第348話めんどくさい男が居るようです!

「うん?なんか騒がしいな」


グレットに餌をあげて、ついでにハクに野菜を与えていると、何やら厩舎の方が騒がしい事に気が付く。


「何か、問題でもあったんすかね」

「かな」


どうかしたのかと、トレドナと眺めていると、誰かの怒鳴り声が響いた。

声は割と若い感じだけど、喋り方から察するに、一般人では無さそう。

なんかこう、俺に言葉に逆らうのか的な、そんな発言が聞こえる。


「・・・あの声は」


その声がはっきりと聞こえた瞬間、トレドナが顔を顰めた。知ってるやつなのかな?

まあ、表情を見る限り、良い知り合いではなさそうだが。


「知り合い?」

「知り合いと言えば知り合いっすけど・・・知合いたくない知り合いっすね」


どうやらトレドナは、この声の人物が好きでは無い様だ。俺も好きになれそうにない感じがする。


「兄貴、気乗りはしないんすけど、ちょっと様子見てきます」

「ん、大丈夫か?」

「まあ、多分」


思いっきり嫌そうな表情で、行ってくるというトレドナ。

ただ、まともな手合いじゃない予感がした。ホントに大丈夫かな。


「ついて行こうか?」

「ありがたいっすけど、多分嫌な思いすると思いますよ」


やっぱ嫌なんだな。


「まあ、お前見てたらなんとなく分かる」

「・・・それなら甘えていいっすか。下手な事されると面倒なんで」


トレドナがこう言うって事は、よっぽどの奴なんだろうか。

今もまだ、なんか言ってるな。なんか、馬に乗せろって言ってるけど、なんで駄目なのかね。

なんか駄目な馬に乗せろって言ってんのかね。まあいいや、とりあえず行ってみよ。


「シガル、ちょっと行ってくる」

「ついてくよ」


俺が行ってくる旨を伝えると、即座に返事を返すシガル。


「あー、そう?」

「うん、だって嫌な予感しかしないし」

「あ、やっぱりそう?」


シガルもどうやら、揉め事の予感しかしていないようだ。まあ、そりゃそうだよな。あの様子だもん。

騒いでるのは一人だけで、他の声は聞こえない。つまりそれは、そいつが言いがかりつけてるだけの可能性が高い。

でも面倒そうだからこそ、トレドナと行こうかなって思ってんだけど。まあ、いいか。


『シガルが行くなら、私も行こう』

「・・・ぼくも」


ハクとクロトも一緒に来るようだ。ついでにグレットもがふっと吠える。


「いや、あの、お子さんはちょっと、危ないかなって思うんすけど」


だが、流石にクロトが付いて来るのは危ないと、トレドナが口を挟む。

まあ、普通に考えればそうだ。普通なら。


「あ、大丈夫、この子俺より強いかもしれないから」

「・・・まじすか」

「まじです」

「・・・流石にちょっと信じられないっすけど、信じます」


トレドナは眉間に皺を寄せながら、納得してないけど納得したという。その気持ち、解るよ。


「さて、じゃあ行くか」

「ういっす」











「ですから、この馬は陛下の馬ですので、申し訳ありませんが、お貸しすることはできないのです」


近づくと、管理のおじさんの一人が、貴族風の男に馬を貸せないと説明をしていた。

あー、ブルベさんの馬を貸せって言ってるのか。そりゃ無理だろ。ていうか王様の馬貸せとか、いい神経してんな。


「ふざけるな!たかが馬一頭貸す程度の事だろう!よこせと言っているわけでは無い!」


男はそれでも貸せと怒鳴り散らす。何考えてんのアイツ。王様の馬だよ?

横に護衛なのか、騎士っぽいやつが居るな。

・・・あの騎士も、頭おかしいな。


「あの騎士、やばいな」

「やっぱそう思います?」

「ああ、あいつ、ずっと剣を抜く体勢だ」


騎士は、片手を剣にかけ、いつでも抜刀できるようにしている。頭おかしいだろ。


「他の馬ならお貸しできますが、こちら側にいる馬はお貸しできないのです」


おじさんの言葉に周囲をよく観察すると、他の馬と違い、こちらの区画にいる馬は少しばかり厩舎の状態が良い。

一頭当たりのスペースも他より広いし、建物も良さげだ。お偉いさん用の馬なのかね?


「私はこの馬が良いと言っている!」

「いえ、ですから、こちらにいる馬は、お貸しできないのです。どうか御納得ください」


なおも食い下がる男と、どうにか納得してくれと頭を下げるおじさん。

あの男何者なんだろ。トレドナは知ってるみたいだし、聞いてみるか。


「なあ、トレドナ、あの頭おかしい男誰?」

「帝国の子の末弟です。来ると思って無かったんですけど、何故かあいつ一人、先に来てたんすよね」


帝国って、アロネスさんに教えられた、南の方の国の?

なんか、イナイとかからも聞いた知識を総合すると、碌なイメージ無いんだけど。

つーか、そんな国にも招待状送ってたのか。いや、そんな国だからこそなのかな。


「んで、帝国の王子様だから、他国でも我儘ごり押そうって事?」

「まあ、嫌がらせも入ってると思うんすよ。あの国、ウムルの事を邪魔に感じてる筈なんで」


なるほど、ただ単に我儘だけって話でもないのか。メンドクサイ話だ。

でも、それにしちゃあ隣にいる騎士の佇まいが不可解だ。

本気で、いつでも抜くつもりにしか見えない。


「じゃあ、行きますけど、本当に付いて来ます?あの通りですけど」


トレドナは最終確認を取って来けど、あの感じで一人で行かせるのはなぁ。

万が一戦闘になったら、トレドナかおじさんが怪我する可能性がある。

臨戦態勢とってる奴に穏やかな対応とか期待出来ないと思うんだよな。


「まあ、ウムルに面倒かけるなら、俺も無関係じゃないし」


こうでも言えばこいつも付いて来るの納得するだろ。

とは言っても、俺一人で突っ込んでったらきっと面倒な事になるきしかしないけど。

トレドナは対処する自信が有るっぽいし、俺はいざという時の為に後ろに控えてよう。


「ああ、それはそうっすね。じゃあ行きましょう」


トレドナの納得を得てから皆でぞろぞろと男の下に行き、おじさんの間に入る様に立つ。


「殿下、他国であまり好き勝手に成されるのは感心しませんね」

「貴様、グブドゥロの・・・!」


さっきまでの三下感が完全に消えたトレドナが、男に言い放つ。堂々とした佇まいがちゃんと王族してる。

俺の記憶にある、若干我儘そうな雰囲気の有る王子様感が消えている。


「此処は帝国ではありません。それ位は認識されているでしょう?」

「馬鹿にするな!小国の王子風情が!」

「馬鹿になぞ。ただ殿下の為にも、ウムル国内でもめ事を起こすのはどうかと、進言させて頂いているだけです」

「私を脅すか、貴様・・・!」

「めっそうもない」


男はトレドナの言葉の上げ足を取る様に答える。なんつーか、喧嘩売ってるなぁ。

トレドナがしっかりやってるだけに、下手な事は言わない方がよさそうだ。こういうやつって、俺みたいに立場のない人間が口開くと激昂しそう。

俺は隣のあいつ警戒しておこう。


「・・・ちっ、不愉快だ。私は部屋に戻る。いくぞ」

「はっ」


どうやら大人しく去ってくれるようだ。流石に暴れることはしなかったか。良かった。


「貴様等、顔は覚えたぞ」


あー、うん、そういう感じか。やっぱりシガル連れて来るべきじゃなかったかなぁ。

男が見えなくなるまで、トレドナは王子様やっていたが、見えなくなった瞬間ため息を吐き、また三下に戻る。


「はぁーー・・・なんなんすかねぇ、あいつは。ウムル国内で暴れたら自分の命が危ういってぐらいわかるだろうに」

「どこまで本気で、どこまで嫌がらせか判んないな、あれは」


愚痴るトレドナに同意の言葉を口にする。あいつ、嫌がらせをわざとしているっていうよりも、ああいう奴っていう感じだった。


「シガルはどう?演技だと思う?」

「うーん、あたしには演技には見えなかったなぁ」

「そっか」


シガルが演技じゃないというなら、アレがあの男の素の可能性が高い。やばいな、あいつ。

あんな頭おかしい奴に、何時でも剣を抜く男が隣か。何するか分かんねえぞ、あれは。


「トレドナ殿下、ありがとうございます」

「ああ、いや、気にするな。個人的な感情も入っての事だ」


男をどうにかしてくれたトレドナに、礼を言うおじさん。だが、トレドナは自分の事と答えた。


「あいつ嫌いだからか?」


嫌いだから邪魔をしたのか、少し気になったので、聞いてみた。


「あー、それも有るんすけど、あいつ見てると、あそこまでひどくはなかったと思うんすけど、以前の自分思い出して不愉快なんすよね」


なるほど、同族嫌悪的な?

でもトレドナは、流石にあそこまで酷くはなかったと思う。あれはちょっと、酷過ぎる。

まあ、トレドナも、あの時はどうかと思ったけど。


「まあ、片付いたみたいだし、続きしましょうか」

「そうだな」


トレドナに応え、皆を連れて、元の所に戻る。

その後は特に何事もなく、グレットを走り回らせて、少し遊んでやった。

強化無しだと全く付いて行けないけどな!

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