第330話生きる意味です!
あの後、スィーダ王は少し休みたいと、ベレセーナさん達をつれて、兵隊さん達が用意した、向こうの天幕に入っていった。
男に対する処分は下したので、後は好きにさせるとの事らしく、こっちに置いて行った。その間も、男に目線を向けることは無かった。
ちなみに今更だが、ハク達は少し離れたところに居る。一応念のため、竜の姿のまま威圧するためだそうだ。今回シガルは行動が消極的だった事も有って、関係者だけど、あの場に居る程の関係者とは扱われなかった。
シガルはこの場に居ないで良い事に、露骨にほっとしていたな。ちょっとは慣れたけど、あたしは普通の一般人の女の子だから、流石に毎回毎回、王族、貴族の集まりの中に居るのは辛いよ、とのことだ。
「さーて、こいつどうするのー?」
セルエスさんが男を指さし、単刀直入に聞いてくる。
「別に、好きにさせればいいんじゃないですか?私達には関係ない話です。スィーダ王に引き渡し、処分が下ったのですから」
イナイはどこか冷たい感じで、セルエスさんに応える。
「それもそうねー。私達関係無いものねー」
それに対し、にっこり笑うセルエスさん。この人達、こういう時の対応が良く解んないよなー。凄く優しい時も有るのに、冷たい時凄い冷たい。
「処分、しないのか」
そんな二人の言葉に疑問を投げる男。
「何故私達が?」
「逃げたとはいえ、私はお前たちに剣を向けた。ウムルの貴族に剣を向けた。先ほどもそうだが、あっさりと引き渡す方が本来おかしいだろう」
「あらー、はっきり言うわねー。せっかく片腕だけですんだ命なのに、惜しくないのー?」
「ない。陛下は私にとって全てだった。その陛下から要らぬと言われた。なら、私が生きている意味などない」
男は、自分の命が要らないと言い放った。捨てられた自分には、価値が無いと。生きる意味がないと。
「なんだよそれ」
思わず、小さな呟きが漏れる。
「何か言ったか?」
俺の呟きに、律儀に応える男。こいつ、多分根はまともな奴だ。むしろまともで、真面目で、だからこそ、行き過ぎたんだろう。
ただ主の為に。ただそれだけの為に、それ以外を切り捨てる事が出来る奴だったんだ。何よりもそれこそが大事だから。けど、だからって。
「生きる意味が無いなんていうな。生きたくても、生きられなかった人だっているんだぞ」
「・・・そうか、そうだな。すまない。気に障ったなら謝罪しよう。だが、今の私には、どうしても自分の意味を見いだせない」
素直に謝るなよ。これ以上言えなくなるじゃないか。流石にわかってるよ、お前が辛い事は。
自分が寄りかかってた人が、自分を要らないと、必要ないと解った瞬間の辛さは、解る。けど、だからこそ、生きるのを諦めるなよ。
諦めたら、そのまま、辛いまま終わるんだぞ。
「ところで、セル」
「なに、イナイちゃん」
男と話していると、唐突に二人が世間話を始めた。こいつ放置ですか、そうですか。
「スィーダ王がこの男に下した、他の処分は何でしたっけ」
「入国禁止でしょー。国に入んなきゃ、王の顔なんて見る機会も無いしー」
「ああ、そうでしたね。今後を考えると、この男をここに放置とは、あの王は何を考えているんでしょうね」
「そうねー。片腕だけ切り落としただけなら、どうにでもなるのにねー」
・・・なんか、会話のトーンはいつも通りなんだけど、すげーわざとらしい会話に聞こえるんですけど。
でも、今後を考えるとってどういう意味だろう。さっき話してた事と関係あるのかな。
「・・・まさか」
ただ、二人の会話を聞いて、男は何かに気が付いたようなそぶりを見せる。
「そんな、だが、しかし」
「・・・なんか良く解んないけど、やる事見つかったんなら、否定せずにやってみれば?」
うん、正直何言ってんのか、何に気が付いたのかさっぱりわかって無いけど、生きる気力がわいて来たならそれでいいや。
「・・・お前」
「片腕無くなって、いろいろ大変だと思うけど、お前位強かったら、何とかなるだろ?」
この世界、腕っぷしが強ければ、職は割と困らない世界だ。ウムルだと色々あるから、それだけじゃダメなのかもしれないけど。
でも、こいつぐらいの実力が有れば、問題ない筈だ。こいつ、攻撃魔術はどの程度か知らないけど、魔術の腕も相当だ。
「私はお前を殺しかけた。いや、殺す気だった。それに思う所は無いのか」
「んー、すげー怖かったけど、生きてるし良いかな」
「・・・変な小僧だな、お前」
「何度か言われたよ」
変な奴だって言われるのは、最近慣れてきてる。この世界の常識からずれているのも、最近は良く解ってる。
けど、その上で、俺は俺の我を通さないとダメなところは、通す。そうしないと、俺じゃないから。
それ以外は、適当でも良いけどね。
「ただ、もし一対一でお前とやり合う機会が有ったら、今度は、加減しない」
勿論、俺自身の力は全力だった。俺本来の実力は出していた筈だ。けど、俺は抑えていた物が有る。
「・・・その技工剣、抑えていたか」
魔導技工剣。こいつとの戦闘時、逆螺旋剣のまま戦った。真名を使わず、第一段階のまま戦った。こいつを生け捕りにしなきゃいけなかったから。
あの時、イナイ達がいたから、全力全開にしなくて済んだ。けど、一対一なら、俺の力じゃこいつには勝てない。
ならもし、万が一、こいつと一対一の戦いをする羽目になったら。その時は。
「卑怯だって言われても、全力で使わせてもらう」
ベドルゥクを使う。あの力が有れば、こいつを超えられる。実力じゃないのは解ってる。けど、それでも、本当に負けられない時に、躊躇は出来ない。
「卑怯などとは言わんさ。お前はその剣を使いこなしている。なら、それはお前の実力だ」
けど、男はくそ真面目に返答する。何も間違ってなどいないと。やっぱ、こいつの事は憎めない。
もちろん、一部ではあるが戦争の内容を聞いたので、こいつが沢山の人を殺したのは解ってる。でも、だからこそ、人の命を奪って生きてるなら、尚の事、生きなきゃだめだ。
「申し訳ありません。殿下、よろしいですか?」
セルエスさんの部下の一人が、こちらの天幕の中に声をかけてくる。
「どうしたのー?」
「殿下と話をさせて頂きたいと言う方が」
セルエスさん話したい人?誰だろ。ああいう言い方するって事は、スィーダの人だと思うんだけど。
「通していいわよー」
「はっ」
そして軽い。いや、セルエスさんの力を知ってるからこその軽さだとは思うけどさ。
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