第364話王都をゆったり散策です!
『はぐ、んぐ、もぐもぐ』
「あーあー、口の回りべたべたになってるよ」
露店で買った、タレの付いた野菜の揚げ物を美味そうに食うハクと、その口の周りに付いたタレを拭くシガル。
揚げ物に既にタレが付いた状態って、日本人感覚だとあんまり無いなぁ。美味いけど。
ポン酢的な物とか、かつお出汁的な物も有るには有るんだけど、食べ歩きには向かないか。
『だって、たれるんだもん』
「それを気を付けて食べなきゃ」
「・・・へたくそ」
『なんだとー!?』
「はいはい、喧嘩すんじゃねえよ」
今日やっとみんなで行動できるので、王都の見物をしています。
因みにお城に近い所なので、俺も初めて通る所で楽しい。
グレット君も居るよ。今日は珍しくハーネス的な物つけてるけど。わんこのお散歩状態です。
「朝市に行くにはもう時間的に遅いし、雑貨屋巡るには早いし、どうしたもんかと思ったが案外やってんな」
「この辺は結構早い時間からお店やってるみたいだね」
まだ朝早い時間だが、既に店を開けている所や、露店を出している人もちらほらいる。
散歩がてらに見て歩くには、そこまで何もないと言う程でもない。
「わりいな、寝過ごしちまって」
「いいよいいよ、疲れてたんだろうし。気も抜けたんでしょ」
今日は珍しく、イナイが起きるのが遅かった。
なので、起きるまで寝かせてあげたら、朝でもお昼でもない感じの時間帯に目を覚ました。
そこでハクが、目を覚ましたなら行こう!と張り切った為、今の微妙な時間帯の散策になっている。
「それにしても、見られてるねー」
「だって、そりゃー見るよー。あたしだって今の関係じゃなかったら、遠巻きに見つめてるよ?」
道すがらすれ違う人が皆、イナイを見つめ、去るまで見ていることが多い。
流石に付いて来る事は無いし、特にこちらに詰め寄ってくるわけでは無いが、やっぱり常に見られている。
「わりいな、落ち着かねえよな、やっぱり」
イナイはこの状況を謝ってきた。別に謝る事ないのに。
「んー、まあ、落ち着かないと言えば多少。でもイナイと一緒にいる方が良いし、平気平気。ね、シガル」
「うん!」
「そっかい、あんがとな」
俺達の言葉に、シガルの頭を撫でながら礼を言うイナイ。
有名人だしね、しょうがないよね。
イナイが不愉快じゃないなら、俺達は別に構わない。
「そういえば、国境門とかではイナイの顔、知られてなかったよね」
「まあ、王都は建て直しの時に長期間いたし、ちょこちょこ道具や材料買いに来てたからな。地方の人間はあたしの顔を知らない事も少なくねえさ」
「あたし、見かけるだけならよく見かけてたよ」
なるほどね、活動圏内だったから、皆知ってる訳だ。
そう考えると、地方に行った時の方が、イナイも気が楽なのかもしれないな。
身分証を出すのは街に入る時とか、何か特別な時だけだし。
実際、王都に入ってから、中で身分証の提示を求められた覚えがない。
基本的に特に何事もなく、買い物も行動も出来ている。流石に何もかもがちがちではないか。
『ん?』
「お、いらっしゃい、お嬢さん」
アクセサリの類がテーブルに沢山あり、天井にもジャラジャラと付いている露店の前でハクが足を止めた。
ハクがあの手の物を気にするのは珍しい気もする。
いや、そうでもないか、あいつは初めて見る物には何でも興味を持つか。
露店の店主であろうおじさんは、あまりやる気に溢れてはいないタイプなのか、ハクが足を止めるまでぽやっと本を読んでいた。
「ハク、何か気になる物が有ったの?」
シガルがハクの傍に行き、何に興味を引かれたのか尋ねると、ハクは自分の気になった物を指さす。
「んー、ああ、なるほど」
納得するシガルの言葉を聞きつつ傍に寄って見に行くと、虎の形のアクセサリーが有った。
虎と言っても、可愛らしくデフォルメされている。動物園のお土産みたいな感じだ。ブローチかな?
『・・・』
ハクがブローチをガン見している。欲しいのかな。何悩んでんだろう。店主は特に気にせずぽやっと構えてるな。
不思議に思いハクを眺めていると、ひょいとイナイがそれを掴む。
「店主、一つお願いします」
「こ、これは、ステル様」
店主は本を読んでいて、ハクが来て初めて顔をあげた。なのでイナイの存在に気が付いていなかったので驚いてしまった。
後ろからいきなりお偉いさん出てくるとか、驚くわな。
「ステル様のお連れ様でしたら、お代はけっこうです」
ステル様からお代は受け取れませんが来たよ。因みに、さっきの揚げ物も言われた。
この人ホントすげえな。リアルにこういう事言われる人、どれだけいるんだろ。
いや、言われるとしても、こう何度も有ると本当に凄いなって思う。
「いけませんよ。お代は受け取ってください」
「そうですか?では、もう一つサービスという事で、どうぞ」
「・・・では、お言葉に甘えましょう。シガル、好きな物が有れば選びなさい」
お代は払った上で他に一つ、という所で話が纏まったようだ。
実はさっきの揚げ物も似たような流れで、お代は払ったけど、倍ぐらい貰った。
流石にその辺の好意を無下にするのは、イナイもやるつもりは無い様だ。特に、この王都での場合は、本当に好意から来るものみたいだし。
「え、いいの?」
「ええ、どうぞどうぞ。私の手作りで、たいしたものは無いですけど」
「おじさんが作ってるの?」
「ええ、道楽みたいな物なので、なんとなく目についたものを削り出してるような物ですが」
削り出しという事は、石の類も自分で削っているのだろうか。
結構綺麗に丸い物も有るし、道楽というには気合が入っている。
いや、道楽だからこそ、気合が入っているんだろうか。
「はい、ハク」
『・・・ありがと』
イナイはお代を払い、さっき掴んだ虎のブローチをハクに渡す。ハクはそれを受け取ると、嬉しそうに握った。
やっぱり欲しかったのか。なんで買おうとしなかったんだろう。
なんだかんだ、ハクは組合の仕事をこなしているので金は持っている。あれぐらいは余裕で買える。
まあ、金自体は殆どシガルに預けてるけど。
『・・・これ、どうすればいいんだ?』
「ああ、少し屈んでくれるか?」
『うん』
ハクは、どうやらあれが何なのかは理解してなかったようだ。グレットに似てるからとか、そういう理由で見てたのかな。
もしかしたらさっきのは、イナイに貰った事が嬉しかったのかもしれない。
「タロウさん、どう?」
どうやらシガルも選んだようで、髪飾りを付けて、俺に訊ねて来た。
木彫りなのだが、木彫りの花が複数付いている、結構凝った物だった。
色使いも鮮やかで、華やかだ。これ道楽の手作りってすげえなこのおっちゃん。
「似合ってるよ。かわいいよ、シガル」
「えへへー」
俺の答えに嬉しそうに笑うシガル。
だが俺は、シガルの頭を撫でつつ、とても気になった。明らかにこれ、こっちの方があのブローチより高いよね。手間かかってる。
気になってちらっと店主の方を見ると、満足げにこちらを見つめていた。
・・・まあ、店主が良いなら良いか。でも、お礼はいっとこ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、喜んで頂けたならこちらも嬉しいです」
にっこにこしながら言う店主。そこに他意は感じない。
というか、あったところでどうなると言う話ではあるが。
「では、行きましょうか」
「はーい!」
『うん!』
イナイの先導に、元気よく返事する二人に続き、がふっとなくグレット。
だが、クロトが何故か動かない。どうしたんだろう。
「・・・」
なんだろう、気のせいか、クロトから不機嫌ですオーラを感じる。
「クロト、どうしたの?」
「・・・なんでもない」
何でも無い事無いですよね。俺が気が付くぐらい不機嫌そうですよね。
さっきまで普通だったんだけどなー。何が気に食わないんだろう。
「言いたい事有るなら、言っていいんだよ?」
「・・・あいつだけ、ずるい」
「あー・・・」
なるほど、イナイがハクにブローチあげたのが気に食わないわけだ。
単純に焼きもちかなぁ。それとも、クロトも欲しい物がったんだろうか。
「何か欲しいの有ったの?」
「・・・ううん、無い」
無いのか―、そうかー。うん、完全に焼きもちっすわ。
シガルがハクに構うのはそうでもないのに、イナイが構うと駄目なのか。
とりあえず、不機嫌そうなクロトを抱きかかえる。
「まあ、クロトが欲しいの有ったら言ってみなよ。イナイは聞いてくれるよ」
背中をポンポンと叩きながらクロトに言うと、こくんと頷いた。うん、少しだけ機嫌直ったかな。
そのままクロトを抱えて、皆の後を追いかけて行く。
イナイがちらっとこちらを見ていた辺り、クロトが少し機嫌が悪かったのには気が付いてたっぽい。
俺が気が付いたぐらいだもんね。気が付くよね。
その後は、グレットとハクが公園で子供達の人気者になってたのと、クロトが子供たちと一緒に楽しそうに遊んでたぐらいで、和やかな一日だった。
ハクさんが食い切ったら賞金系のとこで普通に賞金かっさらってたりしたけど、和やかです。
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