第342話シガルの帰宅です!

「なんか、帰って来たーって感じがするなぁー」


シガルが家への帰路を歩きつつ、そう呟く。シガルは物心ついた時から王都に居たと聞いている。

年齢的に、赤ん坊のころはこの街に居なかったかもしれないが、少なくとも2,3歳の頃は既にこの街に居たという事だ。


育った街を離れて旅をする。なんて事をするにはまだシガルは若い。

短い期間だったとしても、とても懐かしく感じるだろうな。

俺も樹海の家懐かしかったし。


「この辺は、最近あんまり変わんねえな」


イナイは歩き方こそ綺麗だが、言葉は普段通りだ。周りがざわついているので、傍に居る俺達にしか届かないので問題ない。

なんでかって?そりゃ勿論ステル様が歩いてるからっすよ。周りはかなりざわついてますよ。

貴族とか、こういう時大変だなぁ。俺、自分を作るにも限界がある。まあ、イナイは俺達の前では最近はちょと抜けてるとこ見せるけどね。


後グレットのせいも有ると思う。めっちゃでかいからこいつ。ハクも居るしな。

なんか聞いた話、翼が有る種族って珍しいらしいし。そもそもハクの翼は、まんま竜の翼だし。ちっちゃいけど。

最近は、背中ががっつりあいた服以外も良く着るな。きにくくないんだろうか


そういえば、シガルの家に挨拶に来たときも、結構ざわついてたな。

あの時はあんまり気にしてなかったんだよなぁ。今じゃイナイは凄いお偉いさんなんだって知ってるけどさ。

まあ、王都を歩く以上、慣れないといけないだろうな。この状況が嫌だなんて言ってたら、イナイと歩けないし。


「あはは、そうだね。あたしが5歳ぐらいの時、かな?あの頃はお店とか、住んでる人とか、凄い入れ替わってた時期が有ったもんね」

「よく覚えてんな。ああ、シガルはまだそんなに昔の事じゃないもんな。あたしはもうそんな昔の事はおぼろげだよ」


二人はここに住む人間にしかわからない会話で楽しんでいる。ここに住んでいるわけじゃない俺としては、ちょっと寂しい。

俺も5歳の頃の記憶ってーと、印象に残ってることしか覚えて無いなぁ。じいちゃんと川に釣りにいって、米粒で釣ったりとか。あのせいで釣りが楽しくなったんだよな。

ただ、本格的に始めるわけじゃなくて、完全に素人の趣味の範囲だったけど。


今日はクロトも歩いてるので、のんびり歩いている。一歩がデカい筈のグレットは、良くちゃんと同じペースで歩くよな。

ちらちらシガルの顔を見ながら歩いてるのを見ると、散歩して飼い主を見る犬のようだ。どう見てもネコ科なのに。


「ハク、後で好きに歩いていいから、今はうろちょろしないでくれよ」

『解ってるよ』


一応楽し気な二人を邪魔しないように、今日はハクの面倒役を買って出る。物珍しいんだろうと思うけど、凄いきょろきょろしててどっか行きそうなんだよ。

シガルも久々に帰ってきたからか、少し気が抜けてる感じだし。






しばらく歩いて、シガルの家に着く。結構歩いた気がするけど、歩くペースがゆったりだったからかな?


「お母さん、居るかな」


シガルがそう呟きつつ、家についてる呼び鈴を押す。前に来た時、何ら違和感なかったけど、普通に呼び鈴有るんだよな。

他国行ったから理解できるけど、この国の技術水準と他の国の技術水準に隔絶した差が有ると思う。

ポヘタに、あんな普通の呼び鈴なかったもん。あの農業国にも。そういえば、あの農業国の名前なんだったっけな。ギレバなんとかだった気がする。呼ぶ機会がほぼ無かったので思い出せん。

一応メモ帳が有るので出せばわかるけど、記憶に残ってないや。


暫くすると、家の扉が開く。が、現れた人物はシガルの母でも父でもない若い女性だった。

誰なんだろ。


「ただいま!」

「あらあら、お帰りなさい。よかった、元気そうね」


シガルはその女性に元気よく帰りの言葉を告げる。女性もにこやかに答える。

もしかして親戚か、俺が知らないだけでお姉さんとか?

ただその後、グレットに目線が行くと、少し驚いて後ずさった。まあ、驚くよね。


「あ、大丈夫だよ。この子は私が飼ってるの」

「そ、そうなの。すごいわね」


女性は驚きつつも、シガルの説明で納得する。アッサリ凄いで済ませられるあたり、シガルの凄さを知ってるんだろうな。

その後、すっとこちらに目線を向けると、シガルが口を開く。


「あ、タロウさんは会った事無かったよね。お手伝いさんのメラさん。前に来たときは一応ステル様の前だからって、家族だけだったんだ。

迎えに来た時も居ない日だったから、顔合わせる機会なかった、よね?」


最後、確かそうだよねと言った感じで、女性の方に首を傾げるシガル。

女性はそれに頷き、少し前に出た。


「お初にお目にかかります。スタッドラーズ家の家事の手伝いをさせて頂いております、メラ・ヘレスと申します」


そういって、メラさんは丁寧にスカートを握って礼をする。これ見るのもなんか久々な感じ。

あ、そういえばこの国は女性の礼はこのスタイルって事は、従者さんもスカート姿なのかな。

しかし、お手伝いさんというには、身なりがしっかりしている感じがする。服装から、どこぞの貴族様って言っても通じそうだ。


「あ、初めまして、タナカ・タロウです」

『ハクだ!よろしく!』

「・・・クロトです、初めまして」


俺もそれに応えて、うろ覚えだけど、ウムルのちゃんとした礼をする。横でイナイも同じく礼をするが、言葉は発さない。

ハクさんはいつも通りです。はい。クロトはぺこりと頭を下げた。何故かグレットもがふっと吠えた。


「親戚のお姉さんなんだ。お母さんが仕事に行くから、居ない間に私の面倒を見てくれる人をって探してた時に、手伝ってくれるって言ってくれたの。それから私の手がかからなくなってもずっと家に来てくれてるの」


なるほど、親戚の人だったのか。それで何となく気安い感じだったんだ。でも苗字は違うんだな。


「今日はお母さん仕事だったんだね」

「ええ、帰ってくると知っていれば、出かけなかったとは思うわ」


どうやらシエリナさんは今は家に居ないらしい。挨拶に来たつもりだったんだけど、居ないんじゃ仕方ないかな。

どうしようかとシガルに目を向ける。


「とりあえず中に入ろ?」

「そうですね、どうぞお入りください。お茶のご用意を致しましょう」

「あ、あたしはグレット庭に連れてくね」


シガルの言葉にメラさんは応え、俺達を招き入れる。

素直に付いて行き、前に親父さんと顔合わせをした部屋に招かれた。


「では、お寛ぎください」


俺達を部屋まで通すと、そういって部屋から出て行くメラさん。さっきの通り、お茶の用意でもしに行ったんだろう。

その後直ぐにシガルも戻ってきた。


「お母さん達、夕方には多分帰ってくると思うから、今日は泊まってかない?」

「俺はそれでもいいよ。皆は?」

「構わねえよ」

『いいよ!』

「・・・僕もいいよ」


皆それで構わないみたいだ。イナイは何時頃行くんだろ。まだ少し時間が有るとはいえ、大丈夫なのかな?

まあ、昨日そんなに焦る必要なさそうな事言ってたし、大丈夫か。

そんな感じで今日はシガルの家に泊まる事になった。シガルも久々に家族に会えるんだし、その方が良いよね。

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