第308話捕えて、話を聞いてみます!

「ただいまーっと」

「え、え?」

「な、何が」

「お帰り、タロウさん」


転移で元の場所に戻ると、ベレセーナさんは完全に困惑顔であり、従者さんも似たような感じだが、驚きの方が強い表情で狼狽えていた。シガルは普通に出迎えてくれたけど。

帰りは一番乗りで帰宅の模様。勿論のした連中もつれてきております。


『戻った。やっぱり転移は苦手だ』


ハクも同じく転移で帰宅。連れて来た連中を見ると、殆ど怪我が見当たらない辺り、ハクも一撃で済ましてきたんだな。

しかし、翻訳魔術常に維持し続けて、ちゃんと会話も成り立つのに、転移が苦手って不思議。イナイも俺に対して似たような気持ちだったのかな?

まあ、使えるのは使えるみたいだし、俺の時とは違うか。


暫くすると、黒い何かが人二人を飲み込めるぐらいの大きさに成り、そこから複数人の男たちが吐き出され、ゆっくりとクロトが出てくる。

やっぱり、真っ白なまま黒を使うのは出来ないのかな。肌は少々浅黒い。んで、相変わらずちょっと怖い。


「・・・これで、大丈夫?」


クロトが男たちを指さしながら言うので、一応男たちの安否を確認。うん、多分、大丈夫。

まあ、多少の怪我は知ったこっちゃない。こんな大人数でベレセーナさんを襲おうとしていたんだ。そこに情けをかける気は起きない。


「貴方達、一体、何者なの?」


ベレセーナさんが、静かに問う。先程の困惑も、驚きの雰囲気も無い。とても静かに、落ち着いた雰囲気で聞かれた。


「答えて。貴方達、何が目的?」


真剣な目で、俺達の真意を見違えない様に、判断を間違えない様に、俺達という物を見定める様に。


『もっと楽しい事や、怖い物を見つけるのが目的だ』

「・・・は?」


ハクの返事に目が点に成るベレセーナさん。俺も思わず、ハクを見てしまう。だがハクは気にせず、平然と続ける。


『私は、私が今までの生活が面白くなかったと知ってしまった。だからもっと楽しい事を見つけるのが目的だ』

「え、いや、そうじゃなくてね」

『私の目的は、それ以外は無いぞ?』

「・・・」


ハクの答えに、毒気を抜かれるベレセーナさん。さっきまでの気合の入りようが嘘のようにポカンとしている。


「楽しい事、か。でもまあ、俺も似たようなもんか。いろいろ見たくて、色々知りたくて旅してるだけだし」

「あたしは、タロウさんについて行くこと自体が目的なところが有るけど、今の目標はもっとできる事を増やす事かなぁ。あ、これは目的じゃないや」

「・・・僕はお父さんに付いてくだけ」


ハクに続いて、俺もなんとなく答える。俺の旅の目的は、この世界見てみたいなーっていう、緩い物だ。

知らない世界に来たんだし、色々知る事も目的だったけどさ。

ただ正直、今の俺は、イナイが帰りたい、旅したくないって言ったら、即ウムルに帰る気では有るのだけども。

イナイが許してくれる間だけは、少し我儘を通させてもらおうと思ってる。


シガルとクロトも、少し笑いながら俺の後に続く。この二人は頭はいいから、多分わざとな気がする。


「・・・そう、そうなのね。関係ないのね、貴方達は」


少々呆けていた気持ちから立ち直ったベレセーナさんは、そう言って俺達に微笑む。関係ないとは何の事だろう。

あ、もしかして、こいつらの仲間で、のしたふりして取り入ってとか思われてたのかな。


「とりあえず、こいつらを縛り上げませんか?」


従者さんがいつの間にかロープの類を持ってきていた。本当に何時の間に。とりあえず頷いてみんなで縛り上げる。


「えーと、防音は、えっと、こうだった、かな」


全員縛り終えたら、音だけを外に逃がさない結界を作り、家を覆う。こいつらの尋問で、大騒ぎされたら困るしね。


「あなた、魔術師だったのね。それもすっごく優秀」

「あー、いや、魔術師、ってわけでもないんですけどね」

「そうなの?その割には凄い早さで転移魔術も使ってたし、結界も無詠唱だったわよ?」

「まあ、魔術は他の技術に比べれば、得意ですけど」


そもそも魔術が使えなかったら俺はその辺の一般人より、少し鍛えてるだけの人程度だ。根本的に俺の基盤は魔術で成り立ってるといっても過言じゃない。

そもそも魔術使えなかったら、魔道技工剣も使えてないし。


「とりあえず、起こす?」


シガルが聞いて来て、男の一人を後ろから抱えて起こしている。


「そうだね、事情を聞こうか。良いですか?」


一応襲われた本人のベレセーナさんに了承を得とこう。


「ええ。おそらく予想通りだとは思うけど、お願い」


ベレセーナさんはこいつらが何者なのか、解ってるようだ。まあ起こせばわかるし、とりあえずこいつらの事情聞いてから、ベレセーナさんにもちょっと聞いてみよう。答えてもらえなかったら、まあ、それはそれで。


『じゃあ、起こすぞー』


そう言ってハクがデコピンを男に入れる。シガルはまさかハクがそんなことするとは思って無かったらしく、小さく噴き出した。

俺は勿論、笑った。


「な、何してんのハク」

『へ?』


笑いながら言うと、ハクが不思議そうな顔で返してきた。こっちが不思議だわ。


『お、起こすんじゃないのか?』

「お前のデコピンなんか食らったら、逆に起きんわ」


と、突っ込みを入れたのだが、想定外に男は呻き声を上げながら目を覚ました。


『ちゃんと起きたじゃないか!』

「うっそー・・・」

『ちゃんと手加減したもん!』


手加減したからって、頭打ちつけたら普通はさらにダメージ増えるだけで終わるわ。あーでも、頬叩いて覚醒させるか?

いや、普通あの勢いで頭に打撃打ち付けたら気絶する。俺おかしくない。


「こ、ここ、は。さっきの黒は、なにが」


あ、こいつクロトにやられたやつか。


「起きたなら、質問に答えて貰おうか」


従者さんがいつの間にか片手剣を持ち、混乱からまだ復帰できない男の喉元に突き付ける。

男は少しずつ、状況を把握し、従者さんを睨みつける。


「言わずともある程度予想はつくが、ベレセーナ様を攫って、どうするつもりだった」


だが、男は従者さんの言葉に答えず、ただその顔を睨むことを答えとする。


「答える気は無いか。ならば」


従者さんはその片手剣を引き、まだ気絶している男の首をにその剣を振り下ろす。

俺は反射的にその剣を、男に辿り着く前に仙術で蹴り折った。


「何を!?」

「こっちこそ何をですよ。びっくりした―」


完全に容赦なしで振り下ろしたぞ、今の。


「この男は、全員が捕らえられている事を見て、命に関わりはしないと甘く見ています。ならば、言わねば死ぬし、死んでも代わりは居ると教えるだけです」


うえー、ベレセーナさんは優しい人だと思ったけど、従者さんえげつねー。

いやでも、主人が狙われてたって考えると、当然なのかもしれないが。


「駄目よ。それじゃ」

「ベ、ベレセーナ様」


ベレセーナさんが従者さんの手に自分の手を添え、折れた剣をゆっくりと手に取る。


「ありがとうね、坊や。止めてくれて」

「あ、いえ」


ふんわりと笑いながら、俺に礼を言い、男の前にしゃがみこむ。


「ねえ、貴方達は何を成したいの?国を変えたいの?国を自分の物にしたいの?」


ふんわりとした口調で、首を傾げながら言うベレセーナさん。今の発言から、間違いなくどっかの国に関わる大物だと判明。

もしかしてすさまじい面倒事に足突っ込んだかなぁ。いや、でもまあ、やると決めたのは自分だし、しょうがない。

男は問いには何も答えず、黙したままだ。


「私を攫えば、目的は叶うかもしれない。けど、それは貴方達にとってだけの話よ。戦う力のない人達をこれ以上巻き込んでまで続ける事では無いわ」

「ふざけるな!お前たちを恨む心が有るならば、何時までも戦える!!」


男はそこで、いきなり激昂し、ベレセーナさんに怒鳴りつける。だがベレセーナさんは驚きもせず、続ける。


「本当に?本心からそう思ってる?そう思い続けられるのは、だけじゃないかしら?」

「そ、それは」


ベレセーナさんの問いかけに、言葉に詰まる男。貴方達だけ、ってどういう意味だろ。

ここにいる、こいつらだけって話かな。


「ねえ、今あの子は国を変えようとしているわ。それを待ってもらう訳にはいかないの?」

「あ、あの男の息子など信じられるはずがない!」

「そうね、そうかもしれないわ。けど、これ以上戦っても、貴方達に先は無いわ」

「なにを!」


そこで、ベレセーナさんは小さく深呼吸し、語りだす。


「貴方達にはもう、戦う力がない。少なくとも正面切って戦う力がない。私を攫おうとしたのが良い証拠だわ。

でも、それじゃ、他国が認めない。正面から、民が、圧政に打ち勝つ。その形ならば、どの国も認めるでしょう。

けど、王が変わり、統治のやり方も変わり、ただ以前の禍根を胸に抱いただけの、今の流れを見ない行動は、全ての破滅を導く結果になるわ」


優しい声音で。でも確かな真剣さで語るベレセーナさん。すべての破滅か。でもまあ確かに、人質とって国を奪う様な連中、そのまま放置は怖いな。何してくるか分からんもん。

何処かの国が、対処に動き出しても、何らおかしくない。


「それにもし、今回の事が上手く行ってたとしても、私は自害しているわ」

「ベ、ベレセーナ様!?」


ベレセーナさんの衝撃発言に、従者さんが驚き叫ぶ。俺も驚いた。俺ここに居て良かったー。


「そうなれば貴方達には本当に何も手がない。それでも、戦うの?」

「それは、だ、だが」


だが、俺達の驚きを無視して続けるベレセーナさん。男はそんな彼女の気迫に押されている気がする。


「貴方達の気持ちは分かるわ。けど、今の時点で無理に戦いを続けるなら、待っているのは滅びだけよ」

「・・・」


男はその言葉を真実と受け止めたのか、愕然とした表情で聞く。そこまで考えてなかったのかよお前ら。

まあ、この人が自害するなんて言い出すとは考えてないか。出来なさそうな雰囲気だもの。普通に考えたらだけど。


「少し、頭を冷やすといいわ。私の意思も、他の子達に伝えて、ちゃんと考えて頂戴」


そう言うと、立ち上がり俺の方へ歩いてくる。なんだろ。


「申し訳ないのだけれど、もう少し、付き合ってくれる?」


ああ、なるほど。まあ、今日は急ぎの用事も無いし、別に構わない。というか、中途半端に帰る気は無かったので、俺は頷き返す。


「指導者の消えた集団っていうのは、やっぱり、自分が死地に向かっていることを悟れない物なのかしら・・・」


なんて、悲しそうに呟くベレセーナさんをほって帰るのも、何とも気分が悪いし。

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