第338話一つ、見つけます!
「タロウさん、最近また何か悩んでる?」
朝の訓練の最中、俺の様子がよほどおかしかったのか、シガルが首を傾げて聞いて来た。
まあ、普段の訓練流し終わった後、結構長い事ぽけっと空見つめてる状態だったし、変だわな。
「うーん、ちょっとね」
結局まだ、解決策というか、今後の方針の様なものは見つかっていない。
竜の魔術と疑似魔法は、系統が違うからこその重ねがけが出来るけど、系統が違うから重ねられるっていう、その理由もいまいちわかってない。何となくやったらできたから使ってるだけだし。
その辺が解れば、少しは違って来るんじゃないかなって思うんだけど。
仙術が並行で仕えるのは、根本的に使ってるもの自体が違うからだし。
「あたし達には言えない事?」
シガルは休憩なのか、俺の隣に座る。いや、単純に俺の様子が気になったんだろうな。
「別にそういう訳じゃないんだけど、なんか、どうしたらいいのか解らなくなってね」
「何か、有ったの?」
俺の言葉に心配そうに聞いてくるシガル。なんか、かなり深刻な悩みだと思われてる雰囲気がある。
「あー、いや、なんていうか、俺さ、ミルカさん達に追いつこうとしてる訳なんだけど、薄々分かってた弱点、自覚してね」
「弱点?」
「うん。弱点」
「・・・タロウさんに?」
シガルはなんだか、物凄く納得いかない顔になっている。眉間に皺寄ってるよ。
「むしろタロウさんは何でも出来るから、純粋に力量が上回って無いと勝てない人だと思うんだけど」
何でもできる、という訳じゃない。出来る事は何でもやってみようとした結果なだけで、結局俺は中途半端だ。
勿論、技巧や、錬金術は楽しくて覚えたってとこが大きいけど。
それに、その力量、技術はともかく、純粋な身体能力の低さが俺の弱点だ。
「前にさ、俺はこの世界の人と違うかもしれないって言った話、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「最近、かもしれない、じゃなくて、完全に違うっていうのを確信できたんだ」
「どういう事?」
流石のシガルでも、この事は察せられないようだ。それはそうか。俺と同じ人間は、この世界には居ないんだから。
「俺の体さ、どれだけ鍛えても、この世界の人達みたいな身体能力は手に入らないんだ」
「・・・タロウさんの世界の人は、もっと身体能力が低いって事?」
流石シガル。少しの思考ですぐ理解してくれた。頭の回転早いなぁ。
「うん。少なくとも、この世界の強い人達を見てて、そう確信した。向こうの世界には、細身なのに自分よりデカい大剣振り回すお婆さんとか、馬より早く走る人間とか、有りえないんだよ」
「あれは、こっちの世界でも珍しいと思うけど・・・」
「うん、それが答え。珍しい、なんだよ。有りえないじゃないんだ。だから俺はきっと、ただ体を鍛えてるだけじゃ、追いつけない」
やっぱりシガルでも、珍しいという程度の事。ならやっぱり、俺は技を磨く事は出来ても、身体能力の向上は望めない。
なら俺が取れる手段は、魔術や、道具に頼る事になる。それを汚いとは思わないし、使える物は何でも使うべきだと思う。
ただ、何からやれば良いのか分からない。
「でもタロウさんの魔術、人とかなり違うし、強みだと思うけど」
「そうなの?」
「うん。少なくともタロウさん程、複数の魔術並行で維持して、平然としてる人は珍しいよ。お姉ちゃんも、並行使用してるのは凄いって言ってたし」
「あー、でもその点で言うと、セルエスさんはもっと凄まじいんだよなぁ」
あの人俺の倍以上並行で使えるし。そもそも根本的な魔術における魔力量がケタ違いだ。
「・・・あれ、今、何か引っかかった。んー?」
そいや、外に放つ魔術は、同系統でも追加で放てる。制御も特に問題ない。
でも、強化や補助系統は重ねると駄目。制御不可に陥る。
「・・・なんでだ?」
やってることは殆ど同じはずだ。放った後の制御もしないわけじゃないし、その場に固定するなら尚の事、制御する必要がある。
今までこの辺難しく考えてなかった。ただ言われるがままに、魔術の制御を徹底的に鍛えられただけだったからなぁ。
「何か気が付いたの?」
「うーん、分かったような、分からないような」
媒体が自分だと、同じ魔術はダメって事か?
「・・・あ、もしかして」
俺はふと、思い立ったことが有り、強化魔術を自分にかける。かなり弱めに、そしてその上から、強化魔術を強化する。
普段使っている強化魔術と同じぐらいになる様に、調整しつつ、気を付けてかけてみる。
「・・・制御できるな」
やってること自体は強化の2重掛けと同じ事だ。けど、普通に制御できてる。勿論精度的には普段の強化魔術と同じ程度だ。
「まあ、こっからが本番だけど」
元の強化魔術を、強化倍率をゆっくりと上げるように魔力を上げていく。すると、段々と魔術の制御がきつくなってくる。
魔力が、思った通りに流れない。段々と風船に割れない程度の小さな穴があき、空気が抜けていくような、力が外に漏れ出ている感覚が襲ってくる。
それと同時に、キチンと制御できていない反動で、体がきしみ始めているのが解る。
「あー、やっぱ単純に、そういう事か」
痛みを堪えながら、理解する。人間の魔術で、強化の二重掛けが出来ない理由。
単純に、自分の制御能力以上の強化魔術を使おうとしてるのと同じ事なんだ。だから制御不能に陥る。
強化魔術全力でかけて、その上から強化魔術。全力の2乗近い力を制御しようとしてたわけだ。無理だわそんなん。
竜の魔術と、疑似魔法が同時に使って平気な理由は、その力の引き出しが違うんだ。
竜の魔術も確かに世界から力を借りる。けど、その借りる力の種類が違う。魔力の質が違う。
疑似魔法は、そもそも完全に自身の魔力のみで構成する。世界の力の制御は必要ない。
だから制御そのものはそれぞれ別で行うし、同じ程度の制御を並行でやるだけで良い。現状何で4重強化が使えるのか初めて自分で解った。
魔術をゆっくりといて、息を吐く。
外に放つ魔術が問題ない理由は、単純に自分の体の中で使い続けているわけじゃないからだと思う。
強化魔術は、内に止めて維持し続けるものだ。それは常に流れ込んでくる世界の力の制御を続けなきゃならない。
外に放った分は、既にその場にある物だけで構成されているし、流れ続けてる魔力を注ぎ込んで維持しているわけじゃない。
魔術の維持自体は同じだけど、力の制御が無理なんだ。膨大すぎる力を制御できない。だから暴発しそうになる。
外に放つ場合は、最悪手放してもその場にぶっ放して終われるけど、体の内に止めてる物を放てば自分が爆散する。死んじゃう。
「でも、少し、見えた」
確かに全力で使ってからの強化は無理だ。けど、今ので光明が一つ見えた。やろうと思えば、今の全力の強化魔術より強化できる方法がある。
長時間やれば、きっと体がぶっ壊れるのが見える。けど、仙術を制御できてるんだ。自分の身体の負荷ぐらいは、自分で認識できる。
それに、俺の全力は、まだ全力じゃないってのも、今ので解ったし。
「うし、完全に解決したわけじゃないけど、まずは1つ」
後は、技工剣を使った場合だな。これはもう、イナイが暇なときに聞こうかな。技工剣の作り手のイナイなら知ってそうだし。
俺も作れるのは作れるんだけど、ちゃんとした理屈はさっぱりわかって無いのよね。
電池と豆電球と銅線で豆電球を光らせます的な感じで、細かい理屈は解ってないけど、繋げればできるよって理解だから。
「・・・やっぱり、タロウさん、普通じゃ無いよね」
「へ?」
さっきまでの俺の行動を黙って見ていたシガルが、そんな風に言ってくる。
そんな事言われても、もっと普通じゃない人達いるのに。
「駆け足な筈なのに、全然追いつけないや」
おしりをはたきながら、立ち上がるシガル。俺のさっきの行動は、シガルの目には異様な光景だったんだろうか。
けど、悔し気な声音とは裏腹に、その顔は笑顔に見える。
「まあ、簡単に追いつかれたら、立つ瀬がないので。今でさえ、シガルに寄りかかってるような物なのに」
「あはは、もっとよっかかっていいよ。あたしは嬉しいよ、その方が」
優しく微笑むシガルを見ていると、やっぱり敵わないと思う。
既に勝てない相手に、頼られる唯一の部分まで抜かれたら、私本当にどうすればいいのですか。
イナイさんには、はなっから勝てませんが何か?
「さて、とりあえず一つ先が見えたし、あれ止めに行こうかな」
俺は目の前で起こっている出来事に、意識を向ける。流石にそろそろ止めないとヤバそうだ。
『おいこら!真面目にやれ!』
「・・・やってるじゃないか」
怒鳴り散らしながらクロトを追いかけるハクと、冷たい目でハクの攻撃をかわし続けるクロト。
何でああなったのかは知らない。なんか気が付いたらああなってた。
『ちょこまか、逃げてる、だけじゃ、ないか!』
「・・・捕らえられないのが悪い。付き合ってるだけ良いと思え」
単語単語、実際は鳴き声ごとに攻撃を放つハク。だが、クロトはあまりやる気が無いのか、黒を全て、力を受け流すように使い、後ろに横に、けして前に出ずにいなしている。
体もかなり黒いし、あのままならいつまでも終わらない気がする。
「あはは、いってらっしゃい」
「いってきまーす」
シガルは、今回は止める気は無い様だ。手を振って俺を見送る。
あれの間に入るの気が重いなー。
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