第317話決断です!

息子さんの行動の切っ掛けは単純明快。単に母親が攫われ、危険に晒されたのを救いに行くという所だ。

なら、ベレセーナさん連れてけば止まると思うんだけどな。


「あの子は、息子は、この国に、ギレバラドア国に宣戦布告したのですか?」


宣戦布告か。やっぱそういうの要るんだな。戦時国際法とかあるのかしら。


「してませんね。完全に反乱軍を飲み込んだ後、警戒してるとはいえ、いきなり襲って来るとは思っていないこの国を蹂躙するつもりでしょう」

「そ、それは!」

「ええ、その後、あの国は世界の敵に成る。あの国の周囲は全て敵になる。あの国は、覇道を行く以外に道が無くなる。

それを成した国も無くは無いですが、おそらく、破滅の道が傍らにある事を覚悟しての進軍でしょう。とはいえ、従う兵たちはそこまで理解しているかどうか疑問ですが」

「なんてことを・・・!」


どうやら息子さん、完全に頭に血が上っている模様。ていうか、これならあの家に居て、ベレセーナさんの安否が確認できる状態の方が良かったのでは。

確認してきた相手に接触すればいいだけだった気がする。


「貴女の行動で、もしかしたら、国元の者達は多少救えるかもしれません。ですが結局そこまでです。スィーダ王はこの国を敵だと認識している。ならば、どう足掻いても戦争は起こる。結果はさらなる民の犠牲。私はそれを良しとする訳にはいきません」

「そんな、あの子がそんな馬鹿な事を」

「・・・人の感情と理性は別物です。理性が良しとしていても、抑えきれない感情は有る物です。そこに振るう腕が有り、権利があり、意味が有るなら、有りえない事では無い。

何より、スィーダ王はまだ若い。どれだけ聡明であろうと、理性で全てを押さえつけるのを期待するのは酷でしょう」

「―――」


なんとなくそうとは思ってたけど、やっぱ若いのか、息子さん。そりゃそうか、ベレセーナさん全然老けてないもんな。息子さん10代後半ぐらいかな。


「ベレセーナさんの無事を伝えたら止められない?」

「伝えるだけでは駄目でしょうね」


俺は素直に疑問に思ったことをイナイに聞いてみる。けど、ダメだと言われる。なんでだ。

原因はベレセーナさんの身の危険なんだし、問題ないって解れば大丈夫っしょ。


「彼女が生きて、王の元に戻り、彼女の口からを話さなければ」


うん?それ普通の事じゃない?帰ってちゃんと話して、自体収まるならそれでよくない?


「そ、それは・・・」


けど、俺の思いとは裏腹に、ベレセーナさんは難色を示し、俯いた。


「・・・貴女が、あなた一人の意志で、行動で出来るとは、思われないでしょうね」

「もし、そうなれば、あの子は」

「裏切者を処断するでしょう」


ああ、それで嫌そうだったのか。彼女が無事帰るだけでは話収まらんのだろうか。ちょっと言いにくい事を伏せて。


「全部誤解なんだし、反乱軍が上手くやっただけとか、そういう話にはならないの?」


シガルが気になったらしく、イナイに問う。それに対しイナイは首を軽く横に振る。


「反乱軍・・・反乱軍にその力が有るなら可能でしょう。ですが今の彼らにそのような力はない。ならば、その情報を渡した人間が居る。なら、その情報源は、この国の者か、自国の者。

陥れるために他国の者が、と言う可能性も無くは無いですが、あの国をわざわざ陥れる価値も意味も殆どない。けど、この国だけは、ギレバラドアだけはやる理由が有る。だからこその行軍なのですよ」

「そうなんだ・・・」


理由ってーと、あれかな。反乱軍がこの国とどうこうってあれかな。

でもなんで、それで国が動く理由に成るんだろうか。

迷惑だから仕返し的な?それにしたってやる事が大事に成りすぎな気がするけどな。


「わざわざ、自分の国の人間に、母をわたし、母を殺す。その手段も本人たちに任せる。

大分陰険なやり方だと思っているでしょうね。それでは戦争の大義名分も立たない。何より証拠が何も出ない。出たとしても、反乱軍の口から出た言葉など、証拠にならない。なるわけが無い。

まあ、証拠も何も、捕まえた事実がないのでは、出ないのが当たり前ですが」


あ、なるほど、息子さん完全に頭来てる理由がわかったわ。むっちゃムカつくわそれ。

完全な誤解なんだけど、間違いなく誤解なんだけど、もしそれが真実ならあまりに陰湿すぎる。やり口がきたねえ。自分は何も手を汚していない体で、完全な被害者の顔のまま、陰湿な仕返しをした訳だから。

けど、残念ながら全部誤解なんだよなぁ。


「そう思う行動をとったスィーダもスィーダ。と私は思っていますけどね」


イナイは沈痛な表情を見せるベレセーナさんに、更に言葉を重ねる。


「し、進言の許可を頂きたく願います」


そこに、従者さんが一歩前に進み、跪いてイナイに進言を請う。なんかすごい仰々しいけど、本来こういう物なんだろうか。

俺そういえば、貴族の人にこういう行動したこと一切ないな。・・・イナイに迷惑かけてないかしら。


「構いません。もとより発言の許可など必要ありませんよ。これは只の世間話ですから」


イナイはそういうけど、これ、世間話ってレベルの事だろうか。いや、多分違うと思うなぁ。

しかし、ふと気になった。事が凄い事に成りかけてる話なのに、なんかイナイが落ち着き過ぎてる気がする。誰かが犠牲になるのは嫌だという彼女にしては、不思議な落ち着きだ。


そういや、ハクが静かだな。いつもなら適当に口出してきそうなのに。

・・・こいつ座ったまま寝てやがる。人型維持して寝てるから良いか。いきなりとけたりしない事を祈ろう。まあ、以前も数日維持してたの見てたし、大丈夫だと思うけど。最近、こいつの出来ない事は無いは、メンドクサイからやりたくないだけで、出来るってこと分かってるし。

クロトは相変わらずぼんやりした表情で何考えてるのかわかんないっす。


「感謝いたします。私共は、私共の中から裏切者がいる事実を、良しとは思っておりません。ベレセーナ様は否とお思いかもしれませんが、私共は陛下とベレセーナ様の無事が望み。なれば私共はこの件を早急に伝え、陛下と共に清算する事こそが一番の道と思っております」

「ミューネ・・・」


ミューネさんは、どうにもベレセーナさんが死ぬ手はずを整えようとした人間に、怒りが隠せていない。いや、隠す気は無いのかもしれない。

きっと、彼女の中では、絶対に許せる事では無いんだろう。


「私も、そう思いますよ。それに早く止めないと、スィーダが滅びかねません」

「ど、どういう事ですか?」

「・・・ウムルが何故、ここまでスィーダの情報を持ってるとお思いですか?」

「―――まさか」

「ええ。既に、セルエス・ファウ・グラウギネブ・ウムル殿下が動いております」


やばい人が動いてるよ!めっちゃやばいよ!他の誰よりもあの人はやばいよ!容赦がないよ!

あー、でも、なんかイナイが落ち着いてる理由が少しわかった。セルエスさんが動いてる以上、おそらく被害はを超えない。

セルエスさんを超える化け物がいれば別だけど、いないならただ蹂躙される。つまりそれは、一方的な被害を、スィーダが受けるという事に成る。ドンマイ陛下。いや、ドンマイじゃ済まない事に成るけど。


「ですが私も、たとえ蹂躙をするつもりの兵とは言え、民が死ぬのを良しとは思いません。止める手段が有るなら、止めたい」


イナイは至極真剣な顔で言う。この人のこの言葉は真実だ。止められるなら、止めたい。それは俺も同じだ。

止まるなら、止められるなら、被害を無くせるなら、その方が良い。それにこのままじゃ、少なくともスィーダの一般人は、碌な目に合わないのが、目に見えている。


「・・・ウムルが、動いている。そんな、早すぎる」

「貴女の国の反乱は常に監視していましたから。その後の動向も危険有と見ていました。この速度は当然です」

「聞いていた以上に、思っていた以上に、凄まじい国ですね、貴女の国は」

「誉め言葉と、受け取っておきます」


んう?セルエスさん一人移動するぐらいなら、それぐらい大したことじゃない気がするんだけど。

あの人世界の果てまで転移出来そうだもん。俺あの人なら天国や地獄にも転移出来るって言われても納得するよ。


「・・・覚悟を、決めましょう。息子と話し合いに行きます」


ベレセーナさんは意を決し、俯いて居た顔を上げ、その決断を口にした。良かった。

いや、彼女にとってはきっと良くないけど、選ばなきゃいけない選択だったんだとは思う。けど、良かったと思う。

生きることを選択してくれたことが、俺は嬉しい。


「では、さっそく出ましょうか。タロウ、シガル、クロト、用意なさい。寝ているハクはタロウに任せます」

「え、こいつ重いんだけど」

「では私かシガルが抱えて行きましょう」


イナイに言われ、その光景を想像し、体格の劣る二人に無理させる俺と言う酷い絵面が見えた。


「すみません、持ちます」

「よろしい」


しょうがない。持ってくか。竜形態ならまだ持ちやすいんだけど、どうしようかな。流石にこの姿のこいつを脇に抱えて行くわけにもいかないし。

背負うか・・・。

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