第307話打って出る事にします!
とりあえず、加勢する方向で決定。となればやるべきは作戦会議である。
「とりあえず、シガル、これ持ってて」
俺は懐から、魔力を込めた石を数個、シガルに渡す。
「俺の作った魔術爆弾。爆弾って言っても、それは全部、強い光を放つだけの物だけど」
轟音を出す方は今回使わない。使ったら騒ぎになっちゃうし。
「『はじけろ』って言えば、誰にでも使えるようにしてるから。危ない時は使って」
「うん、わかった」
シガルは石を握り締め、頷く。攻めるにしても、守るにしても、この爆弾はかなり効果的だ。大抵の人間は視界が奪われると慌てるからね。
俺だって、探知魔術使えなかったら物凄く慌てる自信が有る。
「シガルはそれ持って、グレットと一緒にここに待機。もしここまで来るやつが居たら、お願い」
「ん、頑張ろうね、グレット」
シガルは俺の言葉に素直に頷き、グレットを撫でる。グレットは嬉しそうにその手に顔を擦りつけるが、言っている意味わかってるのかな。
なんか、さっきまでの頭良さげな行動に反して、ただの猫化しとる。
「クロト、今回は黒使っていいよ。けど、ちゃんと加減してね」
「・・・うん」
「それと、あの黒い石ころみたいになるのだけど、あれでむこうの連中の背後まで行ける?」
「・・・うん、行けるよ」
「じゃあ、クロトはそれでまずは一人無力化お願い」
「・・・ん」
クロトは何処か、やる気が有るような気がする表情で、両手を握り締める。多分やる気あると思う。多分。
「ハク。ハクって転移使えるの?」
『使えない事は無いが、実戦で使うほど得意じゃない。詠唱が必要だ。少なくとも今使ってる物と同じぐらいには』
「それでも使えるのは使えるんだな。なら、ハクも同じく転移で連中の背後に回ってくれ。あっちな」
『分かった』
クロトとは別方向を指し、指示すると、ハクも素直に頷く。やっぱ転移自体は使えたか。
ただ、翻訳魔術と同じ程度に詠唱がいるから、とっさに使う事は出来ないんだろう。
今まで使った所を見た事無いのは、本人の言うとおり、あんまり得意じゃないんだろうな。
「じゃあ、ハクが転移したのを合図に、俺はあっちに転移するから。クロトはさっき言ったほうにお願い。周辺の人間を無力化したら、そのまま右回りに無力化していく。良い?」
「・・・うん。手加減。頑張る」
『殺さなきゃいいんだろ?』
クロトの言葉もハクの言葉も、そこはかとない不安が有るが、素早く終わらせるには手を借りた方が良い。
贅沢を言うならシガルにも参加してほしいが、俺達は今、武器の類は持ち歩いていない上に、ここを守る人間が居ない。
従者さんも戦えると思うが、そこまで戦闘職の感じはしないし、シガルとグレットは傍に居た方が安全だろう。シガル自身の安全にためにも、その方が良い。武器持ってればまた別だけどねぇ。
「ね、ねえ、さっきからなんだか、打って出るみたいに聞こえるんだけど」
「ええ、そうですけど」
ベレセーナさんの疑問に答え、頷く。待ってるより、打って出て、ちゃっちゃと捕まえた方が早い。
幸い、俺達に気取られている事が判らない程度の連中のようだし、3人いれば十分だろう。
「だ、ダメよ、危ないわ」
だが、ベレセーナさんは俺の肩に掴みかかり、止めようとする。やっぱり優しいな、この人は。
「何人いるか分からないのよ?どんな武器持ってるか分からないのよ?大怪我するかもしれないのよ?」
もはや泣きそうな顔で言うこの人を、どうしてこのまま見捨てられるっつーんだ。絶対にほって帰れるわけないでしょう。
「数なら19。武器は、とりあえず危なそうな気配のする物は持ってなさそうですね。起動してないだけかもしれませんけど。怪我なら、治癒魔術は大の得意なので、大丈夫ですよ」
にこやかに答え、そっと手を放す。このまま転移して離れる事も出来るが、ちゃんと納得してもらった方が良い。
「凄いな。そこまで分かるのか」
従者さんが驚いた顔で俺に言う。探知使えれば大体わかるんだけど、この人魔術は苦手なのかな?
「直ぐ、済ませてきます。俺達結構強いんですよ」
ベレセーナさんを安心させるために、あえて軽く、おどけて言う。
「・・・コレよりは強いよ」
『なんだとー!?』
俺の言葉に乗ってくるクロトだが、その指先にハクが居たことにより、ハクが怒鳴る。まあ、そうなると思う。
『おい、一回勝ったぐらいで調子に乗るなよ』
「・・・調子にもなにも、圧倒だったじゃないか」
『ぐぬぬ・・・!!』
あのー、このタイミングで喧嘩されても困るんすけど。しゃあない、止めるか。
「はいはい、こんな時に喧嘩しない」
だが俺が止める前に、睨みあう二人の間にシガルが割って入り、二人の頭を平手で軽く叩く。
二人とも痛みは無い物の、少しショックな顔になっている。俺が止めてたらこうはならないんだろうなー・・・。
「・・・ごめんなさい」
『うう、なんで私が』
素直に謝るクロトと、悔しそうに、でもそれ以上反論せずに項垂れるハク。
「とりあえず、二人とも、やるよ?」
若干気が抜ける思いに成りつつ、二人に告げる。
ハクは頷くと、魔術詠唱を歌いだし、クロトは黒を久々に顕現し、その中に包み込まれ、小さくなる。
「え、な、なに今の?」
「な、何が起きたんだ?」
クロトの業に、驚く二人。だがそれに応える暇なく、ハクの詠唱が終わる。
それと同時に俺も転移し、とんだ先に居た二人を、背中から胸に通る様に仙術をぶち込む。
気絶したのを確認し、そのまま作戦通り、右回りの目標に向かって転移。
偶々こちらを見ていたらしく、声を上げようとしていたので、その前に目の前に現れ、鳩尾に一撃。
呼吸が出来ず、声を上げられない相手に、二撃目をボディーに強めに入れる。
叫び声をあげる暇なく轟沈、と。
こちらの状況に気が付いていない三人組の所まで駆け抜け、最初の二人と同じように背中から仙術を打ち込み、昏倒させる。いやぁ、こういう時便利だわ、仙術。
その時点で、どうやら既に向こう二人も終わっているらしく、6,7人の人の塊が出来ていた。
6人はハク。7人はクロトだな、位置的に。
俺が一番最後ですか、そうですか。結構手早く済ませたと思ったんだけどなぁ。
とりあえず、こいつらまとめて庭に連れて行くか。
・・・あれ、7人の魔力が消えた。
く、クロトが黒の中に入れて動いてるだけだよね。多分そうだよね。
し、信じてるよ、クロト。
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