第328話間に合いました!

「は、母上、これは一体」


うろたえる青年は、ベレセーナさんに問う。この状況は、一体どういうことかと。何が起こっているのかと。


「一体と、問うべきは、まずは私のほうですよ、ベルウィー」


それに対し、静かで、どこか冷たい声音で応えるベレセーナさん。あの人ベルウィーって名前なのね。


「ベルウィー。あなたは一体何をしているのです。この軍勢は、一体何のつもりですか」

「そ、それは・・・」


ベレセーナさんに逆に問われ、一層うろたえる青年。正直少し可哀想だぞ。

彼は救いに行くつもりだった人に怒られているわけだし。


「お、俺は、母上を救いにと」

「軍勢を引きい、宣戦布告もせず、隣国に進軍してですか」

「そ、それは、先にあの国が」

「何もありませんよ。あの国には、何の落ち度も、非も、有りません。有るのはわが国だけですよ、ベルウィー」


そう、これは勘違いだ。不幸な勘違いから生まれた事態。けど、もし何かが違えば、大惨事になっていた事態。主にセルエスさんが大暴れ的な意味で。

これ、ベレセーナさんいなかったらどうなってたんだか。


「あなたが何を伝えられたのかは知っています。ですが、例えそれが真実だとしても、そこから導かれる行動がコレですか?

宣戦布告もせず、軍を率い、他国を滅ぼす意思をみせ、あまつさえウムルに剣を向ける。あなたはスィーダを滅ぼす気だったのですか?」

「う・・・も、申し開きも有りません。で、ですが、だとしても、母上が危険だった事には変わりありませんし、母上の場所が割れていた事も、どう説明をつけるのですか」


根本的な理由。彼が、凶行に走った理由。それは結局成される事はなくなったけど、成そうとしていた原因。

それは、語らなければいけない。でなきゃ、彼はきっと、納得しない。


「母上、私はこの件は信頼する者に任せました。いくらなんでも、有象無象と化した反乱軍が取れる行動とは思いません」


そこで、彼はあの男のほうを見た。そうか、彼にとってアイツはそこまで信頼できる人間だったのか。

なんか、それを聞くと、この後の話をされる彼が心配だ。信頼していた人間に、裏切られた事になる。


「・・・ベルウィー、今回のことは、全部、私が原因なの」

「・・・母上が?」

「私は、反乱が成功すれば、あの人と共に処刑台に上がるつもりだった。けど、そうはならなかった。あなたが、あなたと部下達が反乱軍をあっさりと押し返したから。

けど、あなたがその行動をとるのは遅すぎた。あの時点ですでに数え切れない死者を出し、あの場でも理不尽な死者を出した。

そんなあなたを、王として、統治者として、どれだけの人間が認めるとおもいますか?」

「お、おっしゃることは理解できます。ですが―――」

「いいえ、理解できていません」


王として、認められていない。そういわれた彼は、反論しようとするが、ベレセーナさんはそれを許さない。


「理解できているなら、このような行動をとるはずが無い。あなたはただ理屈で出来るといっているだけで、実際は行動が伴っていない。

もしあなたが、自身の行動が人に望まれないのだと解っていたのならば、あなたが統治者としてある事が、皆の望まれてある事で無いと解っているのなら、こんな、無様な行動をとるはずがありません」


間違った行動。国を滅ぼしかねない行動。それは統治する人間として、やってはいけないのは当然だろう。

だが、彼はやってしまった。自身の感情のままに。後先を無視し、激情に任せて軍を動かした。その結果、ウムルとの戦争にも発展しかけていた。


「だから私は、あなたが許されるために。あなたが王として、認められるために。この命を使おうとしました」

「は、母上!?一体、何を言っているのですか!?」

「あなたが動くべき理由を。あなたが反乱軍を打つべき理由を。統治者として、ふさわしくないものを打倒したのだと。

民を想い、民の為に正々堂々と戦った反乱軍ではなく、王族を人質に取り、その命をかるんじた者達を打倒したのだと。

民のために立ったわけではなく、王の変わりに利権を求めた者たちを排除したのだと。そのために」

「ま、まさか、それじゃ」

「ええ、情報を流したのは、ほかの誰でもありません。私です」


ベレセーナさんから告げられる言葉に、愕然とする青年。救おうとした人が、自ら命を投げ出そうとしていた。その事実。

あんまりだよな、これ。


「・・・ありえません」


だが、彼はベレセーナさんの言葉を否定する。


「母上のそばにはミューネがついています。それに、あなたの安全を確保する為に動いたのは、ケネレゲフです。あなたがそんな事を出来るはずが―――」


そこで、彼が固まる。先ほどの驚きより、さらに目を見開いて、動きが止まる。

ベレセーナさんは、それを悲しそうに、つらそうに、見つめていた。


「まさ、か。そんな。そんな馬鹿な!そんな事が!」

「・・・そう、きっとあなたが思っているとおり。そのとおりよ。ベルウィー」

「あ、あいつは、俺が昔から信頼している男で!あいつは、あいつは・・・!」

「そう、だからこそ、あの子は私の願いを聞いた。あなたの為に」

「―――!」


告げられる現実に、わなわなと体を震わせる青年。救いたい母は命を絶とうとしていた。信頼していた者は、自分の意思とは違う行動をしていた。

人間不信になってもおかしくねえぞこれ。


「な、ならウムルと共に居る事はどう理由をつけるのですか!かの国が関わっていたのではないのですか!」


もはや縋る様に、違う原因を、有ってほしくない理由を否定して欲しいと、別の原因を求める彼の姿は、余りに痛々しい。


「それは偶然。そしてその偶然が無ければ、私はここにたっていないでしょうね。そしてあなたはきっと、ウムルに滅ぼされる。

何もかもを勘違いし、無駄に民を殺し、父を越える愚王としての名を残して」

「そ、そんな、そんな馬鹿な・・・」


縋る思いはすべてむなしく、彼は悲しい現実を告げられる。母の言葉を否定したくとも否定できず、よろめきながら後ずさる。

いくらなんでもあんまりだ。彼がその行動をとった原因は、彼自身だけが悪いのではないのだから。

俺は思わず、歩を進めようとしたが、イナイに止められた。


「イナイ・・・」

「気持ちはわかる。けど、黙って見てろ」


悲しそうな表情で俺を制するイナイに、何も言えず立ち止まる。


「ですがそれも、私が元凶。あなたに凶行を採らせた原因は、私にあります。もし今回、罪を償う必要がある者がいるのならば、きっとそれは私でしょう。

だから、ベルウィー、今回の凶行をこれ以上責める気はありません。責められるべきは、私でしょうから」


そこで、ベレセーナさんは、優しく微笑む。でもそれはきっと、彼にとって安らぎにはならない。


「ねえ、ベルウィー。今なら、今なら間に合うの。間に合ったの。私は、私の責をきちんと負うわ。だからベルウィー、これ以上間違えないで」

「・・・わかり・・・ました・・・」


ベレセーナさんの言葉に、彼は下を向き、拳を握り締めながら応えた。

王として、人を背負うものとして、正解を取るために。


・・・戦争が止まったのはいいけど、なんか、色々納得いかんなぁ。

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