第326話また、ハクの出番です!
「ああ、頼む。じゃあ、後でな・・・・ふぅーーー」
イナイは腕輪の通信を切り、息を吐く。一応問題が有った時の為に、ベレセーナさん達には聞こえないように、通信は馬車の中でやっていた。
既に現場の方にいるらしいセルエスさんと連絡を取って、今後の話をしていたのだけど、上手く行かなかったのかな。
「セルエスさん、なんて?」
「恐らく昼前には接敵するだろうから、その前には来てほしいってよ。スィーダの進行が思ったより早くても、そこまではなるべく粘って、時間稼ぎしてくれるそうだ」
結構アバウトだな。なるべくって言うのがセルエスさんっぽい。出来なかったらその時よねーって言いそうだけど、別に問題有のため息では無かったようで安心した。
今はそれを信じて、向かうしかないかな。
「まあ、今からなら十分間に合うな」
「ハクなら多分大丈夫でしょ」
あいつが本気で飛んだ時の速さは、とんでもなかったからなぁ。落ちるかと思った。
「あ、そうだ、クロトの事なんだけど、別に飛ばせても大丈夫なのかな」
「・・・まあ、問題ないだろ。例えあいつの力が理解できるもので無くたって、あいつを排除する理由にはなんねえだろう」
クロトの力は良く解らない力だから、人によってはどういう反応を返してくるか分からない。なので、良くないかなーと思ったんだけど、特に気にすることもなさそうだ。
まあ、あの力見ただけで、クロトが何者かなんて分かんないか。俺達も良く解ってないけど。
「んじゃ、あたしらも食うか」
「ん、そだね。ちゃんと食べて行こうか」
馬車を出て、朝食を食べている皆の所に行き、俺達も食事を貰おうとする。
今日の朝食はシガルが作った。今日の朝は半分寝ぼけていた感じだったが、ちゃんと記憶はあるようで、何を作ったのかもしっかり覚えてるみたいだ。
まあ、そうでないと刃物はちょっと怖いけどね・・・。
「・・・こんなにノンビリ食事をしていていいのかしら」
スープの入った器を持ち、不安そうにつぶやくベレセーナさん。まあ、移動手段が解ってないと不安だよな。
いや、そこじゃないか。焦るべき時なのに、ゆったりしている事に、かな。
「食事の時間ぐらい平気ですよ。食べずに力が出ないよりは、しっかりと食べて下さい」
イナイはシガルによそってもらった料理を口に運びながら、ベレセーナさんに告げる。今のイナイは、どこか、普段のイナイに近い気がするな。
イナイに言葉に、不安はぬぐえずとも、食事を再開するベレセーナさん。従者さんも少し不安そうに食事をしている。
ふとハクを見ると、何故か、苦いと言っていたお茶を啜り、苦そうな表情をして口からはなし、また啜って苦そうな顔をしている。何してんのアイツ。
クロトはいつも通りだ。うん、いつも通り。ぽやっとした表情でお茶飲んでる。もう食事は終えたようだ。
「はい、タロウさんも」
「あ、ありがとう、シガル」
ぽけっとしていたからか、シガルが俺の分も用意してくれた。有りがたく受け取って俺も食事に口にする。うん、美味い。
シガルは元々はそんなに料理をする口では無かったようなのに、呑み込みが早いのか、もうかなり上手い。香辛料の使い方の加減とか、もう俺より上手い気がする。イナイの教え方が良いのかもしれないけど、シガル自身の努力も大きいだろう。
「どう?」
「美味しいよ」
俺の顔を覗き込みながら聞いてくるシガルに、頭を撫でながら笑顔で答える。シガルはその答えに笑顔でさらに食べ始める。
今更だけど、シガルもよく食べるよな。小柄なのに。まあ、それ言いだすと、イナイもそこそこよく食べるし、ハクに限っては異空間だ。いや、ハクは比べちゃいけなかったな。
クロトはそこまで食べないんだよなぁ・・・。美味しそうに?食べてはいるけど。
因みに、あの男は一応椅子に座らせています。縛りは少し緩めてるけど、相変わらず動けない。
まあ、少なくとも、2,3日はまともに動けないと思う。多分。
「もうそろそろ、詳しいお話をお聞かせ願えませんか?」
食事が終わったところで、ベレセーナさんが俺達に問う。多分、移動手段の事だと思う。
「あと、どの程度で、息子はウムルと接触するのですか?」
違った。いやまあ、結果として聞く事には変わりないと思うけどね。
「目測通りならば、今日の昼には」
「今日の昼!?ま、間に合うのですか!?」
イナイの言葉を聞いたベレセーナさんは慌て、叫び問う。俺には距離がどのぐらいかはっきりとは分からないが、きっと普通は間に合わない距離と時間なのだろうな。
でも最悪、彼女たちとイナイで転移と言う手も有るし、そこまで焦る事は無いと思う。
「間に合います。間に合わせます」
イナイはそこで、ハクのほうを向く。
「では、ハク、お願いできますか?」
『まかされたー!』
ハクはイナイに元気よく返事をし、少し距離を取る。ベレセーナさん達はその行動を不思議そうに見つめるが、特に疑問の声を上げはしないようだ。
だが、その目はすぐに驚愕に開かれる。ハクが子竜の姿に戻り、宙に浮き、そのまま巨大な白竜となるその工程を見て、声も出ないようだ。
「―――――――――――――!!!!」
ハクは仕上げと言わんばかりに咆哮をあげる。うーん、ここでそれは迷惑だと思うなぁ。街からそこまで無茶苦茶離れてないし、大変なことになるのでは。
「しまった、注意し忘れてた」
イナイが頭を抱えながらボソッと呟く。
「あの咆哮?」
「ああ。その存在だけでも目立つのに、あの咆哮付きじゃな・・・。こりゃ国王に会いに行かないとダメかもな。めんどくせえ」
どうやらハクの行動で大事になりそうな予感。でも、こっちはこの国の尻を拭くようなものだし、少しぐらいいと思うけどな。
もしウムルが居なかったら、この国戦争を仕掛けられてたんだし。イナイから聞いた限りでは、戦力と言えるほどの戦力もあまりないみたいだし。
「あ、あれ、ね、ねえ、ハクちゃん、なの?」
おっと、ベレセーナさん達のフォローしなきゃ。
「ええ、といっても、あれの前の子竜の姿が本当の姿ですけど」
「こ、りゅう。あの子、竜、だった、の?」
「はい。真竜って呼ばれる竜らしいですね」
「・・・亜人じゃ、なかったの、ですね」
ハクが竜だった事に驚きながらもなんとか消化しようとするベレセーナさん。従者さんは割と落ち着いているようだ。まあ、普通は『亜人』と思うよな。人前では人の姿してるし。羽有るし、鱗有るけど。
『準備できたぞー。ほら』
ハクは巨大になった手を差し出して、俺達に乗る様に促す。・・・前足かな。まあいいや、手で。
イナイは率先してその手に乗る。
「さ、行きますよ」
「ハ、ハクちゃんに乗っていくの?」
「ええ」
「ほ、他の子達も?」
「勿論。グレットものせますよ」
「そ、そうなの・・・」
余りの驚きに、完全に素になっているベレセーナさんである。
『おい、クロト。何してる。乗れ』
「・・・?」
飛ぶ準備をしていたクロトに、ハクが意外な言葉をかけた。クロトは不思議そうに首を傾げてハクを見つめている。
『不思議そうな顔するな。お前だけおいて行けないだろ』
「・・・別に大丈――」
『いいから乗れ!』
「・・・解った」
クロトは不思議そうな顔のまま、ハクの手に乗る。それを見て、シガルが少し嬉しそうに、グレットをつれてクロトの後をついて行く。物凄い震えてるなグレット。
グレット、すまない。怖いのは分かるけど少しだけ我慢してくれ。
「さ、いきましょう」
俺は男を背負って、ハクの手に乗り、ベレセーナさん達に声をかける。
「こ、これも経験。うん」
ベレセーナさんは少し震えつつハクの手に乗り、その後ろを従者さんも、少し戸惑いながら付いて来る。
『じゃあ、いくぞー』
皆が乗ったことを確認すると、ハクは空高く飛び上がり、いつかの様な凄まじい速度で平行移動を始める。
だが、今回は競うわけでも無いので、ちゃんと俺達が落ちないよう、風に負けないように気を付けてくれている。
俺達だけならいいけど、ベレセーナさんとか危ないからなぁ。
「は、はやい。す、すごい」
「こ、これなら確かに、間に合うというのも納得です」
移動速度にへたり込みながら驚きの感想を口にするベレセーナさんと、俺とイナイの言葉に納得する従者さん。
さて、予定外の事が起きてないと良いけど。
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