第360話反応がまた変わった気がします!

なんか、城の兵士さんの反応が昨日までと違う気がする。

昨日までは、一応イナイの恋人っていうので、多少の気を遣われていた感じはあった。

まあ、それはしょうがないかなって思う。だって、イナイの立場って、そういう物だし。

でもそれは、「イナイの恋人」だからであって、俺に対してという訳ではない。


でも、なんか今日は、会う兵士さん会う兵士さん、若干緊張して挨拶を返される。

明らかに、客に気を遣っているという感じではない。俺自身にたいして、何か緊張というか、警戒というか。


十中八九、昨日の一戦のせいだろうなー。見物人大量にいたし。

途中から、向こうの方で訓練してる兵士さん達も見物していた。結構な人数が見ていたので、話が広まるのも早かったんだろう。

なんかちょっと、ゼノセスさんに同情してしまう。


そして俺の顔と名前は、完全に皆に浸透した模様。あ、多分あの人がそうだな、ではなくなってしまったようだ。

ていうか、直立不動で挨拶しないで。私別にあなた方の上司じゃないから。

あまり態度が変わらないのは、最初の頃に気軽に会話してくれてた人ぐらいだ。


ただ、騎士の人達は、そこまで変化はなかった。バルフさんとの勝負を知ってる人も多かったおかげだろうか。

別にこの人達に何かを言うようなつもりも無いから、変に緊張されても困るんだよなぁ。


「うーん、落ち着かない」

「あはは、目撃者が多かったからねー」


今の心情を口に出すと、シガルが笑いながら応えて来た。

やっぱりそういう事だよなー。

現在、食堂で食事をしてるけど、周りの視線が痛い。トレドナが騒いでた時より痛い。


「もう、ここで食べるの止めておいた方が良いのかなぁ」


少し目線を彼らに向けると、明らかに少し緊張した面持ちを見せられる。

これじゃ、彼らも俺も気が休まらない。食事はのんびり食べたいよね。

明日から、部屋に持って来て貰うしかないかなぁ。

ため息を付きながら食べていると、この間の料理人の兄さんがこちらに来て、俺の目の前に座る。何の用だろ。


「なんか不満でもあったかい?」

「え?」

「つまんなそーに食べてっからさ。口に会わなかったかと思って」


あ、しまった。そういうことか。

暗そうに食べてたから、食事に対して不満があると思わせてしまった。


「あ、いえ、料理はおいしいです。これはちょっと、別の事で。その、すみません」

「なんだ、そうか。何か悩み事かい?」

「あー、その、ここで食べると皆気にするみたいだから、もうここで食べない方が良いかなって」


そこまで言って気が付く。この兄さんは、あんまり気にしてない人みたいだ。

前に会話してた時と、反応が変わらない。


「あいよ、そういう事ね。気にすんな気にすんな。別にアンタらただの客で、一般人だろ。気にしすぎな連中がおかしいんだよ」


俺の言葉に、何だそんな事かと、ケラケラ笑いながら応える兄さん。

ある意味、ここの空間の主である料理人にそう言われると、少し気が楽になった。

そして兄さんは、唐突に席から立ち、兵士たちの方へ歩いて行く。

どうしたのかと眺めていると、こちらを見ていた兵士の内の一人の頭をわしづかみにした。

何すんのこの人。


「いいから、てめえらはてめえらの分の食ってろ。客に気を遣わせてどうする馬鹿野郎が」

「いだだだ、痛い痛い!!」


頭を掴まれた兵士さんは、凄まじく痛そうに抵抗しているが、兄さんの手が離れる様子はない。

兵士さんより腕力ある料理人かー。まあ、鍋振ったりしてたら、結構な腕力と体力いるもんなー。

周囲の兵士さん達は、あーあっていう顔で見ているだけで、止める様子はない。もしかして、割といつもの事なんだろうか。


「そっちのてめえらも、あんま阿呆なことしてっと、昨日作った俺の失敗作の肝煮くわせっぞ!すげえ不味かったからな!」

「お前は馬鹿か!料理人がわざわざ不味いの作った事を言うな!」


兄さんの言葉を聞いて、奥から兄さんの上司であろう、おじさんからお叱りの声が響く。

兄さんは少々目が泳いでいた。あ、しまったって顔しとる。


「わかった!分かったから放して!痛い!」

「ったく、情けねえ。料理人の腕一つ振り払えねえで、何が兵士だよ」

「アンタの力が強すぎんだよ!」


兵士さんと兄さん、あとキッチンの奥のおじさんのやりとりに、向こうで笑いが起きてる。掴まれてた本人以外だけど。

腕太いもんなー、あの兄さん。ムキムキという感じではないが、全体的にしっかりしてる。

足取りも料理人というより、武術をやっていると言われても全く不思議と思わない物が有る。体幹が良いのだろう。


「今更になって気にされても困んだろうが。今更騒いでんじゃねえよ。他の連中にも言っとけ」

「いつつ、一応伝えとくけど、2,3日は無理だと思うぞ」

「はぁ、そんなんで大丈夫なのかよお前ら。もう少ししたら、この城の中、他国の王族貴族だらけになんだぞ。そっちのが気を遣わねーといけねえってのに」

「また理由が違うだろ・・・」


その辺から、ぼそぼそしゃべりで聞こえなくなった。今強化してないのと、さっきので少し、向こうが騒がしくなっているので、会話がここまで届いて来ない。

まあ、気にしても仕方ないし、こっちはこっちで食事を貰おう。

俺の言葉で兵士さんがあんな目にあったのは少し申し訳ないが、今後のお互いの為にも黙っておこう。

向こうだって、気にしすぎてたら疲れる筈だ。


「楽しいお兄さんだね」

「だねー。俺の事もあんまり気にしてないみたいで助かる」

「うーん、それはどうかなー?気にしてるからこそ、あんな感じに振る舞ってる気もするけど」

「え、そうなの?」

「うん、タロウさんがあんまり気を遣われたくないんだろうなって察して、ああいう風に振る舞ってる様に見えたよ」


あー、結局あの兄さんにも気を遣わせていたのか。

というか、相変わらずシガルはそういう所しっかり見てるな。人の機微というかなんというか。

俺が鈍すぎるだけだろうなー。


「なんかちょっと、申し訳ないな」

「そんな事ないよ。あの人にとって、私たちはお客さん。だから、最低限の気を遣ってるだけ」

「そんな物かな」

「うん」


そうだと良いんだけど。あんまり堅苦しいのは、息がつまる。

ああいう感じで、少し砕けた位が個人的にはちょうどいい。


因みに今日もイナイさんはおりません。でも今日で終わるって言ってた。

なので明日からは、イナイも一緒に居られるらしいので、式が始まるまでに外に遊びに行く約束をしている。

ハクとクロトに王都案内をしてあげれてないしね。


「・・・あ」


明日の予定を思い浮かべていると、クロトが小さく声をあげたのが聞こえた。

少し珍しく思ってクロトの方を見ると、食堂の入り口の方を見ていた。目線を同じ方向に向けると、こないだのお嬢が思いっきりこっち見てた。

めっちゃガン見してる。


「シ、シガル」

「物凄くこっち凝視してる人いるね」


シガルも同じくクロトの様子を見たので、お嬢に気が付いていた。


「タロウさん、あの人、知り合い?」

「この間の一件のお嬢」

「ああ、あの人が」


二人でお嬢を見ていると、お嬢は何か戸惑っているように見えた。

そしてさっきまでこちらを凝視していたのが、ちらちらと目線を外すようになった。

けど、やはり視線の方向は、こちらを向いている以上、俺に用なんだろうな。


「あれ、絶対俺に用だよね」

「多分」

「何で入ってこないのかな」

「見たところ貴族のお嬢様っぽいし、こういう所に入るの、抵抗あるとか?」


そうなのかな。この間の振る舞いを思い出すと、護衛を連れて思いっきり入ってきそうなイメージ有るけど。

まあ、どんな用にせよ、とりあえずこの目の前の食事片付けてからにしたいんだけどな。


「はぁ、しょうがないか」


俺は自分の皿を、そっとハクの方に置く。きっとそれで片付くだろう。


「一緒に行かない方が良い?」


席を立ちあがると、シガルが傍に居なくて良いのかと聞いて来た。

どっちが良いかな。相手が貴族である以上、何してくるか分かんない所も有るからなー。


「うーん、一応一人で行ってくる」

「・・・んー、分かった。気を付けてね」


俺の返事に、少し心配そうに応えるシガル。

まあ、ハクまだ食べてるし、シガルが来るならハク来ちゃうしな。

偶には自分で何とかしませんと。


「さてさて、何の用かねぇ・・・」


トレドナが居ないこの場で仕返しを、とかじゃないと良いなぁ。

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