第309話必然ですか?運命ですか?
偶然なのか、必然なのか。仕組まれた事なのか、はたまた運命なのか。
あまりにも都合の良すぎる偶然は、必然と相違なく、必然であると思える偶然を運命と呼ぶのだとするのなら、運命は私に生きろと言っているのだろうか。
「・・・坊や、この人達を全員起こすことはできる?」
疑問で口にしてはいるが、内心全く疑問には思っていない。この子ならきっと出来る。当たり前に。その確信が有る。
そして彼からは、その確信通りの言葉が返ってくる。
「あ、はい、じゃあ、魔術で起こしましょうか。一人一人起こしてても面倒なんで」
「ええ、出来るなら、お願いするわ」
やはり、当然のような返事。あまりにも、あまりにも出来過ぎている。この子達からは一切の悪意は感じないし、何かを企んでいる気配も無い。
特に、あのハクというお嬢ちゃんからは、そもそも私への興味を感じない。
けど、この時機に、こんな都合よく高等魔術師が現れるのは、ただ偶然と言うには信じがたい。
信じがたいが、信じるしかないのだろう。どう見ても、この坊やに腹芸をこなす技量が有るようには見えない。
もし、ここまでの全てが演技だとするならば、あまりにも演技が上手すぎる。あれだけ表情から思考が読めるような行動をしておきながら、その瞳に何の暗さも見えてこない。
私の目が曇った可能性も有るが、それでも、この子から何かを見て取る事が出来ない。その表情に出ていること以外の気配が、見て取れない。
「ベレセーナ様」
彼が短い魔術詠唱を唱え、気持ち悪そうに起き上がる男たちに、さらに治癒魔術らしきものをかけるのを眺めながら思考に埋没していると、聞きなれた声が後ろから聞こえる。
「どうしたの、ミューネ」
振り向くと、今にも泣きそうな顔で立つ、ミューネの姿が有った。
何を言われるのかなんて、簡単に想像がつく。彼女は私を慕ってくれた子だから。
「最初から、そのつもりだったんですね」
「何の事かしら?」
あくまで穏やかに、あくまで冷静に、静かにふんわりとした声で聞き返す。
だけど、この子は、そのせいで尚の事悲しい顔をした。
「とぼけないで下さい。なんで、なんでですか」
彼女は今にも泣きだしそうに、私に問いかける。何故と。何故、最初から、死ぬつもりだったのかと。
「最初から、おかしいと思ってはいました。貴女が簡単に国元を離れた事が、とても不思議だった。
国元といた時と違い、明るい服で、良く出歩くようになったことも、全部、このためだったんですね。
独りで出歩いたのも、今日が初めてでは、無いんでしょう?」
「・・・ごめんね」
掠れてしまう声で、私に問い詰めるその姿が、あまりにも申し訳なくて、謝ってしまう。
そう、私は最初から。あの国を離れたあの時から、この命は捨てるつもりだった。だから、自分の居場所を知らせるように。自分の死に様を世間に轟かせられるように。自分の死を、国元とあの子に知らせられるように死ぬつもりだった。
だから、ただ出歩く以外にも、自分の居場所を知らせるように、様々な手を打っていた。なのに、今日、この瞬間まで、一度も襲われなかった。それも、運命と呼ぶのだろうか。
「何故、何ですか。何故今更、貴女が」
「今だから、よ。反乱が成功していれば、それはそれで私はあの人と一緒に処刑台に登るつもりだったしね」
「そ、そんなの、おかしいです」
「おかしくないわ。あの人の伴侶ですもの。私も同罪だわ」
「で、でも、反乱は成功してません」
「そうね、土壇場のあの子の気まぐれでね。だからこそ、恐怖で支配は出来ても、反乱のタネはくすぶり続けるわ。あの子は何も失っていないもの
今まで様々な物を失って来た彼らを、気まぐれで押し返し、何も失わず、気楽に王座に就いた。あの子も何かを失わないと、納得しない人が大勢出て来るわ。あの子は傍観を止めるのが遅すぎた」
暴君の息子が、気まぐれに王座に就いた。それが世間のあの子への評価だ。
反乱軍の中核をたった数人で押し返した化け物たち。それがあの子と、あの子の部下たちの評価だ。
なら、きっと、そう遠くない時期にあの子にとって不幸が起こる。あの子自身ではなく、あの子の回りに。
懐疑心や、憤り、恨み、そういった負の感情は、なかなか消えにくい物だから。だから、きっと、私が殺され、その痛みを持ちながらも、王としての責務を全うしている姿を見せなければ。
そうでなければ、民衆はそう簡単に納得しない。だってあの子は、王座に就くために、既に大量の民を殺しているのだから。
それを、そうせねばならなかったと、そのせいで母を失う事になろうとも、そうすべきと判断したのだと、話をすり替えられる。
「・・・だれ、ですか」
ミューネは俯きながら、誰なのかと聞いてくる。頭のいい子だ。きっと私の行動が、私一人の手では無い事が理解出来たんだろう。
「言えないわ」
「私達の誰か、という事ですね」
言えないという言葉がまずかった。この子は即座に、身内の中に手引きした人間が居ると判断した。
「だめよ、ミューネ」
「誰ですか、私達の、誰が、こんな!!」
ミューネは流石に感情が抑えきれなかったのだろう。怒りを爆発させて叫ぶ。
「あ、あのー、皆起こしたんですけど、その、大丈夫、ですか?」
坊やがおそるおそる訊ねて来た事で、ミューネは我に返り、けど確かな怒りを目に残しつつ、佇まいを直す。
坊やの方を見ると、縛られた男たちは皆目を覚まし、こちらを見つめていた。
「お話、聞かれちゃったかしら」
「えーと、多分」
まあ、同じ部屋で話していたのだから、声が大きかった部分は聞こえてるわよね。
「そういうわけで、捕まえてもあの子に嫌がらせが出来るだけだけど、あなた達はそれを聞いた上で、どうするの?」
私を使ってあの子に圧力をかけようと企んでいた彼らは、それが叶わない事実に戸惑い、顔を見合わせる。
出来るのは、ただただ嫌がらせにすぎない。私を使って、何かを成すことはできない。
「は、はったりだ。自害なんて出来るもんか。偶々今回俺達を撃退できたから、こういってるだけだ」
「そ、そうだ、騙されるな」
その言葉を皮切りに、男たちは大きく騒ぎだす。坊やに結界を張ってもらって正解だったわ。こんな大声、近所迷惑だもの。
でも、そうか。助かったこの身でそんな事を言っても信じられないわよね。
「じゃあ、なぜ、私の護衛がただ一人で、私の居場所をあなた達は知ってるの?」
私の問いに、男たちは困惑する。何故そんな意味の解らない事を問うのかと。あの子と違い、こちらの事情も、あちらの事情も分かっているわけでは無い、ただただ、目の前の餌に食いついた彼らには、問いの意味が解らない。
「私は意図的に護衛を減らした。そして意図的に貴方達に私の居場所の情報を流した。貴方達の指導者は、それを良しとしなかったみたいだけど」
恐らく、私が今まで助かったのは、襲われなかったのは、生きて来れたのは、彼らの指導者が限りなくまともだったからだ。
私を捕え、王に突き付け、そこからの王政の排除を、良しとしなかったからだ。それではこの先、略奪を旨とした国が出来上がる危険を理解していたからだ。
ただひたすらに、この国を憂い、この国をまともに機能させるために戦ってきたのが、反乱軍の指導者たちだったからだ。
だが、その指導者たちはもう居ない。残ったのは半端にその意思を継ごうとする者達や、ただただ体制に反抗する者、行き場のなくなった者達だけだ。
「私は、貴方達に慰みとして渡せるものは、この命ぐらいだから。あの子を認めて貰う為に出来ることは、この命を上手く使う事ぐらいだから。だから、本気よ。もっとも、周りがそれを許してくれなかったみたいだけど」
まだ、死ぬときでは無いのかもしれない。この命を使うのは、まだ早いのかもしれない。
「確かに今回は助かってしまったわ。だから貴方達の言う様に、口だけと取られるかもしれない。けど、捨てるべき時は、捨てるつもりよ」
「ベレセーナ様・・・」
私の言葉に、悲しそうにつぶやくミューネ。けど、これは曲げられない。私は、私の命の使い道が有る事を知っている。責任が、罪が、有るのを知っている。
「私は、私の為に、そして、あの子が王として認められるために、自分の命を差し出す事は厭わない。そしてそれが少しでもあなた達の慰めになるならば」
そう、私の命はきっと、多くの人の慰めにもなる。あの王の王妃を、圧政を敷いた王族を殺せるのだから。
なおかつ、私の行為は、自害だ。故に報復対象は居ない。いや、私を捕えた者達は報復対象になるかもしれないが、それでも私が筆を執り、遺書を書けば問題ない。
「貴方達は、その上で、どう判断するの?」
恐らく、彼ら以外にも、仲間がいるのだろう。仲間達とどういう話になっているのかはわからないが、少なくともまともに反乱を続けられるような戦力や、知力は無いのが伺える。
そんな彼らに判断を委ねるのは酷かもしれない。けど、このままでは、警邏隊に付き出すしかない。いや、どこかに彼らを渡さねばならないのは確かだが、このままだと彼らの命も奪う事に成る。
出来れば、彼らの為にも、彼ら自身にとって良い判断であることを祈りたい。
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