第329話解決と今後スィーダの話です!

「・・・事情は、理解した」


あの後、兵士たちをとりあえず休ませ、彼が信用できる人間とこちらの人間で、足りていない情報を交換し合った。

と言っても、新しい情報は、セルエスさんが既に部下を率いて、国境地に潜んでいた連中を捕えたという事ぐらいだ。

どうやらこの国の王様は、ほぼ野盗と化し始めていた反乱軍の残党を、セルエスさんに捕らえるよう頼んだらしい。

セルエスさんはセルエスさんで、変な監視や足止めが無かった事で、喜々として部隊を率い、あっという間に捕縛してしまった上に、撤収済みの状態で待ち構えていた。

準備万端すぎるよ・・・。


「セルエス殿。此度の事、感謝する。その気が有ればいつでも掃討できただろう」

「気にしなくていいわよー。私は別にどっちでも良かっただけだからー」

「・・・貴女が言うと、恐ろしい言葉だな」

「そうかしらー?」


向こうの王様。スィーダ王は、セルエスさんに感謝を述べるが、セルエスさんは適当に答える。その後の言葉が間違いなく真実であろうことが、正直シャレにならん。

もしこの人が戦闘をしていたら、あっという間に全滅だろう。あの中にミルカさんや、リンさんの様な人たちがいなければ、抵抗なんて出来やしない。

俺も無理だしなぁ。勝てるわけが無い。樹海に居た頃もがっつり手加減してもらってるのに、本気でやられて勝てるわけが無いっす。


それに、この国の最高戦力は、あいつみたいだしな。

俺はもう縛っていない男を見て、奴が参戦していても結果は変わらなかったであろう未来を想像する。

あいつは俺より少し強い位だ。そんな奴がいたところで、どうしようもない。


「それで、陛下。今後どうされるおつもりで」


イナイが静かに、王に問う。国としての今後の方針を。


「・・・正式にギレバラドアには使者を送り、謝罪と賠償をするつもりだ。今回の事も込みでな」


反乱軍の事を放置していたらしいから、その事の謝罪が優先で、今回の事も正直に話すらしい。

その上で、向こうの条件をある程度呑むつもりらしいけど、無茶な事要求されるんじゃないのか、それ。俺が何か言ってもしょうがない事だと思うけど。


「それがよろしいかと」

「貴女にも感謝を、ステル殿。貴女が母を救ってくれねば、連れて来てくれねば、私はあまりの愚を犯し、後世に恥のある名を残すところだった」

「私は貴方の母に、ここに連れてくるという願いをされ、それを叶えただけです」

「それでも、感謝すべき事に変わりはない。その一点が無ければどうなっていたか。想像はたやすい」


ベレセーナさんが此処に居なければ、彼を止めなければ、それはセルエスさんの魔術が放たれる結果になる。

勿論、イナイはギリギリまで彼女の意志を欲しただけで、連れて来るつもりはあったんだろう。

ただ、ふと気になった。先ほどから聞いた話から、ウムルはスィーダの動向を見張っていたらしいのに、あの男や、ベレセーナさんの事は把握していなかった。その辺が不思議だ。


いや、あの男の阻害魔術の腕を考えれば、見つけられなかったのかもしれない。完全に移動し、ベレセーナさんの安全を、普通なら確保できている状態で、情報を流したのだとしたら。

それも、流したタイミングで、流された人間で、その情報は手に入らない可能性も有るか。


「ただ、おそらく、要求は・・・」

「解っている。だが、生きるという約束をしてくれたなら、それでいい。それに、土地としては、安全だ。今回のようにな」

「理解されているならば、申し上げることは有りません」


・・・うん、また俺の分からない会話が成された。なんつーか、この世界特有の事か、身分の高い人特有の会話なのか分からないけど、俺の常識からは全く内容が理解できない会話が時々入るのが困る。

まあ、後でイナイに聞いておこうっと。


「私は、大丈夫よ。ちゃんと、仕事は果たすわ」

「・・・すみません、母上」

「謝るのは私の方よ。ごめんなさい。貴方を大きく見過ぎていた。まだ、そこまで割り切れないわよね」

「いえ、母上の言葉は、真実です。俺は、まだ、甘かった。甘えていた。申し訳ありません」


お互いに非があると、謝り合う親子。比重がどちらにせよ、どちらにも非が有るのは有るから、この図は正しいのだろう。

ただ、仕事って言ってるし、国に帰ってちゃんと頑張る気みたいだし、その辺は良かった。意地張った甲斐がある。


「ベ、ベレセーナ様、それならば、我々にこそ非が有ります」

「そうです、陛下を止められなかった我々にも、間違いなく」

「陛下は、ただ、ベレセーナ様を救いたかっただけなのです」


そこで、後ろに居た人達。王の信用する人達らしいが、その人達が口を開く。皆一様に、自分が悪いのだと。

間違っていると解っているのに、止められなかった自分たちが悪いのだと。


「止めろ」


それを、擁護されている本人が止める。かなり強い口調だ。


「へ、陛下」

「お前たちの気持ちは有りがたい。だが、これは俺の間違いだ。俺が認めなければ、話にならん」

「・・・差し出がましい事を致しました。申し訳ございません」

「良い。お前たちの気持ちは、有りがたいと言った。謝る必要は無い」


どうやら、間違いを間違いだと認めなければいけないと、擁護を止めさせたらしい。ただ気持ちは有りがたい、か。

この人、お母さんの事が無かったら、割と普通に良い人なんじゃなかろうかね。ちょっとやる事が激しいけど。


「・・・さて、話を戻すが、そいつはこちらに引き渡して貰えるのだろうか」


彼は、喋り出すまでに少し間を置き、捕らえた男の引き渡しを口にした。裏切られたとしても、自身の意にそぐわなかったとしても、大事な相手なんだろうか。


「・・・私は、構いません」

「私も良いわよー」

「そうか、感謝する」


イナイとセルエスさんの二人はアッサリ承諾し、王はその言葉に頷くと立ち上がり、男の下へ歩いて行く。


「ケネレゲフ。なにか、申し開きは有るか」

「何も、御座いません。私は貴方の意に反し、貴方の母の殺害を企てました。そこに何の間違いもございません」

「・・・言い訳を、しないのか」

「はい。致しません」


男は少し回復しているので、会話はまともに出来るようになっていた。

俺には彼の問いが、言い訳をしてほしいと言っているように聞こえる。間違いだと。自分の仕業ではないと。


「それで、良いのだな」

「はい。陛下」


その言葉が交わされると、スィーダ王は剣を抜き、男の首筋に当てる。おい、まさか。

俺はその光景に、走り出そうとした。けど、イナイとセルエスさんに止められ、動けなかった。二人とも、なんで。


「あいつはそれだけの事をしたんだ。そしてその覚悟も有った」

「事情はどうあれ、彼の裁きを王が下したなら、私達にはそれを邪魔できないわー」


眉間に皺を寄せながらいうイナイと、殆ど無表情で言うセルエスさん。


「ベルウィー!待って!」


そんな中、叫び声をあげるベレセーナさん。だが、彼女は従者さんや、他の王の部下に捕まり、止められている。

部下の者達も、その光景を見ていたくないのか、顔を背けている者も数人いた。


「・・・ケーネ、さらばだ」

「おさらばです。陛下」


別れの言葉をお互いに発すると、スィーダ王は首筋に当てていた刃を一度離し、男を斬った。だが、その刃の軌道は、首とは位置が違う。

その一振りは、致命傷にはならずとも、男の腕を完全に切り落とした。


「グッ・・・陛下?」


男は痛みを堪えつつ、不思議そうに王に声をかける。だが、王は、そんな男を無視して詠唱を始め、腕に治療魔術をかけ始めた。

それにさらにうめき声をあげる男。まだ仙術のダメージが抜けてないから傷はふさがるだろうけど、凄まじい激痛の筈だ。

だが、そんな事は知らない王は、不思議そうな顔で、でも魔術はそのまま続ける。まあ、傷塞がなきゃ出血多量で死ぬしな、あれ。


「貴様の片腕は貰った。剣士である、貴様の右腕を。そして貴様は二度とこの国に入る事は許さん。・・・二度と、俺の前に、現れるな」


男の傷がふさがったのを確認し、そう言い放つと、血の付いた剣を一振りして血を払い、鞘に納め、その後一切彼を見る事は無かった。

男は、そんな王をしばらく見つめ、まともに動かない体をどうにか動かし、頭を下げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る