第353話イナイに報告です!
「そいつは災難だったな」
「全くだよ」
今日あった出来事をイナイに伝えると、苦笑してそう言われた。
あの後とりあえず部屋に戻ると、イナイが既に帰っていた。シガル達はまだ戻ってない。まあさっき暴れてたし、あの後も地響きが続いてたからなぁ。
割と真面目に、お客できてた人達、怖かったんじゃなかろうか。
「あたしらはあの咆哮ですぐ誰の仕業か分かったけど、知らない人間からすりゃ怖えわな」
「だねぇ」
魔物が襲って来たのかと思ったりするよね。そう考えると、あの時のお嬢の反応はそこまで間違ってないと思う。
ただ、もう少し穏便に捕縛してくれたら嬉しかったな。
「子供には優しかったのになぁ・・・」
「うん?」
「いや、クロトには優しかったから、もうちょっと加減してくれても良かったのにと。俺が対応できなかったら大怪我してるからさ」
もし本当に、ただの一般人が城の誰かに付いて来ていたのなら、あの場合どうなっていたのか。
普通に斬られて大怪我だよ。あぶねーよ。急所を外せばいいってもんじゃないよ。
「それに関しては相手がお前で良かった」
「ええー」
俺の愚痴に、俺で良かったというイナイ。思わず文句が出ちゃったよ。
けど、その声にイナイはまた苦笑する。
「いや、すまん。お前なら相手を大怪我させることも、大怪我することも無いだろうからな」
「あー、まあ、それはね」
一応、いざとなったら手を出す気ではいたけど、あまり怪我させる気は無かった。
そういう意味では、穏便に片付くのかな。
「恐らく、そのお嬢としても、ウムルの兵が来ない事に不審を覚えたんじゃないか?」
「あー、そうなのかな」
「本来なら、その場に来ても良い筈だからな。なのにウムルの兵は誰も来ない。そして何かを知っている怪しい男」
そう言われると、何とも言い返せない部分があるな。確かに怪しいか。
お嬢からしたら、身の危険を感じた行為だったのかもしれない。怖がらせちゃったかな。
「まあ、一番の問題は、お前が、お前かクロトの身分証をとっとと投げりゃよかったんだがな」
「・・・あ」
身分証。ウムルにおいて、その身分を保証される物。
そうか、普通に考えて、とっととそれ見せれば良かったのか。
「まさか持ち歩いてない、なんて言わねえよな」
「・・・持ってます」
「お前の身分証は、製作時の監督がおじさんだから、それ見せりゃ問題なかったんだよ」
「あー、えっと、兵士隊長さんだっけ?」
イナイがおじさんっていう人は、あの人ぐらいしか覚えが無い。
あの無茶苦茶強い兵士さん。カグルエさんの事だろう。一切歯が立たなかったな・・。
「そう。あの人一応、うちの国の兵士の中では一番偉い人だからな。その役職の人間に保障されている身分証なら問題ない」
・・・あの人、兵士さんの中で一番偉いのか。
あーでも、ミルカさんが言ってたもんな。色々やった人だって。
「なんであの人、よく門番やら、街の警備やら普通にやってんの?偉い人なのに」
「だってあの人、自分は一兵士だってきかねえんだもん。貴族位も蹴ったしな」
なんか、生涯現役って言って、槍持ってそうな話だな。でも貴族位を蹴ったのは、面倒だったんじゃないのかな。
だって、そうなると、その人の言う様に、一兵士として外に出る事は出来なさそうだし。
いや、この国ならそうでもないか。リンさんとかめっちゃ自由じゃん。
「ま、今度から気をつけな。後、そうだな、えーと」
イナイは腕輪をいじって、服を出していく。なんか、こう、高そうなものが多いんですけど。
何となく、城で見かけた兵士以外の人達が来ていた服に近い気がする。
「この辺の服なら、特に何にも言われねえだろ」
「もしかして、貴族の人とかが着る服?」
「貴族がってわけじゃねえが、普段着の類ではねえな。今の格好だと、街中じゃ問題ねえが、城内じゃ浮くのは確かだ」
まあ、確かに、今の格好はただの町人スタイルではあるけど。
なんかこう、びしっとしてて堅苦しそうだ。普通に動く分には良いけど、訓練にはむかないなぁ。
イナイが出すものだから、そうそう破ける事は無いんだろうけど。
「クロトの服は、こんなんでどうだ」
「・・・僕の?」
「おう、一応色々あるぞ」
俺が服を抱えて若干悩んでいると、クロトの服も広げていく。
いつの間に作ったのか、買って来たのか、ちゃんとクロトが着れるサイズの服が沢山だ。
「いつの間にこんなに用意したの」
「単に、昔の服を仕立て直しただけだよ」
それでも量が多い気がするけど、そこは突っ込んでいいのだろうか。
まあ、イナイだしな。不思議では無いな。
うーん、城にいる間、しばらくこの格好なのか。ちょっとやだなぁ。
普段の格好が楽なだけに、堅苦しい格好はそれだけで疲れそうだ。
「いやそうな顔だな」
「あ、えっと」
真正面からイナイに指摘され、目を泳がせる。まあ、嫌なのは嫌なんですけども。
「さっき言った通り、身分証さえ出せば、そうそう問題にはなんねえだろうから、嫌だったら別に良いぞ」
「あ、そうなの?」
「ああ、嫌ならな」
そう言いつつ、ちょっと残念そうな顔になるイナイ。
あ、はい。着てほしいんですね、解ります。とりあえず出された服の内、大人し目のやつを手に取る。
「んじゃ、この辺着ようかな」
「んー、嫌ならホントに良いんだぞ?」
「まあ、着てた方が面倒にならなそうだし」
そう言って服をとりあえず着てみる。やっぱり、なんかちょっと堅い。布自体は良い物っぽけど、こう、堅苦しい。
まあ、でも、いいか。
「うん、似合うよ」
満面の笑みで言うイナイが見れたから、それでいいや。やっぱり着てほしかったんだな。
イナイが可愛い服を着て、俺が眺めてる時と似たような感じなのだろうか。
「シガル達が帰ってきたら、二人の分の服も見繕うか」
言う前に、既に服を取り出すイナイは何やら楽しそうだ。
俺としては、イナイと同じような作業服でも良いんだけどなー。
まあ、しばらくは我慢しよう。ここにいる間の我慢だ。
「そういえば、騎士の人達は誰も咎めなかったよ?」
「そりゃ、お前の事知ってるからな」
「・・・え?」
え、いや、でも、見覚えのない人も何にも言わなかったよ?
「ミルカのせいで、お前の事は知れ渡ってるからな。それにお前、何人かの兵士や騎士と顔見知りだろ。
あたしとお前がここに来た事は、兵にも知れ渡ってるし、お前の特徴位聞いてるだろ。別にどこ行こうが、関係者以外侵入禁止区域以外は咎めねえだろ」
なるほど、そういう事か。でもある意味関係者以外侵入禁止区域みたいなものじゃないのかね、ああいう所って。
いや、色んな人間が居るから、入っても咎めないのか?
なんか釈然としないけど、しょうがないか。とりあえず明日から気を付けよ。
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