第334話案内されます!
「お、見えた見えた」
グレットの背に乗って街道を走る事暫く、そこまでたいした時間もかけずに街が見えてきた。
あ、ハクさんは今日は飛んでます。グレットの横を低空飛行です。馬車とかが通ったときはいったん着地してもらってる。
そういえばでかいミミズが車を引っ張ってるのを見かけた。もしかしてこの辺だとあのミミズ一般的なのかとイナイにきいてみたら、多くは無いがいても不思議じゃないと言われた。
あれ、意思疎通できるのか。ぶちゃけ無知識だと結構怖いんだがあのミミズ。ばっかでかいし。
しかも思ったより速い。ミミズってもっと遅い生き物でしょう?
後グレットと似たような小型の虎とか、わんことか、猪ぽいのとか、爬虫類とかも居て、種類豊富だった。
ポヘタでは、犬みたいなのは見かけたけど、他は見かけなかったから、使える物は何でも使え感あってちょっと面白かった。
「上から見た時も思ったけど、こっちの方は、割と普通に街だね」
最初の村は完全など田舎だったし、次の街も森の中の街って感じで、特殊な街だった。
それに比べると、周りに山が多いものの、街までの街道は整備されてるし、国境地越えた向こうもそこそこに整備された道がある。
まあ、一部セルエスさんのせいで抉られてるけど。あれ誰か直すんだろうか。
「じゃあ、そろそろハクは歩いてもらった方が良いな。あたしらも歩くか。シガル、止めてくれ」
「うん、分かったー」
イナイがグレットを止めるようにシガルに伝えると、シガルはグレットの首元を軽く叩く。
それだけで、グレットはゆっくりと速度を落としていく。
「あれで伝わるのってすごいなぁ」
グレットは、特に訓練したわけでも無いのに、簡単な合図でこちらの意志を理解してくれる。
やっぱ頭いいなぁ、こいつ。
「普通は伝わんねーけどな」
その様子に出た呟きに、イナイが答えた。
それはグレットが普通じゃないという事なのか、シガル独自のサインなのかどっちだろう。
「あはは、ハクが居るからね。分かり易い合図、事前に決めたんだ。正式な合図とか知らなかったから」
「ああ、ハクに通訳して貰ったのか。なるほど。」
ハクなら意味というか、意思というか、大体の意志疎通ができるようだから、良い手だな。
ただ、それでもちゃんとそれを実行するグレットも賢いと思う。普通に車引いてた時も、イナイの指示ちゃんと聞いてたし。
『何時になったら私はお前の背中に座れるんだ』
止まったグレットから降りていると、ハクが唇を尖らせて不満気に漏らす。
でも一応座ったことは有るよね。
「座った事有るじゃん」
『震えて全然歩けて無かったじゃないか!』
ハクさんがご不満です。まあ、毎回一人だけ座れてないからなぁ。
そこでふと、案を思いついた。なのでそのままハクに伝えてみる。
「狩りの時みたいに、獲物に気が付かれないような感じで近づいてみたら?」
『やってみたらもっと怖がられた』
「・・・そっか」
既にやってたか。どうやら気配を殺す様な行動も通用しない模様。まあ、真正面から行く以上、無理か。
むしろ狩られるのかと怖がったのかもしれない。
「・・・僕も、降りる」
俺達が皆降りると、クロトがそのままで良いと言われたことに、自分も歩くと言い出す。
こないだも歩きたがってたよな。んー、流石に毎回大人しく乗っとけってのも可哀そうかなぁ。
「んー、歩きたい?」
「・・・うん。一緒に、歩く」
「そっか。じゃあ、歩こう」
クロトを抱えて、グレットから降ろすと、物凄く嬉しそうな表情になるクロト。ぽやっとした表情が多いから何ともレアだ。
珍しい満面の笑みだ。そんなに一緒に歩きたかったのか。
「じゃあ、ゆっくり行こうか」
「ああ、別に良いんじゃねえか?」
イナイの言葉にも嬉しそうにして、ぱたぱたと傍によるクロト。
なんか少し寂しい。最近クロトは俺よりイナイに向かう事が増えてる。
『あいつ歩かせると遅いのに』
「歩幅が違うんだから、仕方ないじゃない」
ハクがまた、不満そうに言うのを聞いて、シガルがなだめるような、諭す様などちらともとれる感じでハクに言う。
ハクは少し脹れながらグレットの尻尾をいじりながら歩き始める。グレットは尻尾を触られるたびにビクッとするものの、少し慣れ始めてるのか、シガルに隠れる様子はない。
この調子で慣れて行ってくれると良いんだけど。
そんなこんなでとりあえずクロトの歩幅のペースで街に徒歩で向かう。ゆっくりとはいえ、距離はもうそこまで無い。
そこまで遅くはならないだろう。
街の入り口らしい所まで来ると、入口周辺に兵士さんが立っているっぽいのだけど、なんか、ウムルの兵隊さんっぽい気が。
なんて思ってると、向こうも気が付いて、こちらに駆けてきて、イナイの前で跪く。
「失礼いたします。セルエス殿下の命により、宿の手配は済ませておきました。ご案内いたします」
やっぱりウムルの兵士さんだった。どうやらセルエスさんが宿を用意してくれた模様。
「ご苦労様です。では、お願いいたします」
「はっ!」
イナイはにこやかに応え、兵士さんは張り切った返事をした後、立ち上がり、先導して歩き出す。
歩き出すは良いんだけど、クロトのペースよりちょっと速い。クロトはついて行こうと速歩きだ。
ちょっとペース落としてもらおうかな。
「申し訳ありません、こちらには幼い子もいますので、少々速度を落として頂けますか」
「はっ、も、申し訳ありません!」
俺が何かを言う前に、イナイが兵士さんにゆっくり歩くように伝え、慌てたように返事をする兵士さん。
それは良いんだけど、膝ついて謝る程の事じゃないと思うよ。
「お立ち下さい。気にかけていただければ、それで構いません」
「はっ、以後、注意いたします!」
兵士さんの顔は、先ほどの張り切った表情から、やってしまった感な表情で、クロトをちらちら見ながら歩を進める。
大丈夫だよ。イナイは本当に気にしてないと思うから。こういうのは全然気にしない人だから問題ないよ。
その証拠に、イナイは苦笑していた。多分そんな様子見る余裕も無いだろうけど。
そのまま兵士さんについて行ったら、街の入り口では何もなくスルーだった。身分証の提示とか要らないのかな?
入り口にいるおっちゃん、にこやかに手を振ってるから、いいのかね。
「街の出入りに関しても、既に話を?」
イナイも気になったらしく、兵士さんに尋ねた。
「はい。ステル様の事も伝えてあります」
「そうですか」
イナイがちょっとだけ、目を鋭く、周囲を見ていた。不用心と思ってんのかな。
実際、兵士が話を通しただけで俺達も全員スルーはちょっと危ないんじゃないかと思う。
まあその緩さが、この国の空気なのかもしれないが。
「さ、こちらです」
兵士さんは特に気にせず、また先導して前を歩く。ここの街並みは普通に街だった。
最初の村と次の街が印象強かったせいで、なんか普通すぎるように感じる。
それに普通とは言ったものの、畑はそこそこ目につく。やっぱりそのあたりのスタンスは変わらないようだ。
案内された宿は、これまた前回の宿の印象が強いせいで、普通の宿だなと思ってしまった。
いやまあ、それが当たり前なんだけどさ。
とはいえ、結構よさげな宿だ。作りもしっかりしてるし、綺麗だ。
「セルエス殿下は、なぜこの宿を?」
イナイが兵士さんに、この宿を選択した理由を聞くと、兵士さんは困った顔をする。
「申し訳ありません、私はステル様をこの宿にご案内するようにとだけしか」
「そうですか。困らせてしまいましたね。申し訳ありません」
「いえ、とんでもありません!」
イナイが謝ると、ぶんぶんと手を振る兵士さん。上の人に謝られると焦るのはどの世界も同じなのかねー。
宿の主人にも話が通ってたようで、部屋の鍵を貰うのも、部屋の案内もスムーズだった。
あ、グレットは馬房的なところが有って、そこに入ってもらった。ただサイズがこれっぽっちも合わなかったので、横の仕切りを二つほど取る事になったけど。
一応一つでも良いかなとは思ったんだけど、窮屈そうだったし、他にあんまりいなかったからやってもらった。
案内される際にイナイが宿の人と何か話してたぐらいで、とんとんと、特に細かい手続きも無く部屋に腰を下ろした。
「では、私は失礼いたします!」
「ええ、ありがとう。お疲れ様」
兵士さんのお仕事はここまでのようで、イナイはねぎらいの言葉をかけると、兵士さんは一度跪いて、立ち上がってまた一度礼をして去っていった。お仕事ご苦労様です。
「ふう、疲れた」
兵士さんが帰ったのを確認して、イナイがため息を吐く。今日は穏やかでしとやかなステル様やってたから余計に疲れたんだろう。
肩をグルグル回して「あ゛~~」って言ってる。これ、イナイに憧れてる人とか見たらどう思うんだろうなー。
「あはは、お疲れ様」
完全にオフモードでベッドに転がったイナイを、笑いながら労う。
「あはは、お姉ちゃん本当に疲れてるね」
「まあ、しばらく、気を抜ける状態が少なかったからなぁ」
ベレセーナさんの一件の前に領主さんとこに行ってたし、結構長い事気を抜けてなかった筈だ。
やっと気を抜いてだらけられると思うと、そりゃ、ああもなるだろう。
「俺達も疲れたし、少しゆっくりしようか」
「そうだね」
俺の言葉に頷くシガル。
『じゃあ私は寝るぞー』
ハクも、竜に戻って、ベッドの中央に丸まって寝転がる。何で君丸まるのに毎回毎回ど真ん中で寝るの?
「・・・僕、どうしようかな」
どうやらクロトはちょっと元気なようだ。外に出たいのかな。
「出かけたいなら行って来ても良いよ。ただ、気を付けてね」
「・・・うん、分かった。ありがとう、お父さん」
以前の、子供たちと仲良くなってた事とか、最近のクロトを見るに、一人でも多分大丈夫だと思えるようになってきた。
なら、やりたい事が有るなら、問題ない範囲ならさせてあげたい。ただ俺達の拠点がはっきりしてる時だけ。
でないとクロトがどこ行ったか分からなくなった時困るから。
けどクロトはとりあえず休むことに決めたのか、イナイの傍にちょこんと座る。イナイはそれを見て、クロトの頭を優しくなでると、クロトは目を細めて喜んでいた。
俺も街散策は明日でいいやー。
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