第366話俺を見つけられないのですか?

「ふふふ、どこだ、何処にいる・・・もう逃がさんぞ・・・」

「・・・あのー、お願いですから怪しげな独り言呟くの止めてくれません?」


人が気分よくしている所に、冷静な突っ込みが相棒から入る。

無粋な事をする奴だ。やっと会えるかもしれんというのに、楽しみでは無いのか。


「結局見つからなかったんだっけ?」

「そうそう、人に色々おしつけといて結局見つからなかったんですよね」

「どうせただ単に旅満喫してただけじゃないのー?」

「ありそう」


後ろで部下共が口々に好き勝手ぬかしている。流石の俺もそこまで何も考え無しで遊んでいたわけでは無いぞ。

そもそも、そんなに気楽に行ける国に行ったつもりは無い。あの国なんだかんだ結構危険だぞ。

あの王女はなかなか曲者だったしな。


「貴様等、好き勝手言ってくれるが、連れて行っても良かったんだぞ?」


じろりと後に目を流しながら、声を低くして言う。


「お断りします」

「野宿って好きじゃないんですよねー」

「竜とか会いたくないです」

「美味しい物たべれない日が続くとか絶対嫌です」


これだ。こいつら本当に俺の部下かと、我ながら思う。

性格に難が有る連中ばかりだ。

それでも傍に置いている自分も、おかしいとは思うが。


「慕われてますねぇ」

「嫌味か」

「はい!」


相棒の言葉に不機嫌に返すと、満面の笑みで返事をしやがった。

前回の旅の仕返しのつもりか。まあ良いだろう、どこかで俺も仕返しをしてやる。


「んで、肝心のそいつは何時になったら見つかるんですか?」

「そうですよー」

「本当に城内にいるんですか?」

「もう面倒くさいから何か食べに行きましょうよー」


相棒以外の連中が皆愚痴を言う。こいつら一回殴っても許されるよな。

一番近くに居た部下の頭を殴ろうとすると、その横に居た部下でガードしよった。

まあ、とりあえずこっちは誰でも良いが。


「いったー!何すんだよてめえ!人を盾にすんなよ!」

「いやいや、偶然偶然」

「あははははは!馬鹿でー!」

「いいからお腹すいた・・・」


騒ぐ連中を無視して歩く。一応文句言いつつもこいつらは付いて来るのは解っているので、振り向かない。

振り向かずとも、同じ距離で文句を言い合っているのが聞こえているので問題ない。


「あのー、一つ思った事が有るんですけど」

「ん、どうした?」


相棒が何かに気が付いたように話しかけてきたので、足を止めて顔を向ける。

相棒は首を傾げつつ、迷う様に口を開く。


「思うに、弟殿下が彼に手を出した事は、相手も理解してると思うんですよ」

「そうだろうな。あの馬鹿は何も考えとらん」


あの馬鹿がやった事で、この国と敵対すれば、我が国は亡ぶだけだと言うのに。

父も奴を疎ましく思っている気配が有ると言うのに、本当にあの頭は飾りか。


「その兄であられるあなたが探してる事を、向こうが認識していた場合、こんなに騒いでたら逃げるのでは」

「そんな事は解っている。解っていても、奴らとは、あの弟と兄とは違うという所を見せておかねばいかんだろう」


あの馬鹿どもは敵しか作らん。いや、国の在り方を考えれば周囲は敵だ。

だが、だからと言って、誰もかれも敵に回していては立ち行かん。

それをあの愚弟と愚兄は理解していない。


「俺は、俺に力が無いのを知っている。俺の立場が悪いのを知っている。だからこそ、俺は俺の在り方を見せる必要がある」


今までの連中とは違う。俺は手を貸すに値すると。

『利用するに値する』と、見せる必要がある。

特に今回の様に、多くの国の人間が集まる場では。


「あの馬鹿どもに手を貸したところで、寝首を掻かれるだけだ。奴らは恩義などと言う言葉とは無縁。

自身が支配し、蹂躙するのが当然と思う連中だ」

「それと、後ろの光景と、どういう関係が?」

「あるさ。俺の出生を知ってるならな」

「・・・なるほど」


俺の思考を理解し、納得する相棒。察しが良くて助かる。

あの兄弟は敵を作りすぎだ。いや、違うな。使える味方が居なさすぎる。

こちらは来る日の為に、淡々と地を固めているという事に気が付かないほどに。


「今はせいぜい嗤っておけばいい。最後に立つのは俺だ」

「その為にも、彼とも接触はしておきたいですねー」

「ああ。ウムル王とも上手く接触できれば一番だが。そう上手くはいかんだろうな」


正直なところ、俺はなりふり構う気は一切ない。もしウムル王が手を貸すと言うならば、喜んでその手を取る。

例え国に売国奴扱いされようが、知った事では無い。

生きて、生き抜いて、奴らの首をいつか切り落とすその日の為に。


「目が怖いですよー殿下」


さっきまで騒いでいた部下の一人が、俺の上からかぶさってくる。重い。

あと、鎧を着てるから堅い。痛い。

一応気を遣ったつもりだろうが、もうちょっと考えろ。


「ええい、痛いわ」


鎧の胸部分を押し返し、部下を引きはがす。


「きゃー、すけべー」

「鎧越しでふざけた事を言うな。そういうなら揉ませろ」

「殿下・・・」


俺の言葉に、相棒が頭を抱える。俺は間違ってないぞ。

鎧越しに揉んで何が楽しい。


「こいつの貧乳なんか揉んでも楽しくないですよ殿下。どうせならいい女ひっかけに行きましょう」

「あんだと脳みそ筋肉!」

「まあ、小さいのは事実だよねー」

「てめえだってたいして差がねえだろうがババア!」

「誰がババアだコラァ!」

「いいからお腹すいた・・・・」


こいつらを見ていると気が抜ける。まあ、ちょうど良い感じに力は抜けたかもしれんが。

考えてやっているのか、自然にこうなのか知らんが、まあいいか。


「慕われてますねー、本当」


相棒の言葉にため息を付きながら、歩を進める。


「最近、自信が無いぞ俺は」

「いえいえ、殿下が居ないと、皆基本的には静かなんですから」

「信じられんな」

「そうでしょうねー」


笑顔で俺の横を歩く相棒。まあ、こいつが言うならそうなんかも知れん。

若干の不安は有る物の、こいつらは一番信頼でき、信用している連中では有るのも確かだ。


「とりあえずもう少し探したら昼にするか」

「はい!はい!お肉!お肉食べたいです!」

「お前はその食事への情熱を他にまわせ!」

「無理です!」


文句を言いつつも、自分の口元が笑っているのが解る。

ああ、そうだな。解っている。

こいつらが俺の精神安定になっている事ぐらい解っている。

だからこそ、こいつらを信用しているんだ。


「見つからなかったら、肉なしだ」

「そんな!?殿下!殿下お慈悲を!」

「ええい五月蠅い!」


だが、人のいう事を聞かないのと、それは別の話。

制裁は加える。


お肉お肉と唸る声を聴きながら探したが、結局その日は見つかる事は無かった。

もしかしたら、城外に出ているのかもしれんな。

俺が探している事がウムルに抜けているとはいえ、騎士や兵士に直接聞けば、一層会える可能性は落ちる。

間違いなく、向こうの警戒度は上がるだろう。


こんな事ならば、もっと早くに来るんだった。

とはいえ後悔しても仕方ない。明日も探すとしよう。

いかにも扱いやすそうな人間を演じつつ、な。

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