第358話自分でもうまく説明できません!
「ん・・・・」
「あ、気が付きました?」
ゼノセスさんが目を覚ましたようだ。地面に下ろした時にちゃんとゆっくり降ろしたので、意識が戻るのは早かったみたいだ。
頭とか揺らさないようにも一応気を付けたけど、何処まで大丈夫かは少し不安かな。
「・・・わた・・・し・・あ・・れ・・?」
まだ意識がはっきりしないみたいだ。気絶させたから当然と言えば当然だけど。
何処まで記憶あるかな。頭を打ってはいないから、記憶はあると思うんだけど。
まあ、無理はさせないようにしておこう。多分体は痛いだろうし。
「今、ちゃんと横になれる所に運んでる途中なんで、無理しなくていいですよ」
「・・横・・・・無理・・・?」
眼がまだぼやけてる。目は覚めたけど、頭が覚めてないな。
「治療所まで、もう少しだけ我慢してくださいね」
「・・・うん・・・」
治療所の場所は近くにいた兵士さんに聞いている。此処からそう離れてない場所にあるので、そこに向かっている。
しかし軽いな。見た目より軽い気がするこの人。ちゃんと食ってんのかね。
「・・・ああ、そっか。負けたのね」
何処か遠い目をしながら彼女が静かに呟いた。どうやら目は完全に覚めたようだ。
「解ってた筈なのにね。・・・やっぱり、無理だったか」
彼女は顔を俺から逸らし、呟いた。勝負の結果の想いを。
やっぱりと言うほど、この人は弱くは無かったと思う。正直追い詰められていた。
対処法をまるで思いついていなかった。本当に、あれはアウトだった。
「ギリギリでしたよ」
「貴方が本気じゃなければね。私はあの世界に辿り着けていないから」
「・・・それでも、あの状態をいつでもやれるわけじゃないんで」
「そう。それでも、そうだとしても・・・私はこちら。貴方は向こう。決定的な違いだわ」
それきり、彼女は口を開かなかった。
俺は彼女の顔を見ずに、治療所まで彼女を運び、治療所に勤めているらしい男性に彼女を預ける。
彼女はそのまま去る俺に、声をかけることは無かった。
俺からも声はかけなかった。
俺の気のせいでなければ、彼女は泣いていたように見えたから。きっと、悔しくて。
そんな彼女に半端な言葉をかけるのは、失礼な気がしたから。
だから、見て見ぬふりをして、俺はシガル達の下に戻った。
「ただいまー」
「お帰り、タロウさん。クロト君。ゼノセスさん大丈夫そう?」
戻ると、グレットのブラッシングをしながらシガルが迎えてくれた。グレットを放置はかわいそうだし、中に連れて行くわけにもいかないので、待ってもらってた。
ハクも待機組だ。ハクは基本、シガルについて行くけど、俺について来ないしな。
因みにシガルの言葉通り、クロトは付いて来ていた。なので結構ゆっくり戻っている。歩幅が違うからね。
「んー、多分痛みでしばらく体は動かしにくいと思うけど、しばらくすれば大丈夫だよ」
「・・・そうなの?」
ああそうか、シガルにはどうやって終わらせたのか、解ってないんだった。
・・・正直、勝てた理由は、極限状態の火事場の馬鹿力の様な物だ。
正確には、自分でもちゃんと理解できてるわけじゃない。
だから、上手く説明できる自信も無いんだよなぁ。まあ、事実を言うしかないか。
「えっと、単純に言えば、彼女ずっと上空に居たみたい」
「上空?」
「うん、それも結構高い所で姿を隠してた」
「・・・地上に居たのは全部偽物だったって事?」
「そういう事になるね」
まんまと騙された。なまじナイフが本物だっただけに、どこかに本物がいると思い込んでいた。
実際は全て偽物。魔術で攻撃した際に防御されたから、余計に気が付けなかった。
本物がどこにいるのか判らなかったら、結局最後まで気が付けなかったんじゃないだろうか。
「じゃ、じゃあ、それは分かったとして、タロウさんはどうやって上空に居るって解ったの?」
そうだよね、やっぱりそこ気になるよね。
俺だって普通気になる。だって全然気が付いて無かったもん。
「・・・多分、セルエスさんのおかげなんだろうなと思う」
「殿下の?」
「うん。じゃなきゃ、理由が付かない。あの時、氷が目の前に迫ってきた時、違う物が見えた。普段の魔術を使う時とは違う物が見えたんだ」
「違う物?」
ああくそ、うまく説明できない。
あれは何時も見ている世界じゃなかった。俺の目はセルエスさんのおかげで、魔力の流れを目で捕えられる。
けど、あの時見えた物はそうじゃない。いや、魔力の流れなのは間違いないけど、行使される際に、この世界に顕現される魔力じゃない。
「大本の力。世界の力。引き出される、根本の力。その力の流れ出る所。
世界側から見た、この世界の接続点。大きな力の流れ側から見た力。多分、それが見えた」
自分でも良く解っていない、起こった事実を口にする。そうして自分の中でも整理をつける。
きっとそうだろうと。あれはそういう事なんだろうと。
それに、あの力の強大さは感じた覚えがある。見た覚えがある。意識を失うあの時に、一番最初の、あの時に。
「それが見えた時、彼女が見えた。彼女の魔術の接続が、流れが、全部見えたんだ。だから気が付いた。彼女の居場所に」
「世界の力・・・接続・・・」
「後の行動は殆ど反射みたいな物かな。だからこそ出来たのかもしれない」
「どういう事?」
「理由は判んないけど、ノータイムで魔術が使えたんだ。本当に一瞬の時間もなく使えた。だからあの氷塊を躱して、彼女の傍に転移出来たんだ」
飛行船の時と同じように、完全にラグ無しで使えた。いつもの速度なら、あの氷塊を躱すのは無理だった。
それ位、あの氷塊の降って来るタイミングは完璧だった。どう考えても必殺の一撃。
生きてるから良いけど、本当なら恨み言の一つでも言いたいぐらいの一撃だ。あんなのくらった死んでる。
でも泣いてる女性にそこまではなぁ。言えないよなぁ。
「傍に転移出来たとしても、反撃されなかったの?」
「勿論されたよ。けど、彼女は彼女の技に負けた」
「ゼノセスさんの技?」
「うん。転移で彼女の傍に飛んで、幻影を彼女の背後に置いた。背後の幻影はほんの少し魔力を放ち、本体の俺は魔力を消して彼女の正面から攻撃。
多分視界に俺が収まっていた筈だけど、反射的に魔力に反応して、そっちに攻撃してしまったんだ。
そこを仙術で打った。んで、そのまま彼女ごと転移で地上に降りて、彼女を降ろして一息ついてたら、シガルが走ってきたって感じかな」
あの時はシガルが涙目だったから、何事かと思った。
今思うと、単純に俺があの下で潰されたと思ったんだろうな。
いやまあ、実際潰される直前だったけど。
「そっか・・・これは、私が見てるこの世界は、まだ一段下の世界なんだ・・・」
シガルが目に魔力を集めながら、いつもよりしっかりと周囲を見ている。
彼女も目で魔力が見える子だ。だからもしかしたら、そのうち同じものが見えるかもしれない。
もしくは俺みたいに、火事場の馬鹿力的な物が起こるかも。
俺の場合、その力も明らかにセルエスさんのおかげなんだけどね。
「勝負の顛末はそんな感じ」
「そっか、ありがとう。すっきりした」
『私に聞けばいいのに』
「それじゃタロウさんがどうやって本物見分けたのか解らないもん」
『でも、どうやって倒したのかはわかるぞ?』
「それじゃ意味ないのー」
『むう』
やっぱりそうだと思ってたけど、ハクは見えてたのか。
ていうか、あの感じだと、最初から何処に彼女が居たのか判ってた感じがするな。
「ハクは最初から、ゼノセスさんの居場所気がついてたのか?」
『うん。だって横通って空に上がっていったし』
「へ、いつ?」
『タロウが偽物に構えてすぐ位に』
予想外の答えに思わずシガルを見ると、シガルは首を横に振る。シガルは見てないって事かな。
てことは姿を隠してって事か。マジか。そんな傍に居たのに、シガルですら気が付かなかったのか。
でもハクはどうやって気が付いたんだ?
「ハクは良く気が付いたな」
『匂いがしたもん』
「匂い?」
「あ、ハクは匂いで判別してたんだって。幻影には匂いが無いから」
あー、なるほど。ハクみたいな生き物にしか使えない手だな、それ。
てことはなにか、あれをもしハクに使ってたら、最初の時点で終わりか。
相性の問題だなー。
あ、そうだ、クロトはどうだったんだろう。
「クロトは気が付いてた?」
「・・・うん。見えてた」
「見えてた?」
「・・・全部、見えてた」
「えっと、それは、ゼノセスさんの姿が見えてたって事?」
「・・・うん」
どうやらクロト君はそもそもあの隠匿魔術が通用していなかった模様です。
この子ほんと凄まじいな。つーかよく考えたら、攻撃魔術も通じない可能性あるんだよなこの子。
物理攻撃以外通用しない。幻影通用しない。近づいたらあの黒にやられる。
あれ、クロト最強じゃね?
「そ、そっか、凄いなクロトは」
「・・・」
返事はないけど、なんか照れてるっぽい。多分。
「とりあえず俺は疲れたから、ちょっと休憩でいいかな」
説明も済んだし、休憩。いや、ほんとに疲れた。ずっと走り回ってたもん。
いくら強化してたとはいえ、基礎体力ちゃんと鍛えてなかったら持たないぞあんなの。
心の中で愚痴りつつ、グレットに寄りかかる。うーん、こいつの毛皮気持ちいいなぁ。
『あ、ずるい!私も―――』
ハクがそう言ってグレットに近づこうとするが、途中で止められたようだ。
『・・・何のつもりだ』
「・・・お父さんは疲れてる。邪魔するな」
目を向けると、クロトがハクの腕を掴んでいた。多分クロトは俺に気を使ったんだろうなぁ。
ハクが近づくと、グレット怯えるし。
『・・・良いだろう、相手になってやる』
ハクはクロトの手を払うと、そんな事を言い出した。
あー、この流れはいかん。
「・・・相手してほしいのはお前だろ。嫌だけど、お父さんの邪魔だから相手してやる」
『へえ・・・』
二人は睨みあいながらずんずんと訓練場の広い方へ歩いて行こうとする。
止めないといけないよなぁ。あの二人、最近は仲良くなったかなと思ったんだけどなぁ。
そう思っていると、シガルが二人に何かを言おうとする。止めるのかな?
「ふたりともー!大怪我しない程度にしなきゃ、怒るからねー!」
シガルさん、止める気ないんですね。そうなんですね。
あー、でもあの二人は、止めずにガス抜きしたほうが良いのかなぁ。
なんて思っていると、二人はシガルの言葉に一瞬ビクッと身を震わせた。
『・・・うん』
「・・・はい」
二人は静かに、シガルの方をちゃんと向いて返事をした。心なし怖がってるのは気のせいかしら。
・・・うん、二人の反応は深く考えないようにしよう。なんか隣でにっこにこしてるシガルさんが少し怖く感じちゃうし。
あー、つかれたー。もう今日はこのモフモフでお昼寝する。あの感じなら二人ともやりすぎないだろ。
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