第314話反乱軍は考えなしすぎるようです!

「た、大変よ、ミューネ」


ベレセーナさんが慌ててミューネさんを呼ぶ。一体どうしたんだろう。


「ど、どうされました?」

「彼ら、私を最初からとらえる前提で使いを出してるらしいわ」

「という事は、あの方の性格上・・・」

「私の無事を確認したら、彼らを殲滅するわ。それも過剰戦力で」


なんか、激しい話になってきてるな。えっと、つまり、はなから今回の事は成功前提で話が進んでるって事かな?

流石にちょっと阿呆すぎやしないか、それは。捕らえられなかった時、どうするつもりなんだそいつら。俺でもそんな馬鹿な事やらないぞ。


「急いでここを出ないと、少なくとも私の無事か死体を確認するまで、戦力を近くまで持って来ても、全力投入はしないと思うわ」

「・・・一つよろしいですか?」

「な、なに、ミューネ」


慌ててここを出る話をするベレセーナさんに、思案しつつ話しかける従者さん。


「もしあなたが反乱軍に捕まったとして、あの方が、貴方が無事とした前提で動くでしょうか」

「・・・それは無いと思うわ」

「なら、もし、あなたの無事を有りえないと思っているのなら」


そこでベレセーナさんは何かに気が付いた表情に成り、男たちを見る。


「どちらにせよ、逃がす間を与えず、一人残らず殲滅する気で軍を動かすつもり・・・!」

「ええ、その過程であなたを無事助けられれば良し、助けられなければその報復を」

「で、でも、それは王としては間違いだわ」

「ええ、王としては。ですが一人の息子として。貴方の子供として、貴方を救うために、報復のために、あの方は動くでしょう」


息子さん、無茶するな。それは関係ない一般人も巻き込まないか。どうやって関係者と無関係の人間を判別するんだそれ。それとも、反乱軍のメンツ全員把握してるのか?

・・・いや、流石にそれは無いと思うなぁ。もしそこまで把握してるなら、こんな事起こらないと思うし。

なんか、そういう話聞いてると、こいつらも、その息子さんも、どっちもどっちな気がしてくるぞ。

つーか、その前提で動く人なんだとしたら、普通に捕まってても同じ事になったのでは。


「あの、それ、ベレセーナさんが捕まってても同じ事になったって事ですよね?」


思わず聞いてしまう。だって、そうでしょ。もしそんな激しい性格の人なら、きっと同じ事になってる。


「まさか、私を確保していないのにやると思って無かったわ。もし私を確保してからなら、私は彼らの拠点で自害するつもりだったし、遺書は預けてあるから、それをあの子が見れば軍を出すわけにはいかないわ。

でも、今私は無事。それじゃ遺書を出す訳にもいかないし、少なくとも私が身を隠して生死不明にしないと」


ふむ、別に遺書自体は亡くなった後の意志みたいなものだし、緊急事態なんだから見せても良いと思うんだけど、ダメなのかね。

この言い方だと、きっと駄目なんだろうな。メンドクサイ。

・・・このままだと、一般人巻き添えになる予感がすげーするし、そんな事言ってる場合じゃ無いのではと思うんだけど。


「早く、ここを出ましょう」

「はい、その方が良いでしょう」


俺が何とも言えない気分になっていると、二人は結論を出していた。向かうのは良いんだけど、こっちはこっちでちょっと時間がいる。

イナイに事情を話して、許可を取らないと。


「あの、俺達、まだあと一人一緒に旅してる人がいるので、その人にも話しをしに行かないといけないんですけど」

「そうなの?わかったわ。会いに行けばいいかしら?」

「あ、はい、帰ってるかどうかわからないですけど、とりあえず泊まってる宿に行きましょう」

「ええ、お願い」


ベレセーナさんは、焦ってはいるものの、いきなり飛び出して直ぐに行こうとか、そういう感じではなさそうだ。

まあ、道中何が有るか分からないし、そのための護衛とかも用意する必要ありそうだし。そういうの考えたら、少しぐらい誤差か。


「彼らは、どうするんですか?」

「・・・申し訳ないけど、無罪放免という訳にはいかないわ。物取り、という事でこの国の警備に付きだすしか」

「ベレセーナ様、それは」

「ミューネ、気持ちは分かるけど、彼らの為だけじゃなく、あの子を止める為にもその方が良いわ。少しでも、私と関係ない罪で捕まってもらわないと」

「・・・解りました。では、私は呼びに行きます」


軽く頭を下げ、走り出す従者さん。その後、彼らが生きるためにも、物取りとして大人しく捕まる方が身のためだと説得し、彼ら自身も大人しく捕まる事になった。

最初こそ反論していたが、このままだと彼らだけではなく、反乱軍全体どころか、それに近しい人物も全員殺されかねないという事実を何とか認識したらしい。


・・・本当に、この世界は、死が軽い。いや、俺の世界でも国によってはそうか。

嫌だな、こんなのは。滅入る。







男達をこの地の警備に引き渡し、泊まっている宿まで戻ってきた。

宿の前まで来ると、二人は少し呆けた表情で宿を見上げていた。どうしたんだろう。


「どうしました?」


俺が様子がおかしい二人に問いかけると、その表情のままこちらを向く。


「あなた、もしかして、どこかの貴族なの?」

「へ、いえ、違いますよ?」

「じゃあ、どこかの豪商の息子とか」

「いえ、そういう事も無いです」

「・・・ここ、凄い高級宿なんだけど、支払い大丈夫なの?」


・・・そんな気はしてたけど、やっぱ高いのか此処。いや、そうだよな。部屋広いし綺麗だし、馬とか泊める所も広いし、設備も整ってるみたいだもん。

これで安いとかないよな、普通。


「さっき言った、連れの一人が、ここの方と知り合いらしく、それで泊めて貰ってる感じです」

「なるほど。そういう事なのね」


俺の言葉にベレセーナさんは納得したが、それでも従者さんは少し首を傾げていた。何処かそれでは納得いかないという感じだ。


「とりあえず、中に入りましょう」

「ええ」


俺の言葉に従い、連れだって中に入ると、従業員が頭を下げて迎え入れる。グレットは最初と同じように、グレット用の宿舎に連れていかれる。今回は従業員さんにお願いした。

俺はそのまま受付に行き、イナイが帰っているかを聞くと、既に帰っていると返事を貰い、転移装置に向かう。


「・・・ねえ、気のせいかしら、さっき『イナイ』って聞こえたのだけど」

「え、ええ。連れの名前ですけど」

「・・・そう」


部屋に向かう途中、ベレセーナさんが凄い真剣な顔で聞いて来て、少しどもる。

もしかしたらあれかな。ベレセーナさんも貴族の人みたいだし、イナイの事知ってる感じかな。それなら話が早いんだけど。


今更だけど、イナイに断られたらどうしよ。なんか最初思ってたより、話がデカい事になってそうなんだよな。

ただ連れて帰ればいいと思ってたんだけど、そういう状態でもなさそうなんだし・・・。

ちょっと不安になってきた。

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