこまでとは」
「流石に予想外でした。良い動きですね」
「ありがとうございます。でも、まだまだです」
褒められるのは嬉しいが、もっと上を知ってるからなぁ。
ミルカさんの動きには遠く及ばない。あの人ならもっと鮮やかだ。
「待ちな。もう一回だ」
「まて、何を言っている馬鹿者」
そう言われて振り返ると、さっき端の方で立っていた大柄な男がこちらを見つめていた。
師範代に止められているが、知ったこっちゃないって感じだ。
「道場主には、恥をかくのも鍛錬と聞いたが?」
男性が鋭い目で言うと、大柄な男は笑って答えた。
「その通りだ。別に仕返しをしてーってわけじゃねえ。単純に、相手してほしいだけさ。
さっきの動き見た限り、経験者だろ。それも相当だ。何でここに見学なんかしに来たのか知らねーが、わざわざ別の道場に来たんだ。まともな奴とやりたいだろ、お前だって」
そう言って、ぎらついた目で俺を見る男。その目は今にでもやろうと言っている。
やるのは別に良いけど、この人相手だと強化無しでは無理そうだなぁ。
「止めんか、失礼だぞ!」
「何で止めるんすか。自分より強い相手とやる絶好の機会っすよ?」
「・・・本気で言っているのか?」
「本気ですよ。あれ見てそう思えないなら、師範代なんてやめた方が良いっすよ」
「貴様・・・!」
うーん、なんか問題児っぽい。力が有り余ってるのかなぁ。
「いいですよ。やりましょうか」
「ですってよ、師範代」
俺がやるというと、男は嬉しそうに師範代に言うが、師範代は気に食わなそうに男を睨んでる。めっちゃ怖い。
実力どうこうとか関係なく、怖い。
師範代はため息を付いて少し離れると、男は構えた。やる気満々すぎる。
俺も構えようと男の方に歩いて行く。
「負けるなよ、少年」
「まあ、それなりに頑張ってきます」
「ああがんば――少年!」
男性の言葉に答えようと後ろを向くと、男は踏み込んで来た。こいつ後ろから殴る気だ。男性はそれを見て、言葉に一瞬つまり、叫ぶ。
まさかそんな事してくるとは思わなかったよ。まあ実戦武術謳ってるんだし、無い事は無いか。
でも、甘いわ。
「よっと」
「なっ!?」
仙術で強化をかけ、体をのけぞらせて男の拳を躱すと、男の驚きの顔が見える。
探知魔術は常展開してるので、近距離なら対処してない限り、視界内に入って無くても解る。
だいたいそうでなくても、踏み込み音で解るわい。不意打ちするならもっと静かに踏み込んで近づかないと、当たるわけねーだろ。
俺はがら空きの腹を、のけぞったままぶん殴る。
型も何もない、ただただ力を込めたボディーブローだ。
ちょっと打ち方を失敗したので、男の体が宙に浮いた。力逃げちった。
「っ・・・」
さっとその場からのくと、男はそのまま膝から崩れ落ちる。
腹を抑えて動けないようだ。おそらく、呼吸も辛いだろうな。
まあ、仙術強化状態で無防備な腹殴ったからなぁ。
不意打ちされたから、全然心痛まないけど。
「この恥知らずが!」
「待ってください」
師範代が鬼の形相で男に歩み寄って来るのを制する。
まだ終わってない。まだ、他人を入れさせるわけにはいかない。
師範代は俺の言葉に、一応止まってくれた。
「ぐ・・あ・・・」
「おい、続きだ、立て」
俺の言葉に、道場の中がざわつく。男性と美人さんも驚いている。
ま、驚かれるか。けど、俺はこのまま済ませる気は無い。
蹲る男に俺は続ける。
「俺はな、これでも一応この流派に尊敬と誇りを持ってる。これを叩き込んでくれた人を尊敬してる。
その人は、本当に実戦の中で生きてきた人だから、お前の不意打ちを卑怯なんて言う気もない」
ああそうだ。あの人は不意打ちを卑怯なんて言わない。絶対言わない。
あの人は根っからの武術家だから、そんな事に文句は言わない。
「けどな、何でもありでやるなら、意識が有るなら立て。指一本でも動くうちは何も終わってねーんだよ。
痛みで蹲ってる暇が有るならさっさと立て!!」
実戦というならば。試合ではなく、ルールがなく、勝負が決まるまでやるというならば。
それは、一歩間違えば殺し合いになる勝負。
こいつがやったのは、それだ。なら、俺は同じように返すだけだ。
同じ流派を収める身として。実戦を知っている身として。
「実戦ならお前がそうやって蹲ってる間に、もう死んでるぞ」
「う・・ぐぅ・・・」
男は俺の言葉に、フラフラになりながらも立ち上がる。
足がいう事をきいていないのが良く解るが、それでも構えて見せた。
なんか懐かしいなー。ミルカさんに似たような状態でぼこぼこにされたの思い出す。
「んじゃ、行くぞ」
宣言して、直突きを放つ。今度は強化した直突きだ。この速度なら、男が万全の状態でも止められないだろう。
仙術強化状態の全力直突きを男の眼前で止める。男は、それを成す術無く見ていた。
「どうするんだ?」
「・・・まいり・・・ました」
俺は男に問い、男は参ったという。だが、俺はそのまま男を見つめていた。男が構えを解かなかったからだ。
そして睨みあうことしばらく、男が構えを解いて、へたり込む。
「まいりました・・・!」
今度こそ、本気で参ったといった男の言葉に息を吐き、俺も構えを解く。
これに懲りたら、こういう事しないでくれると良いが。
「ありがとうございました」
礼をして、今度こそ二人の下へ戻る。すると二人とも、目を点にしてこちらを見ていた。
あちゃ、ちょっとやりすぎたかな?
「す、凄いな少年。今のは本気で驚いたぞ」
「・・・生半可な鍛錬じゃ、あの動きは出来ませんよ」
「あ、あはは」
流石に仙術強化は目立つかぁ。
いや、違うかな、俺がひょろっちいと思ってたのに、あれだけの事をやったからかな。
「一応武術もやってたので・・・」
「一応という範囲ではないぞ、あれは」
「ええ、それにあの反応。ただ武術を習ったからと言って出来る反応ではありません」
「あー、それに関しては師匠が物凄く厳しかったので。不意打ちとか普通にしてきましたし」
リンさんとか特にな!
ミルカさんも時々やって来るので、対処できないのが悪いとか言われて終わる。
結局それのおかげで助かってる訳だけど。
アロネスさんも時々ちょっかい出してきたしなー。
「お三方、特に少年には大変失礼をしました。申し訳ない」
「ああいえ、気にしてないですよ」
道場主が頭を下げて謝ってきたので、特に気にしてないと返す。
本当にあんまり気にしてない。
「お二方も、手合わせの件、申し訳ない」
「気にするな。あれではしょうがない」
「ええ、そうですねぇ」
あの後、門下生が皆しり込みしてしまった。
なので、師範と師範代がやろうとしたのだが、男性が断った。
流石に、師と呼ばれる者達と競う技量は持っておらん。勘弁して頂きたいと。
それが本音なのか、気を遣ったのかは解らないけど、それで手合わせは無くなった。
結局俺がやっただけじゃないっすか。
「いや、良い物を見れた」
「そうですねぇ」
でもなんか、二人は満足そうだ。なんでだ。
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