第313話スィーダ王の決断ですか?

椅子のひじ掛けを苛立ちながら握り、部下が此処に来るのを待っているが、報告を待つのがここまで苦痛な日は初めてだ。

はやく。早く来い。今は一分でも、一秒でも惜しい。

苛立ちを募らせていると、扉が叩かれ、部下が入ってくる。やっと来たか。


「陛下、準備は整いました」

「分かった。すぐ出る」


準備完了の報告を受け、壁にかけてる剣を手に取り、部屋をすぐに出ようとする。


「陛下、お待ちください」


だが、外に出る俺に部下が待ったをかける。一体なんだ。今すぐにでも出たいというのに。

俺は苛立ちを隠さずに、部下を睨む。


「なんだ、何かあるのか」

「・・・考え直しませんか」

「くどい。今こうしている間にも母上はどうなっているか」

「せめて、ベレセーナ様の安否を確認してからでも遅くはありません」

「くどい!それに意味は無い事ぐらいお前たちも解っているだろう!」


母の安否。確かに普通ならそうだろう。普通ならば、母を捕えたなどと言われても、まずは安否確認をするだろう。本来ならば見つかる筈は無いのだから。

だが、奴らは。奴らが使いだとよこした男の言は、母の滞在する国、街、区画、いつから居たのかも全て合致していた。

母の避難を確認する報告事態は、反乱軍が王都まで攻めてきたあの時だが、避難自体はもっと前にやっていた。ただ、あいつが帰ってきたのがあの時期であり、ギリギリにでも帰ってくるの間に合わせただけだ。


故に、連中が母の居場所を知っているなど、明らかにおかしい。おかしいのだ。反乱軍の連中が、俺の部下を出し抜いて、母の居場所を突き止めるなど、ある筈がない。

時間が有れば話は別だが、他国に、それもあのウムルに近い側の街に居る母を見つけるなど、奴らには不可能だ。


ならば、理由など、知れている。あの国の連中だ。あの農業国家の連中だ。やつら、俺が反乱軍のやった事への賠償を支払わない事を、こんな形で返してきやがった。


「現地の反乱軍ごと、まずは一撃当ててくれる・・・!」


碌な軍を持たんような国が、舐めた真似をしてくれる。持っていないからこその陰湿な行動かも知れんが、そんな事は今更どうでも良い。

俺に喧嘩を売ったのだ。スィーダに喧嘩を売ったのだ。それ相応のお返しをさせて貰う。


「ですが、もしベレセーナ様が無事だったなら」

「母は反乱軍の手に落ちた。指導者の居ない反乱軍の手にだ。どうなるかなど、目に見えている」

「―――それは」


俺の言葉に、部下も黙る。そうだ、反乱軍などと言ってはいるが、今はもはや野盗と殆ど変わらん存在だ。

そんな連中が母を捕えた?交渉に応えれば無事に返す?有りえるわけが無い。

今頃口に出すのも腹立たしい目にあい、下手をすれば、既に今、死体となっていてもおかしくない。

俺はその使いの口から母の事を聞き、直ぐにそれに思い至った。故に斬った。奴が帰り、報告するまで、連中は逃げ出さないだろう。


「もし、もしだ。もし母が無事逃げていて、奴らがはったりを言っているのだとしても、その安否は進軍しながらでも確認できる。」


そして、安否を確認すれば、その悉くを殺す。母を捕えた連中も。母の事を売ったあの国も。

すべて、潰す。殺す。壊す。この俺に舐めた真似をした事を、後悔させてやろう。


「陛下・・・」

「まだ、あるか?」

「・・・いえ、私どもは陛下に、貴方に忠誠を誓った身。貴方が、貴方として、私共の言葉を聞いたうえでの判断でしたら、これ以上は」


そう言って来る部下の目は、覚悟を決めた目をしていた。それでも、どこかで、思い直してほしいと思っているのは分かる。

良い部下を持った感謝と同時に、申し訳なさも有る。


「すまん。お前たちの言葉を無視するつもりではない。だが、今回は止まれん。許せ」

「はっ」


きっと俺の選択は間違いだ。このまま突っ走ればこの国は他国からの脅威にさらされる。間違いなく、この国は周囲から危険視される。

だが、それでも止まれん。止まれんのだ。母を、母上を汚す連中を血に染め無ければ気がすまない。


「行くぞ」

「はっ。私共は、どこまでも」


俺の選択に頭を垂れて覚悟を口にする部下に再度感謝しつつ、その怒りをぶつける為に歩む。

殺す。殺してやるぞ。少なくとも反乱軍の連中と、あの国の中枢は生かして帰さん。一人残らず殺す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る