第344話お城に向かいます!

「なんか、悪い事した気分だ」


城への道中に、思わず呟きが出た。


「気にしなくていいよ」


俺の呟きに、シガルが答える。何が有ったかって言うと、親父さんの事だ。

昨日でクロトにべったりになった親父さんは、家を出る際に、俺達の用事が済む間だけでも、クロトとシガルが家に居る事を望んだ。

けど、二人とも答えはNOだった。


「あたしはお姉ちゃんの邪魔にならないなら、ついてくつもりだったから」

「・・・僕も、お父さんと、お母さん達についてく」


と、二人とも断り、親父さんの表情はまさに絶望と言うのが相応しい表情だった。

その後ヘイトが俺に向いたのは言うまでもない。そしてシエリナさんの鍋が火を噴いたのも言うまでもないかな?

親父さんには八つ当たりされても腹が立たないんだよな。まあ、なんか感じる所が有るからなんだけどさ。


「シガルはさ、なんでそんなに親父さんにきついの?」

「だって、ちゃんと言わないと、お父さん自分の良いように、無茶苦茶するとき有るもん」

「えーと、具体的には」

「昔友達と喧嘩した時、お父さん大剣抱えて走ってった事有るよ」

「・・・相手、男?」

「女の子。相手の子の家で、お母さんに叩かれて帰ってきた」


親父さん、気持ちは分かるけど、やりすぎだよ。それはダメだよ。その上相手女の子って、物理的に反撃しに行っちゃだめだよ。

子供の喧嘩に親が出ることはするなとは言わないさ。出なきゃいけない時だって有る時は有るもんだ。

けど、それはダメだよ。


「私の誕生日に、高級店貸し切りにしたりもあったよ。あの時はお母さんが忙しくて止める人がいなかった」

「それは、なんていうか、シガルが可愛かったから・・・」

「それは嬉しいよ。親として、あたしを愛してくれてるんだなって思うよ。けど、それはそれで、抑えるべきところはちゃんと抑えてくれないと。お父さんは誰かが止めないと、そのあたり止まらない人なの。

だから気が付いたら、こういう感じになってただけで、別にお父さんの事、嫌いじゃないんだよ?」

「あー・・・まあ、親父さんの事、嫌いじゃないなら良いか」


そうか、親父さん、色々やらかした結果、あのシエリナさんとシガルの対応なのか。

それは、なんていうか、ちょっと擁護のしようがないかもしれない。娘思いと言えば娘思いだろうが、やりすぎちゃその娘に迷惑だ。


「まあ、世の中、娘持った親父ってのは、少し過激になるもんだ」

「お姉ちゃんのお父さんもそうだったの?」

「あたしは、親父とは少し仲が悪かったな。親父はあたしに、女らしくしてほしかったみたいでな。

けど、この通りだ。そりゃあもう、何度も何度も喧嘩したぜ?」

「え、でも、お姉ちゃん、女性らしい振る舞いも出来るのに」

「セル達に教えられて覚えたからな。結構後なんだよ、これ身につけたの。だからあたしが技工に心血注いでる姿は、親父にとっては気に食わなかったらしい。お袋はそうでもなかったけどな」


女らしくか。確かにイナイの素の動き言動は、女性らしいとは少し遠い。

勿論根っこの部分はとっても面倒見のいい優しい女性だけど、最初の印象は『姐さん』って感じだ。

とはいえ、普段のイナイの振る舞いが完全に女性らしくないかと言われれば、全くそんな事は無いと思う。

単純に、イナイの口調が好きじゃなかったのかな。


「まあ、心配もあったんだとは思うんだよ。後で思うとな」

「心配?」

「おう、嫁の貰い手がねえぞ、ってな」

「あはは、なるほど。でも、お姉ちゃん可愛いし、その気になれば見つかったと思うよ?」

「当時はその気がなかったから心配されたんだよ」


そうか、嫁に行くことを考えての事なのか。でもイナイは完全に美少女だし、シガルの言うとおり、その気になればいつでも相手は見つかったと思う。

それに、そういうのは、その気が有っても、相手が見つからないなんて事もよくある話だと思う。

あー、でもこっちだと、結構幼い頃に結婚は普通に有るのか。以前シガルも、シガルの年齢位で子供産んでる国もあるって言ってたし。


『人族の父親は、みんなあんな感じなのか?』

「あはは、みんながそうじゃないよ」


あの親父さんを父親の基準とは考えない方が良いと思うなぁ。ていうか、ハクは子供たちと遊ぶ機会多かったんだし、その親とも会う機会もあったろ。

もしかして親の事は頭からすっぽ抜けてる?


そんな感じで雑談しながら、城へ向かっている。あのバカでっかい城、どうやって作ったんだと言いたい。

ただ近づいて分かったんだけど、作りがそんなに凝って無い。質実剛健と言うか、でかさと頑丈さは有りそうなんだけど、煌びやかさはあんまりない。

凝った柱とかも無い、ごくごくシンプルな作りだ。


因みに初めて王都で転移装置使いました。

王都の転移装置が有る所に行ったんだけど、その装置がまたデカい。一部屋分のでかさの転移装置があり、グレットも込みで全員で転移出来た。

王都内だから安かったのか、料金もさほど高くなかった。安いご飯一食分ぐらいかな。


ただ、やっぱりクロトに効果が無かったので、同じところに戻って、途中までグレットに乗っての移動になった。

申し訳なさそうなクロトに、こっちが申し訳ない。クロトは別に悪くないのよ。こっちが試してみようとしたんだから。

前の宿でもそうだけど、やっぱりクロトは装置でも無理なのかな。


しかし城がでかい。このでかさは、力を示す一つの形なのかもしれないな。この世界は、こういう目で見て分かり易い物が有る方が、その力が見えやすそうだし。

まあ、俺の世界でも、危険度の判断という意味ではあまり変わらんか。武力をどれだけ持っているのか、なんてのは大体世間に知られるもんだし。


いや、状況が違うな。家に居ながら世界の情勢が入ってくる時代に俺は生きてた。けど、この世界は、知ろうと思わなければ、他国の情報なんか詳しく入ってこないだろう。

それを考えれば、このでかい城は、住んでる人間を安心させるための物も有るのかもしれない。

これだけの事が出来る国に住んでいるのだと。


城の門にたどり着くと、またこれがデカい。

巨人でも通れないようにしてんのかと言いたくなる門と城壁だ。

イナイは門の前で警備している兵に挨拶をして身分証を出すと、兵士の一人が慌てたようにちょっと離れたところにある、小さな扉の横のボタンを押す。

すると、その横から声が聞こえた。多分技工具だろうな。


『どうした』

「ステル様がお見えです」

『直ぐ開ける』


その言葉の後に、カチッと音がした。扉の鍵が外れたのかな?

遠隔でやれるのか。益々この国の技術意味わからんな。いや、魔力を使って動力を確保してる上に、その魔力が割と何でもありで使えるからこそなのかな。

とはいえ、技工具にその機能を加えるのは、それ相応の道具に対する知識と技術か、魔術の技量か、どちらかが無いと不可能なわけだけど。


そうか、イナイはそのどちらもを持ってるからこそなのか。今更気が付いたよ。

イナイは、技術面、知識面でもしっかりとした物を持っている。その上で魔術師としてもかなりの技量を持っている。

だからこその、技工士の頂点、か。


鍵の開いた扉を兵士さんが開け、中に誘導される。小さいとは言っても、正面門がデカすぎるだけで、グレットが通れるぐらいデカい。

中に入ると、綺麗に整備された庭が広がっていた。ちょっと離れたところにテーブルと椅子が設置されているけど、庭で休憩とかするのかな。


中に入ってからも兵士さんが居て、その一人の誘導で城に入る。が、その前にグレットはちょっと兵士さん預かりとなった。

そうよね、そりゃそうなるよね。


「ちょっと待っててね」


シガルがグレットを撫でて言うと、大人しく門の内側を警備している兵士さんの傍に座る。側に来られた兵士さんは若干腰が引けてる気がするのは気のせいだと思っておこう。

今度こそ城に入った俺達は、クッソ長い通路を進んでいくのかと思ったら、城の中にも転移装置が有った。

城内のみの移動に使える物らしい。兵士さんの案内はここで終了なようだ。


「用事が有る所まで案内されるのかと思った」

「場合によるな。ブルベに用が有る時なんかは、文官の兄ちゃんらに話し通して、案内してもらう形になる。一応これでもそれなりの身分だからな。城内自由に歩くぐらい、特に咎められねえよ」


そりゃそうか。大貴族様が城内歩くぐらい普通か。普段のイナイ見てると時々忘れそうになるけど。

イナイはそのまま装置をスルーして、俺達もそれについて行く。クロトがいるからね。


結構歩いて辿り着いた先の、とある扉をノックする。

中からは金属や木材を叩く音、切る音なんかが響いている。何の音だろ。


「聞こえてねえな」


イナイは呟くと、扉を開ける。中は、色んな道具や材料が沢山ある、大きな部屋だった。扉や通路からは想像できないほど広い工場。城の中に工場ってなんだよ。どういう事だよこれ。

中で作業をしていたのであろう人達は、イナイを視界に収めると、跪いて頭を下げた。


「手を止めないで。作業を続けて下さい。フェンは奥ですか?」

「はっ、筆頭補佐は奥に居られます!」

「そうですか、ありがとう」

「はっ」


イナイに礼を言われた技工士は、声音から物凄く嬉し気な気配を感じる。

イナイさん、人気だなぁ。


「皆、行きますよ」


シガルはキョロキョロと楽しそうにしているハクの手を引いて、イナイの後について行く。

俺もクロトをつれてついて行く。なんか家族の仕事場に遊びに来た感じじゃなかろうか。

イナイは、奥の扉はノックせずに中に入る。中には飛行船で会った技工士の男性と、イーナさんが居た。

なるほど、だからノックしなかったのか。

フェンさん、だったよね。


「フェン、お疲れ様です」

「はっ」


フェンさんは、イナイが入ってくる前から跪いていた。まあ、そこにイナイいるからね。入ってくるの解ってるからね。

イナイの話だと、イーナさんの正体は、技工士の中では彼だけが知ってるらしいし。


中は完全に事務所内といった感じだ。何やらファイルが詰め込まれた感じの棚やら、書類が積まれたテーブルやらと、いかにもな感じだ。

そういう所で働いた事ないから、詳しくは知らんけど。


「まずは立ち上がって下さい」

「はっ」


イナイの言葉でやっと立ち上がるフェンさん。この人イナイへの忠誠心と言うか、尊敬と言うか、そういう気配が相変わらず凄い感じる。

ただ上の人に頭を下げてるって感じじゃないんだよな。喜々として従ってる感じだ。


「では、行きましょうか」

「はっ」


フェンさん返事しかしてない気がする。でもその返事が嬉しそうだなぁ。

しかし、やる事有るにしても、何をやるとか、どうするとか、既に話し合ってるんだろうか。

ああ、そうか、さっき自分でも分かってたじゃないか。イーナさんが居るんだから打ち合わせなんて済んでるよな。



その後、俺達は完全に家族の仕事ぶり見学状態だった。

城内で開くパーティーに使う道具類は勿論、城の増設したらしいキッチンの出来やら、城内の警備の道具の設置場所からの反応具合など。

果ては大型の楽器なんかの調整もしていた。


あと、あの飛行船、城から歩いて入れる場所をわざわざ作ったらしい。おかしいな、あれからそんなに日にち経ってない筈なんだけどな。

勿論飛行船を完全に降ろせるわけでは無いけど、城の上部から、飛行船に歩いて行ける広場が在った。


その後も色々と城内を歩き回って、色んな人に挨拶しつつ、点検を行っていた。

ただ、基本点検ばっかりだし、イーナさんじゃ駄目だったのかと疑問に思い、イナイに聞いてみた。


「お前な、最近入って来た新人が全部点検したって言って、誰が信用すんだよ」


と言われてしまった。一応イーナさんは実力は有るものの新人扱い。

彼女が大丈夫といった所で、皆が納得するわけはないとの事です。そうっすね。すみません。


そんな感じで点検をしていたけど、今日したところは半分にも満たないらしい。

3日程かけてやるらしいので、今日は城に泊まる形になった。

明日はついてこずに城の見学でもしてきたらどうだと言われたので、そうしてみようかな。

そんなに此処に何回も来る機会無いと思うし。

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