第339話少し懐かしく感じます!

「なんか、久々だね、この感じ」


ここ最近、この感じが無かったせいか、ちょっと懐かしく感じて呟く。


「だねー」

『そうか?』


俺の呟きに、シガルとハクが答える。何が久々かというと、組合に来ております。すげーこっち見て、ざわざわしてる。

ハク的には、喋ると驚かれるから、あんまり差は無いのかもしれないな。

クロトも付いて来ているが、ぽけーっとしております。クロト的には全然気にならないらしい。いや、表情が良く解らんのだけども。

イナイは今日は何か大事な話があるとかで、どっかに出かけて行った。なので技工剣に関しての話はまだ聞けてない。


「グレットがいるせいも有るのかも」


シガルがグレットを撫でながら言うのを見て、なんとなく納得する。


「そうかもしれない。草食だと思ってても、この大きさはちょっとね」


普通のサイズが実際どれぐらいなのか知らないが、グレットはかなりデカい。動物園で昔見た虎のサイズなんか目じゃない。

皆どこか遠巻きだ。やっぱ怖いよな、普通。俺多分、その辺ちょっと鈍ってる。リンさん達のおかげであり、リンさん達のせいだ。

いやまあ、正面にいきなり立ったりすると、やっぱりちょっと怖かったりするんだけどね。


「さて、シガル」

「なに、タロウさん」


因みに俺達も、好きでじっとしているわけじゃない。ちょっと困った事が有って、どうするか悩んでいる。


「・・・読める?」

「読めないねー・・・」


俺とシガルは、掲示板のような所に張られている物を見て、二人してそれが理解できないでいた。

習った文字と違う。なにこれわかんない。


「この辺、言葉通じるよね」

「うん、ウムルの言葉通じるよ」


ポヘタは勿論、この国も、ウムルで教えて貰った言葉は通用する。アロネスさんの話では、大陸で広く使われてる公用語と言っていた。

南の方に行ったりすると、全然通じない国も多々あるらしいけど、少なくともウムルの周辺は基本通じると聞いている。

だから文字も同じかと思っていたら、ここには全然違う文字が書かれていた。ポヘタの文字は読める文字だったのに。


「普通、公用語有るなら、文字もそれで書くもんじゃないの?」

「その辺はあたしも分からないなぁ。組合の中をちゃんと知ったのだって、旅に出てからだし」


どうやらシガルにも理由は分からないようだ。うーん、やっぱこれは、この土地の言葉で書かれてると理解するのが妥当だよな。

てーなると、自分達には読めないし、誰かに頼むしかないのかな。職員の人に聞くかなぁ。

なんて考えていると、クロトに袖を引かれる。


「・・・お父さん、僕、読めるよ」

「え、読めるの?」

「・・・うん、読める」


頷くクロトに驚きつつ、何で読めるのか疑問しか無い。

クロトがどれだけの間寝てたのか知らないけど、かなり長い時間がたってるのは間違いない。

それなのに文字が変わらないなんて、有りえるんだろうか。


「読める理由とかは、解る?」

「・・・解んないけど、読める」


気になって聞いてみたが、やはり本人も理由が分からないようだ。謎だらけだなぁ。

時間がたてば少しずつでも謎が解けるかと思ってたら、クロトは知れば知る程謎が深まっていく。

ハクに対して言ってた言葉や、時々呟く言葉の真相も全然分かって無いし。


「まあ・・・いいか」


とりあえず今考えても仕方ないし、読めるならクロトに頼むとしよう。


『私も読めるぞ?』


クロトに読んでもらおうとしたら、ハクも読めると言って来た。


「あれ、そうなの?」

『読めるようにできるって、前に言っただろう』

「ああ、そういえばなんかそんな事言ってたな。魔術で読むんだっけ」


あれ、てことは俺も出来るのか?試しにやってみよう。

周りを驚かさないように、ちゃんと隠して魔術を使う。竜の魔術を使って、文字の意味を読み解こうとする。

すると、その意味が確かに解った。なんて書いてるのか理解できた。けど、解るだけで、文字の規則性とか、どう書けばいいのかは解らん。

時間かければ翻訳できそうだけど、やる気は起きないなぁ。


「これ、普通の人間の魔術でも出来るのかね」

『知らない。私、そっちは使った事無いもん』


そりゃそうか。竜の魔術しか使わないもんな。試しに、竜の魔術と同じように人間の魔術でやってみたら、読めなかった。

というよりも、魔術そのものが発動してない感じ。魔力だけ無駄に消費されてる。

竜の魔術は周りの魔力も必要だし、その辺が何か働きが違うのかな?


「それにしても不思議だ。竜の魔術ってこんなに便利なのに、なんで誰も使わないんだろ」

「多分普通は、そんな気軽に使えないからだと思うなぁ」

「イナイも使ってるよ?」


俺の呟きに答えたシガルにイナイの事を言うと、びしっと鼻先に指をさされた。


「イナイお姉ちゃんも普通じゃないからね。お姉ちゃん、技工士なのに純正の魔術師名乗ってもいい位、魔術の技量高いからね」


結構真面目な声音で言うシガルの表情は、なんか納得いかなそうな表情だった。何故だ。


「シガルも使えるんじゃない」


今シガルは、俺と同じように試していた。ちゃんと見てましたよ。


「・・・今やってみたけど、物凄い制御が大変だよ、これ」

「あれ、そう?強化魔術使うのと同じ感じで行けない?」

「タロウさん、その竜の強化魔術を当たり前に使える時点で、普通はおかしいからね」


段々攻めるような目になってきているシガル。そんな目をされても困ります。私特に難しいことしてるつもりないのよ。

ぶっちゃけ制御そのものは、セルエスさんの魔術妨害の中で構成する方が、よっぽどキツイ。

そもそも魔術がなっかなか出来上がらないからなぁ、あの人にやられると。

それでも、ミルカさんとの訓練とか見てると、すっげー手加減されてるのが理解できてしまうんだよなー。


「確かに、普通の魔術よりは少し制御に気を遣うけど、そこまで違うかなぁ」

「調教されてる動物に乗るのと、野生で暴れてるのを乗りこなすのぐらい違うよ」


どうやらシガルには、竜の魔術はまだ手に余ってるらしい。でも知ってるんだぜ。彼女この間、2重強化こっそりやってたんだぜ。

俺は知らないと思ってるんだろうけど、ばっちり見てたんだぜ。マジ半端ないわこの子。俺と違って完全自力なんだぜこの子。


まあ、なんか内緒っぽいし、黙っとくけど。


「まあ、それは良いとして、何か面白いものある?」


シガルは自分で見るのを止めて、俺に聞いてくる。見た限り、面白そう、という様な物は無い。

畑の監視や、害獣を追い払う仕事が殆どだ。うん、仕事の殆どが作物がらみだわ。

作物がらみの仕事は、どの街にも必ずあったけど、規模が違う。殆どが作物関係だ。

出荷の護衛とか有るな。なんか、強行軍でも文句を言わない人募集とかいうのも有るけど、どういう事なの。


「特に目を引くのは無いかなぁ。殆ど作物関連の仕事って事を除けば、特に珍しそうな物もないかな」

「そっか、じゃあ何か時間がかからなそうな仕事やってく?」

「そうだなぁ」


うーん、どうしよう。なんかこれと言って面白いもの無いし、普通に無難なのやるか。


「な、なあ、あんたら、これの飼い主なんだよな」


悩んでいると、どうやら誰かが俺達に声をかけたらしく、俺は声の主の方に顔を向ける。少年と、その後ろに少女が隠れて立っていた。

二人ともシガルより小さいな。

これって言うと、多分グレットだよな。


「そうですよ。正確には彼女が飼い主です」


シガルの肩をポンと叩き、肯定をする。


「い、妹がそいつに興味があるみたいで、そ、その、触って大丈夫かな」


少年が、少し恐々とした感じで、グレットに触っていいかと聞いてくる。確かに少女の視線はグレットにちらちら行っている。

そっか、お兄ちゃん、怖いのに頑張ったわけだ。


「うん、いいよ。ほら、グレットこっちきて」


シガルは、グレットの顔を優しく招き、二人の傍に頭を下げさせる。


「撫でてあげて」

「う、うん」


シガルの言葉に、少女は恐る恐る手を伸ばし、グレットの頭を撫でる。するとグレットはグルグル鳴きながら少女の手に顔を擦りつけた後、ペロンと彼女の顔を舐める。


「ふひゃっ」

「わ、だ、だいじょぶか!?」


少女は驚き、尻もちをついてしまった。少年は心配しているが、腰が引けている。やっぱ怖いよな。

でもちゃんとグレットとの間に入る当たり、お兄ちゃん頑張ってる。


「ごめんね、驚かせるつもりは無かったと思うの。許してあげて」


少女を起こしてあげて、謝るシガル。まあグレット的にはじゃれついただけだろうな。

けど、図体がデカいから、驚いてしまうのも無理はない。


「う、ううん、ごめんなさい、大丈夫です」


少女は謝るシガルに対して、自分が悪かったと謝る。無限ループしそう。


「うーん、じゃあ、これはお詫びに」


シガルはそんな少女を抱え、グレットの背中に乗せる。すると少女は驚きつつも、嬉しそうな表情でグレットの背中を撫でる。


「ふかふかだぁー」


嬉しそうに笑う少女を見て、心配しつつも少年も少し乗りたそうにしている気がした。


「君も乗ってみます?」

「い、いいの?」

「ええ」


俺は少年を抱え、グレットに乗せてあげる。


「わ、わ、すごい、高い、ふかふかだ」


少年も、少し興奮した様子で、妹と一緒に普段と違う視界と、グレットの毛皮を堪能している。

その光景を微笑ましく眺めていると、後ろから職員に声をかけられた。


「申し訳ありませんが、他の方も見られますので、少し場所を動いて頂いてもよろしいですか?」

「あ、すみません」


邪魔だと叱られてしまった。そうね、ただでさえグレットがデカいもんね。

組合は色々入れる為か、出入り口大きいのと、別に従えてる動物も一緒に入っていいらしいとはいえ、ちょっと周りを見なさ過ぎたか。


職員の人に謝って、ちょっと離れたところにいた組員の人達にも謝って、端の方にみんなで避ける。

その際二人にはそのまま乗ってもらって移動した。二人とも興奮していたのは言うまでもない。








「あの、ありがとうございました」

「ありがとう、兄ちゃん、姉ちゃん」


丁寧に礼を言う妹と対照的な感じで礼を言う兄。最初の恐々した感じがどこに行ったのか、グレットの顔が真横に合っても、もう気にする様子はない。

妹の方は、まだ撫でてる。よっぽど気に入ったんだろうか。


「この辺じゃこいつ珍しくて、ポヘタの方まで行かないと普通は見れないらしいから。何よりこんなでっかいの初めて見た」

「うん、凄い、大きい。見た事ない」


二人の言葉に、ガフっと誇らしげに鳴くグレット。あれー?

なんで俺の時だけ良く解らないって反応で返すの?

馬の時といい、俺この世界の動物に好かれてないのかしら。あいつらには噛まれまくってるし。


二人の話を聞くに、どうやら組合に入っていく俺達、というかグレットを見て追いかけて来たそうだ。

妹ちゃんがふかふかした動物が好きらしく、グレットの毛皮にくぎ付けだったらしい。

怖いのは有ったけど、怖いより興味が勝ったらしく、声をかけてきたという事だ。

遠巻きに見てる人が多かったから、全然気にしてなかったよ。特に害意も感じるような動きじゃなかったし。


その光景を見ていたせいなのかどうか知らないが、なんか組員の大人たちも俺も俺もと撫でたがってきた。

どうやらみんな、興味があったらしい。職員の人もなんかこっち来てるぞ。ちょっと行けばポヘタなのに、そんなに珍しいのか。

なんかそんな感じで、仕事どころではない状態で、結局何もせずに帰った。

グレット君は流石に少し疲れたようです。今日は美味しい肉をあげよう。


ただ、近所の人や、組合の人とは少し仲良くなれた。ハクの事もそこまで気にしてない感じだったし、単純にグレットにビビってただけだったんだな。

やっぱ、ここの国の緩さは良いなぁ。

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