第361話お嬢とお茶会です!

「どうぞ」


鳥の声が聞こえ、綺麗な花が咲く、和やかな雰囲気の中庭で、香りの強めのお茶が出される。

俺は今の状況に戸惑いながら、目の前に置かれたカップを見つめる。

お嬢自ら入れてくれたお茶だ。匂い的にハーブティー的な物だろうな。

恐る恐る口にすると、結構きつめのハーブティーでだった。ちょっと苦手な部類かなー。

お茶をちびちび飲みつつお嬢を見ると、自分の分もお茶を入れて対面に座った。


「お口にあいましたか?」

「え、ええ」


正直に苦手ですっていうのも何というか、気が引けて、曖昧に応えてしまう。

お嬢はそれを真面目に受け取ったのか、少し笑顔になった。


「良かった。私は好きなお茶なんですが、苦手な方が多い物で」


苦手っていえば良かった!素直に言えば良かった!

今更言えないなぁ。まあ良いか、飲めないわけじゃないし。

それにしても、お茶に付き合って下さいと言われたのは驚いたけど、どういうつもりだろう。


周囲を見ると、傍にこそ立っているのは一人二人だが、何人もの護衛に囲まれている。

いやまあ、囲まれているっていうか、この場合は周囲を警戒している事になるのかな?

あと数人、魔術で姿を消して俺の背後に立ってるけど、バレてないと思ってんのかなー、これ。

うーん、やっぱり仕返し的な物なのかなぁ。


「まさか、快くついて来て頂けるとは思いませんでした」

「へ?」


周囲にまわしていた意識を前に戻すと、お嬢が真剣な顔でこちらを見ていた。

いやまあ、そうなのかなぁ。なんかこう、良く解らなかったから、とりあえず頷いた感が有るんだけどこっちとしては。

彼女にとっては、素直に付いて来たことがそういう意味になるのかな?


「まずは謝罪を。先日は失礼いたしました」

「え、あ、はい」


あら、普通にこないだの事で謝りに来ただけなのか。

ふむ、じゃあこのお茶会は、そのための場って事で良いのかね。個人的にはあんまり怒ってないので良いっちゃ良いんだけどな。

クロトの事も気にしてくれたし、お嬢にそこまで思う所はない。


「・・・よろしいのですか?」

「え、何がですか?」

「・・・私は貴方の事を信じておりませんでした。そのせいで貴方へは大変な失礼をしてしまいました」

「はぁ」


まあ、かなり怪しかっただろうし、しょうがないんじゃないかね。

あの状況で何でもないですって、信じるのも難しいだろう。ていうか謝りに来るなんて思わなかったよ。

けど目の前のお嬢は、緊張した面持ちでこちらを見ている。俺が何か思うとこは無いか探ってるのかね。


ああ、そういう事か。このお茶会の理由わかった。

要は、こないだの一件を俺が怒って、仕返しに来ないかどうかって事か。多分、俺の事を詳しく調べたんじゃないのかね。

なので、先に謝って先手を打っておこう、って所かな?


別に仕返しする気も無いし、根にも持ってないから、特にこちらから言う事は無いんだけどなー。

あ、でも一応気になった事言っておこっと。


「えーと、発言を許して貰えるなら、二つ良いですか?」

「―――どうぞ」


きた、という表情になるお嬢。いや、護衛の連中も表情が変わった。つーか、姿隠してるやつは剣抜く構えなんだが。

うーん、流石にこれはちょっとどうかと思うなぁ。いや、気持ちは分かるけどさ。

背後に立たれてるだけなら良いけど、剣を手にかけるのは、流石の俺も謝罪の意思が感じられないぞ。


「えっと、その前に、ちょっと良いですか?」

「え、はい、何でしょう」


意識してぽやっとした口調で喋ると、お嬢は少し慌てたように応えた。その驚きが消える前に、俺の背後に居る連中の背後に転移し、仙術で打ち抜く。

強化はほぼかけずに動いたから、少し反応できた者も居たけど関係ない。遅いよ。

彼らにかけられていた魔術は彼らが維持していた訳ではないので、姿が見えないまま崩れ落ちる音だけが響く。


「謝罪っていうなら、こういうのはどうかと思いますよ。こっちも気になります」


お嬢本人の指示なのか、護衛の人間の独断なのかはこの時点ではわからないので、とりあえず事実だけを伝える。

気持ちは分からなくもないけど、流石に剣を構えるのはやりすぎだろ。

謝罪に来たというなら、多少強気に行かせてもらう。だって、後が怖いもん。


「な、何―――貴方達!!」


何が起こったのかと驚いた表情から、一瞬で凄まじい形相になって、護衛の連中に向かって叫ぶ。

こっわ。めっちゃこっわ。この子怖い。思わずビクってなっちゃったよ。


「何をしているの!止めなさいと言った筈よ!!」

「し、しかし」

「貴方達は死にたいの!?」

「も、申し訳ございません」

「早くあれを片付けなさい!!」

「はっ」


お嬢の叫びの後、直ぐに魔術が解かれ、地に伏した連中が姿を現す。

そのうち一人の手には、既に剣が抜かれていた。まあ、抜く暇あったからねぇ。

その男を見て、お嬢の表情が蒼白になった。恐らく彼が俺を切ろうとしたと思ったんだろう。

まあ実際、そうなんだけどさ。とはいえそれは、俺の行動への反撃なんだけど。


「い、言い訳の余地もございません。申し訳、御座いません」

「んー、まあ、彼らも貴方の為を想っての事でしょうし、今後こういう事をしないでもらえれば」


どうやら彼女の指示じゃないようだし、彼らも彼女の身を案じての結果だろう。

なら、今後そういう事をしないように気を付けてくれればそれで良い。


「ほ、本当に、よろしいのですか?」

「ええ」

「・・・そう、ですか」


お嬢の表情は、分かり易く、なんだこいつって顔してる。

いやまあ、実質害は無し、俺も彼らを殴り倒してる。ならお相子って事で良いと思うんだ。


「・・・では、先ほどの続きをお伺いします」


お嬢は表情を戻して、俺に問う。続き?


「あー、えっと、あ、そうそう、二つ思ったことが有ったんですよ」

「はい、何でしょう」


やっべ、さっきので一瞬何言おうとしてたのか忘れてたわ。

鳥頭かよ。


「えっと、この間の一件で、クロトを守ってくれたのはありがとうございます」

「・・・え、あ、はい」


俺の言葉に、再度何言ってんだこいつという顔になるお嬢。このお嬢分かり易くていいな。割と好きかも知れない。


「でも」


そう、でも、だ。

あれは危険だ。もし本当に俺が危険人物なら、子供も同じ思考かも知れない。

いや、もしかしたら、子供こそが本命の時も有るかもしれない。このお嬢は、あの時その思考は間違いなく無かった。

周囲にいた護衛がクロトを警戒はしていたが、お嬢はずっとクロトを抱きしめていた。あの距離では、ただの子供であってもいくらでもやりようは有る。


「もし、あの状況で俺を不審人物と思ったなら、あの行為は危険です。子供が実行犯の時も有るんですから」

「・・・えっと、はい、え?」

「自分の身の為にも、護衛の彼らの為にも、そのあたりは気をつけた方が良いと思います」

「あの・・・それが、言いたい事ですか?」

「はい」


お嬢は頭上にはてなが跳びまくっている。可愛いなこのお嬢。

まあ、俺が恨み言か、無茶な注文でも付けてくると警戒してたんだろうけどさ。

特にそういう事言う気は無いので、こうなるよね。


「で、もう一つですけど」

「―――はい」


今度こそと、表情を引き締めるお嬢。いかん、なんか面白いぞ。

同時に、護衛がこのお嬢心配するのもなんかわかるぞ。大丈夫かこのお嬢。


「俺が怪しいのは解ります。俺も怪しいと思います。あの状況じゃそれが普通だと。

けど、貴方の護衛の攻撃は、命を絶たずとも、重傷を負わせる物だった。俺から仕掛けたのなら、仕方ないと思います。けど、そうじゃない、ただ無実だと言っている相手に、役人も呼ばずに切り捨てるのは、どうかと思います」

「・・・それについては、申し訳ございません。貴方の言葉の一切を信用しなかった私の落ち度です」


俺の言葉に、素直に頭を下げるお嬢。やっぱりイナイが怖いんだろうなぁ。

いや、この場合、ウムルが怖いのかな。

なんか、虎の威を借りる狐って感じで、やだな。


「えっと、まあ、おれはこの通り無事ですし、あんまり気にしすぎないで下さい」

「・・・は?」

「今後、似たようなことが有れば、もうちょっと気を付けて貰えれば、それで」

「は、はぁ」


後何か有ったかなぁ。あの時思ったのはそれぐらいの筈だ。

子供に甘いのに、俺に対しては過激すぎた。ドッチモ真ん中位がちょうどいい気がする。


「あ、でも、クロトを、子供を気にしてくれたのは、本当にありがとうございます」

「・・・はい」


俺がこのお嬢に嫌な気持が無いのは、単純にそこだ。このお嬢の行動は、少し危険な行動だったと思う。

思うけど、子供にやさしいって事が、俺にとって良いと思える所だった。

だから、あとは別に良いかな。お嬢ももう訳が分からないって顔してるし。


「まあ、俺からはそんな感じです」

「そう、ですか・・・」

「連れを待たせているんで、もうよければ戻っても良いですか?」

「はい、お手数をおかけしました・・・」

「じゃあ、失礼します」


お嬢に頭を下げて、お嬢が混乱から回復する前にそそくさと去る。

あのまま回復待ってたら、また何か面倒になりそうな予感がするし。

さて、今日はどうしようかなぁ。イナイが明日で自由時間だし、昨日激しい運動したし、通常訓練だけやってのんびりしよっと。

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