第346話再会してしまいました!

『美味い!』

「全面的に同意するけど、あんまり食い過ぎるなよ」

『大丈夫だ、まだまだ食える!』

「そこを少し遠慮しろよって意味なんだけどな」


ハクさんは只今、城内の食堂でばっくばっく飯食ってます。お金払うなら特に気にしないんだけど、ただ飯なので気が引ける。

今いる場所は、城内や、城の周囲で仕事をしている騎士さんや兵士さんが食事をしている所だ。実際同じように食べている人達が数人いる。

仕事的に、皆同じ時間に休憩、という訳ではないんだろうな。


「あはは、いいよいいよ。どんどん食べてくれて構わないよ」


俺達の声が聞こえていたらしく、キッチンの方から料理人の兄さんが俺達に声をかけて来た。


「別に食料が足りないわけじゃないから、気にしなくていいさ。今はお客人も沢山いるし、材料も沢山ある。兵士たちも大量に食べるから、お嬢さん一人が食べたところで、たいして変わらんさ」

『だって!』


兄さんの言葉に乗っかるハク。そうか、他国の人来てるから、普段よりも食料が要るのか。

確かにそりゃそうか。人を招くのに食事が無いとか、話にならないよな。


「しかし、珍しい言葉を話すお嬢さんというか、凄いお嬢さんだな。その魔術ずっと維持してるのか?」

『うん?』

「その言葉さ。普通に話すと通じないから使ってるんだろ?」

『別になんてことないぞ。これよりもっと消耗する魔術が有るから、そっちに比べれば何でもない』

「うちの下っ端魔術師連中が聞いたら、卒倒しそうな話だな」


ハクの返答に、苦笑しながらキッチンに戻っていく兄さん。今の反応の通り、ハクの事を珍しいと認識はする物の、珍しい以上の反応はない。

以前、王都内でギーナさんが遠巻きに見られていたのは、単純にギーナさんと同種が怖がられていたからなのかな。


『という事みたいだぞ!』

「そうだね」


返事をしたけど、ハクは俺の返事など待たずにまた食事を再開する。本当に美味そうに食うからか、キッチンの方からハクを笑顔で見る人が多い。

そもそも、兵士以外が食堂で食べること自体少ないらしい。

城に客として招かれるような人物なら従者が居るし、従者が食事を頼みに来るから、本人は部屋で食べる。

俺達の様にぞろぞろとご飯を食べに来るのは珍しいそうだ。


「王様とか、上の人達とかも食堂には来ないのかな」

「多分、そんな人たちがここに来ちゃったら、兵士さん達が緊張してご飯食べられないんじゃない?」

「・・・確かにそうか」


俺の呟きに答えてくれたシガルの言葉に納得。確かに、自分より上の人が居たら気になるし、食事どころじゃないか。お客できてる人達も、その辺気にして食堂来なかったりするのかな。

あれ、てことは客が泊まってるのであろう区画に行かなければ、たとえあいつがここにもう来てたとしても会わなくて済むのか。

よし、後でイナイにでも、どの辺に近づかない方が良いか聞いておこう。


「クロト君、美味しい?」

「・・・うん、美味しい」


静かに食べるクロトに、気に入ったか聞くシガル。多分、クロトの好みも探ってるんじゃないかなーと思うんだけど、クロトって表情あんまり変えないから分かり難いよなー。

クロトは、がつがつ食うハクとは対照的に、黙々と静かに、結構ゆっくり食べる。

でもやっぱり、最初の頃よりよく食べるな。食べるペースは変わってないので、時間がかかっているけど。


「さて、今日はどうしようか。イナイが言ってたように城の見学でもする?」

「うん、その前に一回、グレットを動かさせてあげたいかな」


グレットは今、厩舎的な所に入っている。図体がデカいため、以前と同じように仕切りを一つ取っ払ってもらっているが、それでも自由に運動できるほどのスペースでは無かった。

馬を調教する場所が城に有るらしく、そこで運動させてやればいいとイナイが言っていたので、後でそこに連れて行けばいいかな。


「じゃあ、俺も行くよ」

「ありがとう。ハクはどうする?」

『シガルが行くなら行くぞ』

「そっか。クロト君は?」

「・・・一緒に行く」

「じゃあみんなで行こっか」


グレットの世話を皆でしに行く。ただそれだけの事なのに、シガルが嬉しそうだ。

そんな、なんでも無いやり取りをして、食事を終え、平和にグレットの所に向かう。




と思っていた。





「兄貴!そこにいるのは兄貴じゃないっすか!」


聞き覚えのある声が、食堂に響く。振り向きたくない。すっげー振り向きたくない。

だが俺のそんな気持ちを無視するように、どたどたとこちらに向かって来る足音。こっち来んな。


「タロウさん、こっちに来る人が居るけど、タロウさんの方向いてない?」

「・・・お父さんの方見てると思う」


間違いなく俺を見ている人物がいるのに、俺が一切反応しない事に、シガルとクロトが疑問を口にする。

いや、まあ、解ってる。解ってるさ。解っちゃいるけど見たくないんだよ。

因みにハクは知ったこっちゃなくまだ食ってる。

食堂内は現れた人物が人物なせいでざわついている。そりゃそうだ。だって貴族様だもんよ。王族だもんよ。


「やっぱり兄貴だ!お久しぶりです!」


俺の真横まで来て、俺の顔を覗き込む男。俺を兄貴と決めた男。トレドナがそこにいた。

やっぱりお前だよな。うん、知ってた。つーか、やっぱ来てたのね。


「・・・久しぶり。元気そうだね」

「はい!兄貴もお元気そうで!」


俺が明らかに面倒くさそうに返事をするのも構わず、元気よく返事するトレドナ。嬉しそうだな。

正直、そんなに喜ばれる対応した覚え無いんだけどな。


「タロウさん?」


小声で名前を呼び、トレドナの死角からくいっと袖を引くシガル。

ああ、紹介しないとな。


「えーと、こいつはトレドナ。グブドゥロって国の王子」

「王子様?え、タロウさん、その態度は、不味くないの?」

「こいつが望んでることだから」


本人に王子として扱わないでほしいと言われたからなー。今はもう考えが違っているかもしれないが、少なくとも当時はそういわれた。

なのでとりあえずそのままの態度で接する。


「グブドゥロ王国第一王子、トレドナ・ボル・グブドゥロだ」


トレドナはシガル達に顔を向けると、さっきまでの俺にしていた態度とは打って変わって、背筋を伸ばし、王族然とした態度で名乗った。

そんなトレドナに、彼女たちを紹介するべく口を開く。


「んで、彼女は俺の婚約者」

「初めまして、殿下。シガル・スタッドラーズです」


シガルは椅子から降り、ちゃんと立って、キチンと礼をする。

その言葉を聞いて、トレドナが一瞬固まり、復活するとその場で膝をついた。


「兄貴の伴侶となられる方とは露しらず、御無礼を!どうか御容赦を!」

「え、ちょ、え、た、タロウさん」


いきなり膝をついて謝るトレドナに狼狽え、俺に助けを求めるシガル。そりゃそうだな、うん。

つーか、周りの視線が痛い。さっきの時点で痛かったのに、こいつが膝ついたせいで、もっとすごい事になってる。


「トレドナ、シガルが困ってるから立って」

「ういっす!すみません!」


俺の言葉に素直に従い、立ち上がるトレドナ。

なんでこいつは、俺と会話すると三下その3みたいな感じになるんだ。


「すみませんした!これからよろしくお願いします!」

「あ、えっと、その、はい」


さっきの王族の態度が完全に無くなり、三下雰囲気でシガルに頭を下げるトレドナ。

シガルは戸惑いつつ応えている。真面目に対応すると疲れるよ、多分。


「んで、こっちは俺が面倒見ている子で、クロト。一応俺の子って事になってる」


身分証、完全にタナカになってるからね。

クロトは俺の言葉に続いて、ぺこりとトレドナに頭を下げる。


「そ、そうなんすか。お子さんすか」


驚きの種類が違うのか、少々狼狽えている。どう接すればいいのか分からないのかもしれない。


「んで、こっちは俺の友人。ハクだ。竜だから、お前よりかなり強いから気を付けろ」

『なんだ、呼んだか?ん、だれだこいつ』


ハクは名前を呼ばれて、初めてトレドナを認識する。一心不乱に食ってんじゃねえよ。


「まあ、こういうやつだから、気にしすぎなくていいけど」

「竜って、まさか真竜っすか?」

「うん」

「・・・なんで亜人の姿なんすか?」

「竜の姿だと、色々困るだろ」

「・・・そうっすね」


トレドナは、ハクを紹介すると急に静かになってしまった。どうしたんだ。

もしかしてこいつも、亜人嫌いだったんかね。もしそうなら、考え直してほしいけど。


「やっぱ、兄貴はすげえな・・・」


あ、違う、なんか見当違いの事考えてる言葉だあれ。

しっかし、なんでこいつ食堂に来たんだ。フェビエマさんはついてきてないのかな?

とりあえず、ハクはもうすぐ食べ終わるし、グレットの世話しに行こ。

こいつ付いてきそうだな・・・。

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