第347話やっぱり付いて来ました!

「うわあ、凄いっすね!こいつ兄貴が飼ってるんですか!?」

「・・・飼ってるのはシガルだよ」

「そうなんすか!やっぱ兄貴の隣に立つ人は一味違いますね!」

「・・・うん」


やっぱ付いてきやがったこいつ。いや、分かってたけどさ、絶対ついて来ると思ったけどさ。

まあ、いいや。適当に相手しよ。


グレットの運動の為に馬の調教場所に来たけど、広いな。これならこいつが走り回っても余裕だな。

グレットはせまっ苦しい空間から出れたのが嬉しいのか、ご機嫌にゴロゴロ鳴きながらシガルに顔を擦りつけている。


『シガルは凄いだろ!』

「ああ!こんなでかい奴従えてるの見た事ないな!」


ハクとトレドナの二人は仲良くなっとる。何でだよ。なんか二乗で騒がしくなった感じがするぞ。

つーか、テンションたけぇ。以前の記憶ではここまで騒がしくなかったと思うんだけどな。

保護者はどこに行かれたのですか。止めて下さい。


「・・・五月蠅い」


クロトが若干二人から離れて愚痴ってる。クロトはあんまり騒いだりしないもんな。

まあ、基本的にハクとクロトが仲良くしてるシーンとか、見た事ないけど。

ああでも、この間とかクロトを乗せて飛んだし、多少はましになってんのかなぁ。


「さっき聞いたんだけど、別にここで火を使っても問題ないらしい」


シガルがグレットを連れて来る間に、管理している人達に、火を使っていいか聞いておいた事をシガルに伝える。

別に生でも特に問題なく食べれるんだろうけど、焼いた方が美味そうに食ってる気がするから。


「あ、そうなの?」

「一応火事にならないように、水とかちゃんと準備してって言われたけどね」


なので、俺の両手には大き目の桶が抱えられている。竹ではなく、金属の輪で打ち付けられた桶が有ったので、借りてきた。

バケツの類もあったけど、ちょっと小さいのしかなかったから、一応大きめのをと思って持ってきた。


「だからタロウさん、桶抱えてたんだ。何か訓練でもするのかと思った」

「桶で何するの」

「だってタロウさん、最近色々やってるから、何か思いついたのかなって」

「あー」


最近訓練中に、思いついたら何か変な事よくやってるからな。今んとこ、あれ以降有効な手段が無いのよねー。

それも上手く行ってない状況だけどね。この間なんて、力加減間違えて痛みで転がり回ったし。


一応魔術を鍛え上げれば、もっと身体能力上げれる事は解ってんだけどさ。だって、セルエスさんの魔術で、鍛えてもいない頃に凄まじい身体能力強化を体験してるから。とはいえ、そこに至るまで、何時になるやらといった感じだ。

知識でどうにかしようとしても、この世界で、アロネスさんとかイナイに教えられた事ならともかく、現代日本の科学知識とかろくに知らんし。中学校の実験でやるような知識しかない。あと適当な趣味知識。

もうちっと勉強しとくべきだったかな。


「今日は特に何も無いよ」

「そっか、どの辺でするの?」

「んー、あっちの端っこの方が邪魔にならなくて良いかな」

「はーい。じゃあ、いこっか」


シガルは俺に場所を聞くと、グレットを連れて歩いて行く。ハクはその後ろを、ご機嫌について行った。


「兄貴、持ちます」

「いや、いいよ。特に重くも無いし」


トレドナはついて行かずに、俺の荷物を持とうと言って来たが、空の桶二つだし、持ってもらうほどでもない。


「そうっすか。なんか用事が有ったらなんでも言ってください」

「うん、あ、そうだ」


桶持って行って、魔術で中身入れる気だったけど、一応ちゃんと水を持って行った方が良いかな。


「なんすか!?何かありますか!?」


俺がちょっと思いついたような声をあげると、間髪入れずに食いついて来た。やっぱりテンション高くね。


「魔術で水入れる気だったんだけど、一応普通に汲んできた方が良いかと思って。片方もってくれ」

「はい!なんなら二つとも行きますよ!」

「いいよ、俺も行く。中身入った持ち手のない大きな桶とか、こぼす予感しかしない」

「ういっす!じゃあ片方頂きます!」


ただの桶を、まるで何か表彰状でも貰うかのように受け取るトレドナ。王子様よ、それで良いのか。

俺とトレドナは、傍に普通に有った水道らしき所から、桶に水を灌ぐ。猫のマークがついてる辺り、イナイのなんだろうなー。


「凄いっすよね、この城」

「うん?」

「これっすよ。この技工具。この国って、これが有るのが普通になりつつあるみたいですけど、普通じゃ考えられないんすよ。

樹海では、イナイ・ステルが住んでいるからだと思ってたんすけど、違うんすよね・・・」


なるほど、この蛇口、どうやら城内にいくつもあるようだ。ローマの水道みたいに、この世界のこの時代じゃ、進んだ技術だよな。

いや、進み過ぎてる技術なのかもしれないな。この国、テレビとかネットとかは無いけど、俺の生きていた世界の感覚で、普通に暮らせる。

少なくとも樹海で暮らしていたころに、そういう違和感を持った事が無い。まあ、単に俺が特に何も考えてないだけかもしれないが。


「まあ、イナイ達の頑張りのおかげだろ。さ、いくぞ」

「ういっす!」


トレドナと二人で、いっぱいになった桶を抱える。そこでトレドナを見て、少し感心した。桶のサイズはそこそこあるし、中身はいっぱい入った水だ。

けど、トレドナは一切ふらつくことなく、桶を抱えた。軸がしっかりしている。俺の記憶にあるトレドナだったら、あそこまでしっかりと地に足は付いて無い。


「訓練、帰ってから頑張ったんだな」

「え、な、なんでわかるんすか!?」

「桶抱えた時、全然ふらつかなかったから。前だったら普通にふらついてたと思う」

「そ、そっすか!ありがとうございます!」


トレドナは褒められたと喜び、礼を言って、ご機嫌にシガル達の所に歩いて行く。

そこまで嬉しい物かね。いや、嬉しいか。あいつにとっては、俺は認めてほしい相手だもんな。

俺も、ミルカさんやセルエスさんに褒められた時は嬉しかった。


「それ考えると、ちっとは、優しくしてやった方が良いのかな」


ちゃんと訓練をしているという事は、俺の考えもきっと、守ってくれているのだろう。

それならあんまり邪険に扱うのは、可哀そうかな。


「とりあえず、俺も行くか」


俺も、いっぱいになった桶を抱えながらのんびり歩く。あいつは既に到着して手を振っている。やっぱテンション高い。


「・・・騒がしい人だね」


クロトは隣でずっとそれを見ていた。けどクロト、君は静かすぎると思うんです。









「あのー、ところで、火を使って何するんすか?」


肉を焼く準備をしていると、トレドナが聞いてくる。そういえば言ってなかったっけ?


「グレットの餌を焼くんだけど、言ってなかったっけ」

「初耳です。野菜か何か焼くんすか?」

「いや、肉焼くけど」

「は?」


俺の答に、トレドナは目を点にする。ああ、そうか、こいつもグレットを草食だと思ってたのか。

いや、それが普通だから、当たり前だよな。


「え、こいつ、草食ですよ」


トレドナは困惑しながら、自分の知識に有る、当たり前を口にした。


「肉食だよ?」

「・・・あの、こいつ、ダバスっすよね?」

「確か、エバスって名前だっけ?」


トレドナの問いに、ちょっと記憶に自信の無い名前をシガルに聞く。だって、似たような名前で、どっちがどっちかパッと出て来ないんだもん。


「そうだよ。エバス。肉食の獣だよ」

「え、その、シガル姐さんが手懐けてんですよね?」

「ね、ねえさ・・・う、うん、そうですけど」

「つまり、シガル姐さんは、こいつを素手で叩き伏せられると・・・」


トレドナはグレットをまじまじと見た後、不可解な顔でシガルと見比べる。おそらくシガルがエバスを抑えるという絵面が想像できないんだろう。

俺だって普通なら想像出来ない。でもシガルなら出来るだろうなと普通に思う。


「姐さん、もしかして、物凄く強かったりします?」

「そんな事ないですよ。タロウさんに比べたら全然」

「兄貴は別格っすもん。比べたら駄目っすよ」


トレドナ君、俺を何か持ち上げ過ぎじゃないかね。いやまあ、樹海に居た頃も、そこはそんな感じだったけどさ。


「兄貴、姐さんって、どれぐらい強いんすか?」


シガル本人に聞いても、きっと答えは返ってこないと思ったのか、俺に聞いてくる。

シガルの強さか。どれぐらいってなかなか難しいな。


「強いよ。少なくとも、その辺の男じゃ話にならないぐらい強い」

「やっぱそうなんすね・・・この年で兄貴に強いって言われる人か・・・・」


なにやらトレドナ君、シガルを見る目が少し変わった気がしました。大丈夫かな。


「と、とりあえず、お肉焼くんで、殿下はどうぞ、ゆっくり座っていてください」


シガルは一応相手が王子様なので、気を使って接している。いいのよ別に気にしなくて。本人気にしてないっぽいし。

多分そのうち本人がそう言う気がするし。


「そんな、気にしないで下さい!後、敬語なんかいらないっすよ!姐さんは気軽に話してください!」

「え、いえ、そんな」


うん、言う気がしたけどやっぱ言ったわ。シガルは助けを求めるようにこちらに目線を向ける。


「気にしなくていいよシガル」

「え、で、でも」

「本人がそう言ってるし、そうしてあげた方が本人も気が楽でしょ」

「そうっすよ!気兼ねなくやって下さい!」

「そ、そうなのかな?」


シガルは本人に言われても、困った顔をしている。流石に王子様にため口ってのは、シガル達の常識からは厳しいのかな。

でもそうしないと、こいつ多分いつまでも言って来るよ。


「じゃ、じゃあ、殿下、今後は、普通に話すね」


言いにくそうに、トレドナの表情を探る様に喋るシガル。だが言われた本人は満足そうだ。


「殿下なんて!トレドナで十分っすよ!」


それどころかまだ下げてきた。知ってた。


「ええー・・・えっと、そのうち、ね?」

「ういっす!」


なんつーか、何だろうこの光景。本当にこいつ王子なのか疑問だわ。

とりあえず管理のおっちゃん達がちらちらこっち見てんのすげー気になるけど、気にしてはいけない。気にしたら負け。

つまり既に負けているけど、負けない。


『早く!早く!何時までも話してないで、焼こう!』


ハクは肉を焼くのを急かして来た。けど、焼くのグレットの分だからね?つーかお前、食堂で散々食ったろ。

まあいいや、とっとと焼こう。なんか疲れてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る