第369話シガルの様子がおかしいです!

「ただいま・・・」

『ただいまー!』

「お帰りー」

「・・・お帰りなさい」


シガルとハクが帰ってきたので、クロトと一緒に出迎える。

イナイは何やら、お仕事で呼ばれたらしくて、どこかに行った。

やっぱり城に居ると、なんだかんだ仕事頼まれるんだなぁ。


ハクは部屋に入ると、竜に戻ってベッドにダイブした。

なんかドレスが汚れてる気がするけど、多分暴れて来たんだろう。

ふと、シガルを見ると、なんだか様子がおかしい。何かを言いたそうに、でも何か迷っている感じがする。


「シガル、何かあった?」

「えっと、その・・・」


眉尻を下げて、上目使いでこちらを見上げているシガルに首を傾げる。可愛いと思ってはいけない空気だ。

どうしたんだろう。シガルが歯切れが悪いのは珍しいな。

内緒の時とかは内緒ってはっきり言うしな、この子。


「んー、言いにくいなら良いけど」

「・・・うん」


シガルは一層困った顔になった。あれー?

どうしたのシガルさん。何困ってるの?

ハクに助けを求めようとするが、奴は既にねていやがった。はえーよ。


「とりあえず、お茶でも用意するから」

「うん、ありがとう」


まったりお茶でもしながら待ってれば、整理もつくだろう。

シガルの反応から、問い詰めても困りそうな気がするし。


「・・・はい」

「お、ありがと」


クロトがお茶の葉を持って来てくれたので、礼を言ってお茶を入れに出る。

この部屋、普通にコンロが有るので楽だなー。

お湯を沸かしながら、茶の葉の量を図る。こんなもんかなー。


「あの、ね、タロウさん」


お湯が沸くのをぽけっと待っていると、シガルが後ろに来て喋り出した。

大丈夫なのかな?


「帝国の皇子の事、なんだけど」


それを聞いた瞬間、心が揺れるのが良く解った。

帝国皇子と聞いて、頭に浮かぶのは、あの男。あの、頭のおかしい末弟。

俺はシガルに振り向き、シガルの肩を掴む。


「どうしたの、あいつに何かされた?」


あの男、俺やトレドナじゃなくて、シガルを狙って来たのか。

性格悪いやつだとは思ったけど、こんな女の子狙うとか、性格悪いってレベルじゃないぞ。


「あ、ち、ちがうよ、あの人じゃなくて、第二皇子の方の話」


俺の変貌に、焦ったように答えるシガル。

ああ、あいつに何かされたとかじゃないのか。良かった。


「そ、そっか、ごめん」


謝りつつシガルから手を放すと、シガルに苦笑された。いやだって、心配するじゃん。


「第二皇子の話なら覚えてるけど、どうしたの?」

「さっき、その人に会ったんだ」

「・・・なんか有ったの?」

「・・・うん」


イナイは俺と気が合うんじゃないかと言っていた人物。けど、あの弟の兄。

そう考えると、いい方向に物事が進んだとは思えなかった。

でも、さっきの事も有るし、ちょっと落ち着いて聞こう。


「とりあえず、お湯沸いたし、お茶入れよう」

「うん」


シガルにカップを用意してもらい、俺はポットにお茶を作る。

シガルと俺とクロトの分を用意すると、ハクが起き上がってテーブルで待っていた。

しょうがないので俺の分をあげた。俺は邪道ではあるが、もう一回お湯注いで自分の分を入れる。なんか納得いかねぇ。

つーか、こいつ器用だな。竜の姿のままカップ持って飲んでる。


『うえー、苦い―』

「お前、なんで苦手なのにそのお茶飲むの?」

『だって、皆美味しそうなんだもん』

「・・・苦手なら無理して飲まなくても良いと思うけど」

『やだ!』


何だろうこの子。良く解らない。一人のけものが嫌なんだろうか。

別のお茶有るから、そっち入れてやるのに。まあいいか。


「えっと、ね」

「ん」


シガルがおずおずと喋り出したので、シガルの方に顔と意識を向ける。

さて、どんな話が来るのか。


「誘われたの。帝国に来ないかって。俺の下に来ないかって」

「げふっ、げほっ!」


驚いて鼻からお茶が出た。痛い。

むせていると、シガルが背中を撫でてくれた。

何とか呼吸を整え、佇まいを直す。


「えっと、それは、え?」


シガルに嫁にならないかって言って来たって事?

俺と気が合うってそういう事ですか。

何その気の合い方。要らない。


「ハクも、誘われたんだ」

『うん、なんか来ないかって言われたな』


なにそれ、ハーレムでも作る気かしらそいつ。

俺はそんなに手あたり次第手を出す人間じゃ無いぞ。


「一応断ったけど、その、顔覚えられちゃったと思う」

「ああ、なるほど」


つまり、俺が関わらないでおこうと思っていた人物に関わってしまったと。

それで何か、言いにくそうにしてたのか。


「名前も、名乗っちゃったし、その、ごめんなさい」

「いやいや、謝る必要は無いよ。偶然会ったんでしょ?」

「うん、ハクと訓練してたら、偶々」

『悪い奴じゃなさそうだったぞ』


ハクがそういうなら、警戒する必要は無いのかな?

多分だけど、シガルに良くしてくれたんじゃないだろうか。

まあ、嫁に来ないかっていう位だし、優しくはするか。


「ただ、あたしと一緒に居る所を見かけたら、話しかけて来るかも」

「んー、まあ、その時はしょうがないよ」


この事に関しては、俺とイナイの我儘みたいなものだし、シガルがそこまで気にする必要は無い。

むしろ気にさせてごめんという感じだ。


「まあ、向こうがどう出てくるかは解らないけど、その時はその時だよ」

「うん、ごめんね」

「いいって」


まだ謝るシガルの頭を撫でる。本当に気にする必要は無い。

でも、シガルの訓練を見て、来ないかって言ったのか。

中々豪気だなぁ。ハクとやってたって事は、相当な事やってたと思うんだけど。


「ううん、ごめんなさい。誘われた時、ちょっと嬉しかったの」

「え゛」


思わす、さび付いたロボットの様になってしまった。

えっと、それは、シガルにとっては、その皇子は良いと思える相手だったって事か。


「ふ、ふーん」

「・・・ごめんなさい」


動揺をまるで隠せない俺を見て、目に見えて落ち込んで謝るシガル。

何してんだ俺は、こんな顔させてどうする。


「シガルは、その人が良いと思ったの?」

「悪い人じゃないとは、思ったかな」

「そっか」


シガルの目でそう見えたなら、きっとそうなんだろうな。賢い子だし。

そっか、嬉しかった、か。


「シガルは、その人の所に行きたいと思う?」

「ううん、それは無いよ」


俺の目を見て、はっきりと答えるシガル。その目に嘘は無いと思う。


「なら、気にしないよ」

「・・・うん」


俺は今どういう顔をしているんだろう。シガルに気を遣わせたくないんだけどな。

しかし、シガルとハクに求婚する男か。

会う気は無かったけど、会いたくなってきたぞこの野郎。

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