第362話なんか楽しそうに話してます!
「いやー、すごかったすね、ほんと!あの動きは普通出来ないっすよ!」
「そうだねぇ。タロウさん、背中に目が付いてるのかなって思うような動きだったもんね」
「ほんとっすよ。背後に高速で飛んでくる短剣を、当たり前に叩き落とすんすから」
「あの時のタロウさん、探知魔術効いてなかったらしいから、完全に体術だけなんだよね」
「まじっすか!?」
なんか、食堂に戻ったら、俺が座ってた席で見覚えの有る奴が楽しそーに喋っとる。
話の内容から、昨日の話だろう。あいつ見てたのか。
正直あの時はゼノセスさんの相手で手いっぱいだったし、気が付いて無かった。
その後も疲れて寝てたし。
『あれぐらいは出来ないと、私達とは戦えないぞ』
「真竜に比べればそうかもしれないが、普通の人間は出来んだろう」
『シガルはタロウほどじゃないが、出来るぞ』
「・・・まじっすか?」
「いやいやいや、あそこまでは無理だよ!?」
『程度の違いなだけで、似たような事は出来るじゃないか』
「その程度が大きいんだけどなぁ」
なんだろう、なんでアイツあんなに馴染んでるの。なんなのあいつ。
しかも今回はちゃんと後ろにフェビエマさん立ってるし。
あそこに戻るの、やだなぁ。クロトが思いっきりこっち見てるから、今更引き返せないか。
ため息を付きつつ、シガルの元に戻る。途中でこちらに気が付いたようで、笑顔を向けてくれた。
「お帰り、タロウさん」
「兄貴、お疲れ様です!」
「・・・おかえりなさい」
『おかえりー』
「ただいま」
フェビエマさんだけは静かに頭を下げて、皆迎えてくれた。
この人がここに居るって事は、一応ちゃんと許可得て来てるんだろうな、こいつ。
「昨日の話?」
「うん、殿下も見てたんだって」
まあ、そうだろうね。さっき聞こえた会話から察するにそうだろうさ。
「あの後は少し用があって話しかけに行けなかったんすけど、ちゃんと見てましたよ!」
「あ、そう」
この感じだと、もしかして他にも見てた人いそうだなー。
まあ、見られて困る物でもないけど、あんまり騒がれるのも面倒だ。
『私達のは見てなかったのか?』
「お前達?すまないが今言った通り、用があったんでな。兄貴が去った後は見ていない」
『そうなのか』
ハクが少しだけ残念そうだ。ちょっと意外。
シガル以外にああいう反応を見せるのは珍しい気がする。俺が思ってるより気に入ってるのかもしれないな。
「それで、大丈夫だった?」
シガルが先の事の顛末を聞いて来たので、どうしたものかと悩む。
トレドナが居なければ全部喋っちゃっても良いんだけど、こいつが居る以上、全部喋っちゃったらあの子が可哀そうかな・・・。
トレドナの方が、立場が上っぽいし。
「んー、トレドナ」
「はい、なんすか?」
「ここで聞いた事、聞かなかった事に出来るか?」
「兄貴がそういうなら」
まあ、それなら大丈夫かな。今までのこいつの行動から、ここで嘘をつくとは思えないし。
フェビエマさんは確認するまでも無いだろう。ペラペラ喋る人じゃない。
「この間の事、謝りたいって話だったんだ」
「あ、そうだったんだ。なら特に何事も無かった感じなの?」
「んー、ちょっとひと悶着あった」
「・・・大丈夫?」
「うん、多分。イナイか、ウムルか、どっちかが怖かったんじゃないかなー。自分が悪かったでずっと通してたよ」
「そうなんだ」
シガルは俺の言葉に納得すると、安心した顔をする。まあ今回は本当にあれで終わりだろ。
向こうは謝ったし、俺はそれで良いと言った。特に変な行動もしてない筈だし、大丈夫っしょ。
「・・・良く解りませんが、もしかして、先日のメレニアス嬢の話ですか?」
「・・・だれそれ」
トレドナが首を傾げながら、知らない名前を言う。誰の事だろう。
「あれ、違いましたか?」
「いや、その前に、それ誰の名前?」
「先日、兄貴と揉めたお嬢ですよ」
「あー、あの子、メレニアスって名前なんだ」
そういえば、名前も名のって無かったな。こっちの名前は知ってるっぽいけど、どうなんだろ。
「お嬢もあの場に居ましたんで、兄貴の実力を知って、謝罪に来たのかと思いましたよ」
「・・・まった、あの子も居たの?」
「ええ、隣に居ましたよ。兄貴の戦いを見て、若干震えてましたね。無理もないっすけど」
・・・あー、うん、そういう事。
そうか、怖いのはウムルでも、イナイでもなく、俺が怖かったのか。
俺が仕返しに来たらどうしようって、そういう事か。護衛の連中の行動も納得だわ。
「ていうか、なんでお前見てたの?」
「え、兄貴知らないんすか?」
「何を?」
「あそこ、俺達みたいな貴族、王族に演習見せれるように、いろんなところから見れるようになってるんすよ。
ちょうど俺達が集まって話してたところに、兄貴たちがやり始めたんすよ。結構な人数が見てましたし、てっきり予定通りの事かと思ってたんすけど」
おうふ。見てたの兵士さんとか、この国の人だけじゃないのかよ。
えー、なにそれ。つまりはあの一戦、他国の人も見てたの?
ゼノセスさんは知ってたんだろうなぁー。でもまあ、ゼノセスさんの力を見せる場にもなったと言えばなったのかな。
あの魔術を下せる人は、そういないだろう。ウムルの力を見せるには、良い場だったのかもしれない。
友好的な国ばっかりじゃないだろうしなぁ。
「それに、一つ面白い事も有りましたよ」
「ん、なんかあったのか?」
俺の問いに、ニヤッと笑うトレドナ。ちょっと笑い方がいやらしい。
「あいつですよ、あいつ。帝国の末弟」
「ああ、あの我儘なやつがどうしたの?」
「あいつも見てたんすよ、昨日の。いやあ、傑作でした」
くっくっくと、楽しそうに笑うトレドナ。
まあ、なんとなく察せるけどさ。
「いやー、愉快だったっすよ。目の前の出来事が何も信じられないっていう、あの顔。
もう隣で腹抱えて笑いたくて笑いたくて、堪えるの大変だったんすから」
言い切ると、その時の事を思い出したのか、大笑いするトレドナ。
おまえ、あいつの事ホント嫌いなんだな。気持ちは凄く解るけど。
俺もあいつ嫌い。
んー、ゼノセスさんの魔術に、ウムルの力を思い知ったって所なのかしら。
まあ、確かにあの男、少しウムルに喧嘩腰な感じだったもんな。
自分が喧嘩売った相手がどれだけの力をもってるのか、あれで知ったんだろうな。
「ゼノセスさんの魔術、凄まじかったからなぁ」
「何言ってんすか。そっちもっすけど、兄貴に対してもっすよ」
「うん?最後はともかく、それ以外は俺ずっと押されっぱなしだったぞ」
「兄貴はそう思ってるのかもしれないっすけど、普通は途中でやられてますよ。あんなん逃げれるわけが無い」
まあ、俺もあの人達に鍛えられてなかったら、無理だと思う。
ぶっちゃけ、バルフさんに引き続き、本気で殺されると思ったもん。
「まあでも、勝負は紙一重だったよ」
「そこなんすよねぇ。兄貴が勝ったのは、兄貴が歩いて去っていったのを見て分かったんすけど、どう決着ついたのかが解んなかったんすよ」
「ああ、そこで判断してたのか」
てっきり、俺が彼女に打ち込んだのを見ていたのかと思った。
流石に判らないか。皆の意識は下に行ってただろうし、彼女、上空でも姿隠してたもんな。
「ういっす。んで今、姐さんたちに教えて貰ってました」
あー、それでこいつここに来て、その流れで、昨日の事で盛り上がってたって事か。
フェビエマさんは解らなかったんだろうか。この人なら気が付きそうな物だけど。
俺がちらっと視線を向けると、彼女は少しニヤッとした。あ、この人解ってるわ。
こいつ解ってんのかなー。自分の傍に居る人が、どれだけすごい人なのか解ってない気がするんだよなー。
・・・そのうち気が付くかな、師匠さんだし。こいつがもっと強くなれば、この人の凄さを理解できるだろ。
「んで、今日はそれだけか?」
「ええ。今日は特に用もないんで、兄貴が良ければついて行きますけど」
「・・・まあ、いいか」
この間助けて貰った手前、無下には出来ない。
しょうがない、連れてくか。
「別に良いけど、今日は通常訓練終わらせたら、のんびりする気しかないぞ」
「はい!!」
元気よく返事されてしまった。フェビエマさんから何もないし、連れて行くしかないか。
クロト君が若干嫌そうにしております。御免よクロト。
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