第350話従者さんも来ていました!

「やはり、ここに居ましたか」


声に振り向くと、トレドナの従者さん、フェビエマさんが立っていた。

やっぱりこの人も一緒に来てたのか。


「ああ、兄貴を見つけたんでな。手合わせをして貰っていた。そっちの用事はもう良いのか?」

「済みましたよ」


フェビエマさんは、そのまま俺達の前まで歩いて来て、頭を下げる。

別行動だったのは、何か用事をしていたからなのか。トレドナが逃げたのかと、少し思ってた。

しかし、王子が他国の城で、護衛もつけずに歩き回ってるとか、普通に考えたらおかしいんじゃね。


「お久しぶりです。殿下がまたご迷惑をおかけしているようで、申し訳ございません」

「お久しぶりです。まあ、別にそこまで迷惑は無いですよ。あいつのおかげで丸く収まった事も有りますし」


厩舎での一件は、あいつだから簡単に収まった気がする。多分俺だと、あんなにあっさりとは行かなかったと思うんだ。

まあ、目はつけられちゃったけど。


「そちらの方々は、タロウ様のお連れ様ですか?」

「あ、はい、婚約者のシガルと、友人のハク。俺の・・・子供のクロトです」


クロトの紹介の時だけは、未だに悩む。そろそろ開き直らないとなー。親の自覚なんか一切ないけどさ。


「婚約者に、お子さん、ですか?」


シガルはともかく、クロトの紹介で、フェビエマさんの顔に分かり易く疑問符が浮かんでいる。うん、そうですよね。


「えーと、まあ、事情が有って、面倒見ている子だと思ってもらえれば」

「・・・ああ、なるほど。そういう事ですか。どうりで樹海では見かけなかったと思いました」


無駄に混乱させてしまった。申し訳ない。


「私は殿下の護衛をしております、フェビエマ・スドルゴと申します」


気を取り直したフェビエマさんは、シガル達に頭を下げて、自己紹介をする。


「シガル・スタッドラーズです。よろしくお願いします」

『ハクだ!』

「・・・クロトです」


こちらはこちらで、頭を下げながら自己紹介を返すシガルと、その真似をするクロト。

ハクは胸を張って名を言う。ハクさん基本、自己紹介の時ふんぞりかえるよね。


「それにしても、殿下が多少なりともお役に立ったようで、安心出来ました」

「フェビエマ、その言い方は酷くないか」


フェビエマさんの言い分に、心外だと言った面持ちで口を挟むトレドナ。

相変わらずこの二人は、従者と王子という関係にしては、フェビエマさんの言葉が辛辣だ。


「そう思われるのでしたら、今までの行動を振り返って下さると、私としても大変ありがたく思います」

「さ、最近は変な事をした覚えは無いぞ」


つまり最近までは、そうでもなかったという事なんだけどな、それ。

まあいいや。本人がちゃんとしようとしてる意志が有るんだし、良い事だと思うがね。


「そもそも、私が離れている間、部屋に大人しく留まらず、護衛を付けずに一人気ままに出歩いている。その時点でおかしいという自覚はおありですか?」

「・・・いや、だって、暇だったし」


おい、言ったそばから駄目じゃねえかお前。


「渡して置いた本はどうしました?」

「・・・ヨンダヨ?」


おいトレドナ、俺並に誤魔化し方が酷いぞ。確実に読んでないだろう、お前。

何の本だったんだろ。


「はぁ・・・、せめてウムルの兵か、騎士にお願いして、一人は付けてください」

「次からはそうしよう。だがまあ、ここならば、そこまで問題は無いだろう。他に人も多くいる」

「常にここに居るならば、問題はないでしょう。ですが、移動の時はどうされるのですか。ただでさえ、既にあれに目をつけられているというのに」

「ああ、それなんだが」


あれってなんだろ。あの帝国王子以外にも、面倒なのに目をつけられてるのかこいつ。


「先程また、少しあってな。一層嫌われたぞ」

「またですか。何故そう、わざわざ突っかかって行くんですか、あなたは」


あ、違う。これさっきの王子と、前にも何かあったんだ。それで知り合いたくない知り合いとか言ってたのか。

多分さっきと同じで、気に食わなかったんだろうな。


「だが今回は、止めなければ不味かったぞ。傍に兵も居なかったからな」

「・・・殿下、何処に行かれていたのですか」

「あ、いや、大丈夫だぞ、その時は兄貴も居たし」


自分の発言が、この訓練所に居なかったと告げている事に気が付いたトレドナは、慌てて言い訳をする。

俺を巻き添えにしないで下さい。一緒に怒られたくないです。


「・・・まあ、良いでしょう」


少々目が鋭いが、一応勘弁してくれたようだ。だがそのまま視線がこちらに向く。あれ、もしかして俺怒られる?


「タロウ様、本当に殿下は、御迷惑をおかけしませんでしたか?」


良かった。違った。フェビエマさんは再度、念を押すように俺に確認をしてくる。信用無いな、トレドナ。


「本当に今回は、特に迷惑は被って無いですよ」


わざわざ一人で行ってくるって言ったのに、ついてったのこっちだし。


「そうですか・・・その時、傍に居て下さったのですよね?」

「ええ、それは、まあ」

「感謝致します」


どうやらフェビエマさんには、その時の状況が簡単に察せられているようだ。

多分、俺がトレドナの護衛モドキになってたと思ってるんだろうな。

けど、なんとなくだけど、トレドナ一人で何とかなると思う気はする。あの二人だけなら、だけど。

もし大勢相手ってなると、厳しいだろうな。


「俺は横で見てただけですよ。特に何もしてません」

「いえ、それでも、貴方が傍に居れば、万が一は無いでしょうから」


まあ、一応流石に荒事になったら、守る気ではいた。面倒だとは思う物の、なんだかんだこいつは俺を慕っているみたいだから。

なんかこう、自分で言うの恥ずかしいな。


「まあ、兄貴に勝てる相手なんぞ、そうそういるまい」


何故か胸を張っていうトレドナ。何でそんなに誇らしげなの。


「そうですね。ですが、それとこれとは話が別ですよ、殿下」

「・・・ハイ」


そんなトレドナに冷たい目を向けて言い放つフェビエマさん。トレドナは胸を張ったまま目が死んでいく。


「後で少し、お話があります。よろしいですね?」

「ハイ」


この二人、師弟でも有るからなぁ。フェビエマさんに頭が上がらないのは、相変わらずだな。

トレドナは肩を落として返事をしている。ドンマイ。


「では、皆様、失礼致します」

「兄貴、また今度」

「あ、はい」


頭を下げて去っていくフェビエマさんと、それに挨拶しつつ項垂れながらついて行くトレドナ。

お説教かな。お説教だろうな。でも手加減してあげてほしいな。人助けしたのは事実だから。


「なんか、面白い王子様だったね」

「それは否定しない」

『私はあいつ気に入ったぞ!』

「そだね、なんか仲良かったね」

「・・・僕は、ちょっと、苦手」

「そっか。まあ騒がしいもんな、あいつ」


シガルとハクは、トレドナにあんまり嫌な感情は持っていないようだが、クロトは苦手なようだ。

まあ、さっきも少し、苦手そうにしてたからなぁ。嫌ってるわけではなさそうだけど。

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