第312話怖い人が動くのですか?

「面倒になってるわねぇー」

「ああ、すまないけど、行ってくれるかい?」


兄さんからの呼び出しだと聞いて何事かと思った。そこまで自国に直接関係する事では無かったけど、面倒は面倒ねー。

とはいえ、解決自体は、相手の事を考えなければ簡単だけど。


「もう小競り合いは始まってる、と見てもいいのかしらー?」

「いや、正確にはもう少し、といった所だと思う。尤もスィーダにとっては攻めやすい国だろうし、これ以上問題が広がるようならいっそ完全に飲み込む腹積もりかもしれない。

・・・もしそうなったとき、なってからじゃ遅い」


相変わらず優しい人ねー。もし事が起こった時に犠牲になるのは完全に一般人。

それも、両国の一般人。おそらく、事が起こればどちらの民も無事では済まないでしょうねー。


「せめて、どちらかだけでも、救えるなら」


悲しそうな顔で言う兄さんを見て思う。やはりこの人が王で良かったと。この人の様な優しい人でなければ、この国は成り立っていない。

私なら、会った事もない相手に、自分の国でもない所で、まだ起こってない惨劇を憂うなんてしない。間違いなく、利益を求める。

今回の事だって、別にただ国を守る為なら、事が起こってからで十分だもの。

けどきっと、それだとウムルは周囲を敵国で囲む国になったでしょうね。こんなに味方の多い国にはなって無いわ。


「りょうーかーい。じゃあ、とりあえずあっちの王様に挨拶に行って、相談かしらー?」

「・・・ああ、ただ、絶対に」

「わかってるわよー。だいじょーぶ。だいじょーぶー」

「なるべく穏便に頼むよ、セル」


恐らく、既に現地では、当人同士の諍いが起きてると見た方が良い。しばらくすればそれは国同士の諍いに成るのは目に見えている。と言うか、分かり易く表に出ていないだけで、既になっていた事でしょうねー。

そして、武力を殆ど持たない国と、武力を良しとする国でそうなれば、何が起こるかは明白。もしそれ以外の選択をすれば、きっと違うのだろうけど、それは希望的観測でしょ。

だって、ねえ。


「それでも万が一の時は、打って出るわよー?」

「・・・その時は、止むを得ない」

「だいじょうぶよー、万が一、まんがいちー」

「ああ、この時期にすまないね」

「それはお互い様ー」


ひらひらと手を振って執務室を出る。終始悲しそうな顔の兄さんには悪いけど、おそらくその万が一は起こる。

いや、解っているからこそ、兄さんは悲しそうなんだ。そうなれば犠牲者が出ると解っているから。

うちの諜報は優秀だ。優秀すぎて時々怖いけど。スィーダがもう兵を出す準備をしている事を知っている国は此処だけでしょうね。


「まあ、出来るだけ皆守るから、だいじょうぶよー」


兄さんに届かない呟きを口にして、城の廊下を歩く。

出来るだけ、出来る限りは守る。別に私だって人が死ぬのを見たいわけじゃない。

けど、だからと言って、相手には容赦しない。する気が無いし、必要もない。武力をもって挑むなら、同じように返されるのは自明の理。


まあ、上手く片付けばそれが一番いいのだけど、やっぱり無理でしょうねー。よっぽどお互いが収めることのできる何かが無い限りは。


「何が一番面倒って、転移を許可なく使えないのが一番面倒だわー。私の監視人手早く決めてくれると良いけど」


普段ならそこまで気にしないのだけど、今回は国の戦力として出向く以上、あちらの国の把握外の行動が取れない。

勿論、私は私の意に沿う行動しかしないけれど、それを向こうは良しとしなければ、上手く動けない。

いざとなったら勝手にやるつもりだけど、それをやると兄さんに迷惑がかかるのよねぇ。

だからってのんびりしてると、兄さんが悲しむ結果になる。


「面倒だわー」


結婚式ももうすぐなのに。手早く済ませられればいいのだけど。

あの人にも少し遠出することを謝らないと。今日ぐらい一晩目いっぱい可愛がってあげましょーかねー。

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